繋索のフリーレン   作:こすとこ

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旅のエルフ

 髪が靡く。鉄の臭いが鼻と口いっぱいに広がる。

 

 顔をしかめた。

 

 ここは【工業地区】と呼ばれる場所だ。こういった工業地区では鉄の臭いに限らず廃棄物などの異臭がたいてい酷く、私はなるべく避ける様にしている。今回は気まぐれできたのだが失敗だったかもしれない。

 

 この工業地区だが、ここ最近でき始めたものだ。

 

 さて、突然だが昔の話をしよう。魔法は想像の限り万能だ。だけど生産性に限界があった。

 

 無限のエネルギーなんてありはしないのだ、当然の事ではある。

 だからいつからか、魔法と対を成すように『科学』が芽吹いた。

 

 勿論、形を成すまでにいろいろな人がいた。

 

 科学黎明期に偏見と戦った人族《サンドリヨ・アルバ》。

 まるで未来からでも来たのかと言いたくなるほど、多くの科学の法則を数多く見つけ出し、《千賢》と呼ばれた科学者。

 魔法と科学の融合に挑み、素晴らしくも忌まわしい数多くの成果を生み出した《硝融のレコン》。

 

 大体、最期は酷かった。いや、訂正しよう。酷かったか、酷くした。もしくはまだ見ていないの三択だ。

 

 ……まあいい。考えても考えても、今浮かぶのは疎ましい思考だけだ。

 下へ向いていた視線を上へと向ける。そして目に入ったのは工場が立ち並ぶ最中、ポツンと立っていた雑貨屋……『コンビニ』だ。

 

 そこに子供たちがたむろしていた。時間は17時。今は冬だ。帰るべき時間帯だ。

 赤髪と黒髪の男の子。

 

(赤髪……か……)

 

 なにかを思い出しそうになる。それはすぐに消えて、だが心の中に暖かい感情だけが残った。

 得も言われぬ感情の推移に溜息をついて、足取りをそちらへ修正した。

 段々と近づいてゆくと、声が鮮明に聞こえてくる。

 

 

「ねえねえ、みてこのキャラ!」

 

「え、マジ!? 【伝説の勇者】ヒンメルじゃん!!!」

 

 

 私はその声を聴き足を止めた。少年たちがそろって見ているのは一枚の薄い板、スマートフォンだ。

 

「むう」

 

 ヒンメル。ヒンメルと来た。これは確認しなねばならない。

 

「あー、あー……こほん。そこの子達? ちょっといいかな」

 

 久方ぶりに出す声に、喉が違和感の軋みをあげる。それを努めて無視して、私はつづける。

 

「……今、ヒンメル、って言ったよね」

 

 少年達は顔を見合わせる。そして、頷いた。

 

「そうだぜ! 【レコード・ヒーローズ】って言うソシャゲの限定キャラなんだ!」

 

「そうだね、ちなみに学校の授業でも聞いたことある気もするよ……なんだっけ?」

 

「あ、そうだっけ?」

 

 話が始まる。会話。懐かしい感覚だ。

 それを遮り、言葉を紡ぐ。

 

「うん、ありがとう。それでね、ちょっと私にそのきゃらを見せて欲しいんだ」

 

「え? うーん……いいよ」

 

 「ほら」と画面が差し出される。そして、ちょっと期待しながら覗き込む、

 濃い髭の、そう。いうなればダンディーな男がこちらを覗いてきた。

 

「──でさ! 聞いてよこれ!」

 

 少年が画面を押す。

 『滅殺剣!!』と低めの男性ボイスが流れた。

 

(……うん、違う。()()()()()けど、私の心が違うって叫んでる。

 強いて言えば…………強いて言えば? 私は何を思い出そうと……いや、いいか)

 

 体を向き直す。

 

「……ありがとう」

 

 収穫はなしだった。私の目的は、未だ欠片も達成できないままだ。

 吐息を押し殺すと、少年たちへ──

 

「──この限定ガチャで引いたんだよ! 見てくれよ!」

 

「あれ、それまだ引けるんじゃない?」

 

 赤髪の少年に、黒髪の子が追随する。

 不思議そうに赤髪の子が画面を見つめる。

 

「あ、ほんとだ……んー、じゃあお姉さんにひかせてあげるよ!」

 

「……え、うん、ありがとう……」

 

 勝手に話が進んでいく。懐かしいような、妙な感覚に襲われる。

 

「ほら! ここ押すんだよ!」

 

 黒髪の子に手を引かれ、赤いボタンに触れる。

 画面に謎の演出が始まった。剣が出て来る。

 

「……ねえねえ、これ確定演出じゃあない?」

 

「マジだ……」

 

 ゴクリと唾をのむ音が聞こえた。

 そして、少し長めの演出を経て、そのきゃらの姿が露わになった。

 

「あ」

 

 思わず声が漏れる。だって、それはどこかで見たことのある姿見だったからだ。

 白い鱗に荘厳な風貌。それは──

 

「天脈──」

 

「──天竜だ!!!」

 

「すげえ!! ありがとう! お姉さん!!!」

 

 

 少年たちの驚きを受け止めながら、だが、脳裏によぎるのは過去の記憶。

 

「……うん」

 

 そう言って、私は思考の渦に入る。

 

(モチーフは明らかに天脈竜……まだあそこに居続けてるはずだけど、著作権的にいいのかな、これ……)

 

 まあ、いいか。そう私は思考を打ち切る。考えても仕方がない。

 

 そうして、私は一人納得すると、本来の目的を果たすため少し少年たちと話し、お礼を告げる。

 

「……じゃあ、またね。早く帰りなよ」

 

「またな、天竜のお姉さん!」

 

「またね~!!」

 

 妙な覚えられ方をしてしまった。次会うとすれば、きっとしわくちゃの彼らか、子孫なのだろう。

 またしても、奇妙な感覚が胸の内に沸き上がった。

 

 はるか遠くになった光景に目を向ける。

 そうして、私は呟いた。

 

 

 

「みんなはどんな顔で、声だったかな……フェルン、シュタルク、ヒンメル、ハイター、アイゼン、ザイン、──」

 




共に過ごした人の記憶を失ったフリーレンが、記憶を取り戻す為に旅をする話です。
また、未来の想像が多数含有されます。
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