どうもこんにちは、今年で4100歳を迎えたレノストです。
魔王の誕生をゼーリエが知らせに来て100年の年月が経った。
現在の地上は人類と魔族が激戦を繰り広げている。現状、オレは状況を俯瞰して見るだけで、手を出していない。ゼーリエも人類に期待しているのか、最近建国したという統一帝国の連中が頑張っているのを見守ることにしているようだ。
そこでオレはこれから介入すべきかの選択を迷っていた。
今までは原作で不明な点が多かった神話の時代だったからこそ原作改変を最小限に留めておくことができたが、ここからは本編に直接関わってくる時代。
一つでも選択肢をミスればフリーレンの弱体化、ヒンメルやハイター、アイゼンが誕生しなくなるといった可能性がある。
そんなことが起きれば、オレの人生の目標である原作の登場人物に会うといった目的が果たせなくなってしまう。状況を慎重に見極めなければならない。
ただ、オレは我慢ができなくて原作でも謎だった魔王を見に行ってしまった過去がある。
大幅な原作改変を望んでいないのなら、この行動は愚かであると理解していたが、好奇心には勝てなかった。
完成した『空間転移の魔法』で魔王城の上空に転移して、空から『千里を見通す魔法』で見たら、王座に腰をかけた魔王らしき人物と全知のシュラハトがいた。
あ、ヤバいと思った時すでに遅し、『千里を見通す魔法』越しにシュラハトと目が合った。
オレはシュラハトと目が合ったと気付いた瞬間に『空間転移の魔法』で家に帰った。
そういえばシュラハトがいるのだったと思い出して、冷や汗をかいたのは苦い記憶だ。そのことがあったからこそオレは今の状況に手を出すのを躊躇っていた……いや、ビビっているのだ。
そんな愚かな行動をしたオレだが、収穫がなかったわけではない。
魔王はフードを被っていたので素顔は見れなかったが、魔力量とか外側から得られる情報は全て得られた。
それらの情報を統合して考えた場合、オレは魔王に勝てる。
側から見た感じの魔力量、体内での魔力操作の練度、体格、座っている様子から読み取れる戦士としての技量。
全てがオレより下であり、負ける要素があるとすれば魔王が扱う魔法が不明だという点だけ。
それでもオレは魔王を殺せない。
オレはどちらかというと戦士ではなく魔法使いだ。これは何度も言っていることであるが、この世界での魔法使いはイメージが大切だ。
オレには魔王を殺せるイメージが湧かない。
だって魔王を殺す存在はオレのような
オレは魔王に勝てるイメージは湧くが、英雄譚の主人公のようにはなれるイメージは湧かないのである。
というわけなのでオレはあれ以来、基本的に魔王関連は傍観者でいる。ゼーリエとの関係を考えたら今更だろがと思うかもしれないが、やはりオレは先程言った通りに大幅な原作改変が怖いのだ。
故にオレの地上への干渉はたまにエーヴィヒの墓所を荒らそうとする魔族を葬る程度で済ませている。
「本当に難儀なものだよな」
原作に関わりたいという気持ちと原作を変えたくないという気持ち。矛盾した二つの思いが胸を燻っている。
「暇だなー」
今のオレは『空間転移の魔法』が完成したので次に何の魔法をつくるか、どんなことをしようかと悩んでいる時期だ。
だがオレは魔法をつくろうにも、どんな魔法をつくりたいかと言った具体的なイメージが湧かない。
オレのアイデアの元ネタは前世で読んだ漫画の技、異能、忍術といったものが殆どで、その中でも自分が好きな技や魔法はあらかたつくり、習得している。
良いアイデアが湧かない。こんな時こそ別のことに目を向けて気持ちをリフレッシュするべきなんだが────
「動きたくない、何もしたくない。あぁ、誰でもいいからオレになんか刺激を与えてくれないかなー」
現在、インドアになっているオレは昨日つくった100×100のルービックキューブを解いて時間を無駄に消費していくのだった。
◇◆◇◆◇◆
時は遡り、場所は魔王城へと移る。
レノストが魔王城の上空から転移し過ぎ去っていた後、魔王の腹心である“全知のシュラハト”は背中を伝う冷や汗が止まらず、その心内は恐怖に染まっていた。
(あれは、なんだ?)
突如として魔王城の上空に現れた謎の存在。
レノストの魔力制限によって体外に放出する魔力量は限りなくゼロに近く、まるで魔力がないのかと錯覚するほどの魔力操作の練度は彼の異質さを醸し出していた。
現在、彼が魔力制限していると見破れる者がいるとするならばゼーリエただ一人であり、他の者がレノストを見たとしても魔力制限を見破れずに彼のことを魔力を持っていない存在として認識してしまうだろう。
そして何よりシュラハトが恐怖した要因はその異質さだけでなく、レノストの未来が何一つとして見ることができなかったからである。
シュラハトが生きてきた長い時間の中でこのような経験は初めてであり、レノストの未来を見ようとしてもまるでポッカリと彼のみが穴が空いたように存在せず、彼がいる未来が見えないのだ。
レノストが歩んでいる現在がただ一つの未来なのだと魔法が訴えかけてくるような感覚。これより先のレノストの未来はシュラハトの力を以てしても見ることはできなかった。
(未来が見えない……何なんだこれは)
初めての1000年後の未来まで見通す魔法を扱う彼の力を以てしても見ることのできない存在の認識。
シュラハトがレノストを認知し、ゼーリエの交友関係が増えたことなどレノストが齎した変化要因は本来の歴史を捻じ曲げ、シュラハトの知らない未来をこの世界は歩むこととなる。
それが幸か不幸かは誰にもわからない。