どうやらここは第一部ではないらしい。祖父の祖父――ジョナサン・ジョースターが倒したはずのディオがジョナサンの肉体を使い、生き返ったようで、ジョナサンの血を受け継ぐ者が共鳴しているだかなんだか。
話がぶっ飛びすぎてよく分からないが、ジョナサンが亡くなっているので、ともかく第一部ではないようだ。ボスって舞台が変わっても持ち越すものなんだ……と思わなくもないが、それだけディオが強いって事だろう。
兄は本当にモテるので、登校中も女の子たちが寄ってくる。JOJO、JOJOと瞳に熱を浮かべ兄の渾名を呼ぶ少女たちの顔は完全に恋する乙女だ。朝から元気で何よりである。兄への恋慕、憧憬、恋敵への牽制、嫉妬。様々な感情が飛び交う中、兄は涼しい顔をして我関せずという態度を貫いている。髪を靡かせ、鎖を鳴らし、「喧しい」と少女たちに一喝しながら学校へ向かっている。
ここ二年くらいほぼ毎日同じ光景を見続けている。高校に入学して最初の数週間くらいは並んで登校していたが、あまりにも周りが騒がしくて今では時間をずらして登校している。と言っても、遅刻するわけにはいかないので数十メートルほど離れて歩いているだけだが。
「キャァアアアッ!?JOJO!?」
絹を裂くような悲鳴が響き、兄の姿が消えた――いや、落ちたのだ。階段から転落し、あわや石畳に激突しそうになった兄は、スタンドを使い木をクッションにして事なきを得ていた。
何をしているんだ兄は。急にアクロバットに目覚めたのか?……いや、そんなわけないだろう。不良からスタントマンに転向は意味が分からなさすぎる。
少女たちに囲まれる兄に、一人の男が近づく。緑色の学ランを着た不思議な髪型をしている赤毛の男だった。一体どういうスタイリングをしているのだろう。
その奇抜な髪型の構造について思考を巡らせていると、花京院と名乗った緑の男は兄にハンカチを差し出して去っていった。
あの男……何もかもが怪しすぎて逆に安全なのでは?
そんなことなかった。
保健室の中から物騒な音が聞こえてくる。具体的には人の叫び声とかが。花京院の名を呼ぶ兄の声も。保健室は防音ではないので、もう丸聞こえだ。保健室と廊下を隔てている一枚の扉を開けば、きっと阿鼻叫喚の地獄絵図が拝めることだろう。
隣には突如襲った腹痛に授業を抜け出してきたクラスメイトが顔を歪ませながらも、困惑した表情をしていた。
四月初めの委員会決めで適当に手を挙げ、保健委員になってしまったため付き添いで一緒に来たのだが、どうやら間が悪かったらしい。
なんかやばそうだし職員室行こう、と提案するとクラスメイトは真っ青になりながらもコクコクと頷いた。恐らく本能的に保健室の中がやばいと悟ったのだろう。勘の良いガキは好きだよ。
教師を呼びに行き、共に保健室に向かうと半壊した保健室と血を流して倒れている養護教諭の先生が。
学校はてんやわんやの大騒ぎになり、その日の授業はなくなった。
***
学校から帰ると、母が驚いた表情で出迎えてくれた。学校は?と尋ねられる。保健室が半壊したから休校になったよ、と伝えるとぱちぱちと瞬きを繰り返していた。意味分かんないよね。
そういえば兄はあの後どこへ行ってしまったのだろうか、と廊下を歩いていると和室に兄と祖父とアヴドゥルが立っていて、畳の上に寝転がっている件の緑学ランの男を囲んでいた。
え、何で?敵じゃなかったの?
部屋の前で足を止める。扉は開かれているのでこちらからも兄たちからもお互いの姿は丸見えである。
マジで何してんの?かごめかごめ?むさ苦しすぎない?……んなわけないか。
脳内で浮かんだ考えを打ち消す。とりあえず彼らに近づこうと廊下と和室の敷居を跨いだ。特に止められたりはしなかったので、兄の隣へと移動する。
床に寝そべった花京院はとても苦しそうな顔をしていた。額に浮かんだ汗が尋常ではないし、息も荒い。スタンドを使用した反動……?そんなものあるのか?
肉の芽?にんにくの芽的な感じ?あ、違うんだ……へー、ディオの能力。え、怖!?
どうやら花京院は額当たりにディオによって植え付けられた肉の芽とやらに操られているらしい。そのせいで兄を襲っただとか。しかもこのままだと彼は死ぬらしい。恐ろしすぎる。
祖父もアヴドゥルも打つ手なしと悔しそうな表情を浮かべている。若い命が失われていくことを止められない自分に無力を感じているのだろう。
仕方ないとしか言いようがない。ディオはとてつもなく強いみたいだし、これも彼の運命だったのだろう。せめて安らかに苦しまずに逝くことを祈ることしかできない。
……しかし、花京院か。何か引っ掛かりがあるというか。うーん。でも今日初めて会ったはずだしなあ。もしやと思って前世の朧げなジョジョ知識を振り返るも、違和感だけが残り特に彼についての知識は思い出せなかった。
うんうんと頭を悩ませていると、兄が花京院の肉の芽を摘んだ。
!?
ウワーッッ!!キモッ!!!
花京院の肉の芽は兄のスタンドによって摘出され、蛸のような足を引きちぎられ、ぶちりと音を立てて消えた。
割と受け付けないタイプの見た目だったため鳥肌が立ってしまった。妙な痒みが肌の表面を走り、慌てて擦る。絶対寝る時思い出して寝れない……。
というか、そんなこともできるのか、そのスタンド。外科医が欲しいスタンドNo.1なのでは……?
げに恐ろしや双子の兄。もしかして兄は最強なのかもしれない。