パイセンとの公正な取引によって過去問を手に入れた日の翌日。
一之瀬が考えていた案をみんなに共有したところ、プライベートポイント貯蓄は毎月支給されるポイントの50%を一之瀬に預けるという形で決まった。また、委員長等の役職の割り振りも行われ、原作通り一之瀬がクラス委員長に就任。
副委員長の候補には俺の名前も挙がっていたが、「白でも黒でも一之瀬が望めばストロベリーブロンドと答える俺より、自分の意見をしっかり言える神崎のほうが絶対に適任だ!」と熱く語りながら推薦したところ、神崎が見事副委員長に就任した。良かった良かった。
その際に、「推薦してくれた水瀬に恥をかかせないよう全力で取り組ませてもらう。任せてくれ」という熱いお言葉を神崎からいただいた。
う〜む。薄々そうではないかと思っていたけど、神崎の俺に対する信頼度がちょっと高めな気がする。神崎は一之瀬に厚い信頼を寄せているのだが、彼女に向ける目と同じ目を最近は俺にも向けてくるのだ。
とりあえず、副委員長に関してはそんなに気負わずほどほどに頑張って欲しい。
◇
その日の放課後。
一之瀬主催の勉強会終わりだったこともあり、結構な大所帯で帰ることになった。
女子は一之瀬、網倉、小橋、白波。男子は神崎、渡辺、浜口、俺という総勢8名の超豪華メンバーだ。
柴田や安藤といった運動部組は、残念ながら今日はいない。
「あ、水瀬くんここどうぞ〜」
そんな夢のような帰り道の最中。小橋が俺の背中をぐいぐい押して一之瀬の隣に並ばせてきた。あざっす!
「神崎くんと渡辺くんは背が高いから前ね」
「わかっている」
「了解」
網倉の指示に従い、神崎と渡辺が俺の前を歩く。
「私達は後ろだね」
「浜口くんは真ん中どうぞ〜」
「わかったよ。ここだね」
俺の後ろには網倉、浜口、小橋が並んで歩き、俺の両サイドは一之瀬と白波が固めてくれている。
ここまでしてようやく気付いた。
「もしかして、俺を隠すように囲ってくれてる?」
「その通りだ。一之瀬の発案だな」
神崎がそう教えてくれたため、横にいる一之瀬に目を向ける。
「昨日の一件で注目されてるみたいだから、噂が収まるまで誰かと一緒に帰ったほうがいいと思ったの」
「一之瀬、みんな……」
クラスメイトの優しさが目に染みる。
何より驚いたのは、俺の右側にいる白波の存在だ。軽く爪先立ちをしながら歩幅を合わせて歩き、俺の姿を頑張って隠そうとしてくれている。
そんな白波にも目を向けると——
「帆波ちゃんの幸せが、一番だから……」
——と、俺にだけに聞こえる声でボソリと呟いた。
同性という事を活かして隙あらば一之瀬に抱きついている変態だと思い始めていたが……好きな人のためなら恋敵も助けるほど強い覚悟を持っていたのか。
変態だと思い始めていて申し訳なかったと心から思う。
「千尋ちゃんわざわざ背伸びしてるんだね。私も頑張らなきゃ」
「いやいや、二人とも背伸びしなくていいよ。歩きづらいでしょ」
そう伝えながら少し考える。
もしも、白波と俺の立場が逆だったら……俺に同じ事はできないかも知れない。ちょっとしゃがんだり歩幅をずらしたりしてバレない程度に意地悪してしまいそうだ。
何気ない一幕だが、学校の成績では測れない白波の凄さを知った。
「ほ、帆波ちゃんを、諦めたわけじゃない、から……」
「わかってる。俺も譲るつもりはないよ」
白波とそれだけ話し、周りの喧騒に耳を傾ける。
いつの間にか、一之瀬達は渡辺の好きな女性のタイプの話で盛り上がっていた。青春の1ページと言っていい素敵な帰り道だ。本当に平和だなぁ——
「クク、Bクラス御一行じゃねぇか。こんなところで会うなんて偶然だな」
——訂正。全然平和じゃなくなった。
龍園と愉快な仲間達、出現。
「君はたしか、Cクラスの龍園くん?だよね」
「ほぅ、俺のことを知ってくれてるとは光栄だな」
不敵な笑みを浮かべる龍園に、一之瀬が前に出ながら臆せず話しかけた。
神崎は一之瀬を守るようにすぐ隣で待機し、渡辺は他のみんなを守るために網倉達の少し前に立つ。
龍園と会うのは初めてだが、Cクラスに荒くれものが多いという情報はすでに知れ渡っている。特に龍園がやばいらしいという噂も流れているため、みんな警戒しているようだ。
「私の名前は……」
「知ってるぜ。Bクラスのリーダー、一之瀬帆波だろ。隣のやつは神崎隆二。後ろにいるやつは渡辺紀仁だったか?その後ろは……」
龍園は得意げな表情で網倉や白波達の名前も次々と言い当てていった。
生徒の名前は調べればすぐに分かることが、初対面で顔と名前を一致させているのは少し驚きだ。みんなは不気味に思ったのか、龍園への警戒を強めている。
そして最後に——
「お前が、話題になっている水瀬早手だな」
「どうも、話題になっている水瀬早手です」
——俺の事も知ってくれていた。
みんなが警戒している中申し訳ないけど、龍園が俺のことを知ってくれていてちょっと嬉しい。
「俺達の名前を知っているからなんだ。何を企んでいる」
「何を警戒してんだよ。同じ学校に通う仲間の事を知ってるのは当然だろ?」
龍園が得意げな表情で神崎に言い返しているが、その意見には同感だ。仲間なら知ってるのは当然だよな!
それに、このまま一之瀬と神崎に龍園のヘイトが向くのは避けたい。どうせヘイトを向けるなら、自衛手段に長けた俺にしてもらいたいところだ。
そう思いながら会話に参加する。
「俺も龍園達のことは知ってるぞ」
一之瀬の前に出ながらそう言い放った。
「あ?」
「龍園翔。誕生日10月20日。学籍番号はS01T004711。勝つためなら手段は選ばないタイプで、学力も身体能力も高め。喧嘩も強い。
石崎大地。誕生日4月14日。学籍番号はS01T004656。喧嘩っ早くて短気で学力低め。だけど根は真っ直ぐ。
伊吹澪。誕生日7月27日。学籍番号はS01T004714。負けず嫌いで協調性は低め。でも学力と身体能力は高め。
山田アルベルト。誕生日1月16日。学籍番号はS01T004708。英語は堪能だが国語と数学が苦手。喧嘩は強いけど、実は争い事が苦手」
「……」
趣味や好きな異性のタイプやスリーサイズや過去のエピソードなんかも知っているが、そこまで話すと引かれると思いあえて基本情報しか言わなかった……にも関わらず、龍園達は若干引いている。
「……何を企んでいやがる」
「えっ、いや、仲間の事を知ってるのは当然なんだろ?」
「……」
凄く怖い顔で睨まれた。それ、仲間に向けていい目じゃないよ……。
「……クク、予想以上だぜ。お前を一番に警戒するべきだと助言されたが、
「あいつ……?」
俺を警戒するよう助言した?誰だろ?
そんな俺の疑問は無視して、龍園が話を続ける。
「水瀬早手、お前の事を調べ直してから出直すとするぜ」
「それなら、俺も龍園達の事をもっとよく調べておくよ」
「はっ、ほざいてろ」
龍園の表情は変わらないが、石崎と伊吹が俺を見る目には僅かな恐怖を感じる。この様子だと、アルベルトもグラサンの下では同じ目をしているのかも知れない。
3人のことも好きだから普通にお友達になりたいと思っていたのに、結構ショックだ。コミュニケーションって難しいね……。
「邪魔したな」
龍園達はそう言い残し、去っていった。
彼らの姿が見えなくなったのを確認した後。残された俺達はその場で顔を見合わせながら話し始める。
「み、水瀬くんってやっぱり凄いんだね!」
「ホントにすげーよ水瀬!あんな怖そうなやつとよく普通に話せるな」
「み、水瀬くん。ありがと」
網倉と渡辺を筆頭に、みんなが口々に褒めてくる。白波も相当怖かったのか、言葉を詰まらせながらも感謝を伝えてきた。
「水瀬くん……」
そんな中、一之瀬が少しだけムッとした表情で口を開く。
「今の水瀬くんも凄くかっこよかったけど、でも……今回の事で目をつけられて、水瀬くんが危ない目に遭うのは……嫌かな」
一之瀬のその言葉で場の空気が一変した。
あの4人に襲われても無傷で逃げ切る自信はあるけど、俺の実力を知らない一之瀬には不安を感じさせてしまったようだ。
俺の配慮が足りなかった。そう思っていると——
「一之瀬。それはお前にも言える事だぞ」
「えっ?」
——神崎が口を開いた。
「お前は真っ先に俺たちの前に立って龍園と話しはじめた。あのまま会話を続けていたら、お前が目を付けられていた可能性が高い」
「でも……」
「水瀬はそういった可能性も危惧して、龍園の注意を引き付ける行動をとったはずだ。そうだろう?」
そうなんだよ神崎!と叫びたいところだが、龍園とお近づきになりたいという私欲も含まれていたため控えめに同意しておく。
「その通りだ。心配してくれるのは嬉しいけど、俺は一之瀬にも危ない目に遭って欲しくない」
「水瀬くん……」
網倉達がニヤニヤし、白波が歯をギリギリ鳴らしている中。言葉を続ける。
「これからは、龍園みたいな危なそうな人は煽らないようにするよ。心配かけてごめんな」
「ううん。私のほうこそ自分のことを棚に上げて怒っちゃって、ごめんなさい。私も危ない事はしないように気をつけるね」
ごめんなさいし合う俺達の様子を、神崎は慈愛に満ちた目で見守ってくれていた。ありがとう神崎ママ。
「それにしても、いつの間にあれほどの情報を集めていたんだ?」
「あれは……ほ、放課後の部活のお手伝いとかで、色々とな」
神崎に言った今の言葉は、一応嘘ではない。放課後は情報収集のために他クラスの生徒と話したりもしているのだ。
まぁ、龍園に言った情報は全部前世の知識だけど……。
「そうか。さすが水瀬だな」
神崎からの信頼が更に増した気がした。
騙してるようで申し訳ねぇ……。
その後は急遽ファミレスへ行き、龍園達の対策を話し合った。
なるべく複数人で行動することや一人で行動するときは監視カメラのない所へは行かないことなど、今回の話し合いで出た案は明日クラスのみんなに共有する予定だ。
それにしても、龍園が言っていた
◇
一之瀬達がファミレスで緊急会議を開いている頃。龍園達はケヤキモール内のカラオケの一室にクラスメイトの一人を呼び出していた。
「お前の言う通りだったぜ
「や、やっぱり、凄い人だったんだね……」
龍美と呼ばれた前髪の長い少女は、立派なアホ毛を揺らしながらおどおどとした様子で言葉を続ける。
「あ、そ、そういえばこれ、渡したかったの……」
「あ?なんだこれは」
龍園は、龍美が鞄から取り出した数枚のプリントを受け取った。
「つ、次の中間試験。その過去問と、同じ問題が出ると思う……」
「えっ、マジか!」
「Oh...」
「それが本当なら凄いじゃん」
中間試験に不安を抱えていた石崎、アルベルト、伊吹の三人は、龍美の言葉を聞き喜びをあらわにした。
「どこからそんな情報を仕入れてきたのか知らねぇが、よくやったぜ龍美」
「え、えへへ、ありがと」
「ありがとって、あんたが感謝する必要はないでしょ」
「そ、そうだよね。でも、みんなが喜んでくれるのが嬉しくて……」
「いやいやマジで最高だぜ龍美ちゃん!ありがとな」
「Thank you」
「え、えへへ、どういたしまして」
よう実ファンはたくさんいますからね。
一之瀬LOVEな水瀬くんが転生したように、龍園LOVEな誰かが転生しててもおかしくないですよね!