ある反奴隷主義者の手記   作:無職のプーさん

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 アイソケットからやってきたシェク人の狙撃手は、自らをヘッドショットと名乗った。

ひょろりと背の高い痩せた女で、私がシェクに対して持つ固定観念からはやや外れた容姿をしていた。我の強そうな鋭い目つきが唯一それらしいと言えないこともないが。

 

村に着いて早々腕前を見せてもらったが、なるほど自信満々の二つ名の通りである。離れた距離からでも決して狙いを外さぬし、誤射もない。

こちらに一切媚びを見せない飄々とした態度は、揺るがぬ己の技能への信頼と自信の表れであったらしい。

 

「確かにあたしらは生まれながらの戦士だし、自分たちでもそう豪語している。でもシェクってのは元々勇猛であると同時に我慢強くもあり、狙撃手としての適性も持ち合わせてるんだよ」とは、彼女の弁である。

 

 

 

 

 農村で行方知れずになる者が出始めたのは、それから半月ほど経ってからのことだった。

 

人数でいえばたったの数人だ。何だ大したことないじゃないかと思われるかも知れないが、隣人同士の結束が強い田舎では大騒ぎするに足る異常な事態だ。

 

奴隷商人に攫われたというならまだ分かる。群れからはぐれたビークシングに喰われるのも別に珍しい話じゃない。何の手がかりもなしに消えるというのがあってはならないことなのだ。

 

少年がアイソケットに連れ去られ帰ってきてからというもの、奴隷商が村を標的にすることはほとんどなくなっていた(おそらく少年と貴族との間で何か約束事でも交わされたのだろう。私の思っている以上に彼は大物らしい)。

連中のせいでないのなら、一体何者の仕業だというのか。

 

 

 

 

 このとき私の脳裏に浮かんでいたのは、あの崖の上で遠目に見た、揺らめくスケルトンたちの影だった。何の確証があるわけでもないが、タイミング的にはピッタリ重なる。

 

村人の半数も同意見のようで、中でもフットワークの軽い若者たちの対応は早かった。行方不明者が出た翌日には追跡に自信のある者(例のクロスボウを担いだ青年)が村を飛び出し、数日後には有意義な情報を持ち帰ってきたのである。

その情報とは、拠点への帰路を辿る皮剥ぎ盗賊の抱える荷物の中に、ぐるぐる巻きに縛られた村人の姿があったというものだった。

 

見間違いでなければ、動かぬ証拠だ。連中が犯人で決まりだろう。奴らの拠点を攻め、仲間を助け出す。血気盛んな若者たちはすっかりその気になって武器の準備を始めていた。

 

私は溜め息を吐き、「バカな真似はやめろ」と声に出して言った。「お祭り気分で飛び込めるほど盗賊の拠点は甘くないぞ」と、至極真っ当な警句も付け加えて。

 

辺境育ちの気性の荒い男たちだ。例によって掴みかかられるくらいは覚悟していたが、彼らは神妙な顔で私を見返すだけだった。

どうやらここ半年ほどの間で、彼らの私に対する評価はずいぶんと高くなったらしい。

 

聞き分けが良いのは結構なことだが、あまり過大評価されても困ると内心では思っていた。バラモンもそうであったが、どうも私には人から過度な期待を集めてしまう何かがあるらしい。

家柄以外に何も持たず、今ではそれすらも失ってしまった哀れな浮浪者。私の存在など、それ以上でも以下でもないというのに。

 

 

 

 

 よくよく話し合った結果、少数精鋭で敵のアジトに忍び込み、こっそり仲間を助け出そうという考えにまとまった。

危険なことに変わりはないし、何なら最初の案と内容がほとんど変わっていない。だが例によって憲兵がアテにできない以上、この作戦が一番現実的だ。

下手に傭兵を雇ったところで、数では向こうが遥かに勝る。シェクの傭兵団なら死を恐れず戦ってくれるだろうが、わざわざ無駄に犠牲を増やす必要もあるまい。

 

勝算があるとすれば、精鋭を率いる少年と復讐者の女、それと途中から話し合いに割り込んできたヘッドショットの存在だ。

村人が消えた時期的に、少なからず彼女にも疑いの目が向けられていたらしい。「奴らをギタギタにして憂さを晴らしたい」と、邪な動機で参加を申し出てきたのである。

 

彼女は砲兵として昼夜を問わず見張りをしていた。口にこそ出さないが、村にスケルトンたちを近づけてしまった責任を感じているのだろう。

そういうのを言葉にするのはカッコ悪いと思っているようだが、私に見透かされているくらいだから、きっと他の者にもバレているに違いない。

 

村の若者にはあまり期待できないが、この三人は話が別だ。身軽で素早い上に腕も立つ彼らなら、正しく少数精鋭としての真価を発揮してくれるだろう。

舌のないハイブ人も何やら意欲を示したらしく、少年の補佐という形で参加が決まった(心配だったのだと思う)。

 

 

 

 

 予想外だったのは、勝手に私も頭数に加えられていたことだ。次の日復讐者の女がキャンプに現れ、私の胸ぐらを掴んで村まで引きずっていった(ハイブは「行ってらっしゃーい」と後ろで手を振っていた。クソが)。

 

一緒に行くとは一言も言っていない。私に人権はないのだろうか。おそらくないのだろう。

若者たちは私を頼りにしているらしいが、こういう場合ちっとも嬉しくない。

 

途中に寄ったブラックスクラッチでは、雨避けのための傘と中古品のコートを買った。皮剥ぎ盗賊拠点の周辺で酸の雨が降ると聞いたからだ。十分な準備を整えた後、私たちは荒野を南下した。

 

 

 

 

 アウトランドの道中、私は少年たちへの評価が至極過大なものであることを思い知らされた。

彼らは皆落ち着きがなく、くだらない物を見つけては騒ぐし、つまらないことでしょっちゅうケンカする(じゃれ合っているとも言う)し、心底どうでもいいことで無駄に悩む。

 

上記は全て若者の特権ではあるが、監督者の私にとっては良い迷惑だ。明らかにハメを外しすぎている。

「遊びに来てるんじゃないんだぞ!」と一喝したら少しはマシになったが、手のかかるガキどもであることに変わりはない。

 

たびたび冷静なリーダーシップを発揮して村人から一目置かれていた少年も、今回に限っては誰よりもはしゃいでいた。そのテンションに周りも引っ張られた結果が、このバカ騒ぎだろう。

 

そういえば以前「アウトランドを見に行きたい」とか言っていたか。望みが叶って結構なことだが、しょせん子どもは子どもなのだという事実を今さらながら痛感した。

 

まあ、仕方が無い。人間関係において、買い被りと失望は付き物だ。私もいずれは皆から失望されるのだろう。

構うまい。元より一人で生きてきた私にとっては、痛くも痒くもないことだ。

 

それに、人には人の都合というものがある。

復讐者の女に「最近あの子に避けられている気がする。何故だと思う?」と訊ねられ、「知るか! 自分で考えろ!!」と金切り声をあげた私に、失望する読者はいないだろう。

 

何故ならこれを読む読者は皆、私の都合を良く分かってくれているからである。ひとまずはそう信じたい。

 

 

 

 

 私の苦労はさておき、敵の追跡に関する問題は特に起こらなかった。

雨風がほとんどなく、それでいて適度な湿り気を含んだ渓谷の砂は、全身が鉄で造られた者たちの足跡をはっきりと残してくれていた。

 

後で分かったことだが、どうやら彼らはアウトランドの地理に明るくないらしい。誤って袋小路に迷い込み、来た道を戻ってはまた別の行き止まりに突き当たるを繰り返していたため、追いつくことも容易だった。

記憶と分析に優れた機械人(スケルトン)とは思えぬ間抜けっぷりである。

 

場合によっては、彼らが拠点に辿り着く前に強襲することができるかもしれない。むしろそちらの方が潜入よりもリスクが少ないため、積極的に狙うべきだ。

そう結論を出した私たちは、別の道を使って大急ぎで先回りし、渓谷の出口で連中を待ち構えることにしたのだった。

敵はこちらよりも少々多勢だが、地の利で覆せないこともないだろう。

 

「アイツらは古くてイカレてる。自分らでまともに修理(メンテナンス)もできてない。飛び道具の持ち合わせだってないはずだ。ともすれば、狙うべき箇所はたった一つ」

 

ヘッドショットは足を速めつつ、呼吸を乱すことなく皆に告げた。

 

「足の関節だ。壊れて動けなくなるまで、ブッ叩け」

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介
『ヘッドショット』
シェク人の女狙撃手。アイソケットに滞在していたところを少年にスカウトされた。内部データ的に初期ステータスは本来そこまで高くないが、この名前でザコだったらカッコがつかないので強キャラっぽい感じにしている。
「何人もの奴隷の頭を撃ち抜いてきた」とサイコパスっぽいことを自慢げに話す。しかし「罪悪感はないのか?」と問うと、「……ない、ね」と若干歯切れが悪そうにしつつも言い切るあたりが、彼女の全てを表していると思う。
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