あ゛つ゛ぅい゛!!
ディオが差し向けてきた刺客ポルナレフと炎を操るアヴドゥルの一騎打ちが始まり、辺りはもうめちゃくちゃに温度が上がっていた。
少し離れて彼らの戦いを見ている私達でも分かるほどの温度の急上昇。炎というシンプルだが非常に強力な能力のはずだが、業火に囲まれているはずのポルナレフは涼しい顔をしている。その表情と彼のスタンドの凛々しさも相俟って、彼の周囲だけ温度が何度か下がっているように見えた。
よく見たら兄も祖父も花京院も涼し気な顔をしている。あれっ、汗かいてるの私だけ?
やはり筋肉か……?筋肉の差なのか?
鍛えた方がいいだろうか、と自分の体をちらりと見る。いや、筋肉付けて兄のように肩幅のお化けになったらどうする。兄だから違和感がないのであって私の肩幅が育ってしまったら、それこそ怪異である。
そんなことを考えている私を他所に、男二人による手に汗握る戦いが繰り広げられ、ついに、アヴドゥルがポルナレフを破った。炎に包まれるポルナレフは、アヴドゥルが渡した自決用の短剣を握り、アヴドゥルに向けて振りかぶろうとして、地面に置いた。目を閉じて地へと体をつけるポルナレフに、アヴドゥルが指を鳴らす。彼の体を包んでいた炎が消え、隣にいる兄の口角が上がった。
……ちょっと待て、今兄は口で「ニヤリ」と言ったか?驚愕に目を見張り、兄を見つめる私の視線に気づいたのか、兄がこちらを見下ろす。
「何だ」
いや……何でもない。ほら、肉の芽が待ってるよ。背を押すと、兄は不可解そうな視線を向けながらも、倒れているポルナレフの元へ歩いて行った。
兄は口でニヤリとか言うタイプだったらしい。意外とノリがいいようだ。意外な一面、新たな発見である。
まあともかく。
ポルナレフ が 仲間 に なった !
やはりポルナレフは味方だったんだ……!一戦見続けても彼が一体誰なのかは分からずじまいだったが、すぐに死ぬ敵とかではなかったらしい。良かった良かった。いや、今の状況が良いのか悪いのかは一切分からないが。しかし、ディオは相当な相手のようだし、仲間はいるだけいた方がいいだろう。
祖父に支えられ、気絶しているポルナレフの側へと近寄る。頭の花を取って彼に植え付けた。
よろしくな、ポルナレフ!頼りにしてるぜ!
***
「俺は運命ってのを信じてるんだ」
へー。意外とスピリチュアルなんだ。
「一目見た瞬間ビビっときちまったな」
初対面は肉の芽を植え付けられてたはずだけど。
「それに君は俺の傷を治してくれた!」
まあそういう能力のスタンドだからね。
「これこそ運命だろう!」
そうかなあ。
「おい……その男を黙らせろ」
船上のデッキチェアに寝そべっていたはずの兄が上体を起こした。
いや、無理だよ。だってこの人何も反応してないのにずっと喋り続けてるんだもの。
肉の芽を取り除かれたポルナレフは、非常にお喋りな質だったようで、先程からマシンガンのように口を動かしている。
よく回る口だなあ、とただ眺めていると兄も諦めたのか帽子を目深に被り、寝直した。
貸切のはずが一人、少年が密航したらしい。船員に首根っこを掴まれ、バタバタと暴れる少年は船員の腕を噛み、拘束から逃れて海へと飛び込んだ。
「ま、まずい……この辺は鮫が……!」
え!?危ないじゃん!
鮫の背鰭が海上からちらりと見える。あんな光景映画でしか見たことないが!?
どうするんだ、と皆であわあわしていると兄のスタンドが鮫に一撃を加え、少年の身はいつの間に海に飛び込んでいたのか兄が捕まえていた。
よ、良かった〜。スプラッタな光景を見ずに済んだ。人が鮫に食われるのは鮫映画だけでいいからね。
安堵に胸を撫で下ろしたのも束の間、鮫ではない何かが少年と兄に襲いかかる。花京院のスタンドにより難を逃れたものの、辺りには緊張感が漂った。
今のはどう考えてもスタンドである。兄を襲おうとした所を見るに、ディオが差し向けた刺客だろう。つまり、この近くに敵がいるというわけだが……。
全員の視線が密航したという少年──いや、少女に集まる。計十二の瞳に見つめられ、少女がたじろいだ。
「な、何だよっ!おれとやんのか!?」
両の拳を胸の前に掲げ、ファイティングポーズを取る少女は威嚇する子猫のようで、とてもじゃないがスタンド持ちには見えない。が、無力な少女を装って油断を誘うという敵の策略かもしれない。
うーん、困った。全然分からない。
他の五人に視線を向けると、皆、敵か無関係の人間かを判断しかねているようだった。警戒が含まれている視線に耐えかねたのか、少女は小さなナイフを取り出し「妖刀」と言い始めた。
妖刀て。刀ですらない。なんか、敵ではなさそうだ……。
花京院も同じ結論に至ったのかくすくすと笑っている。ナイフを構える少女に微笑ましげな視線が集まった。
張り詰めていた空気が穴の空いた風船のように萎んでいく。まあ大丈夫そうじゃない?みたいな空気が流れ始め、少女の背後に大きな影が現れたことによって、その空気は霧散した。
密航絶対許さないマンの船長は、厳しい表情で痛がる少女の腕を地下へと引っ張っていく。兄の側を通りすがら、咥えていた煙草を取り上げた。
再び緊迫した空気が流れ出すが、船長の言葉が正論すぎて何も言えない。何故この兄は堂々と未成年喫煙をしているのだろう。ここは海外ではあるが、兄は日本生まれ日本育ち。生まれたところのルールは守るべきである。
帽子の飾りで火を消された兄の周囲の温度が下がったように感じる。船長を引き留め、怒った様子の兄は、船長に向かってこのタコ、と暴言を吐き始めた。
お、おい……もうやめようぜ……。
祖父にも窘められるが、尚も兄は言葉を重ね、ついには船長がスタンド使いだと言い始めた。全員が驚愕に目を見張る。
「スタンド使いは、少しでも煙草の煙を吸うと……」
吸うと……?
「鼻の頭に血管が浮き出る」
な、何だってー!?
自身の鼻を触る。まさかそんな見分け方があるとは。天才的な発見では?これからの刺客がめちゃくちゃ見分けやすくなるじゃん。
「嘘だろ承太郎!」
「ああ、嘘だぜ」
……確かに血管が浮き出ているという感覚は一切なかったが。そうか、嘘か……。
兄が鎌をかけたことによって、ディオが差し向けたスタンド使いということが判明した船長は、少女を人質に海へと飛び込む──前に兄のスタンドによってぼこぼこにされ、一人海へと落ちていった。
案外呆気なかったな、と弛緩した空気が流れる仲、兄の様子がおかしいことに気づく。ずっと甲板に身を乗り出して、少女を中々引き上げないのである。
焦らしプレイ?危ないしやめた方がいいよ。
「ふざけてんのか……」
険しい顔で凄まれた。兄が言うには、腕が固まって引き上げることができない、らしい。
フジツボが少女を支えるスタープラチナの腕にびっしりと生え、花が枯れた。一目見て分かるほどの異常事態。それはつまり、
「奴はまだ生きて、承太郎を攻撃しておる!」
そういうことらしい。
引き摺り込まれそうになっている兄を支える祖父たちの横で、兄の腕の花が枯れる度に新たな花を植え付ける。なんかわんこそばみたいだね。
場違いにもそんなことを思いながら、せっせっと花を与えていると、
「
兄はついに海へと落ちていってしまった。
海の中はよく見えない。不自然な水流が渦を作っているが、船長と兄がどのような戦いを繰り広げているか、全く見当がつかないのである。
どうすることもできず甲板で唾を飲み込みながら海面を眺めていると、兄が海上に顔を出す。
皆の歓声が上がった。