ようこそ一之瀬と過ごす夢のような日々へ   作:ざったなっつ

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2話「よう実の世界に転生していたとは……」

 

 

 実は、この世界がおかしいと思ったことは何度もある。

 美形な人や奇抜な髪色の人が多かったり、前世の俺の情報が一切見つからなかったり、よう実(ようこそ実力至上主義の教室へ)という作品自体が存在しなかったりと、疑問を感じることは多かった。

 そのため、前世の世界に限りなく近い異世界に転生したと勝手に納得していたのだが……まさか、よう実の世界に転生していたとは思わなかった。

 

 一之瀬に会えた感動で気絶するという醜態を晒した日の夜。

 病室で目を覚ました俺は即座にスマートフォンを開き、この世界の情報を集めた。すると、よう実の舞台である『高度育成高等学校』の名前はすぐに見つかった。

 というか、今までその存在に気が付かなかったなんて……よう実ファンとして一生の不覚だ。

 

 そして、転入してから1週間が経った現在。

 改めてこの世界に暮らすよう実のキャラクター達の事を考えていた。

 一之瀬に会えただけでも非常に満足ではあるが、欲を言えば他のキャラクターにも是非ともお会いしたい。

 親の権力を使えば高育(高度育成高等学校)への入学ば問題ないため、会おうと思えば簡単に会える。

 

 しかし、その行動には大きな懸念があった。

 

 それは、俺が高育に入学してしまったら、ストーリーが変わる可能性があるという事だ。

 俺が入学するということは、代わりに誰かが落ちる事を意味する。それがもしメインキャラクターの誰かなら、ガチでヤバい。大好きなよう実のストーリーが大きく変わってしまう。

 

 でも……せっかくよう実の世界に転生したのだから、挿絵や漫画やアニメで何度も見たキャラクター達に一目でもいいから会ってみたい。欲を言えば、一緒に学生生活を謳歌してみたい!そんな激しい衝動に日々悩まされている。

 

 

 もちろん、入学する以外にもキャラクター達に会う方法はある。

 校門前で卒業してくるキャラクター達を待ち伏せしたり、2年生編の文化祭の来賓に紛れ込んだり、修学旅行のタイミングで札幌に先回りするといった手だ。だが、それらの方法はタイミングがシビアだ。外せない用事が重なってしまえば機会を失う。

 

 そうなると、よう実キャラのお姿を拝むためには高育に入学するという方法が最も確実と言える。そして、入学後はストーリーに影響を与えないようモブキャラとして静かに生きるのがベストだ。

 

 念のため、転入した中学では一之瀬に影響を与えないよう静かに過ごしている。

 幸運なことに、転入時に配属されたクラスは一之瀬のいるクラスだったが……下手に干渉してストーリーに影響が出てしまわないよう接触は最小限に留め、目立たないようテストの点は平均より少し下を狙い続け、体育でも平均より少し下の記録を維持し続けるという徹底したモブキャラムーブを続けていた。

 加えて、転入時に開いてくれた歓迎会も用事があると言って断り、遊びの誘いも断り続け、事務連絡やあいさつ以外の言葉はあまり話さないようにもしている。

 モブキャラというよりノリの悪い嫌なやつになっている気もしないでもないが……これもよう実のストーリーに影響を与えないためだ!

 そう自分に言い聞かせながら、心を鬼にして日々耐えている。

 

 それにしても、歓迎会を断った時の一之瀬の悲しそうな表情といったら……思い出すだけで胸が締め付けられる。あの日は食事が喉を通らなかった。

 そういえば、最近の一之瀬は少し元気がない気がするな。体調大丈夫だろうか……?って、いかん!一之瀬のことは一旦置いておこう

 

 前世で見ていた全ての作品の中で、よう実は一番好きな作品だった。その中でも一之瀬が一番好きなキャラクターだったため、気がつくとすぐ一之瀬のことを考えてしまう。

 でも、教室では原作で描かれていなかった一之瀬のお姿を毎日拝めるため、頭の中が一之瀬でいっぱいになってしまうのは仕方がないことなのだ。そう、仕方ないのだ!

 

 とりあえず、一之瀬との接し方も高育への入学も今はまだ保留でいいだろう。

 まだ()3()()()だ。進路の決定まで猶予はある。

 

 ん?何か大事な事を忘れてる気がするけど……まぁいいか。

 今日は()()()()()()()だから、息抜きにちょっと出かけよう。そう思い立ち、家から歩いて行ける距離にあるデパートを散策することにした。

 

 

 

 

 『最終入荷、ラストチャンスです』と書かれた広告の前で、私は金色のヘアクリップを静かに見つめていた。

 

 必死にお金をかき集めた私のお財布の中には、2000円ちょっとしか入っていない。けれど、目の前にあるヘアクリップの値札には32,200円の表記。

 

 足りない。全然足りない。でも、塞ぎ込む妹の笑顔を取り戻すためには、このヘアクリップがどうしても必要なんだ……。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 息が荒くなり、心臓の鼓動がうるさいくらいに大きく聞こえ、体がとても熱く感じる。

 そんな不快感を誤魔化すように、私の心の中で黒い感情が芽生えるのを感じた。

 

『たった一度、妹のために悪さをするくらい大したことじゃない』

 

『世の中、悪いことをする人なんていっぱいいる』

 

『これまで我慢し続けてきた私達が、責められる必要なんてない』

 

 私はその黒い感情に従って、目の前のヘアクリップを誰にも見られないよう鞄の中に仕舞った。

 そして足早にお店から出て行こうとした瞬間——

 

「こ、こんなところで会うなんて、奇遇だな一之瀬」

 

——聞き覚えのある声に呼び止められ、私は足を止めた。

 

 






 早く高育編を書きたいのですが、しばらくは中学生編が続く予定でございます。ご容赦くださいませ。
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