一之瀬と櫛田の邂逅は……特に何も起こらなかった。
「えっと、桔梗ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もちろんだよっ。私も帆波ちゃんって呼ばせてもらうね」
俺の紹介で挨拶を終えた二人は、曇りのない笑顔で会話を続けている。
さっき一之瀬の目のハイライトが消えたのは、気のせいだったのかな?光の当たり具合でそう見えただけだろう。きっとそうだ。
「帆波ちゃんは、水瀬くんといつから友達だったの?」
「中学3年の夏に水瀬くんが転校してきて……」
俺の話題を中心に、二人の美少女が仲睦まじく会話に花を咲かせている。
一之瀬の雰囲気から負の感情は一切感じない。ただ純粋に櫛田との会話を楽しんでいるようだ。
櫛田と一緒にいたことで嫉妬されてしまったのでは!?と一瞬思ってしまったが、そんなことはなかった。ただ自意識過剰なだけだったらしい。恥ずかしっ。
「そういえば、帆波ちゃんってどこのクラスだったの?」
「私はBクラスだったよー」
「そしたら水瀬くんと同じだねっ」
「にゃっ!?そうなの!?」
一之瀬が目を見開いてこちらを見てくる。
「五十音順だから気付かなかったんだな。俺の名前も一之瀬と同じBクラスの名簿にあったぞ」
「そうなんだ!やったー!また同じクラスになれたねっ!」
俺の両手を握りながら嬉しそうに笑っている。同じクラスになれたことをここまで喜んでくれるとは、俺もめちゃくちゃ嬉しい。
クラス名簿の前に集まっている男子共から嫉妬混じりの視線を頂戴しているが、気にせず一之瀬の手の感触を楽しむ。デュフフ。
「あっ、もう時間だね」
「ホントだ、そろそろ教室に入らなきゃ。桔梗ちゃんまたねっ」
「またな櫛田さん」
「うん。帆波ちゃんも水瀬くんもまたね〜」
櫛田に一旦の別れを告げて、俺と一之瀬はBクラスの教室に足を踏み入れた。
Dクラスで起こる会話の流れや人の動きは原作を見て大体把握しているが、Bクラスの動向は情報が少ないため何が起こるかほとんどわからない。だが、むしろ楽しみだ。
Bクラスで始まる未知の高育生活に胸を躍らせながら、一之瀬と共に教室内を見回した。
◇
水瀬くんと再会した時、隣には可愛い女の子が立っていた。
「水瀬くんのお知り合い?」
その光景を見た瞬間、私は衝撃のあまり固まってしまった。
隣に可愛い女の子がいた事じゃなくて……その子を見る
その目は、彼が自分の両親を見る時の目に少し似ていた。
彼と初めて会った時、私にも向けてくれた目に似ていたからすぐに分かった。
自意識過剰だと言われるかも知れないけど、あれは親愛とか敬愛とか、そういう感情を抱いた相手に向ける目だと思う。
水瀬くんの事はずっと見てきたから、たぶん間違いない。
水瀬くんはどうしてその目を彼女に向けているのか、彼女のどこを気に入ったのか、彼女は何をしたのか……純粋に興味が湧いた。彼女のことが気になって仕方なかった。
最後に彼の隣にいるのが私であるために、彼女のことを知りたいと強く思った。
「えっと、桔梗ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もちろんだよっ。私も帆波ちゃんって呼ばせてもらうね」
話してみると、桔梗ちゃんはとても良い子だった。
こんなに可愛いのに、それを鼻にかける様子は一切ない。
会話の流れも自然で、間が開かないように答えやすい話題を振ってくれる。
時折見せるちょっとあざとい仕草も、桔梗ちゃんがやると違和感がないから可愛いさしか感じない。
凄い子だと思った。桔梗ちゃんはきっと、みんなから好かれるような存在になる。
水瀬くんがあの目を向けたことにも、どこか納得した。
だからかな、桔梗ちゃんのことをもっともっと深く知りたいと思った。
私になくて、桔梗ちゃんにあるもの。それが分かれば、それを学べば、水瀬くんがもっと特別な目で私を見てくれるかも知れない。
それに、今少し話しただけでも、桔梗ちゃんとは良い友達になれると思った。
不純な動機がきっかけで親しくなろうとしている自分に僅かな嫌悪感を抱きながらも、桔梗ちゃんとはもっともっと親交を深めようと心に決めた。
◇
〜高度育成高等学校学生データベース〜
氏 名:一之瀬帆波
クラス:1年B組
学籍番号:S01T004620
部活動:無所属
誕生日:7月20日
学 力:B +
知 性:A
判断力:B
身体能力:C
協調性:A −
面接官からのコメント
高校一年生の生徒としては、非常に高い能力を持つ。同学年の葛城、坂柳などAクラスの生徒と変わらぬポテンシャルを持っていると推察するが、今まで無遅刻無欠席だったにも関わらず、中学3年の1月に数日間学校を休んでいた。
一部の証言から、懇意にしていたクラスメイトの転校が欠席の原因と判明。精神的な不安定さを考慮し、Bクラスへの配属とする。
氏 名:水瀬早手
クラス:1年B組
学籍番号:S01T004---
部活動:無所属
誕生日:10月20日
学 力:A
知 性:C
判断力:C
身体能力:A
協調性:C
面接官からのコメント
小、中学校の記録から、高い学力と身体能力を有している。面接における言動と態度にも問題はなく、Aクラスの生徒と変わらぬポテンシャルを持つ。
しかし、入学試験の点数を意図的に調整した可能性が高く、結果よりも楽しさを優先する傾向が不安視されるためBクラスへの配属とする。
ちょっと無理矢理ですが、一之瀬と水瀬がBクラスになった理由はこんな感じでございます。
水瀬くんの違和感しかない入試の点数はどこかで言及する予定です。