セスナを買うためにヤプリーンという村へ向かわなければいけないらしい。
祖父と空の旅か……「3度も墜落経験がある奴と乗りたくない」と言う兄の発言には頷かざるを得ない。普通に怖いよね。
分かる、と深く頷いていると祖父がさっと視線を逸らした。
ヤプリーンへ行くためには砂漠を越えなければいけない。ラクダで行けば一日で着くらしいが――
「ラクダなんて乗ったことねえぜ!?」
私もだ。というか砂漠生まれでもない限りラクダに乗る機会ってそうないのでは?
「ふっふっふ、ラクダの乗り方ならわしに任せとけ!」
随分と自信があるようだ。まさかラクダにも乗った事があるとは。年の功とでも言うのだろうか。
映画で見たことを「よく知ってる」であたかも自分が経験したかのように語るとは。一度祖父と常識をすり合わせた方がいいかもしれない。
祖父による全く参考にならないラクダの乗り方講座を終え、私達はラクダに乗った。
結構高いな……。
「北西へ向かって出発進行じゃ~!!」
祖父の言葉を皮切りに五体のラクダはそれぞれ異なる方向にばらばらと動き始めた。コントかな?
ラクダに乗って数時間。日差しが強すぎてきつい。痛いくらいである。日が強すぎて明日、皮膚が剥けないか心配である。
見渡しても砂、砂、砂。代り映えのない景色に頭がぼんやりとしてきた。暑さのせいか、段々と皆の口数が少なくなってくる。無駄に体力を消費しないためだろう。
何分か水を飲まなかっただけで脱水症状になりそうなくらい暑い。太陽はずっと沈まないし……。
「おかしい……!今は夜の8時だぞ!?」
前方に見える蜃気楼を見つめていると祖父の戸惑いの声が上がった。天を見上げる彼らにつられるように空を仰ぐ。ぎらぎらと太陽が真上で輝いていた。何故今まで誰も気づかなかったのだろう。異常事態だ。
おかしい、と騒いでいる内に気温は60度まで上がった。この温度なら砂の上で目玉焼きが作れるかもしれない。
スタープラチナが掘った穴の中に皆で逃げ込む。地面の中は外よりはマシだが、やはり暑い。呼吸をしているだけで脳が溶けそうだ。
「……お前のスタンドで何とかできないか?」
ん~……、やってみるけど、期待はしないでね。
無理そう。
「諦めるのが早すぎるだろ」
ポルナレフにそう突っ込まれるが、スタンドがうんともすんとも反応しないのだ。無理なもんは無理である。
このまま座して死を待つしかないのか……。
「縁起でもないことを言わないでくれ」
花京院の言葉も覇気がなく、ぐったりとしている。
暑さがこれほど厄介なものだとは思わなかった。思考も体力も、気力も奪われる。
────。
……ん、何だあれ?
何とはなしに前方へと視線をやると、少しの違和感を抱く。目を凝らしてみると、そこには不自然な光景があった。花京院もそれに気づいたのか、彼は声を上げて狂ったように笑い始める。続いて、兄、ポルナレフと穴の中に笑い声が響いた。
「「「ワハハハ ヒヒヒヒ ウフフ」」」
笑いの大合唱である。気持ちは分かるが、かなり怖い。
……まあ私も笑っとくか。ウヒヒ!
「そ、そんな……お前まで!」
祖父の悲壮な叫びが聞こえる。ふざけすぎたのかもしれない。
笑いが収まったのか、花京院が祖父にねたばらしをしていた。彼らの視線の先には二つの岩。左右対称で、自然のものだとすればかなり不自然である。
兄のスタンドが近くにあった石を前方へと投げると、ガラスが割れたような音がした。
近づくと、割れたものの正体が判明する。鏡である。その裏に白目を剥いて倒れている男がいた。男の頭部には大きなたんこぶができている。スタープラチナが投げた石があたったのだろう。
男が気絶したおかげで、気の遠くなりそうな暑さも無くなっていた。
一瞬ここで終わりだと思ったが、仕掛けに気づいてからはあっという間だったな。
全員の笑い声が夜空に響いていた。
久しぶりのベッドである。思わず飛び跳ねたくなるほどの喜びが沸き上がってくる。歌でも歌いたいくらいだ。
屋根があるところで安全に寝られることのありがたみ!日本にいるときは決して知りえなかった感謝の気持ち!それが今、私を突き動かしているッ!
やっほーい、とベッドにダイブする。スプリングが数回跳ねて、やがて揺れが収まった。
はぁ、この感触。最高だぜ。
ここ最近バタバタしてたのでゆっくり休憩を取れるということがなかった。シーツの手触りを楽しんでいたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
ぴり、といつもの感覚がして目が覚めた。
これは……花京院か。
窓の外を見ると既に太陽が見えている。耳を澄ますが戦闘音は聞こえなかった。
もう少し寝ていたかったが、仕方ない。花京院の元に向かうとしよう。
「お、お前も起きたのか」
花京院の部屋の前でポルナレフとでくわした。彼は既に起きていたようで、私と違って立ち姿もシャンとしている。朝が強い男なのだろう。
「つーか、なんで
ポルナレフは手で口を覆った。何?
「お前ら、まさかそういう……?」
ポルナレフの瞳がきらりと光り、愉快そうなものを見る目に変わった。それだけで彼の中でどんな推測ができあがったのか察してしまう。
勘弁してくれよ……。そんなんじゃない。
花が使われたんだ。刺客からの襲撃があったのかと思って──
「何ィ!?おいっ、花京院!無事か!?」
話は最後まで聞け。
バンッと音を立てて扉を開けたポルナレフが部屋の中へと入っていく。嘆息して、彼の後に続いて部屋の中の様子を見ると、花京院は普通に寝ていた。若干寝苦しそうにしているが、それ以上の異変は見当たらない。
「何もねえじゃねえか」
おかしいなあ。
側によって彼の布団を捲る。
……やはりなくなっている。花京院の手首に巻きついていたはずの花は消えていた。
うーん、何だろう。
「寝ぼけてぶつけちまったとかじゃねえのか?」
ええ、そんなこと……あるのか?
「いや、俺は知らねえけど」
お前のスタンドだろ?と聞かれる。それはそうなんだけど……。
何となく釈然としないが、花京院の無事は確認できた。目も覚めてしまったし、朝食でも食べにいくか。
朝食を取っていると、対面の席に花京院が座ってきた。
……なんか顔色悪くない?お腹壊した?
若干血の気がないというか、体調が悪そうだ。
「いや、大丈夫。夢見が悪かっただけさ」
花京院は、内容は覚えてないんだけど、と笑った。
あー、あるある。内容は覚えてないけど変な夢みたなってときあるよね。
今まで見た変な夢の話題に花を咲かせていると兄が呼びにきた。出発の時間らしい。
しかし、セスナ……
大丈夫だろうか?