大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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004 秘めた思い

 

 

 どうも、レノストです。

 

 前回も言った気がしますが時が経つのは早いですね。

 

 全くもって愉快愉快です。

 

 エーヴィヒと出会って既に20年近くが経過しました。

 

 現在でも一緒に旅をしています。

 

 最近、彼女も女の子なのか皺を気にするようになっています。

 

 やっと淑女らしさが出てきたか、とはオレの正直な思いである。

 

 魔法でそこら辺は解消しているらしいのだが、どうやらいつまで経っても若い姿のままでいるオレを羨んでいる様子で。

 

 ついこの間、魔法の価値観の違いで言い合いをしていた時にオレがポロッと年齢に関する煽りをして殺し合いにまで発展したガチ喧嘩をしてしまった。

 

 これに関してはオレが熱くなりすぎての失言だったので素直に土下座をしたのだが、数ヶ月くらい口を利いてくれなかったので超気まずかった。

 

 彼女はもうすぐで四十路だ。

 

 オレとしては全然まだ若いと思うのだが彼女にとっては違うらしい。前、同じようなことを言ったら長命種と人間を一緒にするなと怒られた。

 

 確かに最近、魔法でも誤魔化しきれないほどシワが目立ってきたが、元々の顔の造形が良いのだからそこまで気にするほどでもッ!

 

 

 ……おっふ。

 

 エーヴィヒがこっちに視線を向けてきた。その視線の中に殺意が混じっていたのは気のせいだろうか。

 

 怖いなー。

 

 彼女は歳を得るごとに段々と騒がしさがなくなっていき、落ち着きある威厳で美麗な人となっていたのは間違いないのだが、その分怖さが増していっている。

 

 やはり女は怖い。ゼーリエとかともう数百年以上は会ってないのにいまだに怖いもん。

 

 いや、ゼーリエへの怖さとかはベクトルが違うか。

 

「ねぇ、レノスト」

 

「はいッ!」

 

 ついさっきまで変なことを考えていたせいで声が裏返ってしまった。

 

 今もずっとオレを見つめる視線の中には呆れと疑惑が感じ取れる。

 

「…はぁ、もういい。それより、完成したわ」

 

「な、何が?」

 

 オレを確実に殺すことのできる魔法をかな?

 

 だったらオレも奥の手を出すしかなくなる。

 

 その技の名前はローリングサンダー土下座である。

 

 魔法と持ち前の身体能力によって華麗な技として完成したオレの最終奥義だ。

 

 さぁ、オレの最終奥義をとくとご覧あれ────

 

「魔力で体が構成された生物の心を操ることのできる魔道具ができた」

 

「えっ…」

 

 マ・ジ・で・す・か!?

 

 あまりのも衝撃な発言にローリングサンダー土下座が不恰好な状態で止まってしまった。

 

 せっかく華麗に決めようとしていたのに。

 

 

 …って、そんなことはどうでもよくて。

 

「本当?」

 

「本当だ」

 

「わーお、すごいね。それを誰に使うつもりなのかな?」

 

「………誰にも使う予定はない」

 

 …最初の無言の時間が気になる。

 

 だが、そうか。彼女は完成させたのか。

 

 昔、それこそ10年ほど前に彼女はオレたち魔族、いわゆる魔力で体を構成された存在に対する精神系魔法の影響力について語っていたが、これほど早く完成させてしまうとは。

 

 人類と起源や精神構造の全く違う別の知的生命体である魔族ですら支配できるのか。

 

 確かに彼女はできるとそう明言したわけではないが、彼女は天才だ。

 

 彼女が完成と言った以上、そこら辺の実験は済ませているのだろう。

 

「それが完成したってことは次はどんなものを作るんだ?」

 

「そうだね……最近は戦闘に関する魔法ばっかり作っていたから民間魔法でも作ってみようかな。手伝ってくれるな、レノスト」

 

「まぁ、良いよ。たまには気分転換に別のことに手をつけてみようかな」

 

「そうか」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 魔力で体が構成された生物の心を操ることのできる魔道具が完成した日の夜。

 

 皆が眠る時間帯に彼女はレノストの部屋で彼の寝顔を見ていた。

 

(羨ましいよ。いつまで経っても変わらない君が。だからこそ安心できるというものだが)

 

 眠る彼の頬を彼女は愛おしいものを触るように優しく撫でていた。

 

 彼女の容姿は20代後半の状態を維持しているが、確実に寿命が迫ってきているのを感じ取っていた。

 

(後、10年生きられたら奇跡だな)

 

 目の前で眠る彼────レノストと出会う前に彼女はとある魔族との交戦で心臓に呪いをかけられていた。

 

 術式構造が人の理を超えているため、いくら天才たる彼女であっても解析すら不可能。

 

 ただ、魔法を駆使して呪いの進行を遅らせる程度の妨害はできている。

 

 これもまた彼女が天才であるからこそ解析不可能な呪いになんとか対処できていたのだ。

 

(お前はいつまで経っても僕の気持ちを理解していないね。本当に鈍感なやつだ…まぁ、そこが可愛いところなのだがな)

 

 今度は頬ではなく、生まれた頃とは比べ物にならないほど大きくなった立派な山羊の角に触れる。

 

(レノスト、本当はとっくの前に完成していたのだよ。魔力で体が構成された生物の心を操ることのできる魔道具は。君には恥ずかしいから言わないがね)

 

 そう、本当は彼に10年ほど前、彼女はレノストたち魔族、いわゆる魔力で体を構成された存在に対する精神系魔法の影響力について語っていた一年後にはできていたのだ。

 

 運用実験も彼が眠っていた夜に襲ってきた(誘き寄せて襲わせた)魔族を相手に試してちゃんと動くことを確認していた。

 

 

 ここで疑問になってくるのは、なぜこんなものを彼女は作ろうと考えたのか。

 

 その理由は単純。

 

 彼の心を操り、エーヴィヒへの恋心を芽生えさせるといったとても卑怯な手段であり、最低最悪な所業を行おうとしていたからだ。

 

 だが、いざ使う直前でいや待てと心の底に残っていた理性で留まることができ、深く考え直して封印していたものだった。

 

(僕の生涯で最も面白くて、最も大事な魔法研究の仲間で、最も愛した男よ。君は知らなくていい。僕と違って君は長生きだ。いずれ僕という存在が君の長い()生の足枷になるかもしれない)

 

 だからと────彼女は思う。

 

(…僕の恋心なんて気づかなくていい。僕は君が幸せに生きていればそれで良いのだから)

 

 そこにいたのは一人の男を想う、一途で儚い女の姿だった。

 

 

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