まず大前提として、オレの戦闘スタイルは基本的に先手必殺であり、初撃の一発で相手を確実に葬ることを視野に入れて魔法を作っている。現にそれで今まで生き残ってきた。
だからこそ、オレの欠点というのが浮き彫りになる。
戦士としてのオレではなく、魔法使いとしてのオレの戦闘経験は少なく、相手も魔法使いである時の魔法使い同士での戦闘というのをオレは得意としていない……というか経験が少ないから自信がない。
それに比べて目の前のゼーリエは前線で魔族という魔法のスペシャリスト、言い換えれば魔法オタクとドンパチやって生き残り、絶対強者として君臨する魔法使いを殺すプロだ。
だからこそオレが取るべき選択肢は相手の土俵に乗らず、近接戦闘になるようにこちらの土俵まで引き摺り降ろし、あくまで魔法はサポートとして使う魔法闘士のスタイルによる戦闘だろう。
であるならば、空中で滞空し、こちらを見つめてくるゼーリエへの次に取るべき行動は────
「『
オレは両手を前方に突き出し、掌から『
遙か上空に見えるゼーリエは笑みをさらに深めて防御魔法を展開させるが、すぐにハッと何かに気づいたかのような様子を見せて回避行動をとる。
そしてオレが放った『
正直言って、オレの心中はマジかよである。
オレが作った『
これはかなりの長い年月をかけて開発したものであるので、いくらゼーリエといえど一瞬では見破れまいと思っていたのだ。
なのにゼーリエは見破った……いや、見破ったわけじゃない。ゼーリエは防御魔法が壊れていることに驚きを見せていたことからも、見破ったわけでなく完全なる勘で避けやがったのだ。
「これだから────ッ」
オレの言葉は最後まで続かず、ゼーリエが放った魔法を避ける。
ゼーリエの肩の傷はすでに癒えており、多少は驚かせるのには成功したものの、これといったダメージは与えられていない。
「面白いぞ!」
ゼーリエは満面の笑みを浮かべて、こちらに突っ込んできた。せっかく相手より上を取っていたのに降りてくるあたりに戦闘狂が垣間見えたことに呆れた笑みを浮かべつつ、オレは拳を突き出す。
ゼーリエもまた拳を突き出し、衝突する。
魔力によって強化された拳同士がぶつかり、オレの足元が沈んでクレーターができる。過去に自由落下でつくってしまった、何処かで見た景色である。
「ゼーリエ、あんた魔法使いだろ。なんで拳なんだよ」
「フッ、そっちの方が楽しめると思ったからだ」
「そうかよ、この戦闘狂がッ!」
オレは突き出した拳とは逆の方の手でゼーリエの腕を掴み、地面に叩きつけるように振り下ろす。
土煙で魔力探知でしか相手を認識できない中、煙の中から光線のようなものが飛び出してくる。
それをオレは首を傾けて避ける。そして光線みたいなのを出す魔法に続くようにゼーリエが土煙から現れ、オレの右頬にストレートで殴ってきた。
オレはゼーリエの拳を右手で受け止め、そのまま腹を蹴る。蹴った反動でゼーリエから離れたオレは呼吸を落ち着かせながら構える。
ゼーリエはいつまで経っても変わらない満面の笑みを浮かべてオレを見ている。
一回、仕切り直しとなった。
「ふぅ」
息を整えながら、仁王立ちのポーズで佇んでいるゼーリエに視線を向ける。
この目の前の戦闘バカエルフからは魔族に向ける嫌悪感、殺意といったものを全く感じない。ただ純粋にこの戦いを楽しみたいという感情のみがオレに伝わってくる。
それは散々魔族を殺してきたゼーリエらしからぬものであるが、なんとなく思うのがエーヴィヒあたりからオレの話を聞いていたのだろうか。
そこんところはよく分からないが、今の攻防で確信した。
ゼーリエはオレを殺すつもりはない。
だったらこんなことをしなくてもいいのではないかとオレは思うが、ゼーリエの表情を見れば分かる。
無理だ、と。
ゼーリエの表情はまるで長年会いたかった好敵手に向けるそれだ。
正直、オレは今すぐにでも戦闘をやめてゼーリエとお茶したいのだが、肝心のゼーリエは待ち侘びていた初めて自分とまともに戦える存在との邂逅に心を躍らせている。
ゼーリエが満足するまでこの戦闘は続くだろうことが容易にわかる。
…どうしてこうなった。
何度もそう思わずにはいられない。
オレとしては久しぶりに地上へ降りて、現在の人類と魔族の状況を見ようと息巻いていたというのに、一歩間違えたら大怪我では済まなさそうな状況になっている。
ゼーリエの見つけた発言からもずっとオレを探していたのだろう。
そんなにオレに会いたかったのかと思うと悪い気はしないが、こんな状況になってしまったことを思い直してみると複雑な気持ちだ。
そして、そんなゼーリエさんは足に力を入れて地面を蹴り、何か知らん魔法で加速しながらオレへと迫ってきている。
「行くぞ!」
わざわざそう言ってくれるゼーリエに心の中で律儀だね、と思いながらもう一度拳を突き出すのだった。