大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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 すみません。レノストを登場させるタイミングが難しく、原作のストーリーを飛び飛びでお届けすることになると思います。読者の皆さんにはご不便をおかけしてしまうかもしれませんが、どうかご理解いただけると幸いです。それでも、引き続きお楽しみいただけるよう努力してまいりますので、これからも応援していただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、どうぞ小説をお楽しみください。



029 格好をつけてみた

 勇者ヒンメルの死から28年後。北側諸国グラナト伯爵領郊外。

 

 静かな夜が広がる中、月明かりに照らされた草原を魔王を倒した勇者一行の魔法使い、フリーレンと魔王直下の大魔族、七崩賢“断頭台”のアウラの二者が対面していた。

 

「久しぶりだね、アウラ」

 

「そうねぇ。80年振りかしら、フリーレン」

 

 風が吹き、遠くで草が揺れる音が聞こえる。フリーレンは冷静にアウラを見据え、問いかけた。

 

「この先の街に行くつもりでしょ。引き返してくれるとありがたいんだけど」

 

 その言葉には、アウラが自分と戦うことを避けてほしいという願いは込められていた。しかし、彼女はすでにアウラがどう答えるかをよく理解していた。アウラが自分に引き下がるわけがないことは、フリーレンにとっては明白だった。

 

 案の定、アウラはその問いに一言で返答した。

 

「嫌よ」

 

 その返事には、一切の迷いがなかった。むしろ、アウラがその答えを即座に口にしたことに、フリーレンは少しだけ目を細めた。アウラはまるで、自分が圧倒的に優位に立っていることを自信満々に示すかのような表情で、フリーレンを見返している。

 

「なんで?」

 

 フリーレンが尋ねると、アウラは満足げに笑みを浮かべて答えた。そして不死の軍勢の数体が、一斉にフリーレンに向かって突進する。それはまるで、アウラが自身の優位性を証明するための見せしめのようだった。

 

 だが、フリーレンはその攻撃をあっさりとかわす。まるで、アウラが自分に対してどんな力を使おうとも、何の驚きもないかのように。

 

「私の方が圧倒的に優勢だから」

 

 アウラはゆっくりと口元を歪め、再びフリーレンを見つめた。その言葉は、単なる自信に満ちた挑戦ではなく、圧倒的な支配力を誇示するものであった。アウラはフリーレンがどんな反応を示すかを待ちながら、その目をしっかりと見開いていた。

 

「そう」

 

 フリーレンは、目の前に広がる不死の軍勢をじっと見つめ、少しだけ息を呑んだ。かつて経験したことのない数の魔法が空気を震わせている。アウラが操る魔法は、これまで以上に巧妙で、圧倒的な力を持っている。目の前の死者たちが異様なまでに整然と並び、彼女の意志に従って一歩一歩進んでくる。

 

「あのときより増えている」

 

 フリーレンはその力をひとしきり感じ取りながら、淡々と言った。

 

「これほどの数を操るだなんて、魔族の魔法はとんでもないね。人類の魔法技術では想像もつかないほどの高みだ」

 

 その言葉には賞賛と同時に、冷ややかな恐怖も交じっていた。アウラが操る魔法は、技術的に素晴らしいものだ。だが、それと同時に、何か違和感を覚える。魔族が持つその力には、常に背筋を寒くさせるようなものがあった。

 

 フリーレンは少し視線を落とし、口元を歪める。

 

「でも、最低に趣味の悪い魔法だ。反吐が出る」

 

 その一言が、空気をさらに張り詰めさせた。アウラは驚いた様子を見せることなく、ただ冷ややかな笑みを浮かべながら答える。

 

「酷い言いようね。せっかく頑張って集めたのに」

 

 その声には、どこか嬉しそうな響きがあった。まるで自分の力を誇示することに何の遠慮もなく、逆にその反応が楽しみであるかのようだった。アウラの目は、どこまでも冷徹で、しかし同時に感情を押し殺した興味深さが滲んでいる。

 

 フリーレンは、ふと目を細めて周囲の不死者たちを見渡す。数十体の死者が、まるで彼女の命令を待っているかのように静かに立っている。その中には、過去に会ったことのある鎧がいくつかあった。

 

「見知った鎧がいくつかあるね」

 

 フリーレンの声は、どこか寂しげで、そして冷徹だった。彼女の瞳が、かつて命を落とした者たちを一つ一つ認識していく。その鎧の一つ一つに、かつての記憶がよみがえり、胸の奥にひっかかるような感情が湧き上がる。それでも、フリーレンはその感情を一切表に出さず、無表情のまま言葉を続けた。

 

「アウラ、やっぱりお前はここで殺さないとダメだ」

 

 その言葉には、冷徹さとともに、決意がこもっていた。フリーレンの目の奥に浮かんでいたのは、アウラへの冷徹な判断だった。一方、アウラはその言葉に反応することなく、ただ不敵に笑みを浮かべた。

 

 一触即発の状態。

 

 だがその時、微かな気配が辺りを包み込んだ。彼の存在が、空気の中に確かに漂っていた。魔力が濃密に感じられるその場で、誰よりもその力を感じ取ることができるのは、その場にいたアウラであり、そしてフリーレンであった。

 

「何か、気配が変わったようだね」

 

 フリーレンは静かに呟く。

 

 その時、異質な存在が現れる。物理法則を無視するかのような移動によって姿を現した男──レノスト。彼の魔力は澱みなく抑制され、微塵も感じられない。空間跳躍の魔法を見なければ、魔法使いとすら認識しないほどの完全な無力化を果たしていた。

 

 魔力探知に優れたフリーレンとアウラでさえも、彼の魔力を全く把握することができなかった。その事実に、フリーレンは僅かに目を細めた。

 

 魔法使いである以上、魔力が完全に探知されないという事態は異常そのものだ。それどころか、魔法使いとして認識できる根拠が乏しい状態だった。 それがどれほど異質で、異常な存在であるかを、フリーレンとアウラは即座に理解した。

 

 レノストは静かに姿を現した。その登場には派手さや威圧感は一切ない。ただそこに現れたというだけで、異様なまでの存在感を放っている。その静寂の力に、フリーレンは少しだけ息を呑んだ。

 

 そして肝心の張本人たるレノストは静かに、その目線で二人を見据えていた。まるで時間が一瞬で止まったかのように、その目だけが、全てを支配しているかのようだった。彼の強さは、ただその存在で証明されている。魔族の中でもその名を知る者はいない、だが、その圧倒的な存在感。力を誇示することなく、ただそこにいるだけで、その場にいるすべての者が息を呑むような威圧感を放っていた。

 

 アウラはその視線にわずかな違和感を覚えた。彼女がこれまでに相対した強者たちとは異なる、何か底知れぬ冷徹さを感じ取る。アウラがこれまでに持っていた自信を崩すような存在感に、彼女の胸は不安に引き裂かれそうになった。

 

「……貴方、誰?」

 

 アウラの問いに答えることなく、レノストは冷ややかに周囲を見渡した。彼の目線が二人の間に圧倒的な緊張感を生み出し、まるで時間が止まったかのように感じられた。魔力が消え去っていることで、かえって彼の存在そのものが異質で、圧倒的な力を象徴していた。

 

 その時、フリーレンは静かに息を呑んだ。以前に出会った頃と見た目は変わらず、あれほどまでに危険な気配を放つ者に対して、彼女が感じた警戒心は今でも忘れられなかった。レノストの姿が見える度に、どうしても心の奥底で何かが引き裂かれるような、強い違和感が襲う。彼は制限を解いたわけでもなく、むしろ魔力を完全に遮断している状態でこれほどの威圧感を放つのは、異常を超えた異質そのものだった。

 

「お前は……」

 

 フリーレンは声を潜め、目を細めながらレノストをじっと見据えた。見た目こそエルフであり、彼女が出会ってきた数多の者とは一線を画す、全く別次元の存在に感じた。以前の出会いを振り返りながら、彼女はあのときよりも強大な威圧感を感じていた。

 

 レノストは軽く息を吐いた後、無表情でアウラの方に目を向ける。そして、彼の表情にわずかな冷徹さを感じ取ったアウラは、心の中で不安が膨れ上がるのを感じていた。これまでの経験から、彼女は自分の優位性を確信していた。しかし、この男──レノストに対しては、全くその自信が揺らいでしまう。

 

「アウラ、本来訪れるはずだった運命を変えに来た」

 

 レノストの声は、何一つ無駄な感情を含んでいなかった。その言葉に、フリーレンは心の中で何かを理解したような気がした。それでも彼女は冷静さを欠かさず、レノストの意図が何であるかを見極めようとし続けた。

 

 その直後、アウラがレノストに向かって鋭く言葉を投げかけた。

 

「貴方は何を言っているの?」

 

 かつてないほどの焦りからか、思わず放ってしまったアウラの魔法は常時展開されている防御魔法によって防がれてしまった。

 

 レノストの支配的な存在には到底及ばなかった。

 

 フリーレンはその場で動けず、ただ黙って二人の間で繰り広げられる駆け引きを見守るしかなかった。

 

「命を奪う気はない」

 

 レノストは冷徹な笑みを浮かべながら、アウラに言った。その一言が放たれると、アウラは思わずその場で身を震わせ、彼の強さに圧倒される感覚を覚えた。

 

 そして、レノストは軽く一歩を踏み出し、一瞬にしてアウラの側まで近寄り、彼女の肩に手を置いた。そのまま、彼女の全身に魔力を流し込み、アウラは次第に身体を動かせなくなった。

 

「君は、私の実験に必要な存在だ。だからこそ、命を無駄にしないようにしよう」

 

 レノストはアウラに向かって静かにそう告げた後、フリーレンを一瞥して言った。

 

「また会おう。そう遠くないうちに」

 

 その言葉を最後に、レノストはアウラを連れてその場から立ち去った。フリーレンはその背中を見送るだけで、何もできなかった。

 

 ────やっぱり、警戒するべき存在だ。

 

 フリーレンは心の中で呟きながら、去って行った彼の場所を見つめ続けた。

 

 

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