ジョジョだったかもしれねェ…   作:aka1

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「熱愛発覚!? 孫の苦悩」

 日本に帰らせてくれ〜っ!!

 

 四方を壁に囲まれた部屋で、叫びそうになった言葉を飲み込む。開いた口が塞がらないとはこの事だった。

 

 私の目の前には、砂漠のトイレがあった。工事現場とかでよく見る仮設トイレのような見た目の扉を開けて入ってみると、便器がなかった。紙もなかった。あるのは掘られた穴に置き去りにされた風化した排泄物だけ。

 

 いや、流石に文化が違いすぎる。無理だ。

 トイレに入る時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ…独りで静かで豊かで……。

 諦めて外に出ると、何故か祖父が尻もちをついていた。「早かったの〜」と目を丸くする祖父に、何があったのか首を傾げて尋ねる。

 岩にコンセントが付いていたらしい。

 は?

 見渡す限り砂しか見えない場所にコンセントなんてあるわけ──本当にある……。

 

「どうやって電気が通ってるのか分からんが、触れるんじゃないぞ。痺れたからな」

 いや触るわけ……待って。その言い方だと、祖父は触れたように聞こえるが。

「うむ。まあ、ビリッと来ただけだから、どうせ誰かの悪戯じゃろ」

 えー……。本気か?

 危機感の欠如。赤ちゃんじゃないんだから何でもかんでも触らない方がいいと思う。

 どう考えても怪しすぎる……が、祖父に異変は見られなかった。遅効性のスタンドとかかなあ。あとでアヴドゥルに聞いておこう。トイレの中へと入っていった祖父の姿を見つめ、岩から距離を取った。

 

 イギーが砂堀りをしている側にしゃがんで待つ。十秒もかからず祖父が出てきた。早かったね。

「無理じゃ……」

 無理だよね……。

 

 御手洗いに行っただけなのに、精神的な疲労を抱え戻ってきた私たちを見て、アヴドゥルたちは不思議そうな顔をしていた。唯一ポルナレフだけが何かを察したようで、私と祖父の肩を慰めるように優しく叩いた。

 

 この時、私は水洗式トイレの素晴らしさについてポルナレフと語ってしまったせいで、アヴドゥルに相談することを忘れてしまった。

 まさかあんな悲劇を目にするとは到底考え付かなかったのである。

 

 翌日。今日はよく晴れた、気持ちのいい日だった。朝の目覚めはすこぶる良く、ホテルで取った朝食は美味しくて、非常にいい一日のスタートを切った――はずだったのだ。

 

 

 胃がひっくり返ったような、直接大量の氷を入れられたような感覚に陥る。全身の穴という穴から汗が出て、握った手の平は湿っていた。

 

 人間、心の底から驚いた時には声が出ないんだな、とどこか冷静に頭の片隅で考えつつ、足の裏から根が生えてしまったように動けない。

 

 私の視界の先には、アヴドゥルと祖父がいた。

 

 幻覚を見ているのではなければ、祖父の股座にアヴドゥルが頭を押し付けているように見える。

 

 道行く人がひそひそと話しながら、怪訝な表情をして彼らの前を通り過ぎていく姿を、私は離れた所から見ていた。立ち眩みが起こったような感覚が私を襲う。

 

 全くもって思考が纏まらない。考えることを脳が放棄してしまったようで、ここは空気が乾燥しているなあだとか空が綺麗だなあとかあの雲クロワッサンみたいな形してるなあ、とか無関係の事ばかりが頭に浮かんでくる。

 

 自分が冷静ではないことは分かりきっていたので、痛む頭を押さえながらその場から逃げるように移動した。

 

 もしや自分の見間違いではないかという一縷の希望にかけて振り向く。アヴドゥルがマウントを取るように祖父の背に覆いかぶさっていた。

 

 

 

 

 

 ……あ! 自宅のガスって止めてきたっけ?

 


 

 とりあえず走った。私の中で天変地異が起こっている。自身が転生したという事実に気づいたときも大層驚いたものだが、それ以上の事が起こっている。

 全身からどくどくと音がする。体中に心臓が埋め込まれたような心地になって、吐き気がし始めた所でようやく足を止めた。乱れた息を整え、その場にしゃがむ。

 

 ど、どうすればいいんだ……。誰かに相談……兄──ああ見えて家族を大事にしているし、こんなこと知ったら泡を吹いて倒れてしまうかもしれない。花京院──言葉に詰まりながら、盛大に顔を引きつらせている表情が容易く想像できる。イギー──言葉が通じない。ポルナレフ──なんか駄目だ。

 誰にも相談できねぇ!!!!

 

 脳がショートしそうだ。黒い煙が頭から出ているような気さえする。

 だ、誰か助けて。助けてクレメンス……抱えきれんぞこんな厄ネタ。

 

 整ったはずの呼吸がまた荒くなってきた。もう打倒DIOとか言ってる場合じゃないかもしれない。それよりも差し迫った問題が目の前に出てきてしまった。

 

 かくなる上は、本人たちに直接尋ねるしかない――ない、のだがどのような返答であってもその場が地獄になることは変わりない。

 道端にしゃがみこむ私への視線が厳しくなってきた。向こう5年くらいの幸せが逃げそうなほど重い溜息をついて立ち上がる。

 ほんと、どうしようなあ……。

 

 ふらふらと足をもつれさせながら移動を始めると、数分も経たないうちに人と肩がぶつかってしまった。

 謝ろうと頭を上げると、

「すみません……って君か」

 花京院が目を丸くしてこちらを見ていた。

 ……おっす。

「調子が悪そうだけど、大丈夫かい?」

 全然大丈夫じゃない。

「えっ」

 もうどうすればいいか分からない……。

「……場所を変えようか」

 

 所変わって、私たちは公園のベンチに並んで座っていた。両膝に肘を置き、両手で顔を覆う。そんな私への花京院からの気遣わしげな視線を感じたが、それどころではなかった。

「僕でよかったら聞くけど……」

 いや、これは非常にデリケートでセンシティブでプライバシーに関わる問題で……本人の許可がないと言えないんだ。

「そ、そっか……複雑だという事は分かったよ」

 おう……例えばの話なんだけど、花京院は友人がとんでもない秘密を抱えていて、偶然自分がそれを見てしまったら、どうする?

「……僕は今まで友人というものを作った事がないから、参考になるか分からないけど」

 アッ。

 

 ごめん、と謝ると花京院は首を横に振った。気のせいか、先程よりも顔に陰が浮かんでいるようにも見える。

 

 どんよりと澱む空気に包まれる。私の失言でお通夜みたいな雰囲気になってしまった。

 

 話題を変えようと、必死に頭を回して昨日祖父が不審物に触れたことを記憶から引っ張り出した。

 

「それ、スタンドだろう」

 私もそう思う。うんうんと頷くと、花京院は顎に手を当てながら「ジョースターさんが心配だな」と目つきを鋭くした。

 本当、どんな効果があるか分からないし……あっ。

 

 もしや、先程の祖父とアヴドゥルは敵のスタンドによってあんなことになっていたのではないか?

 

 曇天の隙間から太陽の光が差すかのように、目の前が晴れた。

 

 そう、そうかもしれない。きっとそうだ、いや絶対! そうじゃなきゃ、困る!!

 

 敵スタンドのせいじゃなかったら、家庭(ウチ)が崩壊する!!!

 

 行くぞ、花京院!

「ああ。ジョースターさんの所に、だろ?」

 

 同時に立ちあがった私達は、祖父の元へと駆けつけるため、地を蹴った。

 

 私が考え事で手一杯になってしまっていたため、祖父とアヴドゥルの花が使われたことに気づかず、二人の捜索は困難を極めたが、町を走り回ってようやく見つけ出す事ができた。

 やたらぼろぼろな所を見るに、やはり敵のスタンド使いと戦っていたらしい。治療をしながら、こっそりと祖父の耳元であの光景を見てしまった、と伝えると「Oh My GOD!!!」とひっくり返った。必死に誤解である、敵のスタンドのせいだ、と訴える祖父に私は心の底から胸を撫でおろし、安堵の溜息を吐いた。

 

 良かった~~~! 危うく人間不信になる所だった。

 

 いや、もう本っっっっ当に良かった。あわや家庭崩壊の危機とかにならなくて。

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