ある反奴隷主義者の手記   作:無職のプーさん

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今さら各都市や名所の位置関係を確認してるんですけど、本小説内の描写はあんまり正確ではないですね。ガット周辺の地理はまあまあ正しいような気がしますが、それ以外がかなり適当なのであんまり信用しないでください。



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 翌日、私たちはのんびり朝食をとってからウェイステーションを出立した。

 

昨夜に少年と交わした会話の内容はすっかり忘れ、ただ道中、何か金目になるものが見つかればいいなあ、と気の抜けたことを考えていた。

 

 

 

 

 

 現在地からデッドランドに向かうには、ジ・アイと呼ばれる平野を抜けなければならない。そこを縄張りにしているのは、主にグラスパイレーツと呼ばれる盗賊たちだ。

 

アウトランド近辺にもたびたび現れるが、まあ特筆すべきこともない。ブラックスクラッチに襲撃を仕掛けては返り討ちにされているところをよく見る。大したことない連中だ(少なくともリーバーや皮剥ぎ盗賊に比べれば)。

 

数が揃えば厄介かもしれないが、逃げることは容易い。

ここは地の先まで見渡せる平野だ。入り組んだ渓谷なら袋小路に追い込まれることもありうるが、ここではそうはならない。強盗略奪にはめっぽう不向きな場所なのである。

 

何回か連中の一団に見つかることがあったが、こちらが向こうに気づく方が早かったので、一息に退散することができた。獲物の逃げ足が速いと知るやすぐ追跡を諦めるので、撒くのはさほど難しくない。

 

復讐者の女は暴れたくてウズウズしていたようだが、「次の楽しみにとっておけ」と言っておいた。

実際、盗賊を殺す機会に事欠くことなどこの世界ではありえない。奴らは死体にたかる蛆よりも早く湧く。略奪に来た馬鹿どもを殺し、その死体が片付かぬうちにまた別の盗賊がのこのこやってくる。どこも大体そんなものだ。

 

 

 

 

 

 

 ジ・アイの中心地には、件の衛星兵器の同型と思われる巨大な鉄塊が地面に突き立っている。

景色を遮るものが何もない、どこまでも平らな荒野に堂々と聳えるその様は、遠目に見ても近くに寄っても圧巻の一言だ。

 

少年は興奮していたようだが、他の者はそうでもなかった。私もその威容に最初こそ魅入っていたが、十秒くらいで飽きてしまった。

金になるなら話は別だが、籠にもポケットにも入らない、ただデカいだけのガラクタに価値があるとは思えない。今は壊れて動かぬ物なら尚更だ。

 

宇宙空間に耐えうる材質と構造のため、現代の技術で解体することもできないらしい(少なくとも素人には無理とのことだ)。テックハンターに放置されているところを見ても、仮にバラせたとて苦労に見合うだけの旨味はないのだろう。おそらくその辺の鉄くずの方がまだ高値が付くはずだ。

 

私たちは少年を引きずって早々にその場を後にした。引きずられている間も、彼は衛星兵器に関する学術と考察について(おそらく本を丸暗記したものを)ずっと喋っていたが、誰も聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 地平線の向こうに分厚い黒雲と稲光が見え始めたのは、それから半日ほど経ってからのことだった。

 

オクランの使徒たちはスケルトンを悪魔の使いに見立てるが、なるほど確かにこの地は悪魔が住むのにおあつらえ向きだ。

皮剥ぎ盗賊の拠点がある地域もそうだったが、昼夜を問わず日が差さぬ漆黒の空に雷鳴が轟き、地面は酸の雨のせいで泥濘んでいる。

 

死の大地(デッドランド)とはよく言ったものだ。土地が死んでいるのはここに限った話じゃないが、闇と雷光とを酸の湖面がくっきりと映し出す光景は、まさにその名が相応しい。

 

今更な話だが、たかが義手のためにずいぶん遠出をしたものだ。ハイブキャラバンやテックハンターから買っても良かっただろうに。そうしなかったのは、おそらく本来の目的が探索にあるせいだろう。

どこかの誰かさんは、単なる好奇心だけで旧文明の未知を求めているわけではあるまい。さすがの鈍い私でも、その程度のことはこのとき薄々察しがついていた。

 

 

 

 

 

 酸の湖を避けて黒い大地を進むこと数時間、先頭を行く少年が何かを見つけて立ち止まった。

 

目的地に着いたのか。事前に聞いていた話よりずいぶん早い。私はそう思い顔を上げたが(ずっと俯いて歩いていた)、目に映ったのはスケルトンたちの黒い街ではなかった。

劣化した古いドーム状の建造物。大陸各地に点在する旧時代の遺跡である。

 

上述したこともあり、少年がその分厚い扉の解錠を試みたときも、私には止める理由がなかった。

遺跡で見つかるガラクタは全て金になる。益がある以上、時間をかけて損はない。

 

後悔先に立たずだ。そこは開けてはならない悪魔(ナルコ)の罠だったのだ。

 

中には直立不動のスケルトンたちがずらりと並んでいた。一目で数え切れないほどたくさんおり、緑のボロを纏った身体は錆だらけだ。特徴的な丸い頭部からはCPUの焦げつきから煙が生じている。

 

一体どれほどの年月そこに立っていたのか。果たして想像もつかないが、彼らは私たちの存在を知覚するや、一斉に振り向いたのである。

 

「……マスター!??」

 

「マスターだ!!」

 

「マスターがお戻りになられたぞ!!」

 

「マスターだ!!!」

 

「マスターーーッ!!!!」

 

耳が潰れるくらいの音声を吐きながら、彼らは熱烈に私たちを出迎えた。あまりにも熱烈すぎて、金属の波が押し寄せてきたのかと錯覚したほどだ。

もみくちゃにされれば怪我では済むまい。命に関わる、というか、まあまず死ぬだろう。

 

「逃げろ!」

 

私の声で、皆一目散に逃げ出した。

 

それ自体は別にいい。逃走という判断は間違っていなかった。問題は、逃げる方向がバラバラだったという点にある。

私たちは見事にはぐれた。正確には、はぐれたのは私だ。私だけがはぐれた。私は一人であり、土地勘もなく、どの方向に何があるかも分からない。

 

見渡す限り漆黒が広がる酸の湖のほとりで、私は途方に暮れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 後で分かったことだが、どうも私は逃げ足だけが異常に速いらしい(首長竜どもに感謝すべきか)。方向がバラバラというより、走るペースが異なっていたがゆえにはぐれたという方が正確とのことだ。

 

どうでもいい。細かい話だ。

とにかく、私は最初の数分は焦らず呼吸を整えていた。その後は周囲の音に耳を澄ませ、仲間たちの声を拾おうとした。

しかし響くのは稲妻の轟きと激しい雨足のみで、人の声など聞こえやしない。

 

思わずため息をついてしまったが、そのときふと視界の端に、小さな灯りが見えたような気がした。遠方からでは点のようなものであったが、灯りには違いない。

 

他に頼りはない。とりあえずそこを目指すことにした。

近づいてみると、それは建物の壁に備え付けられたガス灯であることが分かった。

 

 

 

 

 

 その建造物は驚くほど巨大だった。かつて人類が使用していた空飛ぶ船が何台も納まる格納庫のようだ(元はそういう目的で作られたのかもしれない)。

頑丈な鉄骨で宙に浮くように建てられているため、入るには支柱に備え付けられた階段を使った。入り口は吹き抜けになっており、簡単に入ることができた。

 

中には二人のスケルトンと、機械仕掛けの蜘蛛(アイアンスパイダー)(おそらく防犯か警備用)が何匹かいた。

スケルトンたちは「ガラクタを溜め込みすぎた。処分しろ」「嫌だ。もったいない」などと言い争っている。熟年夫婦のような二人の喧嘩を、蜘蛛たちはきょとんと眺めているだけだ。

 

彼らの言うガラクタが何なのかを確認したが、どう見ても武器だ。それも精巧なもので、素人目にも分かる見事な業物だ。壁際にずらりと並んだ美しい武器たちは未だ日の目を見ることなく、あろうことかガラクタ呼ばわりされてしまっている。

訊ねたところ、「格安で売ってやってもいい。どうせ捨てるんだ」と投げやりな口調で返してきた。

 

私も剣士の端くれだ。気にはなったが、多少安くなろうが業物は業物だ。私のような浮浪者は錆びついたサーベルでも振り回している方が性に合っている。

曰くガラクタの中には剣や槍だけでなく、クロスボウや旧時代の高度な機械の類まであったが、いずれも私には無用の長物だ(クロスボウは少し欲しいかもしれない)。

 

そもそも呑気に買い物している場合ではないのだ。

彼らにスケルトンたちの街は何処かを訊くと、「正面の崖にかけられた橋を渡るのが近道だよ」と教えてくれた。

私は彼らに礼を言い、その格納庫(地元ではボロ小屋などと呼ばれているらしい。あれのどこが小屋なんだ?)を立ち去った。

 

だが橋とはよく言ったものだ。腐食でボロボロになった鉄板を繋ぎ合わせただけのそれは、今にも落ちそうである。骨組みはきちんとしたアーチ状だが、それも細い鉄筋が剥き出しの危険な状態だ。

 

おっかなびっくりその橋を渡り切ったとき、スケルトンの黒い街(ブラックデザートシティ)はすでに目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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