ハクモクレンはアリウスに咲く 作:白栗
ある日のことだ。
「総長、1つ話がある。聞いてはくれないだろうか?」
私の教えているヘイロー持ち──子供の1人であり、現アリウススクワッドのリーダーを務めている子供、錠前サオリ。彼女から相談を受けた。
曰く、トリニティ総合学園の生徒会的役割を務めるティーパーティーの分派の1つ──パテル分派、その首長である美園ミカから和平の交渉があり、そのためにも私たちアリウス分校から1人をトリニティへと送ってほしい、とのことだった。
──トリニティとの和解、か。
その話題を聞き、いつしかに聞いたことをぼんやりと思い出す。
確か、こんな話だったろうか。
遥か古くのトリニティ──当時は幾つにも別れていた諸派たちが、統合を目標として開催した「第一回公会議」。
その会議にて、我々アリウス分派が唯一統合に反対の立場を貫き続け、その結果ユスティナ生徒会だったかに激しい弾圧を受け、最終的には当時のアリウス自治区を追放された──そんな、古くから言い伝えられている話だ。
それを思い返した上で──個人的な意見では、やはり、そこまで関心が湧いてこない──有体に言ってしまうのなら、どうでも良い話だと感じた。
過ぎた話──それも何世代も繰り上がった、カビか苔にでも覆われていそうな大昔の話に大して恨みや妬み、ましてや望郷の念など甚だ感じるはずがない。どうやって感じられようか?
今は今なのだ。
将来の灰と燃え残りとなる者を排除したトリニティもまた、変わらない。
変えられない過去に縋りついた所で、時間にも火薬にも、ましてや生きるための養分にさえもならない。
そも私には今までの所業の惨さが為に恨む権利が無いのだから、ありもしない「もしも」を考えていた所で、無価値で無意味──虚しいだけの話でしかない。
……しかし、そんな1人のみっともない一私情が、一体彼女の妨げになっても許される理由にどうしてなろうか?
私は所詮、内戦の燃え残りに過ぎない。例えるなれば、汚れに汚れた水なのだ。
例え「総長」という権力──生徒会に次ぐ力があろうと、その汚水が彼女の純粋な「錠前サオリらしい」思考に混じるなどあってはならない。
第一交渉に関わったのは錠前サオリであり、私ではない。決定権など、そもそもの段階で持たないのだ。
──だからこそ、彼女の意向を尊重する。
結局その考えにたどり着いた私は目線を下ろし、彼女に面と向き合う。サオリもまた私の目に焦点を合わせるように顔を上げ、相談の内容を口にした。
「そこで送り込む人を選ぶなら、誰が良いと思うんだ? 総長ならその判断を間違えることはないだろうから、聞いておきたいんだ」
「……本質的な他人の判断を鵜呑みにするべきではない、錠前。だからこそ聞くが……貴官は誰にするつもりだ?」
暗に私は決める気がない、という意味も込めて彼女に伝えれば、彼女は考える様子を見せる。
「私の考えか……なら、私は……そうだな。私は白州アズサを推したい」
「……そうか」
……ああ、そうだな。彼女ならきっと似合う。
掠れきった表情筋の裏に、名を呼ばれた彼女のことを記憶から掘り返した。
──白州アズサ。
背丈149cm、銀髪。トラップ術に優れた生徒。
正義感が強く、芯があり、天性的な優しさを持つ。
そして──「vanitas vanitatum, et omnia vanitas」──「全ては空虚。行き着いたとて、全てはまた虚構でできている」。
──所謂虚無主義の蔓延するアリウスにおいて、しかしその主義思想に染まり切っていない稀有な1人でもある。
全ては虚しいもの。そうだとしても、それは今日の最善を尽くさない理由にはならない──だったか。
……私には、眩しすぎる。見る度、彼女からどうしても目を逸らしたくなってしまう程に。
私の今までに犯してきた間違いを突きつけられているような──あるいは私の臆病で卑小な性格を「これこそが貴様なのだよ、ウジ虫め。今更目を逸らそうとは愚かしいものだ」と囁かれているような。
それをどうしても、感じてしまう。
私は──極限まで自我を殺し、殺人の任務に忠し、結局そうでさえも居られなかった。
一体何が違う?
…………全てが──何もかもが違うのだろう。
祝福されて生まれるべきだった彼女──決して生まれるべきでなかった私。
罪を犯したことのない彼女──罪以外の何者でもない私。
正しい信念を貫徹し続けられる彼女──誤りばかりの信念でさえ破綻させる私。
澄んだ世界が似合い、しかし灰の土壌に立つ彼女──澄んだ世界を希い、しかし燃え上がる火こそ魂の居場所である私。
──いいや、違う。
そもそもが破綻している私が、何を考えているのだろうか?
間違いと矛盾と、罪と絶対悪。
それで構成された汚物が私であるというのに、何故私は彼女と比較するのか──。
………………ああ、違うな。
これは、今想起することではない。
随分と逸れてしまった。話を戻そう。
白州アズサの性格、生き様、性質。それら諸々を鑑みれば──なるほど、彼女こそが適任だろうと考えられる。
……目の前にいる錠前サオリは確か、先生になることが夢なのだと記憶している。
彼女になら難しくない。いつかできるだろう──いや、できる。確信を持って言おう。
最近では黒犬部隊のように訓練の指導を──しかも私を真似るかのように、基礎固めを主軸に行っている。
失礼を承知で影から見させてもらったが、私よりも丁寧であり、しかし問題を突きつけつつも共に改善していく気概もあり、またおぼつかないなりに工夫を凝らしている──つまるところはセンスがある。
……よくも、正しく育ったものだ。こんな酷い土壌で、よくも綺麗に。
……だからこそ、私は、恐ろしい。
錠前サオリに、近づく事に。思わぬうちに、汚してしまいそうで。
「この事は報告しておこう。貴官は戻り、休息を取っておけ」
「ああ、了解した」
その鬱屈した感情とは関係しない言葉に彼女は返答を返し、寮の方へと駆け足気味に戻っていった。
……ああ、さて。
報告をしておかなければ。和解についての、報告を。
話す前よりも少し強まった頭痛を生身の腕で抑えながら、ゆったりと向かう。
──ベアトリーチェ。
今はマダムと名乗るその人は、今はアリウス分校の生徒会長を務めている。
その人が就任して以来の話だが──思うほど状況が良くなった訳ではない。
虚無主義がまかり通り、その癖無意味な憎しみを植え付けられ、その矛盾を無学によって気づかせない──昔を思い出させるような、悪辣にも感じる教育。
…………だが、マシだ。内戦の時よりも遥かにマシだ。
餓死もなければ宿無し子もいない。最低限以下の教育でさえ受けられない子供もいない。
理不尽の最中に生まれ、理不尽に苛まれて生き、そして理不尽に死んでいく子供もまたいない。
それだけだとしても、どれほど十分すぎることか。
第一生きる意味とて──例え方向違いを思わせる憎悪や妬みであろうと──無ければ、ただ何をすることが正しいのか、何のために生きればいいだろうかと迷いながら生きるだけだ。
それ程に苦しいものはない。
身をもって知ったことだ。
……だから、必要なのだ。仮初であれど、生きる意味というのは。
皆はトリニティとゲヘナに復讐を果たすために。
錠前サオリはトリニティとの和解のために。
──そういえば私は、一体全体何のために?
…………いや、いい。
そんなことは、どうでもいい。
私は生きている──殺した事を抱えて生きるという罰のために。
それだけで十分で……だから、こんな自問など忘れよう。
いいや、忘れる。
……忘れるべきなのだ。
こんな疑念など、一体なんの役に立ち得ようか。
無意味で、そして無価値なものだから。
──本当に?
──こうして私は、また私を誤魔化していく。
いつものように。
日は経ち。
あの後にベアトリーチェへと伝えたのだが、彼女の導き出した結論はこれだった。
まずはその使者──聖園ミカを利用し、情報を可能な限り引き出させる。その後は時期を見、最適なタイミングで要人を始末する、というもの。
また戦争か──殺し合いをするのかと。私は嘆きそうになる感情を押し殺す。
……違う。それが指令なのだから、従うべきだ。
私が今動いたとて何ができる? 状況を悪化させるだけであり──またベアトリーチェを殺した所で私に一体何ができる?
また内戦を繰り広げるつもりなら話は別にしろ。
だから、動くつもりはない──あるいはこうも言い換えられる──動いた所で何も変えられまい。
その考えがずっと脳裏にこびり付いたまま、私はこの結論を生徒たちへと伝えた。
以降は、より訓練の過激さが増させるように指揮を取った。
下された指令の成功確率をより上げるためにだ。
私の担当している基礎訓練は、私の弱肉強食の思想も交えていたながらも、しかし元より苛烈である必要があるため結果として大幅に変わることはなかったが……他は違う。
これは教導者としての話だが、他の指導を見れば、私のそれよりも数段と丁寧であり、僅か程度だが優しさを伺えた。
その分の効力は確かに薄くなるだろうが、それでも生徒たちにとってみれば気が幾らかとマシになっただろうし──第一厳しく当たる事自体、指導する側にとっては望まざることに違いない。
かつては中道派、後に独立軍で活躍し、今は黒犬部隊の業務を担う【早乙女ヒバレ】とて、元を辿れば心優しい少女であり。
それはフォスフォロス所属だった【真汐ホウキ】とて、張り詰めた気を緩めれば早乙女と変わらないものだっただろう。
そんな彼女らに、無理に苛烈にさせるよう指揮したのだ。……私を恨んでいようとも、文句の1つさえ言えようか。
……また、訓練以外にも指揮を行った。銃火器の調達やカタコンベの詳細な探索、敵となるトリニティの拠点の調査などだ。
これとは別に──つまりは私の指揮外で──ベアトリーチェ直々に動かしている所もあった。聞けば、古代文献とアリウス内戦の文献──特に末期のものを集めていたとのことだった。
それについてベアトリーチェに訊ねた時には大まかな説明のみだったが、ミメシス──過去の強い感情が形を伴って動く現象について語られていた辺り、恐らくはゲマトリアの技術も使うつもりなのだろう。
バルバラやアンブロジウス、また内戦のそれに関してはとりわけ黒い犬についての文献を取るよう言われていた、という情報から鑑みても、戦力増強のためと考えられる。
……良い気分は、まあ、しないにしろ。
とはいえ、そんなことは全くどうでも良い話であって。
──私は情報の欠片も無しに任務に駆り出されることが多く、そのために幾度となく危険に身を晒さなければならない事態があった。
だからこそ、こう考えた。情報とはつまり、最も貴重な武器であると。
纏められた資料に目を通し、その上で自らの目と耳で実際の環境を記憶する。
そのために私自らの足で、トリニティ現地──厳密にはその自治区へと侵入し、視察したのだが。
──正直な気分を吐くのなら、私は失望した。
今の今まで、私はアリウスの外は撃ち合いなど──殺し合いなどそう起きず、ましてや飢える人などいるはずもない環境なのだと思っていた。ずっとずっと、思っていた。
……蓋を開けてみればそんなことはなく──むしろ、それ以上の惨事であった。
ああ、確かに飢えてはいなかった。その通りだったとも。
……だが、争いのそれは、酷いものだった。
──遊びかちょっとした喧嘩の感覚で弾丸が飛び、ちょっと本気の殴り合いの気分で戦車の砲弾が放たれる。ゴムボールさながらに手榴弾が投げられ、その結果として少しの怪我だけで終わる。
内戦を経験した彼女たちを、たかが遊びにすぎないと踏み躙るように思えた。
……違う。何もかもが違うのだろう。
彼女たちは殺し合いを知らないのだろう。撃たれてもそれが間接的な死の要因になることがなく、また物資の枯渇などより有り得ないことだから。
だからああも腕が鈍っているのだろう──無論として、あくまでも私の主観でありつつも。
見てわかる話だ。弾薬がそこらの至る所で売られているのだから。そんなことを心配する必要など、さらさらないのだろう。
対して私たちは、平和を知らなかった。殺さなければ、死ぬのは自分たちだったから。
だから、生きるために殺し合いを知った。──ガラス片や金属片で首を掻き切る技術を。貴重な弾丸1つを正確に当てる技術を。
だから私たちはそれにおいては優れている──ああ、いや。
そう考えることさえも虚しく感じる。
そうと言ってみれば聞こえは良くても、結局それ以外に何も無いのだから──我々の、内戦を経験した子供は──とりわけ、ただ殺し合いを強いられてきた存在というのは。
──しかし、それでも。
与えられた環境で、私たちはどうにかするしかない。
妬んでいたとて、何も変わるはずがないのだから。
……まあ、私のこの感情はどうでもいい話であり、本質は偵察についてだ。
この件については黒犬部隊と生徒双方に以下のような形で連絡した。
1つ。トリニティの警備は厳重すぎず緩すぎず──基礎を怠っていなければ十分通用する度合いの警備であること。
2つ。考えられる戦力は正義実現委員会と自警団の2つがあるが、作戦行動の時刻──深夜間での行動である都合により、前者は対応が遅れる可能性が高く、後者に至っては無視できる──当然、迅速かつ丁寧な行動を行える程度に基礎が固まっていれば、であること。
3つ。校内、もしくは市街地での戦闘になることが想定されるため、使用銃器は制圧射撃の可能なアサルトライフルかサブマシンガン、ショットガン、もしくは取り回しの良いハンドガン等が適切であること。
その伝達を元に作戦や編成が立てられていく──その最中に、2つばかりの話があった。
1つ目は、黒犬部隊の1人である早乙女ヒバレからの話だった。
その時は夕暮れ時。雨は振っていて、何もそう思わせるような景色はなかったにしろ、時刻上はその辺り。
訓練終了後に聞きたいことがあると呼び出され、その後の予定も特になかった私は彼女に着いていき、人気のない所へと来た。
彼女の外見はそれなり程度にだが、目立つ。
短く切られた金髪に青い目。顔はやけど傷が目立つが、それ程度。
背丈は錠前サオリと同等で、私ほどでないにしろ高い部類。
そして背負われた、布切れ寸前の旗の着いた槍。
だから、薄暗い所でもしっかりとした輪郭が見える。
質の粗悪な、鼻に付く煙が舞っている──およそベアトリーチェに隠していたのをまた吸ったのだろう──そんな環境で、不意に切り出された。
「わたしはバカなので、遠回しに聞くなんてことは好きじゃないです。だから単刀直入に聞きます。──総長。あなたにとって、これが正しいアリウスの在り方とでも言うんですか?」
その問いかけに、一瞬息が詰まった。
──私とてわかっている。深くわかっている。
こんな在り方が、アリウスの良い在り方ではないことなんて。
…………だが一体、今に行動して何ができるというのか。まさか今の状況をベアトリーチェ抜きでやろう、とでも?
無理がある。
あのようなどうしようもない状況から持ち直せたのも、また誰も死ぬ必要がない環境にさせてくれたのもベアトリーチェだ。
悪辣だが、断じて無能でも、増してや白痴でもない。
──だが間違っていることも、その通りで。
だからこそ、そんな間違いを彼女は正したいのだろう。これで終わりだと妥協するつもりなど、一欠片もない態度からもわかるように。
その正義感と己を確立した精神性が、私の心に深く突き刺さる。
「……ああ。死人も出ていなければ、餓死者もいない。それで充分だろう。それに、この環境をベアトリーチェ無しでどうやってより良くする? 考えてもいないのに無駄口を叩くな」
「ですが総長、あなたは見たんでしょう? トリニティの環境を──子供が本来過ごすべき環境というものを。それをあなたはできっこない、だから仕方ないと妥協するんですか?」
「その通りだ、早乙女。大人にもなっていない子供風情がここをどう立て直す? 第一、ここから貴官はどうするつもりだ? またかの【解放聖女】の名の如く、猪突猛進に突っ切るつもりか?」
「あなたの考えていることに答えるなら、そうですよ」
真っ直ぐに見据える青い目を捉える。
決して意見など変えない。私は間違っていない。その信念がハッキリと見える。
その目をまた呼応するように見つめ──しかし先に目を逸らしたのは、私の方だった。
悪の敵には、正義の味方というのはあまりにも眩しすぎて、長くは見つめられなかったから。
「例えわたし1人でやることになっても……わたしは殺しますよ、ベアトリーチェを」
それに私は答えなかった。
……ここで本来なら、どちらに着くかを──表立って動くか、今ここで殺すかをするべきだっただろう。
だがそれを、彼女は黙認と受け取ったのだろう。
「わたしは、わたしの信じる正しさに従います。それがわたしという、一人の兵士としての在り方ですから」
──……ですから。あなたも、あなたが考える通りにやってみてください。
そう言い残し、また1本と紙巻に火を付けた。
その見透かしたような言葉は──いつも通りに誤魔化すことも、また禁煙しろと、普段のように取り上げる気力さえも湧かせなかった。
2つ目はかの白州アズサから。日も同じで、違う所はといえば夜間であったことくらいだった。
その時刻の頃に、私は睡眠導入剤──それも特級に強めなものを服用し、椅子に座り込みいざ眠る体勢に入ろうとした所。
コン、コンと。か弱いノック音が部屋に響いた。
誰だろうか? ……いや、それはどうでもいい。
休息不足は健康の敵だ。不調の身体では、ただ普通に歩くことでさえも疲れるものだ。……私がそうであるから。
ああ、そうさな。さっさと寝かせに行こう。
考えついた私は扉に向かい、取手に手をかけ開けてみれば。
「……総、長。こんな夜間に、訪れてすまない……」
そこには普段規則正しいはずの、白州アズサが少しばかりの鬱々しさを纏った様子で立っていた。
珍しい事だ。こんな規則破りなど、やる性分でもないだろうに。
その事実に驚きつつも、それはそれと考えている事と事実を切り離す。
「白州、今は就寝しておけ。何かを話したいのであれば後に聞こう。不調の身体は全てに悪影響だ」
「それはわかっている……わかっている、けれど……」
それでも、私は人を殺したくない。
そう発された言葉が、ああそうだったと記憶を思い起こさせた。
……そういえば、そうか。件の作戦もそろそろ近くなっていた。
……目の前の彼女は、良く考えている。考えに考え、それが私たちから──アリウスにとってみれば不利となるのをわかった上で、それでもと彼女はわざわざ私に伝えた。
…………彼女にこそ、あの言葉が相応しい。
……こんな私よりも、遥かに。
──選ぶことは、いい事だ。
あの時にセンが話していた言葉を、私なりの考えも交え、紡ぐ。
「白州。何かを選ぶというのは良い事だ。選ばなければ、何も得ることは無い」
──スラスラと言葉が流れると裏腹に、私は淀む感情が溜まっていく。
よくもまあ、矛盾ばかりの私がこうも言えたものだ。
「……だが、覚えておくといい。選択するということには2つの義務が伴う。一つは『選択した結果を見届ける』という義務。そして一つは『選択することそのものの意味を知る』という義務──この2つを言い換えるのなら、それは責任と呼ぶだろう」
どんな顔をして話しているのだろうか?
恥じている顔だろうか? 反省を感じられる顔だろうか? あるいは仕方ないと開き直った顔だろうか?
「貴官には選ぶ権利と、結末を見届け、選択の意味を知る義務──責任というものが付いて纏う。それらをすべて知った上で──貴官の、正しいと思った道を進むと良い」
……いいや。
きっといつもの、厚顔無恥な無表情に違いない。
──しかし、そんな思惑が過ぎり続ける私をよそに、それでも彼女は納得した顔を見せた。
「そう、か。わかった。ありがとう、総長」
「……助けになったか。まあ、いい。それでは白州、早く寝ておく事だ。繰り返すが、不調を訴える身体では何事も上手くはできやしない。……良い夜を、白州」
「ああ。おやすみ、総長」
彼女から言葉が返されたのを聞き取ってから音を立てないように扉を閉め。
二三歩歩き、しかし椅子に戻ることすら面倒になり、玄関付近の床にそのまま座り込みながらも考える。
──思えば私は、考える事はすれ、行動に移そうとすることはなかった。何事も、言いなりだった。
それが正しいからと、私は私自身を黙らせていた。
……きっと、姉さんならそうはしなかった。それはセンも同じように。
考えに考え、そしてそれだけに留まらなかったから、センは輝いて見えたのだし、姉さんもきっとそうだったろうから。
…………1度、そうしよう。
私の信じる正しさに、従ってみよう。
姉さんとセンなら、きっとそうしたはずだから。
人工的な微睡みに落ちていく最中にようやく結論付いた。
水の注がれようとしている井戸。