大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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032 勇者の剣

 

 

 どうもこんにちは、フリーレンには申し訳なかったが、アウラを回収したレノストです。

 

 アウラを洞窟から屋敷の地下に移したオレだが、屋敷の住人たちには新たな問題が発生していた。屋敷の地下は静寂に包まれている。アウラは洞窟から移され、ようやく人間らしい(?)生活を取り戻したようだった。

 

 そんな中、屋敷の住人の一匹である小町────己をペットであると自負し、誇りすら抱いている猫魈の少女が新たなペット枠としてアウラに奪われると誤解しているのか、小町が一方的にアウラへ嫉妬している。

 

「妾以外のペットなど必要ないじゃろう!」

 

 小町の態度は露骨で、時には意地悪な言動すら見られる。ジブリールが小町に便乗して更に揶揄い、早坂が冷静にその場を落ち着かせて諭す。だが小町の対抗意識は衰える気配がなかった。

 

「……やれやれ。これ以上騒ぎが大きくならないといいが」

 

 そもそもアウラはペットではなく、単なるマウスに過ぎない。彼女はいずれ屋敷の地下に幽閉する。この時間はオレが覚悟を決めるための猶予の時間だ。それを小町が勘違いしているだけなのだが、オレは無邪気に嫉妬する小町の様子を微笑ましく眺めていた。彼女の一方的な感情に実験的な意味合いとしてアウラがどう反応するのかは未知数だったが、今のところ大きなトラブルにはなっていない。

 

 そんな日常の中で、最近はゼーリエの姿を目にすることがなくなった。かつて魔法使いギルドがあった時代の精神を受け継ぐべく、ゼーリエは新たに大陸魔法協会を設立した。彼女がその責任者として駆け回っているのは容易に想像できる。

 

「毎日のように会っていたから少し寂しいが……」

 

 そう思いつつ、長命種としての価値観がオレを無理に寂しがらせない。数年や数十年の別離など、長い時間を生きる者にとってはほんの一瞬に過ぎないのだから。

 

 それでも────ふと、何かに誘われるようにオレの心は動いた。

 

 オレの心の奥底でずっと興味を抱いていた場所へ向かう衝動が高まる。そして、それがフリーレンたちが旅の途中で立ち寄る予定地であることを思い出し、オレは予定を早めることを決意した。

 

「まあ、フリーレン達より先に行っておくのも悪くないか」

 

 そう呟き、オレは旅支度を整えて、出発した。

 

 オレが向かう場所は北側諸国のシュヴェア山脈にて勇者の剣を守護する剣の里だ。その剣の里は、想像以上に静かで厳粛な空気をまとっていた。だがオレはその剣の里には寄らず、直接に勇者の剣へ赴いた。

 

 洞窟の入り口に辿り着いたオレはその中心に鎮座する勇者の剣に魅入る。

 

「あれが、勇者の剣か……」

 

 洞窟を前にしたとき、オレはすぐに異変を感じ取った。

 

 周囲に張り巡らされた、女神の聖なる結界。

 

 その結界は魔族であるオレを明確に拒絶している。

 

 一歩踏み出すたびに肌が焼き付くような痛みが走る。まるで聖なる力がオレの存在そのものを否定しているかのようだ。

 

「痛ッ……」

 

 思わず足を止め、肩で息をつく。結界を越えるのは不可能かと思われたが、何かがオレの前進を許していることにも気づいた。

 

「これは……」

 

 痛みは確かに激しい。それでも、完全に弾き飛ばされるわけではない。

 

 もしかして、女神の結界が想像以上に高性能だったおかげか、オレの中に残る前世の人間要素を認識しているのかもしれない。

 

「ならば……試してみるしかないな」

 

 オレは痛みを堪え、傷ついた箇所を魔法で即時修復しながら、一歩ずつ結界の中に足を踏み入れていった。

 

 剣に近づくたびに結界の力は増していき、足元が揺らぐほどの感覚に襲われる。それでも、剣の前までたどり着いた瞬間、結界の力が薄れるのを感じた。

 

「どうやら、ここまでは許されるらしいな」

 

 オレは勇者の剣を目の前にして立ち尽くした。その輝きには、一種の神聖さと威厳が漂っている。

 

 オレは感慨深くその剣を見つめた。その姿は古びてはいるが、確かな輝きを保ち、周囲の空気を圧倒している。

 

 だが、剣に触れることはできない。いや、触れようとは思わない。それが、この剣に対する敬意というものだろう。

 

「……ヒンメルが、この剣を抜けなかった理由か」

 

 オレの心に浮かんだ疑問は自然なものだった。

 

 なぜ、あのヒンメルですらこの剣を抜けなかったのか。

 

 その理由を考えるうちに、頭の中にいくつもの仮説が浮かぶ。

 

 仮説一つ目として古くからの女神からの言い伝え通り、大いなる災いを撃ち払う存在のみが剣を抜けるという条件があまりに正確であったというもの。

 

 女神が与えたというこの剣。その性質を考えれば、単に力ある者が抜けるわけではないだろう。世界を滅ぼす力を持つ災いが現れたときに、それを討ち払う力を持つ者のみが選ばれる。

 

「……ならば、オレ自身がその災いだという可能性もあるな」

 

 オレは自嘲気味に呟いた。転生者であるオレがこの世界に存在すること自体が、もしかしたら世界の歯車を狂わせる災いとして女神に認識されているのかもしれない。

 

 仮説二つ目は魔族や魔王は世界を滅ぼすほどの存在ではないというもの。

 

 考えてみれば、魔族や魔王は人類にとって脅威であっても、世界そのものを滅ぼす存在とは言い難い。ヒンメルが剣を抜けなかったのは、彼が対峙する相手────つまり魔王が、その基準を満たしていなかったからかもしれない。

 

「……となると、この剣はヒンメルではない別の誰かを待っていた、ということになるのか」

 

 その考えは、オレの中にある漠然とした違和感を生み出した。

 

 仮説三つ目はエルフの武道僧クラフトが真の勇者である可能性。

 

 記憶の片隅に残るクラフト────彼は卓越した技量を持つエルフであり、はるか昔には世界を救ったという。石像でもクラフトらしき人物は腰に帯剣をしていた。ならばクラフトこそが真の勇者としてふさわしいのではないか。彼がこの剣を抜くことで、世界は大きな転換点を迎える……そんな可能性も否定できない。

 

「結局のところ、真実は誰にもわからないか」

 

 オレは勇者の剣を見つめながら、静かに息を吐いた。

 

 勇者の剣は、オレに語りかけるようなことはない。だが、その存在が紡いだ数々の伝説は、確かにこの世界を支えている。

 

 剣の里での用事を終えたオレは、満足感とともに次なる目的地への期待を膨らませながら、亜空間に保管していたある物を取り出す。

 

「さて、次はあそこへ向かうか。そろそろといった頃だろう」

 

 オレの聖地巡礼はまだ始まったばかりであり、再び旅路に立つ足取りは、どこか軽やかだった。そしてオレの手には認定書と書かれている紙がある。

 

 そこにはこう記されていた。

 

 “()()()()()()使()()”────と。

 

 

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