ようこそ一之瀬と過ごす夢のような日々へ   作:ざったなっつ

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6話「またな、一之瀬」

 

 

 私は今でも、過ちを犯そうとした()のことを後悔している。

 

 妹のためだと自分に言い聞かせて、万引きをしようとした……。

 お母さんは気にしすぎちゃダメと言ってくれたけど……たぶん、この後悔は一生消えないと思う。

 でも、そんな後悔を抱いたあの()のことは、私の中で良い思い出として残っている。

 

 私の過ちを止めてくれた彼の言葉……。

 私のことを気遣ってくれた彼の優しさ……。

 一緒に飲んだココアの味……。

 彼の手の温もり……。

 

 そのどれもが、私にとってかけがえのない思い出だ。

 

 そういえば、転入当初とは違って、あの日から彼は積極的に会話をしてくれるようになった。

 バイトがない日は一緒に遊んでくれるようになったし、お互いの家で勉強会もした。

 彼を狙ってる子がたくさんいることは知ってたから、少し不安だったけど……彼と私が付き合っているという噂のお陰でむしろみんなが応援してくれるようになった。

 私は本当に良い友達に恵まれたと思う。

 

 

 

 

 月日は流れて、卒業後の進路を本気で悩んでいた時。担任の先生から高度育成高等学校に受験してみないかと言われた。

 最初は、私なんかがそんな凄い高校に挑戦していいのかなと思ったけど……すぐにその考えを改めた。

 水瀬くんはとても凄い人だ。

 転入当初はあまり目立たない成績だったけど、今ではテストの点数も学年トップで、運動も頑張っている。

 家は裕福なのに、社会勉強になるからとバイトまで頑張っていて、仕事もしっかりとこなしている。それに、出会って間もない私に手を差し伸べてくれるほど、優しくて素敵で頼りになる人だ。

 今の私とは、どう考えても釣り合わない相手。このままだと、一生彼の隣には立てない。そう思った。

 

 だから、私は決めた。

 

 高度育成高等学校に進学して、彼に相応しい存在になる。

 入学できたら彼と連絡を取ることは難しくなってしまうけど、彼の隣に立つためだと何度も自分に言い聞かせて我慢した。

 

 あんなに魅力的な人を周りが放っておくはずはないから、彼は高校でもたくさんの人達に好かれると思う。

 でも、最後に彼の隣にいるのが私なら、何も問題はない。

 

 そのための第一歩として、受験が終わる2月下旬からたくさんアプローチをすると心に決めていた。

 まずはバレンタインのチョコを渡して、高校の合格発表を一緒に見て、入学前に出される課題があれば一緒に頭を悩ませて……あの日行ったカフェで、今度は私がココアを奢る。

 高校の3年間で私のことを忘れないように、受験が終わったら彼へのアプローチを全力で頑張ろう。

 

 そう思っていた。

 

「……明日転校するんだ」

「……えっ?」

 

 頭の中が真っ白になった。

 

 これからだと思っていたのに、まだ時間はあると思っていたのに、全力で頑張ると決めたばかりなのに……私の計画は、一瞬にして崩れ去った。

 その後も彼が何か話してくれていた気がするけど、何も頭に入ってこなかった。

 これ以上衝撃的なことを聞いてしまったら、きっと心が壊れてしまう。

 無意識にそう感じて、彼の言葉を聞かないようにしていたのかも知れない。

 余計な心配をかけたくなくて、彼の言葉に合わせて笑顔で相槌だけはした……けど、うまくできていたかはわからない。

 

 

 

 

 気がつくと自分の部屋にいた。

 自力で帰宅したのか、彼が連れてきてくれたのかも覚えていない。

 

 翌日。受験を控えた大切な時期なのに、私は学校を休んでしまった。

 その次の日も、その次の日も、その次の日も……私は学校を休んだ。

 彼のいない教室を、見たくなかったから……。

 

 私が部屋に引きこもってから数日が経った頃。

 妹が学校のプリントと一緒に小さな小包みを持ってきてくれた。私の机の中に入っていた物らしい。

 

 おそるおそる箱を開けてみると、中にはひまわりのキーホルダーとメッセージカードが入っていた。

 そのメッセージカードには、「またな、一之瀬」とだけ書かれていた。

 それを見た瞬間。私は妹に見られていることも忘れて、ただただ泣きじゃくった。

 私の誕生花のひまわりを模ったキーホルダー。それを握りしめながら、彼のことを思い出して泣き続けた。

 

「……またね、水瀬くん」

 

 泣き終えた私は再び決意した。

 彼にまた会えた時に、胸を張って隣に立とうと。彼に相応しい存在になるんだと。

 もう受験まで1日も無駄にできない。

 ひまわりのキーホルダーを筆箱に付けた私は、静かに参考書を開いた。

 

 

 

 

 屋上で転校することを伝えた時は心配になるほど絶望した表情をしていたが、続く説明を聞いた一之瀬は笑顔で頷いていた。

 ちょっと笑顔がぎこちない気もしたけど、俺も高育に進学する予定だということは伝わったと思う。

 ただ、一之瀬が帰り道で一言も声を発さなかった点は少し気がかりだった。

 受験への不安とかが重なって体調が良くないのかと思ったため、あえて声は掛けなかったけど……心配だ。

 

 転校当日。一之瀬は学校に来なかった。

 先生が体調不良だと言っていたため、昨日の様子に納得した。

 最後に一之瀬と会えなかったのは本当に残念だったけど、高育に入学できればまたいつでも会える。

 

 自分にそう言い聞かせて、本当は直接渡そうと思っていたプレゼントを一之瀬の机の中に入れ、教室を後にした。

 

 一之瀬の体調は心配だけど、今はまず自分のことに集中だ。

 高育に入学できなければ、一之瀬と会える機会は格段に減る。もしかしたらもう会えないかも知れない。

 そんなのただの生き地獄だ。なんとしても高育への推薦を勝ち取る必要がある。

 

 そう決意した俺は、今まで培った数多の技能を全力で発揮。

 転入してから僅か2週間で校内に自身の存在を轟かせ、親の権力を使わず見事推薦を獲得した。

 っしゃあ!

 

 






 っしゃあ!これにて中学編(プロローグ)終了でございます!
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