【姉の子】   作:双子の妹

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星野祖父

我が家の家事の殆どはハウスキーパーさん頼りで、朝から晩まで父は働いていた。それで家庭の温かみがないというのを自覚していたのか、休みの日だけは、えっちらほっちらとぎこちなく家事をこなし、鍋一杯になった甘ったるいカレーを二日に分けて二人で食べた。

 

必要最低限のことしか喋らず、とにかく口数が少ない。

愛情はあるが、それ以上に口下手な人なのだろう。

 

それで外資系の仕事をしていると言うから不思議で、英語やドイツ語、スペイン語なんかでペラペラと電話している様を見ると、実は日本語が下手なんじゃないかと思う時がある。

 

そんな父でもお酒が絡むと少しだけ口数が増えるので、悩み事やおこづかいの相談をする時は決まってその時を狙った。普段の時に持ち掛けても、「あぁ」だとか「それは駄目だな」とか真面目に聞いてくれているかどうかさえわからないからだ。

 

「私さ。お姉ちゃんの双子引き取ることにしたから」

『そうか』

 

双子を引き取る手続きに手間取り、その後も色々とバタバタして連絡出来たのは葬儀から1ヶ月後のことだった。

 

「あと大学は辞めようかなって。双子ちゃん達を育てるなら、やっぱり働かないとだし、育児に勉学に仕事の三足の草鞋は厳しいと思うんだよね」

『分かった。大学への手続きはこっちでしておこう』

「…………反対しないの?。あんなに頑張ったのにバカな事を~とか」

『お前も今年で二十歳になる。自分の行動の責任は自分で持て』

「厳しいなぁ~」

『お前の金の面倒を見るのは大学を卒業するまでと言ったが、5年だ。あと5年は必要な額を言えば振り込んでやる。大学にかかった金は返さなくていい。それまでにまともな就職先を見つけろ』

「と、思えば凄い優しいんだから…………うん。ありがとう。でも大丈夫だよ。私ってば天才だから、もう就職先は見付けたんだ。お姉ちゃんがやってた芸能事務所期待の新人アイドル!!!ではないんだけど、いきなり子役部門の担当責任者になったんだ。なんと給料は25万!手取りだよ!?初月給でこれはホワイト確定では?5年と言わず、3年もしたらお父さんの年収を上回っちゃうかもね~!落ち着いたら退学するまでに掛かったお金はゆっくり返していくから。これからはお父さんも年末だけとは言わずちょくちょく帰ってきて孫の顔でも見にきたら?二人ともすごい可愛いんだよ」

『……そうだな』

 

運が良かった。いや、これはアイの人徳があってこそだろう。あの日二人を抱き締めて、これからどうしようと考えた矢先、アイの後見人を名乗る二人に肩を叩かれた。

そこで、私とアイの実の母親……道理でそれらしい人を見なかった訳で、彼女はアイを捨て、アイは児童養護施設で幼少期を過ごすことになった。そして彼女のアイドルとしての才能を見込んで引き取ることになったと、色々とアイについて聞くことになった。

 

『こんなこと言うのもどうかと思うけど……あの子達は私たちに任せてもいいのよ?貴方はまだ若いし、何より学生じゃない』

『…………』

『あ、このゾンビは気にしないでもいいから』

 

少し話しただけでも二人は…………男の方は死んだ魚の目をしていたが、少なくともアイを金儲けの道具と見込んで引き取ったような悪い存在ではないように思えた。

社会的立場もしっかりとしていて、事務所の社長なだけあってそれなりに蓄えもある。

双子のことを本気で思うなら、二人に(片方は直ぐに失踪したが)預けるべきだったのだろう。

それでも私は意固地になって双子の母親をやると宣言した。

 

その結果がこれである。情けなくも双子を充分に養う力も財力もない私は、形だけの役職をあてがわれて面倒を見てもらっている。

そのあと失踪した社長(生気のない目の方)のせいで増えた資料整理など役職とは関係ない仕事も回ってきたが、そんなのは誤差だ。

私は役立たずのクソである。今年で成人なのに感情を優先させてその先を見据えることの出来ない子供。そしてアイの置き土産に図々しく寄生している。

 

『いま、双子はお前の側にいるのか?』

「え、うん。二人ともスヤスヤと眠ってるよ~」

 

双子たちは引き取ってからいつも川の字になって眠るようになった。私が真ん中で左右に二人がいる感じだ。

そしてルビーちゃんはアイが居なくなった事がトラウマになっているのか手を繋いでいないと眠れない。途中で離すと飛び起きてしまうというのだから根深い心の傷となってしまっているのだろう。

 

『懐いているようだな』

「そうだよね……ありがたいっちゃありがたいんだけど」

 

それで余計に離れづらかったとは口が裂けても言うまい。

 

それでも今にも壊れそうで不安定なこの子供たちを置いていけるわけがないから。それが一番の理由になっているのは否定出来ない。

 

「せめて、二人が独り立ち出来るまでとはいかなくても、高校生になるまでは見守っていたいな」

 

それぐらいになれば、私が居なくなっても平気だろう。

 

 

『そうか。なら口座に4000万ほど振り込んでおこう』

「だからいいって!?ツンデレですかこの野郎!!いや、それとも初孫にテンション上がっちゃった系!?」

『……別に。そんなんじゃない』

「そ、でも顔だけは見に来なよ。気まずくても、血の繋がった孫なんだから」

『そうだな』

 

 

父は結局、仕事の都合で49日にも来られなかった。

 

双子に、自分が捨てた娘の子供にどういう感情を抱いているのか。それは今度、酒に酔った時にでも聞き出してみようと思う。

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