……知らない天井だあ。
なんか前もこんなことあったなと真っ白の天井を見つめる。また病院だろうか。
今度は一体何があったんだと記憶を探る。
ああ、そうだ。DIOの屋敷で足から植物がわさわさと生えてきて、それで急に意識がなくなったんだっけ。私が生きている、ということは兄達はDIOに勝ったのだろうか?いや、勝ったはずだ。もしDIOが兄達を始末していたとしたら、私がここにいる意味が分からない。
……DIOが生きてる、ってことないよね?
お前に絶望を云々かんぬんとか言っていたから可能性は、ある。いや、でもこんな手の込んだ事するのだろうか。気絶してる私の頬引っ叩いて、目を覚ました私の目の前に兄や祖父の首を雑に投げる、とかはしそうだが。
いや、ぬか喜びさせておいて、とかもあり得るか?
うーん、情報が欲しい。先程から上体を起こそうと腹に力を込めようとしているのだが、全く力が入らないのである。
誰かー、どうなったか教えてくれ~。
唯一動かせる首を揺らしていると、段々と気分が悪くなってきた。
自業自得でグロッキーになっていると、ばたばたと慌ただしい足音が響き、扉が開いた音がした。顔を上げてみると、目を見開いた白衣を着た男性と女性が立っていた。
「「なっ……!」」
二人は暫く立ち尽くした後、一人は倒れるようにこちらへと駆け寄り、一人は部屋の外へと走っていった。何だ何だ。
「い、意識は!?」
あるよ。目開いてるだろ。
「貴方は誰ですか!?」
空条ですが。
「わ、私は誰ですか!?」
それは知らんけども。
医師らしき男は気が動転しているようで、つんのめりながら私の側へと寄ってきた。落ち着け。
「信じられない……奇跡だ……」
男の目が潤む。ちなみに初対面である。目を覚ましたことに喜ばれるような関係性は築いていないはずだが。目尻を押さえる彼を見つめていると、先程部屋の外へと走っていった看護師らしき人が複数人を引き連れて戻ってきた。そのままベッドごとガラガラと動かされ、謎の機械に体を通されたり、医師による診察を受けたりして数時間が過ぎた。
終わる頃にはへとへとで、少し休もうと目を閉じたらあっという間に睡魔に飲まれてしまった。
次に目を覚ますと、霞がかった視界の中で聳え立つ銀髪が。
「目が覚めたのか~!良かったなあ~!」
この特徴的なシルエットはポルナレフである……何で?
「何だよ。俺じゃ不満ってか?」
ポルナレフは笑みから一転、口をへの字に曲げた。不満というわけではないが……こういうときって祖父とか兄とか身内がいるのではと思っていたから、意外というか何というか。
「悪かったな、見舞いに来たのが俺で!」
いやいや、嬉しいよ。来てくれてありがとね。不満そうな声を出すポルナレフをどうどうと宥める。ポルナレフの顔を見たおかげで元気百倍だ、と伝えると「管に繋がれてるくせに何言ってんだコイツ……」という顔をされた。
「というか、目を覚ますタイミングが最悪だぜ。あと一日早かったらなあ」
ぼやくポルナレフにどういう意味かと尋ねると、どうやら昨日、祖父と母、兄と花京院がこの病室に来ていたらしい。私がここから移動するわけでも無いし、まあそのうち会えるだろう。
「承太郎と花京院は暫く来れねえぞ。ホリィさんもな」
そうなの?忙しいんだ。
「アメリカと日本だからな。そう頻繁に行き来できるもんでもないだろうし」
ああ、アメリカと日本ね……アメリカと日本!?
私が寝ている間に母と兄と花京院はアメリカに住んでいたようだ。このエジプトの旅で海外に目覚めたのだろうか?
「何言ってんだ。アメリカにいるのはお前だぜ」
えっ。
詳しい話を聞こうと上体を起こす私を、ポルナレフは背に手を添えて支えてくれた。
DIOは承太郎が倒し、全員無事であること。DIOのスタンドは時を止める能力を持っていて、承太郎も時を止めたこと。DIOを倒してすぐ、母の容態が回復したこと。DIOに勝ったのはいいが、私が植物になっていたこと。大急ぎでSPW財団が経営する病院に運んだこと――ポルナレフの話を纏めるとこんな所だろう。
ちょっと何を言っているか分からない箇所もあったが、概ね理解できた──つまりDIOは倒したって事だ。
ふははは!私の言ったとおり、兄にギッタギタのメッタメタにされたようだな!
いやあ、良かった良かった。正義が邪悪を倒す。当然の結果だな。皆も無事なようで何よりである。意識がないから詳しくは分からないが、私も打倒DIOに一役買えたようだし。めでたしめでたし、だな。
「確かにお前のスタンドは俺たちを何度も救ってくれたが……あの時、屋敷で一体何があったんだ?」
何があった、とは。首を傾げる私にポルナレフの視線が刺さった。いつになく真剣な面持ちだ。
いや、別に何もなかったんだけどね?あの状態になった原因とか分からないし。
知らね〜、と肩をすくめる私にポルナレフは眉を寄せた。納得いってなさそうな顔だが、分からないものは分からない。
私よりスタンド有識者のアヴドゥル先生の方が知ってるのではないだろうか。
「アヴドゥルは、『精神が著しく乱れて不安定になったからスタンドが暴走したのではないか』とか言ってたけどな」
へー。そうなんだ。確かにあの時兄が勝つか、DIOが勝つかみたいなこと考えてたし、不安定になっていたと言えばそうなのかもしれない。
DIOに会って取り乱したのかもね、と呟いた私にポルナレフは瞳を伏せて、下唇を噛んだ。
どうしたんだ、そんな変な顔して。
「それだけ恐ろしい思いをしたって事だろ……」
悔しそうに顔を歪めるポルナレフに、思わず口が開いてしまう。そういう受け取り方をするのか。
「俺たちが、俺がもっと強ければそんな思いを……足だって……」
膝の上で拳を強く握るポルナレフの視線はシーツで隠れている左足へと注がれている。
そ、そんな気にするなよ……。むしろあの過酷な旅路で私の左足だけで済んだのだ。危ない場面だって何回かあったし、下手すると誰かが死んでいたかもしれない。命があったのだから何もそんな気にする事ないと思うが、彼らはそういう思考回路をしていなさそうだ。むしろ私が「気にするな」と言えば言うほど、気にするかもしれない。言い方を変えた方がいいのかも。
じゃあ、今度は私が怖い思いしないように守ってくれよ。
私の言葉にポルナレフは神妙な顔で「必ず」と頷いた。
よし、任せた。残った右足がなくならないよう、ポルナレフたちが守ってくれ。笑いながら軽口を飛ばすと、
「……お前、冗談でもジョースターさんと承太郎の前でそんな事言うんじゃあないぜ」
真顔で怒られた。すまんて。
体力が低下しているようで、目が覚めてもすぐに眠くなってしまう。
一日の殆どを眠ることに費やし、合間に起きるということを繰り返していると、徐々に目覚めている時間が長くなっていった。
入院生活は非常に暇である。寝過ぎて時間の感覚もなくなっている。一体何日間この病院にいるのやら。
「よお、元気か?」
ガラガラと扉を開けて、片手を上げたポルナレフが入ってきた。隣にはアヴドゥルもいる。
「……本当に目覚めているのだな」
「んだよ。信じてなかったのか?」
中々タイミングが合わないのか、今までポルナレフとしか会ったことがなかったのだが、今日はアヴドゥルもいるようだ。
久しぶり〜。元気そうだね。
「……ああ」
目を二、三度瞬かせた後、突然目頭を抑えたアヴドゥルは、暫くの間俯いていた。
泣くなよ。
アヴドゥルの隣へと視線を移すと、何故かポルナレフまで瞳を潤ませていた。何でだよ。
で、中々会う事が出来なかった祖父と母、兄と花京院に漸く会う事が出来た。
病室に入るなり、祖父がオロローンと泣き声を上げ始め、母が駆け寄ってくる。腕で顔を隠すようにして覆い、肩を震わせる祖父の背を花京院が摩り、躓いたのかよろめいた母の体を兄が支えた。
よっ。元気?
手を上げて四人に挨拶すると、母と祖父がその場に崩れ落ちるように泣き始めた。
「ごめんなさい……ありがとう……!」
「本当に馬鹿な子じゃ……!」
そんな勢いで泣いたら数分経たずに干からびちゃうぜ。祖父と、彼に負けず劣らず涙を流す母を宥めるも、中々泣き止まない。
困った。私は家族の涙に弱いんだ。こうも泣かれてしまうと参ってしまう。
助けて、の意味を込めて兄と花京院を見つめる。兄は素知らぬ顔で視線を逸らし、花京院は微笑ましげな表情を浮かべた。
どちらでもいいから助けてくれ。
祖父と母の号泣ターンが終わり、祖父はSPW財団の職員に呼ばれ、母は化粧直しに病室から出ていった。
体の水分全部出るんじゃないかってくらい泣いてたな……。
「ホリィさんも、ジョースターさんも君の事を大層心配していたから、仕方ないよ」
勿論僕達もね、と花京院が付け足す。おう、心配かけて悪かったな。
「君って本当に……」
呆れたように溜息を吐く花京院は何か言いたげな視線で私を見つめている。
何だよ。言いたい事あるなら言いなよ。
「なら言わせてもらうけど、一人置いてきた仲間が生きてるかどうかも分からない姿になっていて……それを見た僕達の気持ちを、考えたことはあるのかい?」
花京院はそう言いながら眉を僅かに吊り上げた。するすると法皇の緑が伸びてきて、私の頬を摘んだ。
……もしかして花京院さん、怒ってます?
そう尋ねると、花京院は何も言わずにこりと笑った。全然痛くはないが、頬を摘んだまま離そうとしない所を見るに、怒っているらしい。笑顔で怒る人が一番怖いのである。
ごめんて〜。許してくれ〜。
ぺこぺこと謝る様子を見せると、法皇の緑がすっと離れていく。
「全く、仕方ない人だな……」
チョロい!チョロすぎるぜ、花京院!
「……甘いぜ。こいつは表面上謝ってるだけでちっとも悪いなんて思っちゃいない」
兄が帽子の鍔を上げて、びしりと私を指した。よ、余計な事を言うんじゃない!
「花京院。しっかり痛い目見せないと、こいつは調子に乗るぜ」
あいでっ。
目にも留まらぬ速さで、額が熱を持つ。星の白金による高速デコピンである。私じゃなきゃ見逃してたな。
「俺は以前、お前に『次はあんな事するんじゃない』と言った。そして、お前は『反省してます。次はやりません』と言ったんだ」*1
言ったか?そんなこと。花京院に視線を向けると「言っていたよ」と頷かれる。言っていたようだ。
「それに俺は言ったぜ。DIOの屋敷で『ここでじっとしてろ』とな」
ああ、うん。それは覚えてる。
「お前はその二つとも、破ったんだ。これくらいで済んだことを感謝してほしいくらいだぜ」
だからって病人になんて事するんだ!鬼!悪魔!仏頂面!と騒ぎ立てると「喧しい!」と一喝される。
「二人とも、ここ病院だから……」
落ち着いて、という花京院の取りなしにより渋々引き下がる。兄のスタンドの姿も既に消えている。多分もうデコピンするつもりはないのだろう。
声を荒らげたせいか、息が切れる。疲れたため壁に背を預けると、睡魔がやってきた。
欠伸を噛み殺し、目を瞬かせる私に気づいた兄が「眠いのか」と尋ねてくる。頷くと、二人は顔を見合わせた。
「僕らはもう帰るよ。ゆっくり休んでくれ」
花京院が笑ってそう言った。
……おー、折角来てくれたのに悪いね。
「また来るよ」
花京院の言葉に返せないほどの眠気が襲ってくる。目も開けれぬまま、首を動かすことで二人を見送ることにした。
「……思ったよりも元気そうで良かった」
「騒がしいだけだろ。本当に病人か?」
「また君はそんな事を言って……でも本当に安心したよ。一年も寝ていたから、正直もう目覚めないかと……」
は?
眠気が吹っ飛ぶ。目を開き、体を起こした私を見て二人はぎょっと目を見開いた。
「どうしたんだい?」
花京院、もう一回今言ったことを言ってくれ。
「え?……もう目覚めないかと」
その前。
「安心したよ?」
惜しい。その後だ。
「一年も寝ていたから……?」
いちねん。一年と花京院は言った。一年とは365日のことである。365日は一年で、一年は365日だ。冬が過ぎて春が訪れて、夏、秋、そしてまた冬に戻ってきたということ。そんでもって、私は一年の間ぐーすか寝ていたのである。
それが意味することは一つ。
留 年 し て ん じ ゃ ね え か !
私の病室に響く大声に兄と花京院が耳を覆う。
「びっくりした……」
「……」
花京院の驚いた表情と、兄の迷惑そうな表情を他所に、私の中で怒りがふつふつと沸いてくる。
クソッ。DIOの野郎!人を留年させやがって……!許せないぜ!
「そこなのかい?」
何言ってるんだ花京院。学生、しかも高校生の留年はでかいぞ。「あの人、一個上らしいよ笑」「まじで?」とかヒソヒソ噂されてしまうわけだ。
……ゆ、許せねえよ、DIO!あの野郎!うら若き少女の一年を奪ったのは重いぞ!!留年させたことに、責任を、持てッ!!!
「そ、そんなに……」
私の勢いに後退りをする花京院の頬は引き攣っていた。おいおいと泣く私の大声は病室の外にも届いていたらしい。複数人の足音が聞こえ、祖父と母、医者と看護師が数人入ってきた。
「一体何があったんじゃ!?」
「バイタルに変化が……容態は!?」
途端に病室は騒がしくなった。看護師数名により、動くベッドでガラガラと院内を移動させられ始める。寝かしつけられたベッドの上でぎりぎりと歯を鳴らす。
もう……もう吸血鬼退治なんて、懲り懲りだ〜!!!
アイリスアウト好きなんですよね~ってことで第3部、完ッ!
3部以降は全く考えてないので書けたら書くのスタンスでいこうかなと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
矛盾とかあっても「こいつ矛盾してやがるガハハ間抜けめ~」で見逃してね(小声)