雑談タイムに突入した直後。一之瀬のほうをチラッと見ると、すでに人集りができていた。
えっ、どゆこと?俺と同じタイミングで教室に入ってきたから誰とも話してなかったはずなのに、もう人気者になっている。
あれって、才能とかじゃなくて特殊能力の類いだろ。
「あの、ちょっといいか?」
「ん?」
紫髪の陽気そうな男子生徒が声をかけてきた。
「さっき星之宮先生に返事してた人だよな?」
「あぁ、そうだけど……」
「おっと、すまん。まずは自己紹介からだな。俺は
「わ、ァ……水瀬早手だ。よろしく」
わァ……ァ……渡辺だぁあ!一之瀬の親友になる網倉のことを好きになる渡辺くんだぁ!
Bクラスのムードメーカーなのは知ってたけど、まさかいきなり話しかけてくれるとは思わなかった。適切なアドバイスはできないかもしれないけど、網倉への恋の悩みとかあればいつでも相談してほしい!
「先生に元気よく返事してたから、なんか声掛けやすそうなやつがいるなーと思ったんだ。よければ少し話さないか?」
おぉ、星之宮先生のノリに合わせたお陰で話しかけにきてくれたのか。星之宮先生に感謝だな。
「もちろんだ。むしろ声を掛けてくれて助かったよ。ありがとな」
「礼はいらないぜ。俺も話し相手が欲しかったからな」
原作の印象の通り、渡辺は気さくで話しやすい生徒だった。さっそく良い友達ができた。順調な滑り出しだ。
それからしばらく渡辺と談笑していると、一之瀬がよく通る声で「ちょっと話を聞いてもらってもいいかな?」とみんなに声をかけた。
「せっかく時間があるから、みんなで自己紹介をしたいと思うんだけど、どうかな?」
そう言うと、先ほどまで一之瀬が談笑していた付近から「いいよ〜!」「やろやろ」という声が聞こえてくる。
すでにあの一帯は一之瀬が掌握済みらしい。
このペースなら1年くらいで日本を掌握できるんじゃないか?総理大臣も夢じゃないな。
「それじゃあ、まずは私からだね。一之瀬帆波って言います。中学では陸上部に入ってたけど、運動はあまり得意じゃないかな。特技は裁縫で、趣味はお菓子作りです。3年間よろしくねっ」
おぉ、トップバッターとして満点過ぎる自己紹介に自然と拍手が湧き起こった。
その後は、一之瀬の近くにいた生徒から順番に自己紹介が始まった。
一之瀬の親友になる
参謀的立ち位置で一之瀬を支えてくれる
説明が難しいほど攻めた髪色をしている
イベント豊富なDクラスに入れなくて少し残念に思っていたが、今はBクラスで本当に良かったと思っている。
むしろ、原作では描かれなかったBクラスの様子を見れるため、Dクラスじゃなくて逆に良かったかもしれない。
「最後は水瀬くんだね」
ホクホク顔でみんなの自己紹介を聞いていると、一之瀬が親しみを込めた視線を送りながらそう言ってきた。
教室に入ってきた時の俺と一之瀬の会話を聞いていなかったクラスメイトから、「知り合いなのか?」という疑問の混じった目で注目される。
その中でも、一之瀬ガチ恋勢である白波の視線は特に厳しい。
「えっと、俺は
そう言いながら教室を見回したが、ボムダムというワードに反応する生徒は見つけられなかった。
近日公開予定の劇場版『機動従士ボムダムSEED FREEDOM』について誰かと語りたかったのだが……残念だ。
Dクラスにいる本堂のように、ボムダムネタがわかる生徒はBクラスにいないのかも知れない。ちょっと寂しい。
「特技っていうほどじゃないけど、料理は好きです。えー、3年間よろしく」
言い終わるとみんなから盛大な拍手を送られた。温かいクラスだ。
一之瀬との関係も自己紹介で説明しようと思ったが、冷静に考えると中学が同じだっただけなので特に話す必要はないと思いやめた。
聞かれたら答える感じでいいだろう。
そう考えていると——
「私と水瀬くんは中学が一緒でね。水瀬くんは……私が一番信頼している人なんだっ。にゃはは……」
—— 頬を僅かに頬を赤らめた一之瀬が、教室に燃料をばら撒いた。
「信頼って……もしかして、そう言うこと?」
「確かに、お似合いかもっ」
「あんな可愛い子と、う、羨ましい……!」
女子達はキャーキャーと騒ぎ出し、男子の一部からは嫉妬にまみれた視線を向けられた。白波は女子だけど、当然ながら嫉妬側だ。
なぜこんなことに……まぁいいか。
この話題が収まるまで色々と大変そうだが、一之瀬が信頼してると言ってくれた嬉しさに比べれば何も問題はない。
話題が収まるまでに被る被害など、一之瀬の『信頼』の一言に比べれば無に等しい。
「み、水瀬、お前……あんな可愛い子と、マジか」
まずはすぐ側で驚愕している渡辺への説明からだな……と思っていたのだが、自己紹介後は一之瀬共々みんなから質問責めにあい、気が付けば入学式の時間となっていた。
入学式は……坂柳パパがイケおじだったこと以外に特筆すべきことはないため、割愛!
一通り敷地内の説明を受けた後。後日みんなでクラス会を開こうという話を一之瀬がしてから、予定通り昼前には解散となった。
◇
そして放課後。
付き合ってはいないと説明したのだが、「水瀬くんと帆波ちゃんの邪魔はできないから〜」という女子達の謎の気遣いによって、現在は一之瀬と二人きりでケヤキモールのお店を回っている。
「あの、自己紹介の時はごめんね。みんなから質問責めにあうとは思わなくて、付き合ってるなんて噂まで流れちゃって……」
「全然大丈夫だ。前にも言ったけど、むしろ光栄だよ」
「ホントに?水瀬くんは、私とそういう噂が流れても困らない?」
「ぜんっぜん困らない」
「そうなんだ……にゃはは、よかった~」
むしろ一之瀬が困らないか心配だと思っていると……一瞬、変な考えが頭をよぎった。
もしかして、この状況になることを見越して自己紹介の時に「信頼してる人」って言ったのか?あえて付き合っているような噂を流すために?
いや、考え過ぎだな。それはさすがに自意識過剰だ。
一之瀬は俺のことを好意的に思ってくれているようだけど、それはあくまで恩人に対する好意だと思う。
俺は綾小路のように思慮深く自制心の強い人間じゃない。本能のままやりたい事をして好き勝手生きているだけの人間だ。
原作で一之瀬が恋心を抱いた綾小路とは、真逆のタイプと言っていい。
「急に考え込んでどうしたの?」
「……いや、なんでもないよ。幸せだなーって思っただけだ」
「にゃっ!?」
顔を赤らめている一之瀬を見ながら、改めてこの幸せに浸る。
よう実の世界に転生して、大好きな一之瀬の隣を歩けている。それだけで、俺は今最高に幸せだ。
たとえこの先、別の誰かが一之瀬の隣を歩くことになっても……後悔はないと思う。たぶん。
ただ、めちゃくちゃ嫉妬はする。絶対する。ハンカチとか何枚も噛みちぎるだろう。
だからこそ、そんな未来が来るまで少しでも長く、少しでも近くで、一之瀬を支えようと心の中で誓った。
このクソ鈍感オリ主がぁ!