狭すぎるよ〜〜っ!!!
両側から圧迫されてる体が悲鳴をあげている。何故後部座席に座ってしまったのだろうか。
椅子越しに見える赤毛をじっとりと睨むが、気づいていないようだ。くそっ、涼しい顔して助手席に座りやがって……。
右隣には兄、左隣には祖父。両手に花どころか両手にムキムキである。
オセロだったら私も今頃ムッキムキになって暑苦しさの指数が数倍跳ね上がっていただろうから、オセロじゃなくて良かった。
追ってくる警察から逃げるように車に乗り込み、揺られること数時間。運転席にはポルナレフ、助手席には花京院。後部座席に兄と私と祖父。後ろの密度がすごい。
窮屈さに体をもぞもぞと動かしていると右から「動くんじゃねえ」と兄の声が飛んでくるし。もういっそのこと兄と祖父の膝を下敷きにして寝転がってやろうかな。
「んぇ!?」
ポルナレフが素っ頓狂な声を上げた。前方へと視線を向けると、いつぞやの密航した子がヒッチハイクの構えをしていた。
知った顔である故に通り過ぎることはできず、その場で停止する。「おい、どうする?」と振り返ったポルナレフが眉を寄せながら尋ねた。
乗せてあげたら?
「でもよう、もう満員だぜ。お前も狭い狭いって言ってたじゃねーか」
えー、でもこんなとこに置いてくの?女の子一人で?
「うっ……」
危ない奴に捕まったら目も当てられないことになっちゃうかもしれないしさ。
「……」
目も当てられない光景を想像したのか、顔色が悪くなるポルナレフ。
「乗せていってやろう」という祖父の一声によって、少女は車に迎えられることとなった。
どうやらシンガポールの父親に会いに行くという話は嘘だったようで、少女が自身の生まれ育った国を出た理由は、大人になる前に世界を回りたかった、らしい。
まあ随分とアクティブな子である。
やり方はともかく、その考えと行動力は素晴らしいものだ。素直にすごいね、と言うと
「そ、そう?まあね!」
と満更でもなさそうに胸を張っていた。可愛いな……。
ポルナレフが煽り運転をしたので、煽り運転返しをされ、車が吹っ飛んだ。兄のスタンドがトラックと衝突することを防ぎ、一命を取り留める。ひやひやしたぜ。
前方にはぶつかったトラックが車体を凹ませている。
どうするの、あれ。
「知らんぷりしとけばいいだろう」
帽子の鍔を下げてそう言った兄。
あ、悪魔かよ……。人の心がないとはこういうことを言うのだ。
膝に乗っていた少女の両脇に手を突っ込み、持ち上げて祖父の方へと移動させる。兄が座る側のドアを開けて、外へ降りると、後ろから「おい」と咎めるような声が聞こえた。
すぐ終わるから!ちょっと待って!
奇跡的にドアが歪んでいなかったようで、容易く開けることができた。運転手の鼻あたりに手を添える。息はしてるので生きてるだろう。ただ、割れたガラスでも刺さったのか額から血を流していた。
ちゃちゃっと治して車に戻ると、兄から呆れたような視線が向けられる。
「よくやるぜ……」
なんだよ。そんなに時間かけてないと思うが。それっきり何も言わないので、祖父の方を向くと、微笑ましいものを見る目で見られた。
「船の時もそうだったけど、君は自己犠牲の気があるのかな」
そう?そんなお綺麗なものじゃないけどね。
もし私が、自分が一切の関係もない戦いに巻き込まれ怪我を負う彼らの立場だったとしたら、憎くてたまらないだろうし。
自己犠牲というよりは自己満足では?
「ふふ……」
ミラー越しに微笑ましいものを見る目で見られる。花京院まで何なんだ。
車の座席に長時間座りっぱなしは体にも良くないので、偶然見つけたバーのような店で休憩を取ることになった。サトウキビジュースなんて初めてだ。
「おい、あの車は……!」
自然な甘みを楽しんでいると、外に私たちを命の危機に追いやった車が停まっていることに気づく。むしろ何故今まで気づかなかったのだろう。
「おやじ!あの車の持ち主は誰だ!?」
店の主人に尋ねるも、彼も分からないときた。祖父たちが纏う空気が重くなった。
「誰か分からん以上──」
バーを見渡した彼らの瞳に剣呑な光が宿る。血がなせるわざか、同時に足を踏み出した兄と祖父のベルトを掴む。
いやいやいや、ちょっと待ってくれ。
「何故止める」
いや止めるよ。多分拳で聞き出そうとしてるよね。そりゃ止める。誰だって止める。この場にいる人間がスタンド使いって決まったわけでもないのに。
関係のない一般人に危害を加えることはあってはならないだろう。
「じゃがな……」
じゃがもクソもない。
そもそも世の中には推定無罪という言葉があってだね……。
「知らん」
くるりと振り返り、進もうとする兄。兄の巨体を私の腕で引き止めることは不可能だ。
ちょっと待てって!
思いっきり兄の臀部を叩くと、足がぴたりと止まる。私を見つめる瞳が不快そうに細められた。耳を寄越せ、とジェスチャーをすると不機嫌そうにしながらも若干屈んでくれた。
暴力に訴えなくても、あの車の主を見分ける方法はある。小声でそう伝えた。
「何?」
意外そうに寄せられた眉に、にやりと笑う。
まあ付いてきなさいって。
店のマスターに騒いだお詫びをして外に出る。皆私たちが何をするのかが気になるのか、ぞろぞろと着いてきた。
「ドライバーを見分ける方法とやらを教えてもらおうじゃねえか」
この車を壊す。
「……は?」
だから〜、この車を壊すんだって。
瞳を丸くする彼らに、人差し指を上に向けた。もしこの車に乗ってるのがスタンド使いでも、そうじゃなくてもこの荒野を移動する足はこの車、ということになる。ならばそれを壊してしまえばいいのだ。
たとえ隠れて私たちの様子を見ていようと、自身の車を壊される所を黙って見ているわけにはいくまい。
そう説明すると、兄は呆れたような表情で肩をすくめた。「お前のその計画は暴力じゃねえのか」とでも言いたそうな顔だ。
「……お前のその計画は暴力じゃねえのか」
言った。
まあ野蛮ではあるけど仕方ない。人に怪我させるよりはいいだろう。
そもそも先に仕掛けてきたのは向こうだし。あわやトラックと衝突して死ぬ寸前に追いやったのだ。愛車がボコされても文句は言えないだろう。
「……」
嘆息した兄はやる気がなさそうな顔でスタンドを出した。心なしかスタープラチナも気の入らなさそうな顔をしている。
なんだよ、二人して。人に被害を出さない素晴らしい計画なのに。
気の抜けた表情だったから心配したが、兄はきちんと車にラッシュを叩き込んでくれた。
背後から苦悶の叫び声が響き、「何だ!?」「どうしたんだ急に!」と困惑の声が上がった。
ほらね。簡単に見分けられただろ?
ふふん、と胸を張ると兄は「やれやれだぜ」と呟いた。
いつも誤字報告ありがとうございます。とても助かってる