堀北会長、橘書記、南雲副会長、見知らぬモブ。
そんな4人が座っている席が注目されないはずなどなく、隅っこの目立たない席なのに食堂の中で一番目立つという矛盾した状況が生まれていた。
「あの子誰だろ?」
「生徒会の新しい子なんじゃない?」
「南雲くんの隣に座れるとか、羨まし〜」
周囲の席ではすでに色々言われ始めているため、変な噂が立つのも時間の問題だろう。
今から石ころモードを発動してアサシンになっても……意味ないな。隣にいる慢心王が目立ち過ぎて世界と同化できない。
「堀北会長がスペシャル定食なんて珍しいっスね」
そんな事を考えていると、南雲パイセンがニヤニヤしながら堀北先輩に話しかけた。
「いつもは蕎麦か焼き魚定食じゃなかったでしたっけ?揚げ物なら天ぷら派ッスよね?」
キッショ、なんでわかるんだよ。
堀北先輩がいつも食べてるものまで把握してるとか、俺の魂がパイセンを否定してるわ。
でも、何故か敗北感を感じる。俺も一之瀬が食べてるもの覚えようかな……。
「お前こそ一人でいるなんて珍しいな。今日は友人と一緒ではなかったのか?」
「たまには一人でいたい時もあるんスよ」
南雲パイセンが飄々とした態度でそう言ったが、そんなわけないだろと思う。
どうせ、堀北先輩が食堂に来る事を見越して席空けといたとかそんな感じでしょうに。そのお陰で座れたから感謝しかないけどね。
「おっと、自己紹介がまだだったな。生徒会副会長を務めてる2年Aクラスの南雲雅だ」
「1年Bクラスの水瀬早手です。よろしくお願いします」
「はっ、やっぱりお前が水瀬か。会いたかったぜ」
「自分もです。お会いできて光栄です」
海老フライを口いっぱいに頬張りながらそう返した。
南雲パイセンには以前呼び出された事があったが、その時は伝令役の先輩を介してだったため直接顔を合わせたのは今回が初めてだ。
それにしても、似てるなぁ……前世から似てるとは思っていたが、間近で見て実際に話してみるとマジで似ている。
「なんだ?俺の顔に何か付いてるか?」
「い、いえ、何も付いてないです。その、南雲先輩にちょっとお願いしたい事があって見ていたと言いますか……」
「なんだ?」
どうしても見てみたいため、失礼を承知の上でお願いしてみる。
「腕を組みながら『
「……断る」
んだよ!ケチ!慢心王!ギルガメッシュ!せっかく似てるのに勿体ない!
やっぱり、この時期の南雲パイセンは気難しい人のようだ。
「それは何かのアニメのネタですか?」
「Fateという作品のネタです。実力主義のこの学校ならそういった知識を活かせる機会もあると思い、日々勉強しております」
「そ、そうですか……」
橘先輩に疑いの目を向けられたが、一応嘘ではない。
機動従士ボムダムのようにアニメ等のネタが特別試験の問題として出てくる事もあるため、こういった知識を活かす場は必ず訪れるはずだ。
ま、99%は趣味なんですけどね!
「そういった知識もお前の行動力の理由なのか?」
「その通りです」
堀北先輩は中々鋭いな。
前世で一番好きだったよう実の世界を楽しみたいという気持ちが俺の原動力だし、前世から好きだった一之瀬のためになる事が俺の行動方針だ。
そう考えると、俺のオタク魂が行動力の理由というのはあながち間違いじゃない。
「おすすめのアニメとか教えましょうか?」
「遠慮しておく」
普通に断られた。
是非とも見て欲しい妹アニメがあったのだが、残念だ。
「そういや水瀬。お前に聞きたい事があった」
「なんですか?」
南雲パイセンの目を見ながら浅漬けをバリバリ咀嚼する。
「入学2日目に俺のところへ訪ねてきた理由はなんだ?」
「あ、それは……」
「朝比奈先輩とお話しする事が真の目的でした!」とは口が裂けても言えないので、朝比奈先輩に話した理由と同じ説明をする。
「……2年生に凄い(慢心王に似てる)人がいると耳にしたので、どんな人なのか気になってお話ししてみたかっただけです」
「本当か?」
「ほ、本当です」
「その割には2日目以降一度も会いに来なかったな」
「その、色々忙しくて……」
「言ってくれれば休日でも時間を作ってやったぜ?」
「へ、平日の疲れで休日は基本寝てまして……」
「一之瀬とかいう女子生徒と、休日はよく一緒にいると聞いたぞ?」
「こ、これまで一度も、女性の呼び出しを拒否した事はないので……(※2年生編11巻の南雲パイセンのセリフのパクリです)」
た、たすけてぇええええ!!
心の中でそう叫びながら堀北先輩に目を向けると、こちらを一瞥もせず、橘先輩の食べるペースに合わせて揚げ物をゆっくり咀嚼していた。
なんだその優しさ!イケメンだ!橘先輩に向けるその優しさを1%でもいいからこちらに向けて欲しい。
「これぐらいにしといてやるか」
それからも数分ほどネチネチ責め続けてきた南雲パイセンだったが、満足したのか堀北先輩に視線を戻した。
疲れた。もう帰りたい……。
「堀北先輩はこいつを生徒会に入れるつもりなんスか?」
「そのつもりだったが、先程断られた」
「えっ、こいつ断ったんスか?」
南雲パイセンが信じられないものを見る目を向けてきた。
す、すんません、断ったッス。
「堀北会長はこいつのどこを気に入ったんスか?」
「この1ヶ月間の水瀬の実績から、生徒会に入る資格は充分あると判断しただけだ。お前も知っているだろう」
「まぁ、知ってますけど……」
南雲パイセンが再び厳しい目を向けてきた。
ヤヴァイ、このままだと第二ラウンドが始まる……そう思った俺は話題を変えるため、機会があれば聞こうと思っていたある質問をしてみる事にした。
「あの〜、生徒会の皆さんにお聞きしたいことがあるんですけど……」
「なんだ?」
「なんですか?」
「生徒会広報担当に、
前世の世界でよう実の生徒会広報担当に任命され、一之瀬との激かわスペシャルコラボポスターも作られていた大人気Vtuber、湊あくあ(通称:あくたん)。
可能性は低いと思っているが、この世界の生徒会にあくたんが何らかの形で関わっていないか、機会があれば調べてみようとずっと思っていたのだ。
「俺は聞いたことがないな。過去の生徒会役員にもそのような名前の生徒はいなかったはずだ。そもそも、生徒会に広報担当という役職はない。橘と南雲は何か知っているか?」
「私も聞いた事はないですね」
「俺も知らないッス」
「そうなんですね……すみません。勘違いだったみたいです」
湊あくあというVtuberはこの世界にも存在している。
声も性格もトーク力も所属事務所も、この世界のあくたんは前世で見たあくたんと変わらない存在だった。
そのため、前世の世界でコラボしていた影響を受けて、あくたんがなんらかの形で高育の生徒会に関わっている可能性もあると思っていたのだが……そんな事はさすがにないようだ。
この世界のベースは基本原作だが、漫画やアニメの設定を垣間見る事もある。しかし、コラボ関連の設定はさすがに反映されてないらしい。
この様子なら、ゲーム関連のコラボキャラが突然現れるなんてこともなさそうだな。
「橘も水瀬も食べ終わったようだな。そろそろお開きとしよう」
その後は当たり障りのない雑談に興じ、橘先輩と南雲パイセンとも連絡先を交換してお開きとなった。
同学年だけでなく他学年からも注目を浴びる事が確定してしまったが、このドリームメンバーと一緒に昼食が摂れたのでなんの問題もない。
いやはや、とても運が良かった。今日の
◇
時は進んで夕食後。
少し相談したい事があると言われたため、俺は一之瀬を自室に招いていた。
「こんな時間に訪ねちゃってごめんね」
「全然だよ。一之瀬ならいつでも大歓迎だ」
挨拶を終えると、私服姿の一之瀬が慣れた様子で部屋に上がってくる。
実は、一之瀬を部屋に呼ぶのは初めてではない。むしろ、週に3日くらいのペースでお互いの部屋にお邪魔し合い、時には夕食も一緒に摂っている。
そして、両思いの男女、密室、二人っきり。そんな状況で何も起きないはずがなく……時間がある日は二人で滅茶苦茶勉強している。
おかげで、中間テストは過去問がなくても満点取れそうな勢いですよホント。
「お邪魔しま〜す……にゃ?」
部屋の中を見た一之瀬が、本棚の上に設置されている
「お酒の瓶と、カッパの絵?」
「あ、この前設置したばかりだから、一之瀬にはまだ見せた事がなかったな」
神棚に設置されているシャトー・ラトゥール(高級ワイン)のボトルのイラストと、赤いマフラーを首に巻いた可愛いカッパのイラスト。
これは、俺が信仰する二柱の神。
非常に残念な事に、この世界にお二方は存在していない。そのため、
「どうして神棚にこの絵を飾っているのかな?」
「それは——」
「俺が信仰している神の
「——俺が信k……尊敬している作家さんとイラストレーターさんのアイコンなんだ。だから、敬意を表してちょっと仰々しく飾ってるんだよ。拝むときっと良い事があるぞ」
「へ〜、そうなんだ。それじゃあ拝ませてもらおっかな」
一之瀬がそう言いながら神棚に向かって手を合わせた。
な、なんか、神棚がいつもより神々しい気がする……一之瀬が神々しいからそう見えるだけか?
「そういえば、相談したい事ってなんだ?」
「実はね……」
一之瀬が相談したい事とは、クラス全体でのプライベートポイントの貯蓄方法と委員長等の役職作りについてだった。
原作におけるBクラスでは、一之瀬が金庫番としてクラスメイトのプライベートポイントを預かったり、他クラスにはない委員長等の役職を割り振ってクラスメイトの連携を高めたりしていた。
どうやら、一之瀬も原作と同じ方針を思いついたらしいな。
「どちらのやり方も大賛成だ。Bクラスの全員で話し合う必要はあるけど、どちらも良い案だと思うぞ」
「にゃはは、水瀬くんにそう言ってもらえると自信がつくよ〜」
それからしばらく、毎月貯めるポイントの量や作る役職について話し合った後。もう一つ相談したい事があると言い、一之瀬が話題を切り替えた。
「相談の前に聞いておきたいんだけど、水瀬くんは生徒会に入るつもりなの?」
「入らないよ」
「入らないの!?」
どうやら、昼の光景を見て俺が生徒会に入ると勘違いしたらしい。
まぁ、あの光景を見たらそう思うのも無理ないか……。
「あれは偶然一緒に食べてただけなんだ」
「にゃっ!?偶然で生徒会の人達と一緒にお昼を食べる事なんてあるの!?」
「……あるよ」
実際にあったので嘘ではない。
「そ、そっかそっか。とりあえず、水瀬くんは生徒会に入らないんだね……」
一之瀬が少し残念そうな表情を見せた後、話を続けた。
「実は私、生徒会に入りたいと思ってるの。明日にでも星之宮先生に相談して、近々生徒会の面接を受けるつもりなんだ」
「そうなのか……」
良い経験になるだろうから、一之瀬が生徒会を目指すのは喜ばしい事だ。
しかし、一つ懸念がある。
「ちょっと聞きたいんだけど、一之瀬は生徒会で目標にしたい人とかいたりするのか?」
「にゃ、にゃはは、水瀬くんにはお見通しなんだね。実は……今日水瀬くんと一緒にいた南雲先輩を目標にしようと思ってるの」
にゃ、にゃんだと……?
「南雲先輩は最初Bクラスの配属だったんだけど、すぐAクラスに上がって特別試験でもずっと勝ち続けてるって仲良くなった2年生の先輩から聞いてね。それで、目標にしようと思ったの」
「仲良くなった2年生の先輩……?」
詳しく聞くと、数日前に食堂で昼食を摂っていた時。2年Aクラスの女子生徒が話しかけてきて南雲パイセンの事を色々と教えてくれたらしい。
その女子生徒の名前は聞いた事のない人だったが、状況とタイミングから考えて100億%南雲パイセンが送り込んだ人間で間違いないだろう。
あの野郎、一之瀬を手に入れるために裏でもう動き出してやがったのか!
「あ、もちろん南雲先輩の事はなんとも思ってないよ!私が好きな人はこれからもずっと一人だけだから……」
「お、おっふ……」
突然の告白に、南雲パイセンへの怒りが一瞬で消し飛んだ。むしろ、パイセンのお陰で一之瀬の想いを再び聞けたため、感謝の念すら生まれている。
だが、それはそれ、これはこれだぁ!
南雲パイセンが一之瀬を手に入れるために画策し始めている事実を見過ごす事はできない。
一之瀬が南雲パイセンに靡くとはこれっぽっちも思ってないけど、二人が仲良くしてる姿とか見てしまったら……脳が破壊されてしまう。
俺にNTR属性はないため、南雲パイセンの行動は脳に悪いのだ。
こうなったら、一之瀬と南雲パイセンの距離を空けるためにも、俺の脳を守るためにも、以前から計画していた
原作の流れが大きく変わってしまう可能性は高いが……正直もう今更だ。
クラスポイントが原作と違う数値だった時点で流れが変わる事はもう避けられない。今更それを実行したところで、その事実は変わらないはずだ。
そう開き直った俺は、
「一之瀬、提案というかアドバイスみたいなものなんだが……」
「なにかな?」
「南雲先輩じゃなくて、
「にゃ?堀北先輩を……?」
前世から考えていた
それは、『一之瀬が南雲パイセンではなく、堀北先輩を目標にしていたらどうなっていたのだろう……?』というものだ。
原作の1年生編8巻で判明した事実だが、堀北先輩は自らを犠牲にしてでも仲間を守ろうと考える聖人キャラだった。
つまり、性格も言動も見た目も全然違うが、一之瀬は堀北先輩と似たタイプなのだ。ついでに言えば、どちらも作中屈指のシスコンだしな。
話を戻すが……これらの事実から、一之瀬が堀北先輩を目標にしてそのノウハウや考え方を学んでいれば、早い段階で作中トップクラスの強キャラになっていた可能性も充分にあると俺は思っている。
そんなことを考えていると、一之瀬が小首を傾げながら疑問を口にした。
「水瀬くんは、どうして堀北先輩を目標にしたほうが良いと思ったのかな?」
「それは……勘、かな」
「原作知識を元にした推測です」とは言えないため、苦しい理由になってしまった。
さすがに、こんな理由じゃ目標を堀北先輩に変えるのは難しいか……。
「わかった。そしたら、南雲先輩じゃなくて堀北先輩を目標にがんばってみるね!」
「えっ……ただの勘なのに、いいのか?」
「もちろんだよ。水瀬くんが私のためを思って言ってくれてるのはわかるから、理由がなくても水瀬くんのアドバイスはちゃんと聞くつもりだよ?」
「一之瀬……」
一之瀬の信頼がヤヴァイ!嬉しすぎてもう卒倒しそうだ。
まだ生徒会に入れるか分からない段階だが、微力ながら全力でサポートさせていただきます!
「でも、ちょっとだけ残念だったかな〜」
改めて決意を固めていると、一之瀬が口を尖らせながら拗ねるようにそう呟いた。
「ん?何が残念なんだ?」
そう聞くと、一之瀬は悪戯な笑みを浮かべながら口を開く。
「南雲先輩に嫉妬したっていう理由じゃなくて残念だったな〜って思っちゃった」
「ごふっ……」
想定外の一撃で意識が消し飛びそうになるが、一之瀬は尚も追撃をやめない。
「水瀬くんが橘先輩と楽しそうにお話ししてた時。私はちょっと嫉妬しちゃったんだけどな〜」
「そ、それは……」
言い訳をしようと一之瀬の顔を見ると、慣れないセリフを言ったせいか耳まで真っ赤にしながらモジモジしていた。
「がはっ……!」
こ、これが恋の呼吸・一之瀬ノ型『水瀬斬り』か……可愛すぎて反撃の隙がねぇ。
全集中でなんとか気絶せずに済んだが、もう一之瀬の顔は見れない。今一之瀬の真っ赤な照れ顔を見たら、確実に気絶する!
「えっと、そそそ、そろそろお暇しよっかな」
「あ、おおお、送るよ」
もう遅い時間のため、顔が真っ赤になった一之瀬を顔を真っ赤にしながらエレベーターの前まで送り届けた。
男子は午後8時以降に女子エリアへ侵入してはいけないため、ご一緒できるのはここまでだ。
「ま、また明日ね!」
「お、おう。また明日な!」
天上へ帰る一之瀬を見送った後、自室に戻った俺は布団に包まりながらしばらく悶え続けた。
◇
それからしばらくして。
悶え終わったあと一之瀬の残り香を感じながら気持ち悪い笑みを浮かべていると、学生証端末に1通のメッセージが届いた。
『昼に言っていたみなとあくあとは何者だ?教えろ。南雲雅』
まさかの南雲パイセンからの連絡。
そして、まさか南雲パイセンがそんな事を聞いてくるとは……お昼に俺が質問したせいで、あくたんについて気になってしまったのかな?
調べればすぐ分かる事なので普通に教えても良いが、何の対価もなくというのは癪なので交換条件を提示する。
『小テストの過去問と中間テストの過去問を2年分いただけるなら……|ω・`)チラッ』
すると、『さっさと教えろ』というメッセージと共に、2年分の過去問のデータが送られてきた。まさかの収穫に頬が緩む。
これは、布教活動も兼ねてしっかりと教えてやらねば!
心の中で気合を入れた俺は、あくたんのプロフィールや
それ以降返信はなかったが、きっと今頃はあくたんの動画を楽しんでいるのだろう。
お互いにWin-Winの取引ができて良かった。今夜はぐっすり眠れそうだ。
よう実×湊あくあスペシャルコラボポスター最高なので、見た事ない人は是非とも画像検索してみて欲しいです。