大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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016 無害な脅威

 

 

 どうもこんにちは、レノストです。

 

 ゼーリエがフランメを連れた日から20年ほどの年月が経ち、ついこの間に4170歳の誕生日をジブリール、早坂、小町と一緒に祝った。

 

 フランメと初めて会った日はフランメを家へと招き入れ、ご馳走してもてなしてやった。

 

 最初は警戒していた様子だったが、ゼーリエのリラックスした態度を見ているうちに考えるのが馬鹿馬鹿しく感じたのか、何かを諦めたかのような溜息を吐いて、ご馳走に手をつけてくれた。

 

 表情こそ表に出してはくれなかったものの、帰り際の様子からしてオレからのおもてなしには満足してくれたようだった。

 

 流石はゼーリエの一番弟子。師匠に似て不器用というか、素直になりきれないところがあるようだ。まぁ、魔族であるオレからのおもてなしだったということも関係しているのだろうが。

 

 あ、最近はゼーリエがまたかなりの頻度でオレのところに遊びにくるようになった。

 

 今度は3年に1度どころではなく、1年に1度のペースで来ている。その理由をそれとなく聞き出して要約するとこうだ。

 

「……つまりフランメが夢を追うためにゼーリエの元を去って寂しいから最近来る頻度が高いんだ」

 

「違う。そんなんじゃない、最近は満足に戦闘ができていなかったからレノストのところに来ているだけで────」

 

「はいはい、素直じゃないねぇ。まぁ、オレは優しいからそういうことにしておいてあげるよ」

 

「おい、話を聞いていたのか? レノストは勘違いをしている、私はお前が考えているような寂しいなんていう感情は抱いていない」

 

「はいはい、そうだね」

 

「おい!!」

 

 こんなゼーリエとの会話があって、その後はいつもより激しく彼女と戦った。ていうか、本気でオレを殺しにかかってきていた。バリバリに魔法や拳に殺意を感じていたもの。

 

 かなりキモい考え方かもしれないが寂しくて縋った先の相手がオレだったというのは意外と嬉しいものだ。ゼーリエの中でオレという存在が大きくなっているということなのだから。

 

 本当にゼーリエちゃんは可愛い。

 

 それにしてもフランメを見ているとかつての親友の姿と重なる。

 

 特にフランメと初めて会った日にゼーリエがフランメにオレと戦ってみろという言葉で彼女と相対した時、フランメの魔法を使う姿が、フランメから感じる彼女に匹敵しうる魔法の才を浴びた際なんて特に強烈にフランメがエーヴィヒと重なって見えてしまった。

 

 これはオレのただの痛い妄想で、叶うことのない願いだというのを理解している。だが、もし彼女が今も生きていて、その圧倒的な魔法の才を現在まで磨いていたのなら、魔法使いとしてどの境地まで至っていたのだろうかなんていうありもしない幻想を夢見てしまった。

 

 今でもエーヴィヒの墓所には10年に1度は必ず墓参りに行き、結界の強度を確かめている。オレはその時、毎回あることを思ってしまう。

 

 ────もし君が人間ではなく、エルフ、なんだったら魔族でもいい。長寿な種族に生まれたら、オレなんかをはるかに超越した魔法使いになれたのに、と。

 

 ────それこそ女神様に最も近い魔法使いと呼ばれるのがゼーリエではなく、彼女が呼ばれる世界線もあったのかもしれないのではないか、と。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 時間はフランメがレノストと初めて会った日に遡る。

 

 当時のフランメの心情を表すのなら困惑だろう。今、目の前で魔族であるレノストがお菓子を机に並べるという状況が繰り広げられている。

 

(何なんだ、この状況は……)

 

 フランメがレノストに攻撃した後、立ち話もなんだからということでレノストが家へと招き入れ、早坂なるメイドがつくったというお菓子をご馳走された。

 

 そのご馳走をいつもより気分が上がっているゼーリエが魔族陣営から差し出されたお菓子だというのに躊躇わず手につけて口に運んでいる。

 

 あのゼーリエがである。フランメの中で、今まで積み上げてきた常識という名の壁が崩れている感覚がする。

 

 魔族とは人語を操って人類を騙して喰らう魔物じゃなかったのか。なぜ魔族絶対殺すウーマンであるゼーリエがレノストという魔族を殺していないのかなど。

 

 そんな疑問と困惑に頭が混乱して今の状況を受け入れるのに脳の処理が遅れている。

 

 最もフランメが困惑している要因はレノストの態度にある。その要因は────

 

(この魔族はまるでこちらを警戒する素振りがない)

 

 さっきフランメに攻撃されたというのにレノストは警戒の姿勢をとっていない。フランメの目に映るレノストの姿は隙だらけだった。

 

(舐められているのか……いや、違うな)

 

 フランメはレノストの様子を優れた観察眼で見抜き、舐められているといった考えを否定する。

 

 なぜならフランメは気がついていた。レノストがこちらを見下したような視線を向けてきてはいないと。

 

 それが意味することは魔族特有の驕り故の警戒心の無さではないということ。

 

 つまりは目の前の魔族はフランメの実力を魔力制限を見破った上で判断し、警戒する必要がないのだと思われたことを天才たる彼女は察してしまった。

 

(なるほど、これが師匠(せんせい)に匹敵する存在か。警戒するだけ無駄だな、私が何をやったところで即座に対処される)

 

 考えるだけ無駄で馬鹿馬鹿しくなった彼女は溜息を吐き、目の前のご馳走をいただくことにした。

 

 しかしレノストがフランメのことを警戒する必要がないと判断した理由は実力だけではない。

 

 もちろんフランメの実力云々の話もあるが、レノストは原作でフランメの人となりを知っており、フランメがこの場でゼーリエが何にも行動を起こしていないのに自分からアクションを起こすはずがないと思っていることも一つである。 

 

 だがそれをフランメが察せよなんてことは無理な話である。

 

 そんな後者の察することのできない考えではなく、前者の考えを軸にしてレノストを改めて見ていると、フランメの目にはレノストが魔族ではなく人間として見た方がその在り方にストンと腑に落ちたような気分になった。

 

(なるほど、師匠(せんせい)が人間みたいな奴と言ったわけが分かった。こいつは自身と身近の人が幸せならいいという主義。どこにでもいる庶民と同じなんだ)

 

 レノストは大層な野望、それこそ人類を絶滅させるとか、魔王になるとか、そんなことをする存在じゃないことをフランメは見抜いた。

 

 故にフランメの中でレノストは警戒するだけ無駄で今のままの立場、魔族にも人類にも味方しない、身内を想うだけの存在であり続けることを願うことしかできなかったのだった。

 

 

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