久しぶりに空き時間ができて執筆できました。拙いかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
一応、読まれる前に言っておきますね。フリーレン、めっちゃ盛ってると思われるかも。
森の中心に立つ二人。周囲の木々すら二人の魔力が放つ震動で根こそぎ揺れている。
フリーレンは杖を高く掲げ、濃紫の霧のような魔力を渦巻かせた。その周囲には無数の細裂光が蠢き、まるで生き物のようにうねる。
一方、レノストは静かに両手を下ろし、深い一礼にも似た型をとる。その瞬間、彼の身体を包んでいた常時防御結界が音もなく強化され、黒曜の結晶膜となって輝きを増した。
レノストは久方ぶりの本気を出しても死なない相手に興奮し、フリーレンはかつてない程の強敵を前に緊張しながらも、その杖を握る手には一切の震えはない。
『
フリーレンの唱え声が森を裂く。杖先から放たれた濃紫の霧は、次の瞬間、数百もの紫電へと分裂して一斉にレノストめがけて襲いかかる。
────だが。
レノストは片手を振るだけで、そのすべてを瞬時に凍てつく風の壁へと変えた。紫電が風壁に触れるたび、氷結の爆音とともに砕け散り、霧散する。
衝撃の振動が大地を伝い、森の奥深くまで轟いた。
レノストはにわかに足元の結界を破棄し、側転で距離を取る。地面を蹴るたび、小石が砕け、草が切り裂かれる。
「流石はフリーレン、派手だな。だが、まだ足りないな」
次の瞬間、レノストの言葉に応えるように彼女は杖を振り下ろすと、目にも留まらぬ速さで地面に走る魔力の溝────魔道紋を描いた。大地が轟音とともに裂け、そこから淀んだ黒炎が噴き上がる。黒炎は渦を巻いて空へ舞い上がり、巨大な“炎の蛇”へと具現化した。
その蛇は牙をむき、レノストへと飛びかかった。
だがレノストは動じず、両手で交差する印を結ぶ。空間が歪み、一瞬だけ炎の蛇の進行方向がずらされる。蛇は虚空に触れ、衝撃もなく消え失せた。
「こんな魔法もあったのか……面白い」
マスク越しに微笑を浮かべ、レノストは咳き込みもせずに次の魔法を展開する。
森の静寂が再び破られ、彼の周囲に無数の赤い魔力結晶が浮かび上がった。結晶は互いに共鳴しながら回転を始め、やがてひとつの巨大な結晶球となる。その内部では深紅の光がちらつき、まるで小さな嵐が渦巻いているようだった。
これは彼が作り上げた魔法の一つ。呪術廻戦における“現代最強”の技の一つを再現したものだ。
「術式反転・赫」
フリーレンは咄嗟に杖を構え直し、その光球めがけて“光の盾”を展開した。だが球が放つ魔力波は盾の強度をはるかに上回り、盾は一瞬で粉々に砕け散る。
解き放たれた魔力の嵐が四方八方へ奔流となって吹き荒れ、地面を抉り、木々を根元から薙ぎ倒す。生き物の悲鳴さえ巻き込んで赤い渦に消えた。
赤い魔力の嵐が襲いかかる────そう悟った瞬間、フリーレンは咄嗟に大地を蹴り、宙を駆ける。背後の木々が轟音と共に吹き飛び、刻一刻と形を変える渦に飲まれまいと抗う。
────胸をよぎるのは、敗北の予感だった。
(このままでは、私が――)
その恐れを振り切るように、フリーレンは心を奮い立たせる。
「呪術廻戦繋がりだ、お見舞いしてやる」
彼は宙に回避したフリーレンを見て、とある技をお披露目するために形を取る。
レノストは両手を胸の前で組み、指先をゆっくりとすり合わせるように動かす。はじめに親指と人差し指で小さな輪を描き、次いで中指・薬指・小指を順に開いて、最後には五本の指すべてが外向きに鋭く伸びる。まるで厨子の扉を開くかのよう。
それを見ているフリーレンは彼が言っていること、成そうとしていることはまるで見当がつかない。ただ、それでも分かることはあった。
(……こいつ、やっぱり)
彼の静かな動きに合わせるように森の気配が一瞬にして凪ぎ、空気までもが凍りついたように静まる。彼を中心に周囲、半径百五十メートルほどの範囲にだけ淡い紫紺の光輪が浮かび上がる。ギリギリ、他の受験者を巻き込まない結界範囲。光輪の縁には古びた経文が断片的に浮かび、風も音も、その結界の外へは届かない。
光輪は次第に六畳間ほどの正方形へと形を変え、床には暗赤色の格子紋が浮かぶ。格子のひとつひとつが小さな厨子を象った凹面となっており、その凹部から黒紫の霧が滲み出し、無数の細かい刃のように研ぎ澄まされた魔力が蠢いている。
「さぁ、オレなりに再現した技。フリーレン、この技をどう凌ぐ?」
ゼーリエ相手にしか抱かないであろうと諦めていた闘争心。それに火がついた彼は少しだけ力加減が緩んでいた。
そして彼が最後の指先をぴたりと揃えた瞬間、暗赤の格子紋が一斉に閃光を上げる。咄嗟にフリーレンは自身を包み込むよう防御結界を張り、それを何十にも重ねる。
「領域展開・偽伏魔御厨子」
そうレノストが唱えた瞬間、空気が裂け、目の前の景色が歪み始めた。周囲の世界が音もなく切り裂かれ、数十メートル先の木々が一瞬にして切り倒され、空間そのものが切り刻まれていった。
空気を切る音もなく、無数の線がその場の空間に交差し、肉眼で見える範囲のすべてが幾何学的に切断されていく。まるで手元にある刃物で静かに、無慈悲に切り裂いているかのように、周囲のあらゆる物が崩れ、消えていく。木々が砕ける音すらなく、ただその領域内で物理的な構造が消失していくのがわかる。
────受験者たちが息を呑んだ
断絶した空間の向こう側に、かすかに揺れるレノストの姿────しかしその姿は、確かにこちらを見据えていた。切り刻まれた森の断面が、まるで額縁のように彼を取り囲んでいる。
フリーレンは荒くなりつつある呼吸を整え、曇りなき瞳で領域の境界を見据えた。彼女の掌に残る微かな震えを、強い意志が押し留める。
そしてフリーレンは上空を見上げ、一級魔法使いの一次試験で行ったような結界の破壊に取り組む。この絶え間なく浴びせられる斬撃自体をどうにか凌ぐよりも、この範囲指定の結界を壊すことに活路を見出した。
フリーレンの掌から現れた光が天井に突き進み、そのままレノストの展開した結界に衝突し、崩壊を始める。
結界を破壊された張本人たる彼はまさか五千年に及び磨いてきた結界が、たかが千年程度しか生きていない魔法使いに破られるとは心の底では思っていなかった。
たが、彼が浮かべる表情は悔しさなんてくだらないものじゃない、人類の可能性を垣間見ることのできた興奮と初めて感じることができた感情への歓喜、そして、その気持ちを抱かせてくれたフリーレンへの感謝だけであった。
(ゼーリエ、これが天地がひっくり返されたって気持ちなんだな。ありがとう、フリーレン)
彼は心の底からフリーレンに感謝する。五千年を生きても体験できていない感情が、気持ちがあったことに気付かせてくれたことに、抱かせてくれたことに。
だから────と。
レノストは感謝の気持ちを込めて、お披露目する。
フリーレンとの戦闘が始まって以来────否、ゼーリエ以外に初めて、彼は、レノストは杖を亜空間から取り出し、構えた。
初めて杖を取り出したレノストにフリーレンはかつてない程の危機感を覚え、魔王戦以上の緊張感が場を支配し、冷や汗が流れる。
「フリーレン、感謝する。」
「……」
フリーレンは何に対しての感謝なのか全く分からず困惑な表情を浮かべる。だが、そんなことは御構い無しにレノストは話を続ける。
「これから見せる魔法はゼーリエにすら見せていない。魔力と一緒に感謝の気持ちを込めて、届けよう」
その言葉を最後にレノストの杖に信じられないほどの魔力が集まる。魔力の圧だけで空間に物理的な圧すら加わったかと思えるほどの魔力濃度。
「これはアウラの魔法があったからこそ作れた魔法でね。そういう意味では君にこそ最初に見せるべきなのかもしれない。まぁ、まだ未完成だがね」
「ッ!」
フリーレンはそのレノストの発言で特別一級魔法使いの正体に確信すると同時に、杖の先端に集められている魔力量から完全なる力の差というものを完璧に把握した。
「さぁ、刮目せよッ! 『
その名を、その魔法を宣告する前に、足元から放たれた光は低く唸るような重厚な共鳴音を伴い、空気を震わせた。熱と振動が肌を焼き、眼前に蒼白い閃光の柱が天へと突き抜ける。森は一瞬、深淵の呼び声のような轟音に包まれた。
そこに込められている魔力量や質からしてレノストの防御魔法すら貫通するほど。
((莫大な魔力量ッ! こんなことができるのは────ッ))
フリーレンとレノストの両者の思いが共通し、突然現れた、フリーレンとは別の膨大な魔力反応へ振り向くと、そこにはレノストにとっては数十年ぶりに見た友人の姿がいた。
「ゼーリエ、どうしてここに」
レノストがそう問い掛ければ、どこか不機嫌そうな表情を浮かべているゼーリエはレノストを一瞥し、フリーレンの方へ目を向ける。
「これで三次試験は途中中断、特例として今年は四次試験を行う。それまで各自待機だ」
周囲の受験者たちが茫然と見守る中、木々のざわめきすら止まったようだった。
「えっと………」
「お前は後で私の元まで来い、やりすぎだ」
「はい………」
こうして、三次試験は大陸魔法協会の創始者ゼーリエの介入により、幕を閉じたのだった。
いや、逆でフリーレンを過小評価しすぎと思われるかも?