【姉の子】   作:双子の妹

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星野マイ

これは自惚れでも誇称でもなんでなく、確かな事実として私は良くモテる。

そりゃ彼氏の一つも出来たことがない恋愛素人だが、この容姿だ。現に最近まで存在をしらなかった瓜二つの姉が有名アイドルをやっていることから説得力は十分あるとして、学生の頃には何人からも告白されたことはあるわけで、修学旅行の写真売りで私の写った写真が妙に売れたり……まぁ盗撮されたこともなかったわけではない。

 

パシャリ

 

だから早朝。病院のバルコニーで日向ぼっこをしている時にシャッター音がしても、「あぁまたか」で私はスルーしてしまった。

こう言うのは下手に問い詰めてもろくなことにならない。どうせ相手は非を認めないし、撮った写真は意地でも消さないのだ。

警察なんてもっての他。揉めに揉めていたずらに時間を消費するだけで終わる。だから諦めて流すのが一番良い処世術だ。

今回も朝から面倒ごとにしたくなかったので見なかったことにしたが、盗撮されて気分が悪くならないわけもなく、朝から憂鬱だなぁと病室に戻った。

 

 

「あ、昨日の……」

「おはようございます」

 

 

そこには昨日出会ったアクア君とルビーちゃんが待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

「ねぇ、ママ。ママはママだよね?」

「だから違うって…」

「違わない!本物なの!アクアはママの顔も忘れちゃったって言うの!?」

 

どうやら彼らの保護者であるミヤコさんには内緒で訪れたらしい。

朝早くにルビーちゃんがお母さんに会おうと勝手に抜け出して、それを兄であるアクア君が追いかけてきたという形だそうだ。

 

今は私の腕にベッタリのルビーちゃんにそんなことは止めろとアクア君が辛そうな顔をして引き剥がそうとしている。

 

 

「う……ん。その、えっと…………」

 

 

この段階になって、彼らの母親は昨日の事故で亡くなっていて、面影のある私を母親だと勘違いしているのではとは思いはした。思いはしたが、まだアイが実母に当たるとは一欠片も考えはしなかった。

だって二人はまだ3歳だし、それでアイが母親なら16歳の時に身籠っていることになる。漫画やアニメ……もしくは昔の話なら十分ありえる話だが、この平成の世の中になって、まさかアイドルに隠し子がいるだなんて考えなかった私は、この状況をどうやって穏便に済ませようかと脂汗を滲ませていた。

 

普通に考えて、家庭を持つどころか恋愛経験0の大学生に、いくら医学部とはいえ、母親を失って傷ついている子供のメンタルケアをしろと言われても手に負えるわけがない。それに加えて自分を母親と勘違いしていると言うのだから、果たしてそれを否定して良いものかと、専攻ではない分野の知識を振り絞った。

 

「ルビーちゃん……うぅん。あのね……私は」

「ママからも言ってよ!アクアがおかしいって!」

「あー……のぅ……」

 

私の専攻は整形外科だが、確か幼少期のトラウマはその後の人格形成に大きな影響を残すと何かの論文で書かれていたような気がする。

 

取り敢えず二人を落ち着かせねばと思って、ぎこちない手つきでルビーちゃんを宥めようと頭を撫でるのだが、逆にそれが()()()()()()()()()()だと安心させてしまったようで、膝の間に居座ってしまった。

 

「……いや、その今そこにいられると……お腹の傷が痛むかなぁ?」

「えっ!?ご、ごめんなさい!!!!」

「あ―………でも、来週には退院だし、そこまで痛くはないんだけどね」

「来週には退院出来るの!?」

 

満面の笑みを浮かべる彼女にギギギっと、油の差してない機械のように頷く。

そりゃあ母親が退院出来ると知れば嬉しいだろう。

口を開けば開くほど悪い方へ流れていくような気がした。

 

それにしてもお腹の傷……緊急搬送で運び込まれたときたら...……彼女達の母親の死因はまさか刺殺なのだろうか。

もし直接現場を見たのだとしたら直ぐにカウンセリングにかけるべきだ。この手の年齢の子は色々と難しいとは聞くが、初動を間違えると大変なことになる。

 

確か絶対やってはいけないことが、無理やり本人が望まない答えを押し付けるんだったか………………それと素人が踏み込むとろくなことにならないから絶対にやるなと。

 

「ふぅ…………」

 

取りあえず、思い込みだけで会話しようとするのは辞めておこう。実は集中医療室など違う病棟に移されているだけで、この子達の母親が死んでしまったのかも分からないのだ。刺激を与えないようにしなければ。

 

私は誤魔化すようにルビーちゃんの肩に手をおいて、「それより朝ごはんは食べた?」と露骨な路線変更を謀った。

 

「ううん……売店で買えばいいかなってそのまま来ちゃった。あ、でもお金持ってきてないや…………」

「そうかぁ、なら私が出すから三人でご飯食べよっか!」

「うん!」

「それは流石にっ!」

「しー。今は...ね?」

 

一応母親と私とで区別がついているらしいアクア君は他人に奢ってもらっては悪いと断ろうとするが、時計を見れば朝の9時だ。これぐらいの年齢の子にとって朝食を抜くというのはさぞ辛いだろうというのは医学部でなくとも考えられる。

バイトはしているし、父からの仕送りだってあるのだ。高級焼き肉店にいこうというわけでもないのだし、これぐらいの出費は痛手にはならない。

 

「あ、君たちはもう離乳食は卒業してるのかな?」

「……してるよ。よっぽど硬いものじゃなければ大人と同じものが食べれる」

「じゃあ平気だね。売店にはお弁当とかはなかったから惣菜パンとかで良いかな?たまにだったらお菓子だけで済ますのも悪くないと思うけど、育ち盛りなんだし、しっかり栄養はとらないと!」

 

未だ申し訳なさそうにするアクアくんの背中を押してレッツゴーである。

朝食を済ませたら、ミヤコさんとやらに連絡しよう。

 

大人として最低限の責任を果たそうと安い正義感に駈られた私は、そのまま二人を連れて売店に向かった。

 

 

 

 

 

 

「美味しいねぇ~」

「ねぇ!」

 

まるで夢のような光景。

そしてほんの少しまで日常だった平和なそれ。

決してもう手に入らない、永遠と自分が背負っていくべきだと思っていた原罪がここにある。

 

星野アクアは立て掛けられた名札を見て、星野マイ。アとマで思わず見間違えても仕方のない彼女の真名を知って、眩暈がした。

 

彼女、星野マイは当たり前だがアイとは全くの別人である。

姓が同じでこれだけ顔が似ているのだから、親戚かあるいは生き別れの姉妹なのかもしれない。

昨晩はいきなりだったもので、感情がぐちゃぐちゃになり酷く取り乱してしまったが、改めてみれば違いはある。

それはメイクの仕方だったり、何気ない仕草だったり、些細なものだが、親しい仲なら気づけるレベルだ。子供には少し厳しいかもしれないが見た目通りの年齢ではなく自分と同じ転生者であるルビーなら見分けが付くはずだった。

 

だが星野アイ。俺たちの母親がストーカーに刺されて死んでしまってからまだ1日しか経っていない。

俺のように直接現場を目撃したわけではないから、母親が刺されて病院に運び込まれた、そして母親そっくりの女性が病院服で現れたとなったら、「あぁ助かったのだ」と思い込んでしまうのも無理はないだろう。

前世は祖母の家で育ち、両親の愛を知らずにアラサーとなった俺はアイから注がれる母親としての愛情に戸惑うばかりだったが、どうにも彼女は比較的若い頃に亡くなって生まれ変わったのか、アイにはよく懐いていた。

俺だって未だにアイが亡くなったことについては整理がついていないのだ。だが、元医者として何とか生きながらせようと最後まで応急処置をしていた俺だからこそ、救急医が到着した時点で心肺停止状態だったアイが蘇生させる可能性は限りなく0に近いものだったと確信が持ててしまった。

例えどんな奇跡が起こったとしても脳に重大な障害を抱えてしまうだろう。ましてや手術が終わって直ぐに歩けるようになるなんてありえない。

 

そんな予備知識のないルビーからしたら、刺されはしたにしろ傷は浅かったのだろうと思い込んでしまう気持ちは理解出来た。

 

どちらにしろアイの葬儀が開かれる明日には……嫌でも解けてしまう残酷な嘘であるが、運命はなんて残酷なことをしてくれたんだと内心毒つく。

 

アイに姉妹がいたんだとしたってもっと早くに……もしくはもっと後で会わせてくれたらよかったじゃないか。

なんでこんな状況で会わせるんだと、自分達を転生させたかもしれない神を呪い、油断すれば本当にアイのように見えてしまうマイから視線を外してかぶりを振るう。

 

 

「あ、このお菓子美味しい!」

「ほんと?私も食べていい?」

「もちろん!」

 

だけど本当に似ている。

……一卵性双生児。もしかしたら俺たちと同じなのかもしれない。だとしたら俺たちの引き取り先がこの人になるんだろうか。

 

アイは肉親とは絶縁状態だと言うが……良くて星野家の祖父母にやっかいになるのが最良か。斎藤社長らは正直ビジネスの関係であるのでどこまで世話を見てくれるか分からない。

 

もし祖父母が亡くなっていたら……まだ成人したてのこの人にとっても、亡きアイの面影を感じてしまう俺たちにとってもろくなことにはならないだろう。

最悪は児童養護施設に入れられてルビーとは離ればなれになるかもしれない。

 

 

そんな、程遠くないこれからを思って憂鬱になるアクアであったが、まさかこの想像よりも質の悪い未来が訪れることになろうとは夢にも思いもしなかった。

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