ようこそ一之瀬と過ごす夢のような日々へ   作:ざったなっつ

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14話「ブラコン/シスコン」

 

 

「水瀬早手くんはいるかしら?」

 

 そう言いながら襲来したのは、よう実のもう一人の主人公とも言われる黒髪美少女、堀北(ほりきた)鈴音(すずね)だ。

 ブラコンとクールとツンデレという3属性への適性を持ち、ストーリーが進むほどデレが増してどんどん新しい一面を見せてくるという強力な能力も有している。

 そのため、俺も最初の頃は「気難しい子だな〜」としか思っていなかったのに、いつの間にか好きなキャラの一人になっていたほど魅了された相手だ。

 ただ、前述した通りこの時期の堀北は気難しい。属性もクールとツンが強めで絡むのが難しいため、会話をする場合はこちらから仕掛けて主導権を握りたかった。

 しかし、Bクラスへの襲来という先手を打たれた時点でもう手遅れだ。今は素直に名乗り出るしかないだろう。

 

「水瀬は俺だ」

 

 もうどうにでもなれと思いながら手を挙げた。

 

「あなたが……」

 

 堀北が小声で何か呟いた気がしたけど、よく聞こえなかった。

 あと今更気付いたが、堀北の立っている位置から少し横にずれた場所。教室からは見えない絶妙な位置に綾小路の気配を感じる。一緒に来てたのか。

 

「水瀬くん、一緒に来てもらっても良いかしら?」

「うっす」

 

 準主人公の風格に圧倒されて思わず変な返事をしてしまったが、気を取り直して堀北の後を追う。

 

 余談だが、キャーキャー騒ぐ者や探るような視線を向ける者など、堀北襲来に対するクラスメイトの反応は様々だった。

 中でも、一之瀬が驚いた表情で俺と堀北の顔を交互に見ている姿は、申し訳ないけどちょっと可愛かった。以前テレビで見たミーアキャットを思い出す。

 

「水瀬と一緒に説明会へ行くと言ったら、なぜか堀北がBクラスに乗り込んでしまったんだ。止められなくてすまない」

 

 堀北を追って教室を出ると、綾小路が横に並びながらそう言ってきた。迷惑をかけたと思っているのか、どこか申し訳なさそうな表情をしている。

 

「迎えに行く手間が省けたから気にしなくていいよ。それより、俺は今からどこに連れて行かれるんだ?」

「それは、すまん。オレにも分からない」

「……カツアゲとかだったら、守ってね」

「善処する」

「そんなことをするわけないでしょ」

 

 俺と綾小路のコソコソ話が聞こえたのか、堀北が前を向いたままそう返してきた。

 変なことを言われ続けるのは嫌だと思ったのか、こちらに顔は向けず歩きながら説明を始める。

 

「あなたに少し聞きたいことがあったから、ひと気のないところまで付いて来てほしかっただけよ」

「聞きたいこと?」

「そうよ。もうここでいいわね」

 

 ひと気のない廊下の端で堀北が歩くのをやめた。

 

「あなた、堀北(ほりきた)という苗字に聞き覚えはあるかしら?」

「えっ?」

 

 もちろん前世から聞き覚えはあるけど、そういうことを聞いてるわけじゃないだろう。

 堀北のルビーのような赤い瞳を見つめながら、転生してからの記憶を漁る。

 

「……あなたは、小学生の時に合気道と空手を習っていたわよね?」

 

 見かねた堀北がヒントを出してくれた。

 堀北、合気道、空手……黒髪に赤い目?はぅあっ!お、思い出した!!

 

「その表情は、やっと思い出してくれたみたいね」

「あ、はい……」

 

 堀北のジト目を見ながら、薄れていた記憶を呼び起こす。

 

 遡ること約6年前。

 当時小学4年生だった俺は、複数の武道や武術や格闘技を並行して習っていた。

 その中でも特にお気に入りだったのが合気道と空手で、相手を傷つけずに制圧する方法や自らの精神を鍛える方法を学ぶ日々はとても楽しかった。

 そんなある日のこと。

 空手の師範にどうしても手合わせしてほしい相手がいると言われ、別の道場との交流試合に参加。

 俺の相手は歳が二個上の少年で、この世界では逆に珍しい黒色の髪とルビーのように赤い瞳を持っていた。

 すぐに試合を行ったが、その少年の実力には驚かされた。

 二個上どころか中学生相手にも苦戦したことはなかったのだが、合気道の技能も駆使するその少年との戦いは中々の接戦だった。

 結果的には勝てたが、あんなに熱い勝負は大人との試合以外で初めてだった。

 

 その少年とはそれっきりだったが、いつか機会があればまた試合をしたいと思っていた。

 その少年の苗字は——

 

「——堀北。小学4年生の時、空手の交流試合で戦った先輩の名前だ」

「正解よ。私はあなたが戦った相手の妹、堀北(ほりきた)鈴音(すずね)と言うわ」

 

 ということは、あの時の少年は現生徒会長の堀北(ほりきた)(まなぶ)先輩だったのか……全然気が付かなかった。

 

 なぜこんな重大な事実に気付かなかったんだと思われるかもしれないが、これには理由がある。

 あの頃の堀北先輩は今の姿からは想像もつかないほど可愛らしいショタだったし、メガネも掛けていなかった。それに、シンプル黒髪は前世で見慣れていたため、見た目の印象が他の子よりも薄かったのだ。

 加えて言えば、あの頃はまだここがよう実の世界だと知らなかったため、「堀北って、いい苗字だなぁ」くらいにしか思っていなかった。

 まさか、堀北先輩と会っていたことに今の今まで気付かなかったなんて……一生の不覚だ。

 

「あなたに聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「ポイントならまだ9万以上あるけど……」

「カツアゲではないと言ったはずよ」

「じょ、冗談です」

 

 これが準主人公の圧か。思わず敬語になってしまった。

 

「あなたに聞きたいのは、どうして空手を辞めてしまったのかということよ」

「えっ?辞めてしまった?」

「そうよ。あなたの存在を知ってから大会で何度も名前を探したけど、見つけることが出来なかったわ。どうして辞めてしまったの?」

「あぁ、なるほど……」

 

 空手だけでなく、他の武術に関しても公式の大会に参加したことは一度もない。

 その理由は、前世の経験と才能満載の肉体と裕福な家庭というあまりにも恵まれ過ぎた環境を得てしまい、公式大会で同年代と競い合うことに罪悪感を抱いていたためだ。

 それらの要素も実力の内だと言ってしまえばそれまでだが、どうしても割り切ることが出来なかった。そのため、公式大会には出ないと心に決めていたのだ。

 まさか、そのせいで辞めたと思われていたとは……空手や合気道を始めとした武術や武道の修練を辞めたつもりは全くなかったが、側から見たらそう思われても仕方ないか。

 

「辞めたつもりは一切ない。ただ、大会とかには興味がなかったから出てなかっただけだ」

「あら、そうだったのね。それなら今も修練は続けているのかしら?」

「たまにね」

 

 相手がいないので実戦はもちろん出来ないが、一人でできる修練は今でも続けている。普通に良い運動になるからな。

 

「それが聞けて良かったわ。時間を取らせたわね」

 

 堀北はそう言い残し、この場を去ろうとした。

 待て待て待て待てっ。

 

「堀北さん、ちょっとストップ」

「……何かしら?」

 

 それなりに言葉を交わしたはずなのに、他人を見るような目を向けられた。

 それは孤高じゃなくて孤独ですよ堀北さん。

 

「俺からも二つほど質問をしたい」

「……仕方ないわね。早くしてちょうだい」

 

 ツンツンしてるなぁ。まぁ、この堀北が見られるのは今だけだと思えばちょっと感慨深いけども。

 

「まず聞きたいのは、『それが聞けて良かったわ』の言葉の意味だ。まさかとは思うけど、どこかで襲撃してくるつもりじゃないよね?」

 

 さっきみたいに突然Bクラスに襲来して「勝負よ!」とか言われたらガチで困る。

 

「そんなつもりは微塵もないわ。ただ、あなたと手合わせする機会があれば全力で力を振るえると思っただけよ。修練を辞めた相手に本気は出せないもの」

「な、なるほど……」

 

 高育ならその機会はありそうだけど、できれば戦いたくないなぁ。

 勝ち負けはともかくとして、前世から好きだった相手を傷つける行為は普通に嫌だ。

 

「二つ目の質問だけど、部活動の説明会に興味はないか?良ければ一緒に聞きに行きたいんだけど……」

 

 俺の斜め後ろで気配を消していた綾小路にもチラッと視線を向けつつ、堀北にそう提案した。

 綾小路も頷いてくれたため、堀北が一緒に行くことに異論はないようだ。

 

「私は部活動に興味ないから、行かないわ」

「生徒会の説明もあると耳にしたんだけど……」

「少しだけなら聞くのもありかも知れないわね」

 

 食いつき早っ!ブラコン属性だけは今も未来も健在だな。なんか安心したよ。さすが堀北だ。

 

「そ、それじゃあ行きますか」

「そうね」

「行くか」

 

 主人公と準主人公に挟まれるという夢のような状況を堪能しながら、体育館へと歩みを進めた。

 

 そういえば、体育館に向かう途中で「水瀬は強いんだな」と綾小路から言われ、「全然ッスよ」と答えようとしたところ……「兄さんは全然強くない相手に負けたということかしら?」とでも言いたげな目で堀北から睨まれたため「最強です」と答えておいた。

 それでも、堀北には睨まれた。なぜだ。

 

「あっ……」

 

 無事に体育館へ到着した時、今更ながらとある事実に気が付いた。

 堀北が俺を覚えていたということは、兄である堀北先輩も俺の事を覚えている可能性が高い。というか、絶対覚えているだろう。

 

 だからどうということはないけど、説明会の最中は念のために気配を消しておくか。

 今はまだ南雲パイセンにちょっかいをかけるだけにしておきたい…………そう思っていた時期が私にもありました。

 

「——我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」

 

 演説を終えた堀北先輩が舞台を降りる時、こちらに視線を向けてフッと笑った。

 石ころモード発動中なのになぜ俺の位置が!?あ、隣に妹さんがいるからか。さすがは作中屈指のシスコンだ。面構えが違う。

 

「よう綾小路。お前も来てたんだな」

 

 気がつくと、綾小路が須藤と池と山内に絡まれていた。

 どうしよう、仲間に入りたい気持ちはあるけど、もう今日はお腹いっぱいだから帰ろうかな。

 

「紹介する。Bクラスの水瀬だ」

 

 フェードアウトしようか悩んでいると、綾小路が俺のことを紹介してくれた。

 結果。完全に帰るタイミングを逃した俺は、三人と連絡先を交換するほど仲良くなった。

 

 あっ、堀北と連絡先交換してない!

 そう気付いた時にはもう遅く、体育館に堀北の姿はなかった。

 

 

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