ある反奴隷主義者の手記   作:無職のプーさん

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 目的は果たし、後は家路に着くだけ。簡単に聞こえるが、これが一番大変だった。

 

私の機転(?)で仲間になったスケルトン、以後はエラースケルトンと呼称するが、こいつが行く先々で騒ぎを起こした。

「マスターを守れ!!うおおおっ!!!」と叫びながら、出くわす者に一切の区別なく殴りかかっていく。

敵も味方もあったものではない。私と仲間たちのことはギリギリ味方と認識しているが、それ以外の全てが彼にとっては敵だった。

 

保存状態が中途半端に良かったのか。イカれているのはCPUのみで、身体機能にそこまでの劣化は見られない。それゆえ戦闘能力も据え置きで、ゆえにたちが悪い。

こいつ一人だけだからまだ数人がかりで止められるが、あの遺跡にいた全員を引き連れていた場合を考えると頭が痛くなる。

 

どうにか修理できないか少年に訊ねたが、「今はスケルトンの中身をいじれる仲間はいない」と首を振られた。

なら縛って酸の湖にでも沈めるか。冗談混じりに彼らに提案したが(けっこう本気だった)、少年を含めたほぼ全員に反対された。

 

折衷案として腕を縛り武器を取り上げた状態で連れ歩くことにしたが、こちらの方がよほど酷い気もする。

傍から見れば捕虜以外の何者でもない。主の帰還を何百年と待ち続けた忠臣の末路がこのような見せしめとはあまりに惨い話だ。

 

あと書けることといえばアイアンスパイダーか。

行きの道中はほとんど出くわさなかったのに(燃料切れで動かない機体ならいくつか見かけた)、帰り道にはやたらと待ち伏せていた。

 

彼らは機械ゆえに頑丈な上、質量と馬力においてはスケルトンの比ではない。まともにやり合えば苦戦は必至だが、避けて通れば何というほどでもなかった。

屋内などの閉所で戦うとなると厄介だが、ここはただっ広い荒野だ。運良く遠方から見えたら迂回すればいいし、近づき過ぎたとしても暗闇が私たちを隠してくれる。

足もそれほど速くないので逃げ切るのは容易い。ガットの貪欲な首長竜どもに比べれば可愛いとすら言えた。

 

 

 

 

 

 そうして三日ほど経ってから私たちは農村に戻ってきた。

幸い傭兵団(ブラックドック)と村の若者たちは仲良くやっていたらしく、真っ昼間から酒を呑んで談笑していた。

「堂々とサボるとは良い度胸だな。こっちは高い金を払ってるんだぞ」と私が怒ると(金を出したのは私ではないので実はそんなに怒っていない)、「ちゃんと仕事はしてるぜ」と慌てた様子で返した。

 

ここ一週間のうちにグラスパイレーツや皮剥ぎ盗賊の残党、スケルトン盗賊(皮剥ぎ盗賊と双璧をなす危険な連中らしい。勘弁してくれ)や隣村のカルト教団までもが略奪に来たが、ことごとく返り討ちにしたのだという。

 

それはすごい。大したものだ。昼間から一杯やりたくなる気持ちも分かる。

分かるのだが、この話を聞いて最初に浮かんだことは、感心や称賛ではなく疑問だった。

 

いくら何でも襲われすぎではないか。しかも明らかに少年や私が留守になった瞬間が狙われている。

何者かが外部に情報を漏らさなければこうはならない。偶然にしてはあまりにも忙しなさ過ぎる。

 

この村の長(今まで言及しなかったが何度か面識がある)にこっそり相談すると、「うちは今年は豊作だったからなあ。みんなお腹を空かせてるんだろう」と気の抜けたことを話していた。

 

年長者にこんなことは言いたくないが、致命的な間抜けさだ。略奪で持っていかれるものが穀物だけとは限るまいに。

若者たちに相談してみるか。一瞬そう思ったが、何か大変なことになる予感がしたのでやめておいた。

 

こういうとき誰が頼りになるだろうと数刻考えたのち、あの人の心がないシェク人の狙撃手(ヘッドショット)を思い出した。

見張りの彼女なら、村民一人一人の動きをある程度把握しているはずだ。怪しい者に心当たりがあるに違いない。

 

そういった流れでヘッドショットに事情を説明したところ、彼女の退屈そうな目がにわかにギラついた。鋭く唇を歪め、「時間をくれ。そうだな……二日くらい」と言い残し、どこかへ走り去ってしまった。

同じく見張りをしていた憲兵たちに「彼女はどこへ行ったんだ?」と訊ねたが、首を傾げられるだけだった。

 

 

 

 

 

 もしかして私は頼る相手を間違えたのか。若者たちに相談する以上に不味いことが起きるのではないか。

 

悪い想像を頭の中で巡らせながら悶々と過ごし、そうしてちょうど二日が経った頃。舌なしハイブがいつものように私のキャンプにやってきた。

案の定、彼はヘッドショットからの手紙を持っていたが、一言「来い」とだけしか書かれていなかった。

 

これならいっそ言伝で良かっただろうに。そう呟こうとしたが、この気の毒なハイブ人には舌がないことを思い出して口をつぐんだ。

 

 

 

 

 

 村に着くと、門前でヘッドショットが私を待っていた。「ここからがお楽しみだね」となにやら嗜虐的に笑い、私を門の内へと導く。

 

彼女は村の外壁近くに建てられた小屋に私を案内した。

私の記憶が確かなら、以前に復讐者の女を治療するために村人から貸してもらった場所だ。

今は少年の仮住まいとなっており、庇の下に置かれた桶には私の預けた子ガニが大人しく丸まっている(昼寝中だろうか)。

 

中を見るのは久々だったが、入ってみて驚いた。壁に板を打ち付けただけの棚には、大小様々な本がびっしりと納められている。

驚いたのはその量で、奥の壁一面がほぼ本棚と化してしまっていたのだ。

 

いつの間にこんなに集めたのか。ブラックスクラッチに行けばたいていの本は手に入るが、それでも金を積まなければ無理だ。店で手に入れた品もありそうだが、大半は遺跡などから収集したものだろう。

知識欲が旺盛なのは知っていたが、よもやこれほどとは。学者にでもなるつもりなのか(とこのときは思った)。

 

本棚と化した壁があまりに衝撃だったため、前の床に転がされている人影に気づくのに時間がかかった。その男はほとんど裸で手足に枷(奴隷商が使用する頑丈なもの)をかけられ、口には猿轡まで噛まされている。

年齢は三十手前といったところか。痩せており老け気味だが筋肉はそれなりにあり、まだまだ若そうな印象を受けた。

 

かわいそうに、ここに連れ込まれるまでにさんざん脅されたのだろう。彼の顔色は悪かったが、私の姿を見るとさらに蒼白になった。自身の運命を悟ったか、便を漏らさんばかりに震え上がっている(私にそこまで怖がられる謂れはない)。

 

「さあ、好きにいたぶりなよ。見ててやるからさ」

 

肩をすくめたヘッドショットの言葉に、私は顔をしかめ、額を指で抑えた。この女の品性の欠片もない言動に頭痛がしたからだ。今に始まったことではないが。

 

「ああ……私としたことが。道具(拷問具)を用意してなかったね」

 

彼女が踵を返そうとしたので、私はうめきに近い声で呼び止めた。そしてこの男は何者なのか、何をしたのか、お前はどうしてそれを知り得たのか、このことを他の者は知っているのか。これら四点を明確な言説で示すよう紳士的な態度でお願いした。

 

彼女は鼻の穴を膨らませたあと、私の質問に一つ一つ答え始めた。

この男はカルト教団が治める隣村の出身で、野盗どもにこの村の情報を知り得る限り流していたという。リーバーから逃げてきたと言っていたらしいが、他の元リーバーの捕虜たちに聞き込みをしたところ、彼の嘘に気づいたとのことだ。

そしてこれらの事実を知っているのは、現在私と彼女のみである。

 

 

 

 

 

 私はそれから数十秒ほど、どうしたものかと思案していた。

ヘッドショットは私の暴力性の発露を期待していたらしいが、この者はすでに自身の嘘と罪を認めている。痛めつけたところで何になると言うのだ。何の収穫もない。

かといって無罪放免もそれはそれで問題だ。やらかしたことが大きすぎる。

だいたいこの村に起きた問題を私の独断でなんとかするのもおかしな話だ。

 

少年あたりに相談してみるか。そう思っていた矢先に、戸口の外で声がした。

 

「誰かいるの?」

 

少年の声だ。別におかしなことはない。元々ここは彼の家だ。家主が帰宅するのは当然である。私は特別驚きもしなかった。

 

「誰もいないよー」

 

謎に嘘をつくヘッドショット。私は横目で彼女を睨みながら「少々込み入った問題があって場所を借りている」と正直に話した。

 

扉が開いたとき、最初に顔を出したのは復讐者の女だった。これも別に驚くことではない。むしろ彼女が少年と同居していないらしいことに首を傾げたくらいだ(人様のプライベートを気にかけられる女だとは思えない)。

 

だが次に戸口をくぐった人物を見たとき、私は思わず顔をしかめた。力仕事で鍛えたすらりとしつつも肉付きの良い長身に、短く刈った髪。削がれた片耳と頬に痛々しく残る傷跡。

村の若者。それも村一番の剣の腕を持つ青年だ。

 

彼は私の顔を見て人懐っこそうに笑ったが(こういうタイプは目上の者に好かれる)、私の強張った表情を見て不思議そうな顔をした。

そして縛られ床に転がっている男に気づくと、さらに難しげに眉をひそめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





登場人物紹介
『Error Code 0xFFFFFF』
緑のボロボロ腰巻きを身につけたスケルトン(の一団)。卵から孵った雛の如く、プレイヤーをマスターと思い込んでどこまでもついてくる。
そしてプレイヤー以外の勢力は全て敵と認識して襲いかかる。一人一人が普通に強い上に数がとんでもないため、下手すると街一つ滅ぼせる。怖すぎ。
我らがノーフェイスおじさん曰く「主の帰還を数百年待ち続けているうちに狂ってしまった」とのことだが、彼らのいる場所が『再プログラミング工場』という名の場所なので、おそらくおじさんの脳内妄想とは異なる事実があると思われる。
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