大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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 別案タイトル:時は(エンデ)



027 時は来た

 エーラ流星群が闇夜を裂き、無数の光が天空を横切る。その壮大な現象は、地上に生きる者すべての目を奪った。だが、それを見つめる一人の元人間の魔族────オレにとって、すでにそれは、ただの自然現象にすぎなかった。

 

「何千年も同じものを見続ければ、ありがたみも薄れるものだな。でも今日だけは、なぜかとても美しく感じる」

 

 オレは呟きながら、研究室の窓から夜空を見上げた。

 

「場所が場所なだけに、よく見えるな」

 

 だがその瞳には、どこか諦念とは異なる色が宿っていた。

 

 オレの長い時間をかけて研究している対象は魔法だけでなく、魔法の根底にある()そのものにまで及ぶものだった。魂の本質を理解し、いかにして魂の力を引き出し、支配できるか。それがオレの追い求めている神秘の一つであり、研究の目的であり、オレが最も興味を持ち、転生の謎であった。

 

 今日もまた、オレの書斎には無数の古文書が広がっている。重い扉を開けると、そこには薄暗い灯りの中でペンを握るオレの幻が見えた。机の上には、数千年に渡る試行錯誤の結果として残された魂に関する膨大なデータが積み重なっている。数千年を生きるオレでさえ、未だに完全な成果を上げるには至っていなかった。

 

 まぁ、もう少したら手がかりを掴めるから。

 

「焦る必要はないか。どうせ時間ならいくらでもある」

 

 紅茶を一口飲むと、オレはまた机に向かう。

 

 その時だった。扉を乱暴に叩く音が響いた。こんなところまで来る客人など限られている。オレは魔力を探ることもせずに扉を開けた。

 

「ゼーリエ、やっぱりお前だったか」

 

 そこには長い金髪を垂らしたエルフ、ゼーリエの姿があった。彼女は神話の時代から続く偉大な魔法使いであり、数少ない友人でもある。

 

「礼儀というものを知らんのか、レノスト。お前のような堕落した魔族でも、多少の作法を身につけるべきだと思わんか?」

 

「まぁまぁ、入れよ。紅茶でも飲みながら愚痴を聞いてやる」

 

 オレは笑いながらゼーリエを招き入れる。彼女は少しだけ不満そうな顔をしていたが、すぐに魂の研究に興味を引かれるような表情に変わった。

 

「まだ続けているのか、魂の研究を?」

 

 ゼーリエはオレを見つめながら、軽く声をかける。

 

「まぁな、終わりがない研究だからな。永遠に近い魔生で求めるにはちょうどいい研究テーマだよ、ゼーリエ。何か用か?」

 

 オレは笑いながら答える。ゼーリエはため息をつき、少しだけ肩をすくめた。

 

「いや、ただの興味本位だ。お前の話を聞いていると、いくら長生きしても退屈はしなさそうだな」

 

 ゼーリエは机の上に並べられた書類をじっと見つめながら言った。

 

「そんなことを言っても、研究が進むわけじゃないだろ」

 

 オレは冗談めかして言い、ゼーリエの顔を見た。その顔には、いつものような冷徹さと、少しだけ優しさが混ざっている。

 

 

 その後、二人は少しだけ互いの過去や今の状況を語り合ったが、何かが変わる予感はしていた。

 

 オレは何気なく、天窓の外を見上げた。流星群が輝いている夜、何かが訪れる予感がする。だが、その予感を言葉にすることはなかった。

 

 その時、ふと魔法的な力がオレの周囲を包み込んだ。魔法の波動が届き、それは間違いなく────

 

「これは……」

 

 その力の源を感じ取ると、すぐに魔法書簡が届く兆しを感じた。扉がわずかに開き、一通の手紙が早坂の手にあった。その手紙は、オレが長年待ち望んでいた知らせだった。

 

「魔王が死んだな」

 

 ゼーリエがその言葉を発した瞬間、空気が一変した。流星群がまるでその知らせに呼応するかのように輝きを増し、二人の間に静かな沈黙が訪れる。

 

「……ついに来たか」

 

 オレはその知らせを受け、深く息を吐いた。何千年も、その時が来るのを待っていた。しかし、今その瞬間が訪れたことで、彼の心にはなぜか一抹の不安が広がった。

 

 ゼーリエもまた、その事実に言葉を失った。魔王の死は、ただの終わりではなく、新たな時代の始まりを意味する。しかし、それはオレが長年続けてきた()()()としての立場を一変させる出来事でもあった。

 

「レノスト、お前はどうする?」

 

 ゼーリエが静かに問いかける。彼女の目には、これまで見たことのないほどの真剣さが宿っていた。

 

「どうするって……」

 

 オレはしばらく黙っていたが、やがて決意を込めた声で答える。それはまるで遠い昔から決めていた決定事項であると言葉に込めて。

 

「これからが本当の時代の変わり目だ。オレは……少しだけ、地上に顔を出してみようと思う。ゼーリエもどうだ? お前も表舞台に立つんだろ?」

 

 その言葉にゼーリエは微笑み、ゆっくりと頷いた。

 

 

 その夜、二人は再び空を見上げていた。流星が空を横切り、新たな星座が描かれる。その瞬間、ふと感じた。

 

「魔王との戦争の激化の時代は、もうすぐ終わる。だが、新しい時代は……どうなるんだろうな」

 

 ゼーリエもまた、空を見つめながら、どこか遠くを見ているようだった。彼女の中に、過去の記憶や、見えない未来の不安が交錯しているのかもしれない。

 

「さぁな。新しい時代が来るとして、私たちはどうするんだろうな」

 

 ゼーリエが静かに言ったその言葉に、オレはただ頷くしかなかった。オレは知っていた、未来を…これから始まる新たな物語には、彼女もまた深く関わることになるだろうことを。

 

 そして、星空の下、二人はその予感を共有したまま、無言で流星群の輝きを見守り続けた。これから始まる世界は、確かに手のひらの中にはない。しかし、それでも歩みは続くのだろう。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 一方その頃、魔王を討った勇者ヒンメルとその仲間たちは、裏道通りでエーラ流星群を見上げていた。

 

「綺麗だな」

 

 ヒンメルが穏やかに口を開く。

 

 だが、隣に立つフリーレンは全く違う感想を抱いたのか場違いな発言をする。

 

「街中だと見えにくいね」

 

「人が感動しているんだ。空気を読みたまえ」

 

「じゃあ次。50年後。もっと綺麗に見える場所を知っているから、案内するよ」

 

 その言葉に、ヒンメルの口元が微かに緩んだ。

 

 フリーレンが次の約束を告げるように言った言葉には、長い旅路を共にした仲間への思いが込められているようにヒンメルは感じた。

 

 彼女は時の流れを超えて、50年後の未来まで見据え、どこか遠い場所でさらに美しい景色を共有しようという決意を込めて話していた。その言葉が、ヒンメルの心に温かなものを呼び起こしたのだろう。

 

 彼はその無邪気な提案に、かすかな笑みを浮かべた。

 

 彼女の言う通り、50年後、100年後も、死んだ後も、彼らの絆は変わらずに続いていくのだということを、心の奥底で感じ取ったからだ。

 

「…ふふっ」

 

「何?」

 

「…いや、なんでもない。そうだな、皆で見よう」

 

 




 過去編はここで一旦終了となります。次章からは原作本編が始まりますので、フリーレン視点が増えることになるかと思いますが、その点についてもご理解いただけると幸いです。長い間お付き合いくださり、本当にありがとうございます。これからも引き続き、皆様に楽しんでいただけるよう努めてまいりますが、更新が不定期になることが予想されます。私生活や他の事情により、しばらくお待ちいただくことがあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。
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