大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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033 特別一級魔法使い

 

 

 どうもこんにちは、レノストです。

 

 オレは今、大陸魔法協会北部支部にいる。目的は、今年の一級魔法使い試験の受験者たち、とりわけゼンゼが試験官を務める“零落の王墓”の合格者たちを確認することだ。

 

 そして今回は、ゼーリエから昔もらった“特別一級魔法使い”の立場を利用し、第三次試験の試験官として関わるつもりでいる。本来の担当であるレルネンには許可をもらっているので、何の問題もない……はずだ。

 

 レルネンとは、彼が初めて一級魔法使いになった頃から、それなりに顔を合わせる機会が多かった。大陸魔法協会の設立当初、組織がまだ未熟で運営が拙かったころ、オレはよくゼーリエに手伝いを頼まれていた。その中で、レルネンとも関わるようになったのだ。

 

 時が経つにつれ、大陸魔法協会の体制も整い、オレが手を貸すことはほとんどなくなった。そして、ここ数十年は協会に立ち寄ることすらしていない。そのため、“特別一級魔法使い”という地位を知る者は多くても、それがオレであると知っているのは大陸魔法協会内ではゼーリエを除きレルネンだけだろう。

 

 そもそも、この“特別一級魔法使い”という地位は、大陸魔法協会の創始者であるゼーリエと同等の命令権と裁量権を持つ、極めて特異な立場だ。制度上は、大陸魔法協会の頂点に立つことも可能なほどの権限を持っている。だが、当然のことながら誰もがなれるわけではない。

 

 元々、この権限はゼーリエが協会を設立した際、オレに与えたものだった。当時は“特別一級魔法使い”という明確な称号すら存在せず、組織の拡大と共に、必要に応じて後付けされたに過ぎない。

 

 とはいえ、一度制度として整えられた以上、理論上は誰でも“特別一級魔法使い”になれる。しかし、その条件は極めて厳しい。

 

 まず、一級魔法使いとして認められてから五年以上が経過していること。そして、ゼーリエ直々の実力と人柄の審査を受けること。この二つの条件を満たした者だけが、初めて“特別一級魔法使い”になる資格を得る。

 

 ……もっとも、最終的な判断はゼーリエに委ねられるため、彼女が認めない限り、新たな“特別一級魔法使い”は誕生しない。

 

 実際のところ、この地位はゼーリエがオレのためだけに用意したものだ。長い付き合いの中で、彼女がオレ以外の者に“特別一級魔法使い”の地位を与えるつもりはないと理解している。

 

 しかし、それだけがゼーリエの目的ではないはずだ。ただの名称整理のために、わざわざ制度として整えるとは思えない。彼女の考えを知るオレからすれば、別の狙いがあると推測できる。

 

 おそらく、ゼーリエの真意は“一級魔法使いのさらに上”を示すことで、魔法使いたちにさらなる向上心を抱かせることにあるのだろう。明確な頂点の存在を示せば、一級魔法使いたちは“その先”を目指し、より研鑽を積むはずだ。

 

 実際、ゼーリエはこうした策略を張り巡らせることに長けている。表向きは公平な制度を整えているように見せながら、実際には彼女の理想とする魔法使いの育成方針が組み込まれている。その結果として、大陸魔法協会は長い年月をかけ、今の形へと成長したのだ。

 

 ……さて、そんなゼーリエが作った試験で、オレはどのように立ち回るべきか。

 

 オレが試験官として関わる理由は単純だ。ゼーリエの膝下で行われる試験ならば、合法的に一級魔法使い志望の受験者たちと戦うことができる。

 

 もちろん、その中には彼女────フリーレンもいる。

 

 オレはフリーレンと敵対するつもりはない。しかし、彼女の実力を知りたいという純粋な興味がある。この世界に転生し、長い時を生きる中で、友人の孫弟子とも言える彼女に出会った以上、どれほどの魔法使いなのか、一度戦って確かめたい。

 

 しかし、ただ勝負を挑むだけでは、彼女にとってオレは“警戒すべき魔族の一人”として認識されるだけだ。いや、すでに警戒されている以上、下手に動けば余計に敵対的な関係になりかねない。

 

 だが、試験という公正な場ならば、堂々と彼女と相対することができる。仮に誤解されたとしても、ゼーリエに弁明させればいい。

 

 ……まぁ、ゼーリエがどこまで説明してくれるかは、また別の話だが。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死から29年後。北側諸国キュール地方。

 

 魔法都市オイサーストの大図書館は、膨大な書物が並ぶ壮大な空間だった。天井まで届く本棚が無数に連なり、魔法使いたちが知識を求めて静かに本をめくっている。

 

 その一角で、フェルンは一冊の厚い本を開いていた。

 

 『大陸魔法協会制度史』

 

 一級魔法使い試験の制度について詳しく記された文献である。目次をなぞる指がある項目で止まる。

 

 『特別一級魔法使い』

 

「……特別一級?」

 

 フェルンは興味を引かれ、そのページを開いた。

 

 『特別一級魔法使いとは、一級魔法使いの中で最も優れた者のみに与えられる称号である』

 

「最も優れた者……?」

 

 フェルンは思わず小さくつぶやく。その声に、近くで別の本を読んでいたフリーレンが顔を上げた。

 

「何かあった?」

 

「フリーレン様、一級魔法使いの中にさらに『特別一級魔法使い』っていう称号があるみたいです」

 

「へえ、そんなのがあるんだ」

 

 フリーレンは少し興味を持ち、フェルンの持つ本を覗き込んだ。

 

 特別一級魔法使いの認定には二つの条件がある。

 

 一つ、一級魔法使いの称号を得てから五年以上が経過していること。

 二つ、大陸魔法協会の創始者ゼーリエによる審査を受け、認められること。

 

「ゼーリエ様が直接審査するんですね……」

 

 フェルンは納得するように頷いた。

 

 ゼーリエ────大陸魔法協会の創始者であり、歴史の中で「大陸最強」と称される魔法使い。その彼女が直々に認定するならば、この称号の重みも納得できる。

 

 だが────フェルンはふと疑問を抱いた。

 

(そもそも、ゼーリエ様がそんな立場を用意する必要があったのでしょうか?)

 

 ゼーリエは大陸魔法協会の頂点であり、彼女の決定は絶対だ。ならば、彼女が自らと同格の地位を定める理由は何なのか。

 

「……フリーレン様。ゼーリエ様が認めた『特別一級魔法使い』って、どんな人なんでしょう?」

 

 フェルンの問いに、フリーレンはしばらく黙っていた。

 

 彼女は本をじっと見つめ、書かれている内容を再確認する。

 

(ゼーリエが……同格と認めた魔法使い?)

 

 フリーレンの脳裏に浮かぶのは、あのエルフの圧倒的な実力。

 

 ゼーリエとはかつて対峙したことがある。彼女の魔力の深淵を垣間見た瞬間、自分との差を痛感した。

 

(そのゼーリエが……誰かを自分と同格と認めた?)

 

 フリーレンの背筋に、冷たい感覚が走る。

 

(そんな魔法使い……この世界にいるの?)

 

 ゼーリエは確かに強い魔法使いを認めることがある。過去にも優れた弟子を育て、一級魔法使いの称号を与えてきた。だが、それはあくまで彼女の弟子としての評価であり、決して対等として認めたわけではない。

 

 だが、“特別一級魔法使い“は違う。

 

 この称号は、ゼーリエが自らと同じ立場を与えた存在────つまり、彼女が自分と対等と認めた魔法使いがいたことを意味する。

 

「……フリーレン様?」

 

 沈黙していたフリーレンを見て、フェルンが不思議そうに首をかしげる。

 

 フリーレンは小さく息を吐き、本を閉じた。

 

「……分からない。そんな魔法使い、私は知らない」

 

「そうですか」

 

「うん。でも、ゼーリエが『同格』として認めたなら……その魔法使いは、本当に強いよ」

 

 フリーレンはそう呟きながら、ゼーリエの顔を思い浮かべる。

 

(ゼーリエが認めた魔法使い……いったい、誰だろう?)

 

 この大陸において、ゼーリエと並び立つほどの魔法使いが存在するという事実。

 

 それはフリーレンにとって、信じがたいことだった。

 

 





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