大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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久しぶりのレノスト視点です。
ちょっと感覚が鈍ってるかもしれませんが、彼らしさを思い出しながら書きました。
楽しんでいただけたら嬉しいです!



042 知の扉が開く時

 

 

 どうもこんにちは、レノストです。ここ最近は何度も天地がひっくり返る程の衝撃を受けるオレである。魔族として生まれ落ちて長いこと生きたが、ここまで立て続けに驚くようなことが起きるなんて、実に久々だ。

 

 そんなオレは今、ゼーリエを“二週間”お世話する羽目になった期間を終え、屋敷でフリーレン一行を迎える準備をしてる。

 

 ………さて、ここでクエスチョン。なぜゼーリエのお世話期間が長引いたのか。

 

 

 原因はフェルンの面接日の時。あの場で、百年にも満たぬ少女が──まるで千年を超えて魔法に向き合ってきた老練の魔法使いのような、そんな目をしていた。

 

 別に何か言葉があったわけじゃない。けど、あのときのフェルンの視線には確かな“問い”があった。

 

《それ、隠してますよね?》

 

 そう言いたげに、オレをまっすぐ見据えていた。

 

おかげで、言葉が詰まった。オレもゼーリエも、彼女の“才能”に打ちのめされたと言ってもいい。

まったくすでに知っていたとはいえ……怖ろしい娘だよ、あれは。

 

 まぁ、話を戻して。ここからの流れは原作通りにゼーリエはフェルンを弟子にと誘った。フェルンもこれが面接だったことをハッと思い出したのか、オレを観察するのはやめてゼーリエに視線を送る。

 

 そして、ここも原作通り。フェルンはゼーリエの勧誘を突っぱねて、フリーレンの弟子宣言。

 

 流石のゼーリエも彼女の頑固さと言うべきか、意思の固さを感じ、弟子への勧誘を諦めて一級魔法使いの合格を言い渡した。

 

 オレはその時のゼーリエのなんとも言えぬ苦虫を噛み潰したような顔が面白かったからフェルンが部屋から出た後、腹抱えて爆笑してやった………で、何故か刑期が増えたと言うわけだ。

 

 全く、確かに笑ったのはオレが悪いけど………悪いか? 

 

 ゼーリエもオレのこと笑っていたし、どっちもどっちだと思うんだけど。まぁ、それはいいとして。

 

 ここからは二週間。地獄のご奉仕期間ってわけさ。

 しかも、ただの雑用じゃ済まされなかった。

 

 正直言って、この二週間はきつかった。フェルンを弟子にできなかった鬱憤か、それとも最近やっていなくて溜まっていたせいなのか。

 

 彼女との戦闘はそれはもう激しく、三日三晩どころではなく丸々一週間。あの第三次試験の島で飯も寝る間も惜しんで、魔法と拳の応酬。

 

 息を吐けば炎、腕を振れば雷。大地が裂け、空が砕け、互いの一撃が空間そのものを歪ませる。時折、笑って殴り合い、どちらが先に倒れるかを競う。

 

 オレの体力、魔力量から一週間丸々戦い続けるなんて屁でもないことだが、彼女が相手となると違うわけで。今回はなんとかオレが勝てたが、次はどうなることやら。

 

 島を覆っていた結界は崩壊後一歩ってところで、これが破れていたら戦闘の余波だけでも途轍もない災害が本土の大陸に押し寄せていたのは想像に難くない。

 

 まったく、加減というのも覚えてくれないもんかね。それに戦闘後の一週間、ゼーリエは戦闘で疲れ切っているオレをこき使っていろいろな仕事させたあげく、マッサージやお茶汲みなどをやらせて自分だけ休む始末。

 

 オレの苦労も少しは配慮して欲しいところだが、これはオレの罰であるわけなので何も言えずってのが続き二週間後。

 

 屋敷でオレ達は歓迎会の準備をしている。

 

 あ、そうそう今回は早坂を連れ戻して歓迎会の準備を手伝ってもらっている。久しぶりの屋敷での仕事のおかげか早坂も張り切っているようであり、その様子はゴーレムとは思えず人間となんら変わらない。

 

 ジブリールも含めて、彼女たちは既に“機械仕掛けの人形(ゴーレム)”じゃない。

 長い年月と経験、そして自律思考を積み重ねた果てに、今の彼女たちは魂を持つまでに至った。

 

 最初はただの枠組みだった“精神”がいつの間にか意思を持ち、感情を抱き、悩み、喜ぶ。

 

 また彼女たちの体は改造を重ねて、空気中に漂っている魔力を吸収することで半永久的な活動ができるようになっている。

 

 もはや彼女たちはゴーレムではなく、精霊に近い存在となっている。

 

 魂を得た命────さしずめ人造精霊だ。すでに一つの生命体として認識しているオレは彼女たちに自己改造の権限も与えている。

 

 だが、それでも最初に与えた姿を今も保っているのは────きっと、オレへの忠誠の表れだ。

 

 ………本当に。

 

 オレには、もったいないぐらいの家族だ。

 

「マスター、この掛け軸はどこに垂らせばよいでしょうか?」

 

「それは玄関だな。扉を開けたら、すぐ目に入る場所に頼むよ」

 

 静まり返った屋敷。

 だが、どこか華やぎがある。

 早坂の動き、ジブリールの気配、漂う空気の微かな揺らぎ────どれもこれも、彼女たちの“命”を確かに感じさせるものだ。

 

 歓迎の準備は万端………さて、招待状も、きっともう届いている頃だろう。

 

 少しばかりの、サプライズも仕込んであるしね。

 

 反応が楽しみだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 春の空気は、まだ薄く冷たい名残を残していた。

 街路の喧騒が遠くにぼやけ、宿の一室は静寂に包まれている。

 

 旅の途中、束の間の休息を取るために滞在していたこの街で、フリーレンたちは“それ”を受け取った。

 それとは、一通の手紙────魔族レノストからの招待状である。

 

 大陸魔法協会での試験において、一度は命を懸けて対峙した存在。

 だが同時に、ゼーリエと並び立つ知性と力を備えた魔族。人を襲うこともせず、知の探究のみに生きるという、異質すぎる存在。

 

 フリーレンとフェルンは、試験の最中に一度だけ体験した。あの魔族の転移魔法を。

 それは空間が裏返り、呪いのような違和感を伴い、常識を越えた瞬間移動だった。

 

 その魔法が────今、再び、発動しようとしていた。

 

 机の上に置かれた羊皮紙が、ふるりと震えた。

 

 風は吹いていない。窓も閉まっている。だというのに、その手紙は、まるで自らの意思を持つかのように微かに震え、再び淡く光を帯び始めた。

 

「……魔力の反応」

 

 フェルンが低く呟く。フリーレンは声を返さず、ただ目を細めて手紙を見つめていた。

 

 羊皮紙の上に刻まれていた文字が、音もなく消えゆく。

 まるで、読むべき言葉が既に終わったことを示すように。

 

 そして────新たな文言が、何者かの意志に導かれるように浮かび上がった。

 

『────準備はいいか?』

 

 その瞬間、手紙が眩い光を放った。

 

 部屋の空気が変わった。重く、沈み込むような魔力の流れ。次の瞬間、手紙が金色の閃光を放ち、三人の足元に幾何学的な魔法陣が瞬時に展開される。

 

「なっ、なんだこれ!?」

 

 シュタルクが後退ろうとするが、すでに遅かった。空間そのものが歪み、足元がまるで水面のように揺らぎ始める。空気が軋み、感覚が混濁していく。

 

「……レノストの転移魔法だ。あのときと同じ」

 

 フリーレンが短く告げる。声は平静だが、その奥に微かな緊張が宿っていた。

 

 陣が脈動し、光が天井へと立ち昇る。光柱が三人を包み込み、その輪郭が歪み始める。

 

「まさか、こんな……勝手に発動するなんて……!」

 

 フェルンが目を見開く。だが、もはや抗うことはできない。

 

 空気が跳ねるような音がし、空間がねじれる。

 

 地面を踏みしめていた感覚が一瞬で消え、世界の重力が反転したような錯覚に包まれる。骨の内側まで浸透するような冷たい魔力の奔流が、身体を抜けていった。

 

 転移魔法。だが、それは二度目であろう慣れることはない根本から異なる“呪い”の領域だった。

 

 フリーレン、フェルン、シュタルクの三人が目を開けたとき────そこに広がっていたのは、まるで夢の続きを見ているかのような光景だった。

 

 濃紺と金の空に浮かぶ、巨獣の背。悠然と横たわる天脈竜の背中には、大地のような厚みがあり、わずかに脈動しているのが感じられる。その上に建てられているのが、あの“天空魔道図書館”だった。

 

 巨大な白い塔と、幾何学模様を刻んだ石造りの建物群。それらが龍の背の曲線に沿って整然と配置されており、空中に浮かぶ城ではなく、“大地に根ざした幻想”と呼ぶべき威容だった。

 

 塔の頂には宙に浮く魔法陣が刻まれ、光の文字がゆっくりと回転している。それらは静かに空間の歪みを保ち、図書館そのものを異空間と結びつけているように見えた。

 

 「……まるで、神殿……」

 

 フェルンが呟いた言葉に、誰も反論しなかった。それは崇拝や信仰という意味ではなく、“知”への畏敬を捧げる空間として、あまりに相応しかったからだ。

 

 「ここが、あいつの……」

 

 フリーレンは、静かに言葉を呟く。すでに空気が違う。魔力の密度が異様に高く、なのに息苦しさを感じない。むしろ澄んでいて、感覚のひとつひとつが研ぎ澄まされていくようだった。

 

 今ならこれまでより魔法を上手く扱えるのではと錯覚するほどだった。

 

 そして、その扉が静かに開いた。

 

 軋み一つ立てず、完璧な機構で開かれた重厚な扉の奥から現れたのは、三人の存在だった。

 

 一人は、漆黒のメイド服を纏った女性。金色の髪をひとつに結び、知的な瞳でフリーレンたちを迎える。

 

 「……ようこそ、天空魔道図書館へ。レノスト様より、お三方のご到着を賜っております」

 

 丁寧に一礼する彼女────レノストがこの日のためにゼーリエから取り戻した早坂が、静かな声で言った。

 

 その隣には、黒髪の女性が控えている。だがその瞳は、人ではない何か。三本の黒い尻尾が、無言の威圧を放っていた。

 

 「来たのじゃ」

 

 飄々とした口調で笑う少女、小町。まるでこの異空間の支配者かのような振る舞いだ。

 

 そして最後に現れたのは、薄く発光する羽を持つ、書物の気配を纏った女性。静かに、だが圧倒的な威容で彼らを見下ろす。

 

「ようこそおいでなさいました。レノスト様の命により、館内のご案内を務めさせていただきます。ジブリールと申します」

 

 フリーレンは、この図書館がただの魔族の住処ではないことを悟る。

 

 知識、魔力、歴史、魔族と人の境界。

 

 その全てが、今、この場所で交差しようとしていた。

 

 

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