虫に腕を噛まれ、そこから菌でも入ったのか祖父の腕は見るからに腫れていた。病院へ行くと言って一人離れた祖父の背を見つめる。
祖父は付き添いはいらないと言ったが、やはり心配である。変な感染症とかだったら困るし、私も向かおう。
兄たちに断りを入れて祖父の跡を追うと、それほど離れてなかったのか、すぐに追いついた。
「年寄り扱いするなと言っとるのに……」
文句を言っているが、口元が緩んでいる。そんな素直じゃないヒロインみたいなことされても反応に困るんだが。
しかし、近くで見ると腫れている箇所の異様さがよく分かる。ポルナレフが言ったように、人の顔に見えなくもない。
「お前までそんなことを言うな」
嫌そうな顔をしていた。確かに腫瘍が人の顔をしているなんて軽いホラーだろう。
いくら心配だとはいえ、まさか手術室にまで付き添うわけにもいかない。
待合室でぼんやりしながら待っていると、女性の叫び声が響いた。……祖父が向かった方からだ。何かあったのだろうか。
穏やかではない叫びにどよめきが広がる中、こそこそと祖父が手術を受けているであろう部屋へと向かう。
途中、形振り構わず走る看護師とすれ違った。その形相は恐怖に支配されている。確実に何かが起こったとしか思えない様子に、小走りで先へと進む。
開きっぱなしになっている手術室の扉に飛び込むと、血だらけで倒れている医師と腕を前に構えている祖父がいた。目の前の光景が受け入れ難くて、動きが止まる。
い、一体何が……?
祖父と倒れている医師を交互に見つめ、とりあえず医師の方へと近づいた。
治療を試みるも、既に絶命しているようで呼吸は聞こえない。何があったのか尋ねようと祖父を仰ぐと祖父の腕から顔が生えていた。
な、何その気色悪いの……?
「これはスタンドじゃ!」
『そうだよー!』
ちゅみみーんと奇妙な鳴き声を上げ、ぺらぺらと話し始めた腫瘍は『殺人犯がここにいるぞー!』と声高に叫び始めた。
「くそっ、黙らんか!」
『やーだよー!』
おちょくるように笑う腫瘍に祖父が顔を歪める。
その様子に既視感を覚えた。ど根性ガエルのようだ。……いや、ピョン吉に相当する腫瘍の姿が凶悪すぎる。可愛くない。やっぱ違うかも。
尚も叫ぼうとする腫瘍に、祖父が焦りを見せた。何か布とか噛ませて、口を塞ぐことはできないのだろうか。
「……!その手があったな!」
『おまわりさー、グッ』
腕ごと紫の棘で巻いて、ようやく腫瘍の口を塞ぐことができた。くぐもった声が聞こえるが、当分は大丈夫だろう。
「ふう、何とか口を塞いだわい……しかし、どう対処するか」
うーん……切ろう。
「は?」
祖父には痛い思いをさせるが、削ぎ落とすしかない。幸い道具はここにあるし。私なら治療もできるし。
「ほ、本気か……?」
本気も本気である。放っておいて何があるか分からないし、腫瘍を切除できそうなポルナレフを呼びに行く時間もない。先程看護師が走り去っていったので、すぐに警察も呼ばれてしまうだろう。その前にその腫瘍を切り離すしかない。
「いや、でもな……」
ええい!男は度胸!腹を括って腕を差し出せ!ちゃんと腫瘍はスタンドで捕まえておいてね!!
「あ、ちょっ、待っ……『ぎゃああああああ!!!』」
祖父と腫瘍の悲鳴がシンクロする。あまり聞いていたくないユニゾンだった。
でも、私もとにかく必死だったのである。スタンドの能力が不明な以上、祖父にどんな危害が及ぶかも分からない。宿主の生命力を吸っていくとか、寿命を奪っていくとかだったら……と考えると、一刻も早く腫瘍を潰しておきたかったのだ。祖父には悪いことをした。自分の腕が孫に切られてる所なんて見たくないだろうに。実際目を瞑っていたが。
かつて見ないほどの集中力を発揮して、見事祖父の腕の腫瘍を取り除いた私は、意気消沈する祖父の背を叩き、病院から飛び出した。
現地の警察がどやどやと追ってきている。まさかのお尋ね者である。いや、お尋ね者は祖父なのだが。
死んだ医者と直前にその医者の手術を受けていたはずの患者。スタンドはスタンド使い以外に見えない以上、患者が医者を殺したと思ってしまうのも仕方がないだろう。
生きていて警察に追いかけられる経験をするとは思わなかった。せっかくホテルまで取ったが、この街にはもういられないだろう。とにかく早く追われる身になったことを兄たちに伝えなければ。
ああ、久しぶりにベッドで眠れると思ったのに!許せないぜ、DIO!首洗って待ってろよ!絶対倒してやるからな!
……兄たちがな!
共同作業(腫瘍除去)