【姉の子】 作:双子の妹
一人っ子だと思っていた私に双子の姉がいることを知ったのはB小町というアイドルグループがドーム公演をすると大々的に報道された時だった。
センターを張る女の子があまりにも自分に似ているものだから冗談で生き別れの姉妹かもと言ったら本当だったようで、両親が離別する折、私だけ父に引き取られたらしい。
父親は私に姉がいることを暴露するつもりはなかったようだが、その日は酒に酔っていたこともあるのだろう。
もう成人間近だしと星野アイという姉の話を語り、何度か私と引き合わせようと元妻と交渉したが、聞き入れて貰えなかったらしい。
会えないなら下手に打ち明けるのは良くないと思ったそうだ。堅物というか不器用な父らしいとその時は思って深入りはしなかったが、やはり血を分けた姉妹がいるとなると気になってしまう。そこで色々と調べて彼女がかなり有名なアイドルグループの一人だということが判明した。
まだ駆け出しだが女優としても今後が期待されているらしく、正直同じ顔で同じ背格好なのにと嫉妬を覚えた。
その時の私は低くはなく高くもない偏差値の大学で医者になるべく医学部を専攻していたのだが、彼氏どころか友達すらまともにいないぼっち生活を送っていたのだ。別に不満があるわけではなかったが、華やかな舞台で歌って踊るというのは何歳になっても憧れるものがある。それにこれだけ有名なら給料も凄いだろうと、しょうもないことで羨ましがっていた。
それでまぁ会ってみようかとはならなかったぼっちな私であるが、それはある意味幸いで、最悪の選択だった。アイの存在を知ったのは『あの事件』の直近の話で、もし私がアイと打ち解けて家に御呼ばれするなんて仲になっていれば、ストーカーの男に間違えられて刺されていたかもしれない。
休日は出来るだけ家から出たくないという私の性格上、他者と打ち解けるのは容易ではないが、一卵性双生児というのはほぼ同一の存在であると、最近何かの本で読んだ覚えがある。
もしかしたらぼっちな私でもアイなら理解してくれたかもしれない。どうにも恋愛観という物が分からず、成人間近ともなって彼氏の一つも作れない私の悩みの良い相談相手になってくれていたかもしれない。
だが過ぎてしまったのは仕方のない話で、私がアイと出会ったのは彼女がストーカーに刺されて亡くなった後だった。
アイは母親と縁を切っていたので親戚経由で彼女の亡骸に手を合わせることになったのではない。
先ほども言ったが、双子と言うのはほぼ同一の存在というか不思議な繋がりがあるようで、アイが刺されて運び込まれた病院に私がたまたま盲腸で入院していたのだ。
病院に運び込まれた時点でアイは助からない状況だったそうだが、それでも救急隊は延命処置をしつつ付き添いの家族も訪れた。
たまたま、そう。たまたまだ。喉の渇きを覚えた私は自販機でジュースを買って帰る途中だった。
そこで死んだ目をして震える少年と少女を目にして、可哀想だなぁ、家族が大怪我でもしたのかなと、励ます言葉も思い浮かばず、他人事のように通りすぎようとしたら、腕を捕まれた。
「……ママ?」
縋るような声。
間違えられて刺されなかったのは幸いだったが、同時に起こったこれを最悪と言わずして何と言おうか。
まるで幽霊でも見たかのように目を見開く少年と、涙を浮かべて不安げにこちらを見る少女。
「え?」
まさかだとは思わないじゃないか。会ったこともない姉に実は隠し子がいて、既に刺されて事切れているだなんて。
何故かいない二人の保護者……父親か母親か、恐らく医者に詳しい話を聞きに言っているのだろうが、今にも壊れそうな顔をした彼女の手を振り払えるほど私は非情ではなかった。
だからせめて、保護者の人が来るまでは一緒に居てあげようだなんて、良心を働かせた。
たったそれだけで死人のふりをする羽目になるなんて...……想像つくわけがない。