ある反奴隷主義者の手記   作:無職のプーさん

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なんとなくウェブ小説の書き方が最近分かってきたぞ。
とにかく改行しまくればいいんだな!!(←分かってない)



5

 

 私はガットに戻る前に、こっそりと農村に立ち寄った。少年と若い女の様子を見るためだ。

遠目に少し覗いて、元気そうならすぐ帰るつもりだった。

 

しかし、この地では問題は常に起こりうるものだ。誰しも平穏になど暮らせはしない。

 

 

 

 

 村の入り口で若い連中がわらわらと憲兵に詰め寄り、何やら罵声を浴びせていた。奴隷商人がどうだの臆病者だのと、やかましく騒ぎ立てている。

何かを訴えているようだが、間違いなく穏やかな話ではあるまい。

 

憲兵たちは眉一つ動かすことなく、冷たく応対するだけだった。若者たちは「もういい! 俺たちだけでやってやる!」と怒鳴ると、苛立たしげに去っていく。

 

私はボロを目深に被り直すと、憲兵に近づいて事の仔細を訊ねた。

彼の話によれば、村人の一人が奴隷商人に連れていかれるところだったという。地方貴族に納める年貢が足りないなどと、覚えのない因縁をつけられたらしい。

その男には養うべき妻と子がおり、彼がいなくなれば、妻子もいずれ同じ末路を辿ることになる。都市連合とはそう言う場所だ。

 

しかし、連れていかれる()()()()()()というのは、実際には連れていかれなかったという意味だ。とある親切なよそ者が、喜んで彼の身代わりになってくれたのだという。

 

私はその先の話は聞きたくなかったので、憲兵から離れていってしまった。

嫌な予感がした。そして私の嫌な予感は、大抵の場合当たっているのだ。特に荒野での暮らしに慣れたここ数年、こういった勘を外すことはほぼなくなっていた。

 

 

 

 

 例の復讐者の女は小屋の中にいた。いつもと違うのは、大人しくベッドで寝ていなかったことだ。

 

誰から貰ったのか、彼女は黒っぽい衣服と革のズボンを身に着け、ベルトにはナイフまでぶら下げている。先ほど憲兵相手にわめいていた若者たちも一緒で、何やら殺気立った目つきで武器になりそうな農具を選別していた。

 

結果的に、私の悪い予感はそっくりそのまま当たっていたということだ。不運な農民の代わりに少年が連れていかれ、若者たちは彼を取り返すために最も危険な手段を取ろうとしている。

 

私は肩をすくめつつ「馬鹿なことはやめろ」と彼らを諭した。「どうせ美人の前で良い格好をしたいだけだろう」と、今にして思えば無神経な言葉も付け加えて。

 

当然だが、若者たちは怒り狂って私に掴みかかった(図星を突かれた顔で固まった男も数名いたが)。

「よそ者には分からないだろうが、奴らは俺たちをゴミみたいに扱う。もう我慢の限界なんだ」と、幾分落ち着いて話す者もいた。

 

いずれにせよ、彼らは図体が大きいだけの子どもだ。冷静な判断力などあるはずもない。

少なくとも赤の他人である少年のために命を賭けようとしている時点で、良くも悪くも損得勘定では動いていないだろう。

 

だが彼らの中で最も厄介なのはこの女だ。砥石に研がれるナイフの刃先を見つめるその目は、まるで飢えた狂犬のようだった。私の言葉など聞こえていないといった風で、そのまま一人で出ていってしまう。

 

「これは私たちの問題だ。何とか穏便に事を済ませるから、お前たちは手を引け」と若者たちに言い残し、私は彼女の後を追った。

 

 

 

 

 無謀で愚かな若者たちとは違い、私には多少の勝算があった。

 

貴族を敵に回すということは、それは都市連合そのものを敵に回すということ。貴族に逆らえば、待つのは絶対の死(アイゴア)だ。

そして奴隷商人には、貴族の後ろ盾がある。ゆえに奴隷商人に弓引く者は、一国家を相手取る覚悟を持たねばならない。

 

だが奴隷商人が貴族の手足なのかといえば、必ずしもそうではない。彼らは貴族の威を借りて横暴に振る舞う小物に過ぎず、そして何より拝金主義者だ。

この一件はおそらく彼らの独断であり、貴族の意向ではあるまい。ならば純粋に金で解決できる問題だ。奴隷商人とは文字通り、奴隷を売る商人なのだから、金を払えば奴隷を買えるのは自明の理だろう。

 

ガラクタで得た金を残しておいて正解だった。都市連合では金さえあれば、大抵の揉め事は解決できる。

そういう意味で拝金主義とは、究極の平和主義であるのかもしれない。

 

 

 

 

 女の足になんとか追いつき(数週間寝たきりとは思えない速さだった)、私はこのことを説明した。

ここで書く以上に分かり易く諭してやったつもりだが、彼女は納得していないようだった。どうしても誰かの血が見たくて仕方がないらしい。

「私からもう何も奪わせはしない」と宣い、ナイフを振りかざしている。

 

私は思わず溜息を吐いてしまった。まったく育ちの悪い平民はこれだから困る。人は正しい生まれに恵まれなければ、正しい行いはできないらしい。

 

 

 

 

 女は強情だったが、何とか説得することができた。まずは私が金を出し、それで丸く収まらなければ彼女のナイフの出番。ひとまずそういう話にまとまったのだ。

 

私は身だしなみを整えるために、いったん農村に戻った。髪を切って髭を剃り、まともな服を買って身につけると、浮浪者から流れの行商くらいには見えるようになった。背負った大きめのバックパックも実にそれらしい。

子ガニが地面に落ちた私の髪を食べようとしていたので、「汚いからやめろ」と叱っておいた。

 

そうして急いで女の元に戻ると、彼女は私を見て目を丸くした。どちらさまでしょうか、と言いたげな顔だった。

私は彼女を連れて荒野を西に抜け、赤い砂地が広がる砂漠へと向かった。

 

 

 

 

 それは懐かしい光景だった。故郷の砂漠はもっと赤みが強いが、ガットの青い浜辺を見慣れた今だと、ここの砂も十分に赤く見える。沈みゆく夕日もそれに拍車をかけていた。

 

故郷の思い出になどロクなものがない。それでも燃えるような赤い砂丘を目にしたとき、やはり人は故郷に焦がれるものなのだと身に沁みて分かった。

つまらない感傷もそこそこに、私たちは砂丘をいくつか越えた先にある奴隷商人たちの街、アイソケットに到着した。

 

 

 

 

 そこは周囲に鋼鉄の壁が聳え立つ、文字通り要塞のような場所である。

鉄壁の内には剥き出しとなった鉱脈が点々としており、そこに足枷と首輪を付けた奴隷たちが黙々とピッケルを振るっていた。少しでも手を休める者は、冷酷で無慈悲な見張りたちに鞭で激しく打たれる。

彼らが絶えず流す汗と血が鉱石の破片と混じり合い、地面をどす黒い色に染めていた。

 

この世の地獄というほどではない。実際、この国にはこの程度の光景はありふれているし、経済が回っているのは彼らのような底辺が身を粉にして働いてくれるおかげだ。

大なり小なり、これが経済というものの縮図だろう。善悪で計りきれるものではない。

 

拝火の神国の思想の一つに『リバース』というものがある。堕落し腐敗しきった異教徒の魂を厳しい奴隷労働によって更生させ、救済するというものだ。

いささか分別臭さが癪にさわるが、一理あるように思える。平民たちに根付く怠惰な思考は、経済を弱体化させる罪に他ならない。

 

都市連合の英才教育に染まった私はこのように考えたが、若い女にとっては違った。

彼女自身に奴隷としての経験はおそらくないが、ここで鞭打たれる少年の姿を思うと平常心ではいられないのだろう。

再びその目に紅い憎悪の色が宿ったのが見て取れたので、「頼むから大人しくしていてくれ」と念を押した。

 

彼女には武の心得がない。そして私に言わせれば、武の経験の浅い奴ほど突拍子もないことをやらかすから恐ろしいのだ。

身の程を知らぬというか、後先を考えないというか。この女が死ぬのは勝手だが、私が巻き込まれるのはご免だった。

 

 

 

 

 結果から言うと、少年はすでに自力で奴隷の身から脱していた。我々が助けるまでもなかったということだ。

何でもアイソケットを統治する貴族と面識があったらしく、すぐに解放してもらえたらしい。

髪は剃られてしまっていたが、それだけだった。目立った外傷もない。散髪代が浮いたと思えば実質得をしたまである。まったく運に恵まれたものだ。

 

復讐の鬼と化していた若い女は、元気そうな少年の姿を見るや、すぐさま明るい表情を取り戻していた。

彼女にとっての少年は、もはやある種の精神安定剤のようなものらしい。まったく呆れるばかりだ。

 

 

 

 

 だが、本当に呆れたのはここからであった。少年はアイソケットで働く奴隷たちのうち、一人のハイブ人を連れて帰りたいと言い出したのである。

鞭打ちから庇ってくれたり、励まし合ったりしているうちに、すっかり情が湧いてしまったらしい。

その者は長い奴隷労働で痩せ細っており(ハイブ人は元々棒のように細いが)、おまけに舌を抜かれているらしく、口がきけないとのことだった。

 

ふざけるな。文字どころか言葉も話せぬ昆虫人間など何の役に立つんだ。そもそもそんな奴を養う余裕もないだろう。自分たちが生きていくだけで精一杯のはずだ。そもそも奴隷を買う金はあるのか。

 

私は大体このような正論をまくしたてたが、彼は納得しなかった。

そればかりか、そのハイブ人を買う金を貸してくれとほざくのである。

 

私は怒りに顔を赤くし、赤くし過ぎて逆に青くなった頃、渋々頷いてやるしかなかった。

結局最後に折れてしまうのは私の方なのだ。意思が弱いと言うか、押しに弱いと言うべきか。

 

我ながら情けない限りだが、少年は必ず返すと約束したので、おそらく私に損はないはずだと自分に言い聞かせるしかなかった。

 

 

 

 

 




登場人物紹介
『舌を抜かれたハイブの奴隷』
年齢不明。人里離れた地で女王を中心とした独自のコミュニティを形成する昆虫種族(バイオドロイド)。
前の所有者に舌を抜かれてしまっており、頷いたり首を振ったりすることで意思の疎通を図ろうとする。可愛い。作者はビープくんよりこっちの方が好き。
彼に限らずハイブはつぶらな瞳とアホ面が組み合わさって常時不敗の可愛さを誇る。ただしフォグマン、テメーはダメだ。アイゴアは許す。
レイというなかなかにかっこいい本名を持っている。レイきゅん可愛いよレイきゅんハアハア。
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