葬送のフリーレン 旅の小節   作:いつかこう

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後編です。


《誰も知らない遠くから誰も知らないものを1つ持ってくる魔法》後編

《誰も知らない遠くから誰も知らないものを1つ持ってくる魔法》後編

 

◇◆◇

 

勇者一行は迷宮を出て手頃な草地で野営をする事にした。

 

「フリーレン、ずっとあの魔道具をいじってますね」

「そうだね」

「よほどあれが気に入ったのか」

「微笑ましいよねえ」

「⋯⋯そうですか?」

「まあ道具をいじる楽しさは分かるが」

 

フリーレンはずっと黒い板を指先で触って、ふむふむと頷いたり、ゲッとしかめ(つら)をしたり、むふーっと得意顔をしたり、ポカンと口を開けたりと、なかなか愉快な百面相をしている。

 

「何か分かったかい、フリーレン」

「ああ、凄いぞこれは。一つの魔道具なのに色んな機能が付いている。なんだろう、《多機能》とでも呼べばいいのかな。しかもとても合理的で直感的に使えるんだ。ほら、この記号を押してみると⋯⋯」

そう言いながら一つの記号を押してみせると、ズラッと小さな絵が並んだ。

「うわ、なんだこれ!? 物凄く緻密な絵だな。どうやって描いたんだ?」

「それだけじゃないぞ。この中の一つを押すと……ほら、絵が拡大されるんだ」

「! ……信じられない。これはまるで現実そのものじゃないか。魔法で描かれた絵なのか?」

「それにしても不思議な世界の絵ですね。建物が全く見た事無い形をしています。本当に……これは異世界なのかもしれませんね」

「さらにさらに、ほら、この右下に数字らしきものが写ってる画を押すと……」

「うわ!? 絵が動いてる!?」

「これは……向こうの世界の人間か? 変な服装だが……ドワーフはいないのか」

「エルフもいないっぽいんだよね。人間だけの世界なのかもしれない」

「へえ、それはちょっと寂しいね」

「魔物も魔族もいないみたいだな……つまらん」

「いやいや、冷静に言ってますけど、これとてつもない大発見……ですよね?」

ひょっとしたら史上始めての異世界人類の発見かもしれないが、その割にはどうも物見遊山的なノリにしかなってない。

『まあこのメンバーならこうなのも仕方ないのかもしれませんが』

ハイターはそう嘆息する。なにせ全員変人である。

あまり認めたくはないが、自分も含めて。

 

「他にも色々見つけたぞ。ただ……どうも多くは向こうとの繋がりが無いと使用出来なかったり機能が制限されているっぽいんだよなあ。惜しい……なんとか繋がりを復活出来ないものか。この右上の透明な扇形と四本の縦棒が怪しいんだよなあ。つながりがあった時、これが白だった気がするんだ。ハッキリ見てなかったから曖昧だけど。それと……」

 

フリーレンは次々と黒い板の機能を見せていく。

それを覗く三人も、機能を見る毎に顔が百面相になる。

異世界の音楽が流れた時が一番反応が良かった。

その反応を見て、フリーレンはムフーッと機嫌が良くなる。

 

「こんな発想の魔道具見た事ないよ。これを作った文明はよほど高度に違いないね。まだまだ良く分からない機能もたくさんあるし、研究しがいがあるぞ。可愛い奴だな~シュバルツ♪」

「シュバルツ?」

「名前付けたんですか」

「ちなみに表面の透明な素材もただのガラスじゃないらしい。相当に硬度がある特殊なガラスだ。この素材一つとっても何十年も専門的に研究する価値があるぞ。さすがミミック産の魔導書だ。一味違うな」

「いやミミックじゃない宝箱産でしょ。錯覚しちゃいそうですけど」

なんかどうでもいいツッコミだなとハイター自身も思うが。

 

◇◆◇

 

他の三人が飽きて離れた後も、フリーレンは黒い板に掛り切りだった。

しかし……。

 

「どうしたんだいフリーレン、なんか難しい顔をしてるね」

「うん……ここ」

「?」

フリーレンが指差したのは、画面右上の丸みを帯びた横長の四角の中に数字らしきものが出ている記号。

 

「これは……何かが減っていっている、という印のような気がするんだ」

「なにかって?」

「分からない……ただ……ほら、魔力の減り具合を表してる感じがしない? ここは最初緑だったんだ。それが緑部分が減って色が黄色になって、今は更に減って赤色になったんだよ」

「う~ん、言われてみれば……」

フリーレンのように細かく見てた訳では無いのでそこが最初緑だったかハッキリ覚えていないが、確かにこの赤色は何か警告を促している感じがする。

なにやら嫌な予感を感じつつも更に機能を探っていたフリーレンだが、その時は唐突に訪れた。

 

「あ」

「どうしたんだい、フリーレン?」

「画面が……消えた」

「消えた?」

《画面》とはなんだろうと思いつつもヒンメルがフリーレンの手元の黒い板を覗き込むと、確かに表面が真っ暗だ。

どうにか復活しないかとボタンを押したり板を振ったり《画面》を撫でたり呼びかけたりするが、シュバルツはうんともすんとも言わない。

 

「全く動かなくなったな」

「微妙に感じてた雷っぽい力の流れも無くなっている。シュバルツは魔道具としての力を失って本当にただの板になってしまった……」

「異界との繋がりを感じなくなってしばらくしてから力を失った……フリーレン、ひょっとしてシュバルツは、その繋がりで力を保っていたのかい?」

「そうかもしれない……。私が異界からこちらに取り寄せてしまったせいで、向こうの魔力を得られなくて蓄えていた魔力も使い果たしてしまった……。私が色々いじったせいで魔力消費も激しかったのかもれしれない。可哀想な事をしてしまった……ごめん、シュバルツ」

 

黒い板(シュバルツ)を両腕で抱きしめ(うつむ)くフリーレン。

その頭をヒンメルがソッと撫でる。

「そんなに自分を責めても仕方ないよ、フリーレン。寂しいけれど、それがシュバルツの……運命だったんだ」

「うん……頭撫でんな」

「なんか無理やり良い話に持っていこうとしてません?」

「どうでもいいが、そろそろ出発せんか? 俺達は魔王を倒す旅の途中なんだぞ」

「ハイターもアイゼンもドライ過ぎない? 人の心とか無いの?」

「フリーレンに言われたくないですね」

「全くだ」

「まあまあ、これもこの旅の一つの思い出になるんだ。シュバルツは僕達の心の中で生き続けるのさ」

「だから無理やり良いセリフで誤魔化そうとしてません?」

「俺は秒で忘れるがな」

「人でなし」

 

と、突然シュバルツがフリーレンの手を離れ、宙に浮いた。

 

「あ」

「これは……!?」

「なっ、何事ですか!?」

「気をつけろ!」

 

「シュバルツ……」

フリーレンが目の前の宙に浮かんでいるシュヴァルツに恐る恐る指先で触れようとする。

 

ギュン!

 

シュバルツはフリーレンの指から逃れるように急速に空に上がると、そこでグルグルと回転しつつ光を放ったかと思うと……フッと消えてしまった。

 

「シュバルツ……シュバルツううぅぅぅぅぅぅ!」

フリーレンが叫ぶ。

それは今まで3人が一度も見たことも聞いたこともない激情と声だった。

『いや、お世話になった村が魔族の攻撃で崩壊してた時だってそんな悲痛な表情してなかったでしょ、あなた』

思わず内心で突っ込むハイター。

 

フリーレンは立ち尽くし、いつまでもいつまでも、シュバルツの消えた虚空を見つめていた。

 

◇◆◇

 

それからしばらく(のち)、なんとか立ち直ったフリーレンは歩きながら魔導書を見返していた。

ヒンメルは魔導書に熱中して道を逸れそうなフリーレンをさりげなく誘導しながら問いかける。

 

「何か分かったかい、フリーレン」

「うん……後ろのページに注釈があった。あの魔法で引き寄せたものは、制限時間を過ぎると元あった場所に帰ってしまうらしい」

「いやちゃんと読んどけよ」

また丁寧語(自分のキャラ)を忘れて突っ込むハイター。

 

「そうか……帰っていったのか……自分の故郷に。ならシュバルツは向こうで復活しているのかもね。そう考えよう、フリーレン」

「うん……だから頭撫でんな」

「いやもう、いいですけどね、うん、シュバルツは無理やりこっちに連れてこられたんですけどね、うん」

「いいから飯にするぞ」

投げやりなハイターとアイゼンである。

 

「まあ一万回ぐらいこの魔法唱えたらまた出てきてくれるかも……あ」

魔導書を読み直していたフリーレンの手があるページで止まり、みるみる内にショボン顔になっていく。

「どうしたんだいフリーレン」

「また注釈付いてた。この魔法、魔法使い一人につき一生に一度しか使えないらしい」

「ほほう、それは残念でしたね」

言葉と裏腹にウキウキした口調で慰めるハイター。

「異世界の魔物は⋯⋯ナシか」

斧の頭を手の平でスリスリしながら、なぜか残念そうなアイゼン。

「残念だったね、フリーレン」

今や自分にとって無価値となった魔導書を眺めながらショボンとするフリーレンをヒンメルが慰める。

「⋯⋯頭撫でんな」

「なに、また面白い魔導書を見つければいいさ。ミミックならたくさんいる。」

『『ミミックかよ』』

内心ツッコミでハモるハイターとアイゼン。

だがフリーレンはその言葉で元気を取り戻す。

「……うん、そうだね。ミミックならたくさんいるね。」

『『だからミミックかよ!』』

「ああ、僕達はこれからも数多のダンジョンを攻略していくんだ。ミミックには幾らだって会えるさ」

「そうだね、幾らでもミミックを鑑定出来るね!」

『『手段と目的入れ替わってる!』』

 

因みに次にフリーレンがミミック判定の宝箱から特別な魔導書を得るのは、後にハイターとアイゼンに「「魔王戦よりキツかった。いやメンタル的に」」と言わしめた、ミミック無限増殖ダンジョンの「ミミック万匹判定地獄」での千と52匹目の事であるが、それはまた別の話である。

 

◇◆◇

 

どこかの世界。どこかの建物のどこかの部屋の誰か。

 

「あったあった。なんだよ……ベッドの下に落ちてたのかよ。おかしいなあ……なんでこんなとこに。げ、バッテリー切れてやがる。最悪」

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

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