突然目の前に現れたラスボス。何故と思う間もなく私はDIOに首を掴まれ、宙に浮かされていた。
あーっ!困ります!困りますお客様!困ります!ほんと止めて!息できなくなっちゃう!困る!アッ、力強すぎ!!!無理!!!助けて兄貴!助けておじいちゃん!助けてアヴドゥル!助けて花京院!助けてポルナレフ!助けてイギー!!
「無様な姿だなァ?」
首を掴んで放さないDIOの手をなんとかはがそうと苦戦している私を見て、DIOはにやにやと笑みを浮かべていた。人が苦しんでいる姿を見て笑うなんて、性格が悪い。嗜虐趣味があるんだろう。ドブを煮込んで腐敗させたような野郎だ。
奴が存在する事自体が、世界にとって害になるだろう。そりゃあご先祖様もこの男を倒そうとするわけだ。まあ倒せ切っていなかったようだが。
「承太郎の顔が見ものだなァ!置いていった妹がこのDIOの糧となり、死んだと知ったときの!」
形容しがたい不思議な叫び声を上げながら、DIOが笑う。随分とハイになっている。文字通り手も足も出ない私に気を良くしたのか、DIOは祖父の祖父、つまり高祖父の悪口を散々喚き散らかし、自分が如何に優れているかを話し出した。
あんまり興味ないし、苦しいから放してほしいんだけど。
「だが、憎たらしいことにこの体はまだ未完成なのだ……この瞬間まではなァ!」
どうやらDIOが完全体になるにはジョースター家の血を摂取しなければいけないらしい。つまり、私か、兄か、母か、祖父の血が必要って事だ。
──それはつまり、私の死を意味する。
口端を裂き、嘲笑を浮かべる男を睨みつけ、口を開く。
恐らく私はここで死んでしまうだろう。この状況、どうしようもない。私に残された道はただ一つ、吸血されてジ・エンド。私の血を吸う事で目の前の男がパワーアップしてしまう事は甚だ遺憾だが、多分兄達ならどうにかしてくれる。きっと、いや絶対何とかなるはず!
このボケカス!人類悪!例え私の血ィ吸ったからって、兄達に勝てると思うなよ!吸血鬼だか何だか知らないが、けちょんけちょんのぼっこぼこにされるだけだからな!お前なんて兄達の爪の垢以下「気が変わった」……へ?
開き直って言いたい事を言いまくっていたら、首を掴んでいた力が緩んで離れた。宙に浮いていた私の体は成すすべなく床に落ち、べちゃりと音を立てた。
いってぇ!!何すんだこいつは!
「随分と兄を信頼しているらしい。見上げた兄妹愛だなあ?」
え、何急に。愛とか語るタイプ?似合わね~。
「決めたぞ女。お前の目の前に、お前が信じる兄の首を持ってきてやろう」
血を飲むのはそれからだ、と言い切ったDIOはこの世の邪悪を集めたような笑みを浮かべ、姿を消した。
は?
…………。
あ、兄貴達が危ない!?
慌てて立ち上がろうとして、バランスを崩す。再び床に熱烈なキスをしてしまった。
そうだった。足一本ねぇんだわ。
舌を打ち、両手を使って体を動かし、壁に背を預ける。転んだおかげで逆に冷静になる事ができた。
私が今、彼らの下に向かっても足手纏いにしかならない。気が変わったらしいDIOが更に気が変わって私の血を狙わないとも限らないし。ここで待っているのが一番いい、ということは百も承知なのだが。
先程のDIOの姿が頭から離れない。皆がDIOを倒す。そう信じているし、疑っていない。
だが。
兄達も無事ではいられないはずだ。別れる前に花を渡したから、一度なら負傷も問題ないだろうが、DIOとの戦闘が一回の負傷で終わるはずもない。
せめて、両足が揃っていれば──キモッ!?
視線を無くなった足へと移すと、そこには緑が広がっていた。フェンスに絡まる植物のように太ももが葉と茎に覆われている。その先を見ると、無くなった足の断面に続いている。突然床をぶち破って植物が生えるはずもなく、これは私自身のスタンドであることは理解できる。が、脚の断面からわさわさと植物の茎が生えている様子は衝撃的すぎた。おまけに、茎は私の太ももに巻き付き――いやこれなんか皮膚に埋もれてない?
血の気が引いた。自分の体が植物に寄生されているような光景は生理的な嫌悪を呼び起こす。私がドン引きしている間にも、植物はどんどん伸びていく。それと同時に、指先から力が抜けていく。それはまるで、私という栄養を吸って植物が育っているように思えた。
待って待って待って待って待って!!!
「こんなの聞いてな──っ!」
喉に何かが巻き付き、塞がれた感覚がすると同時に意識が暗転した。
「頼むよ、可愛い妹のお願いだ。聞いてくれたっていいだろ?」
口調こそ軽いものの承太郎と同じ緑の瞳の奥にはいつにない真剣さが宿っていた。何かに焦っていたようにも思える。
この場にいる誰もが、敵地で機動力の失った仲間を置いていくことの意味を理解していた。だからこそ、少女をこの場に置き去りにすることを受け入れることを誰一人として受け入れることはなかったが、少女の意志は固かった。無理矢理連れていけば、承太郎達の足手纏いにならないようにと自ら敵に身を差し出しかねない。
承太郎は少女の為人をよく知っている。母親の腹の中にいる頃からの付き合いだ。壁に背を預けて体を支える妹は、承太郎の視線から決して目を背けない。今、この時点で「分かったよ」と肩を竦めて折れる様子がない妹が、この場を譲る気がないことなどとっくに理解している。だが、承太郎も譲れなかった。
「……確かに一人でここに残ったら、私は死ぬかもしれない」
長い沈黙に焦れたのか、少女が口を開く。己の死について語っている割には静かな口調だった。
「でも、死なないかもしれない……だけど、母さんはこのままだと絶対死ぬよ。今は時間が惜しい。そうだろ?」
こうしている間にも母親の命は刻一刻と死へと向かっているのだと語る少女に、承太郎は肺の空気を空にしたような溜息を吐き、一言「ここでじっとしていろ」と呟いた。
「はーい。早く帰ってきてね、お兄ちゃん」
ひらひらと手を振る少女に承太郎達は後ろ髪をひかれながら、屋敷の奥へと進む。少女の存在によって、彼らのDIOへの闘志はより一層高まっていた。
久しぶりすぎて書き方忘れた