どうも、レノストです。
最近、思うが時が経つのが早く感じる。
もうすぐで天脈竜から地上に降りて100年目となる。
最初の90年近くは一人旅を楽しんでいたのだが、ちょうど10年前に珍しい人間と遭遇し、一緒に旅することとなった。
その人間の名前はエーヴィヒ。何処かで聞いたことのある様な名前だが、気の所為だろう。
そいつはオレが異形の姿なのに躊躇わず話しかけてきて、魔法について聞いてきた今の世に珍しい人類の魔法使いだ。
「…だからね、レノスト。君たち魔物の体は魔力が元なんだから、人類と比べて比較的簡単に魔力を使った再生もできるだろうし、だからこそ精神系魔法なんかは逆に工夫すれば効きやすいと思うんだよ」
かれこれエーヴィヒが魔物について語り始めて3時間の時が過ぎている。
最初は興味深い話だったので集中して聞いていたのだが、途中途中に話が脱線したり、急に戻ったりなんかして話が入ってこなくなるのだ。
エーヴィヒとはかれこれ、もう10年の付き合い、こいつは魔法の天才なのだと一緒に旅をしながら思い知らされた。
だが、天才故に欠点があったのだ。
それが人に物を教えたり、語ったり、文章で書いたりするのが絶望的に駄目なことだ。
エーヴィヒの頭の中では整理されているのだろうが、話が飛びすぎるから、オレのような凡人には理解が追いつかない。
だがチョイチョイ、オレでも分かるような凄い話が交じるので聴き逃がせないのである。
それがとても厄介。
まさに天は二物を与えずである。
そんな彼女がある日、自分の考えた魔法を書物として残したいと言った。
だから当然、オレは言ってやったのだ。
「無理だ、諦めろ。お前に言葉での説明や文章の説明を書く才能はない」
「ふふふ、それぐらい言われなくても分かっているさ、レノストくん」
こいつ、自分の欠点を理解した上でオレにしつこく話を聞かせていたのかと怒りが湧いた。
「だからね、僕は考えたんだ。言葉でもなく、文章でもなく説明できる方法を!」
「何なんだよ」
「ふふふ、それはね……絵だよッ!」
「は?」
オレは理解に苦しんだ。この天才バカは何を言っているのかと。
「絵を使えば僕でも書物に残せる! それもただの絵じゃない。絵を使った暗号で書物に残すことによって、後世の人が見つけたときのおもしろ要素となるッ! どうだい、僕の天才的な案はッ!」
オレは彼女の言葉を聞いて、理解するのをやめた。
前世の世界にはこんな言葉がある。
天才とバカは紙一重。
つまりこいつは天才であると同時、どうしようもないバカなのだと、改めて認識したのだった。
「…あっそう。もう好きにすれば」
考えることはやめたオレは投げやりにそう言ってやった。
その数日後、一部完成したと言って見せてくれた魔導書に目を通したのだが、何一つ理解することができなかった。
「なにこれ、絵が下手すぎて分からん」
「なんだとーッ! この天才たるこの僕が描いた絵だぞ。あと、ただ見るだけじゃダメだよ。暗号化しているのだから」
「いや、でも……じゃあ、これなに?」
オレは魔導書に書かれていた絵の一部。
前世でいうところの豚の見た目に素肌が赤色で翼が生えたような生物というかキメラみたいなやつを指して彼女に聞いた。
「あぁ、これ? これはね、紅鏡竜だよ。なかなかの自信作だよッ!」
なんと驚きの紅鏡竜だと言う。
オレの知っている紅鏡竜とは似ても似つかない姿なのだが、本人はこれを紅鏡竜と言い張っている。
「なぁ、この魔導書にはなにが記されてるんだ?」
「それはね……『花畑を出す魔法』さ。僕の渾身作の一つだよ」
彼女の言った魔法を聞いて脳裏に浮かぶのはフランメの好きな魔法であると知った原作のシーン。
どこか感動的で記憶に残っていたその魔法をオレは知りたいと思った。
まさかそれをエーヴィヒが開発しているとは思わなかったが。
「ふーん、いいじゃん。それ教えてよ」
「いいよ。でも珍しいね。レノストがこういった魔法に興味を持つのは」
思えば、オレは今まで開発した魔法や習得した魔法は全て戦闘に関係する魔法ばかりだったと思う。
この世界で生まれ落ちた時、精一杯生きようと考えて自衛手段を磨くのに夢中だったせいだ。
そろそろ別のベクトルにでも目を向けてみてもいいのかもしれない。
それこそ、現時点でのオレを殺せるような奴はゼーリエとごく僅かしかいないだろうし。
オレはそう思い、心の余裕というのを取り戻しているとある疑問が浮かんだ。
「なぁ、エーヴィヒさんや」
「なんだい、レノストさんや」
「この『花畑を出す魔法』と紅鏡竜にはどういった御関係があって一緒に記しているのかな?」
「それはね。紅鏡竜を描きたくなって、ちょっとしたイラストとして描いてみただけだよ。『花畑を出す魔法』となんら関係はありません」
「このバカがッ!! 後世に残す暗号化された魔法書にいらんこと書くなやッ! 未来に見つけた人が困惑するやろうがッ!」
その後、煽り合いとなり、喧嘩することになったのは言うまでもなかった。