恥ずかしながら、合気道は試合を行わないと今更知りました。無知ですみません。
こちら、お詫びのスペースキャット橘先輩でございます。
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原作でも充分な数値だったBクラスのクラスポイント。
それが、なんということでしょう——
〜Before(原作)〜
Aクラス:940cp
Bクラス:650cp
Cクラス:490cp
Dクラス:0cp
〜After(現実)〜
Aクラス:960cp
Bクラス:900cp
Cクラス:550cp
Dクラス:50cp
——空間支配の匠である一之瀬の手によって、他クラスのクラスポイントまで見事な変貌を遂げてしまいました。
「小テスト満点の水瀬くーん。ちゃんと聞いてるのかな〜?」
「はいっ!聞いております!」
アホな事を考えながらぼけ〜っと現実逃避していると、ご機嫌な様子の星之宮先生に叱られてしまった。
今は先日行われた小テストの結果と中間テストの匂わせ説明をしてくれているのだが、説明の内容は全部知っているため聞いているフリをしながら考えを整理する。
まずは、Bクラスのクラスポイントが原作より増えている点か。
これは間違いなく一之瀬の行動によるものだろう。
水泳の授業があった日の放課後。一之瀬は自分の考えをクラスのみんなへ共有し、生活態度に気をつけるよう呼びかけ、Bクラスのグループメッセージでも定期的に注意を促していた。
原作の一之瀬も似たようなことをしていたのだろうと勝手に納得し、特に気にしてはいなかったのだが……結果はまさかの900cp残し。こんな凄まじい結果になるとは思わなかった。
明らかに原作の流れと違う。
次に考えるべきは、他クラスのクラスポイントも増えている点だ。
おそらくだが、これも一之瀬の行動によるものだろう。
Dクラスの櫛田とはよく遊んでいるし、Aクラスにも仲の良い女子ができたと前に話していた。その過程で生活態度に気をつけるよう助言していたとしてもおかしくはない。
Cクラスに関してはまだ交流できていないようだが、噂を聞いた龍園がクラスメイトに生活態度を改めさせたのかな?龍園ってそういうの抜かりなさそうだ。
ひとまず、今回の一件で一之瀬は確実に注目されるだろう。
他クラスのクラスポイントまで増えたという事は、一之瀬の名前も他クラスまで轟いているはずだ。
それが吉と出るか凶と出るかはわからないが、何か不幸が訪れるようなら全力で阻止しよう。
「それじゃあみんな、今日も一日がんばってねぇ〜」
星之宮先生が退室すると、一之瀬のもとにクラスメイトが集まって口々にお礼を言い出した。一之瀬の予想が的中してクラスポイントを900も残せた事にみんな感謝しているようだ。
これで一之瀬はこのクラスのリーダーとして完全に認められたな……って白波ぃ!お前何どさくさに紛れて抱きついてんだ!鼻の下伸びてるの見えてんぞ!!
「ん?」
心の中で白波にキレ散らかしていると、学生証端末にとある人物からメッセージが送られてきた。
『昼休みに生徒会室へ来てくれ。堀北学』
おおっ!ついに来た!
一之瀬の爆発的成長を促せるかも知れないとある可能性……そのキーマンたる堀北先輩からのお誘いメッセージだ!
実は、放課後に様々な部活で色々な人達と交流する中で、3年Aクラスの生徒には必ず声を掛けるようにしていた。そしてつい先日、間接的に堀北先輩と連絡先を交換する事に成功していたのである。
そろそろかなとは思っていたけど、クラスポイントの発表直後に連絡してくれるとは……タイミングが良いな。
「『畏まりました!(`・∀・´)ゞ』っと」
堀北先輩へ了承の返事を送った後。白波を引き剥がすために一之瀬のもとへ駆け寄った。
◇
待ちに待ったお昼休み!
俺は一人で生徒会室の前までやってきていた。
「すみませーん。水瀬早手です」
「……入れ」
堀北先輩の許可をもらい、おそるおそる入室すると——
「よく来たな」
——碇ゲンドウスタイルで椅子に腰掛ける堀北司令と、その隣に立つ橘副司令の姿があった。
うひゃ〜!美男美少女のこの二人の構図、やっぱり絵になるなぁ。
作中屈指のシスコンである堀北先輩と妹感溢れる橘先輩。タイプも性格も全然違う二人だけど、本当にお似合いだと思う。写真撮りたい。
「そこに座ってくれ」
「失礼します」
促されるまま二人に近い席へ腰を下ろすと、堀北先輩が妙な視線を向けてきた。俺を僅かに警戒しているようだ。
なぜだ?また俺何かやっちゃいました?
「もう知っていると思うが、改めて挨拶させてもらおう。生徒会長の堀北学だ」
「私は生徒会書記の
「1年Bクラスの水瀬早手です。えっと、堀北先輩とははじめましてではありませんよね?」
俺の言葉に、堀北先輩がピクリと反応する。
「ふっ……久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「えっ、お二人は知り合いだったのですか?」
「久しぶり」という言葉に驚いた橘先輩が疑問を口にした。
「俺がまだ小学生だった頃、水瀬と空手の練習試合を行ったことがある」
「そうだったのですね」
「その時は負けてしまったがな」
「ええっ!?」
橘先輩が化物を見るような目でこちらを見てきた。ちょっとショックだ……。
「まだ空手と合気道は続けているのか?」
「一応、修練は続けています」
「そうか。機会があれば是非とも手合わせ願いたいものだな」
「あはは、妹さんと同じことをおっしゃるんですね」
「……」
やべっ。盛大に地雷を踏み抜いた。
今の堀北先輩にはちょっと気まずい返答だったか……。
「……鈴音と交流があるのか?」
「一度話しただけです」
「そうか」
更に気まずくなってしまった。失敗失敗、話題を変えよう。
「ところで、俺はどうしてここに呼ばれたんですか?」
「少し気になることがあってな……単刀直入に聞くが、南雲雅とはどういう関係だ?」
「……なるほど、そういうことですか」
今の堀北先輩からの質問で俺を警戒している理由がわかった。
おそらく、入学2日目に俺が南雲パイセンに会いに行った事を堀北先輩は知っているのだろう。俺が南雲パイセン寄りの人間かどうか確認したいようだな。
「先に言っておきますが、俺は堀北先輩と南雲先輩のどちらの方針も否定しませんし賛同もしません」
「すでにそこまで把握しているのか」
堀北先輩が南雲パイセンの過激な方針を危険視している事はもちろん把握しておりますよ。前世からね!
「どちらの敵にもなるつもりはありません。ですが、南雲先輩の行動を牽制したいとは思っています。入学2日目に南雲先輩に会いに行ったのはそのためです」
「牽制、ですか……?」
橘先輩が小首を傾げているので正直に話すとする。
「まず、俺には好きな人がいます」
「知ってますよ。一之瀬帆波さんですよね」
「えっ!な、なんで知ってるんですか?」
橘先輩から詳しく話を聞くと、今年の首席合格者である一之瀬の事は生徒会も注目しており、事前に色々と調べていたらしい。
その過程で、俺が一之瀬と同じ中学校だった事や毎朝一緒に登校している事など、様々な情報を掴んでいるそうだ。
「もちろん、お二人が付き合っていることも知っていますよ」
「えっ、付き合ってませんよ?」
「えっ?」
あら、生徒会の情報網にも限界があるらしい。
訂正のため、想いは伝えあったけど付き合ってはいないという事実を簡潔に説明した。
「両想いなのに、付き合ってない……?」
橘先輩が
「話を戻しますけど……一之瀬は性格もルックスも最高な完全無欠の美少女です。そんな彼女の事を、面食い女たらし慢心王の南雲先輩が放っておくとは思えません」
「それが南雲を牽制したい理由か」
「そうです」
俺の想いは伝わったようで、堀北先輩の警戒心はいつの間にか消えていた。代わりにちょっと変なやつを見る目になったが、きっと気のせいだろう。
「それが南雲に近づいた理由ならば、問題は……なさそうだな」
ん?今ちょっと言い淀んでませんでした?俺は悪い人間じゃないよ?
「水瀬早手。急な提案で申し訳ないが、生徒会に入るつもりはないか?」
「生徒会ですか……」
「そうだ。お前にはその資格がある。お前が望むなら生徒会役員として歓迎しよう」
「……すみません。お断りします」
「えええっ?生徒会長からのお誘いを断るんですか!?」
地球に無事帰還した橘先輩が驚愕しながらツッコんでくれた。良いキャラだなぁ。場が明るくなる。
「生徒会に興味はないのか?」
「興味がないわけではないんですけど……俺が放課後に行っている活動のことは知ってますよね?」
「当然把握している。随分と手広く活動しているようだな」
俺が放課後に行っている活動とは、いくつかの部活動の
幼少期にその道のプロの方々から学んだ指導方法を活かし、練習メニューの作成や生徒の練習相手として様々な部活のお手伝いをしている。
たま〜に賭け試合などで生徒からポイントを巻き上げることもあるけど、基本的には時給5000ポイントという強気な条件で先生方から雇ってもらっている。
これが結構いい稼ぎになるため、まだまだ辞めるつもりはなかった。
「生徒会に入るとそれが続けられなくなるので嫌です」
「生徒会に入れば学校からの評価も上がりますし、色々とメリットも多いですよ?」
「それでもです。今後うちのクラスから退学者を出さないためにも、ポイントは稼げるだけ稼ぐつもりです」
どうせならAクラスで卒業したい気持ちもあるが、個人的には今のクラスメイト全員で無事に卒業したいという想いのほうが強い。この1ヶ月間Bクラスのみんなと過ごして、改めてその想いは強くなった。
「そもそも、俺を誘う理由はなんですか?他にも生徒会に相応しい人はたくさんいると思うんですけど……」
南雲パイセンの支配下に置かれない人材を探しているのだろうけど、俺以外にも適役はたくさんいると思う。
個人的には、大穴狙いでドラゴンボーイ龍園とかお薦めしたい。龍園ならそう簡単には南雲パイセンに懐柔されたりしないはずだ。
その他の面は問題だらけだけどな!
「理由はいくつかある」
堀北先輩はそう言いながら、俺を勧誘するに至った理由を教えてくれた。簡潔に説明すると、以下の3つが主な理由らしい。
まず1つ目は、入学2日目の時点でクラスポイントの仕組みを見抜いた洞察力とのことだ。
これは原作知識によるものなので素直に喜べない……一之瀬は原作知識なく気付いていたため、むしろそちらを褒めてあげてほしい。
2つ目は、先日行われた小テストで満点の結果を残すほど高い学力を有していること。
これも、小テストには高3までの数学の知識が必要な事をすでに知っていたため、素直に喜べない……。
そして3つ目は、雇われ指導員という立場を確立し、プライベートポイントを稼ぐシステムを構築した実行力を有していることだそうだ。
これに関しては裏で相当頑張ったため素直に嬉しい。先生方への交渉とかホント苦労した。
「言い忘れていたが、理由はもう1つある」
「なんですか?」
「入学試験の点数だ」
「あっ……」
俺の入試の点数は、国語77点、社会77点、理科77点、英語77点、数学77点という明らかにおかしい数値だと言われた。とりあえず、ケアレスミスはなかったようだ。
「意図的に揃えたな?」
「偶然って怖いっスね」
「偶然なわけがないだろう」
「すみません……」
チャンスだと思い綾小路と同じセリフを言い放ったが、凄い剣幕で訂正されたため即座に謝罪した。綾小路のようにはいかないな……。
「入学試験の結果から周囲に流されない我の強さが伺える。加えて、入学して間もない時期からここまで精力的に動く生徒など聞いたことすらない。それらの理由から生徒会役員としての資質は充分だと判断した。お前が望むなら副会長の座に就けても構わないとすら考えている」
「ちょっ、ちょちょ!?会長!前代未聞ですよ!1年の子がこの時期からいきなり副会長なんて!」
「お断りします」
「しかもそれを断ってるし!!」
副会長に就任して南雲パイセンにドヤ顔決めるのも面白そうだけど、今はプライベートポイント稼ぎに勤しみたいのでお断りだ。
にしても、橘先輩は本当に良いキャラだなぁ。堀北先輩が側に置く気持ちも分かる。
「そうか……考えが変わった時はいつでも歓迎しよう。それ以外でも生徒会には気軽に訪ねてくるといい。お茶くらいは出そう」
「ありがとうございます。暇な時は遠慮なく遊びに来させていただきます」
いつでも訪ねていいというお誘いはめちゃくちゃありがたい。
一之瀬がもし生徒会に入れたら、生徒会業務を頑張る一之瀬の姿を目に焼き付けに来るとしよう。
「時間をとらせて悪かったな。食堂で一緒に昼食でもどうだ。お詫びも兼ねて好きなものを奢ろう」
お詫びの意味もあるだろうけど、一番の理由は俺が堀北先輩寄りの生徒だと知らしめて南雲パイセンの注意を俺にも向けさせることだろうな。
だが——
「行きやす!」
——むしろ望むところなの喜んでご一緒させてもらう!
この二人と一緒に昼食が摂れるなら、南雲パイセンに注目されることなど取るに足らない問題だ。
◇
堀北先輩と橘先輩の後に続いて食堂に入ると、予想通り物凄い数の視線に晒された。
生徒会長とスペースキャットが連れている生徒は誰なのかと、探るような視線を四方八方から向けられる。
あ、一之瀬だ。
食堂を見回すと、櫛田を中心としたDクラスの女子達と一緒にお昼を食べてる一之瀬を見つけた。
あちらも俺の存在に気付いたようで、目を見開きながらこちらを見ている。とりあえず、笑顔で手を振っておいた。
「あれが一之瀬さんですか。あんなに可愛い子と両想いなんて、水瀬くんは隅に置けませんね〜」
橘先輩がニヤニヤしながらそう言ってきたが、訂正箇所があるので添削する。
「橘先輩。可愛い子ではなく、
「揶揄うつもりだったのに真顔で惚気られた!」
その後も橘先輩とわちゃわちゃ談笑していると、一之瀬の視線が鋭くなった気がした。
い、今のは俺が良くなかったな。自重しよう……。
「水瀬はどれにする」
「う〜ん……山菜定食以外はほとんど頼んだ事がないので、堀北先輩と同じやつでお願いします」
「ええっ!あんなに稼いでいるのに山菜定食ばかり食べているんですか!?」
「節約してますので」
3回に1回くらいしか普通のものを頼んでいないため、まだ7種類くらいしかまともな定食は食べていない。全種類コンプリートまで道は長そうだ。
「それならスペシャル定食にするか」
「そ、そんなに高いものを奢ってもらっていいんですか?」
「構わない」
「ありがとうございます!」
ありがたやありがたや。今度生徒会にお邪魔した時は肩とかお揉みさせていただきやす。
「橘は何にする」
「私は自分で買うので大丈夫ですよ?」
「ついでだ。遠慮なく好きなものを選ぶといい」
「えっ!あ、ありがとうございます。それでは、オムライスでお願いします」
オムライスて、可愛いチョイスだ。美味しいよねオムライス。旗とか刺さってたら橘先輩に益々似合う気がする。
「水瀬くん、何か失礼な事を考えていませんか?」
「い、いえ。オムライスも良いな〜と思っただけです」
「オムライスのほうがよかったか?」
「い、いえ。スペシャル定食最高です」
橘先輩にジト目を向けられながら待つこと数分。全員分の料理はすぐに出来上がった。
そのまま席を探すために歩き出すと——
「堀北会長〜。こっちの席空いてるッスよ」
——食堂の隅にある4人席に、ソフトドリンクを片手に持つ南雲パイセンが一人で座っていた。