大魔族の彼は人生を謳歌する   作:HIIRAGISHIYU

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005 別れと出会い

 

 

 エーヴィヒが死んだ。

 

 彼女と出会って38年後の冬に眠るように亡くなっていた。

 

 死んだ後に気づいたが、心臓付近に呪いらしき痕跡が見られた。

 

 彼女が生きている間は彼女自身が隠蔽して呪いのオーラを体外に出ないように抑えていたのだろう……常日頃から。 

 

 己の不甲斐なさに怒りが湧いてくる。

 

 己の間抜けさに心底呆れる。

 

 もう少し早く気づいてさえいれば対処できたのかもしれない。

 

 そう考えられずにはいられない。

 

 

 

 ……いや、そんな嘘を騙るのはやめよう。

 

 解析したからこそ分かる。

 

 彼女を殺したという観点を除けば、彼女を殺したこの呪いはとても素晴らしいものだ。

 

 全く、誰が開発したのか気になるものだな。

 

 この呪いを解呪するにはエーヴィヒと協力しても最低100年ぐらいは必要だろうことが分かる。

 

 解呪より先にエーヴィヒが寿命で死んでしまう。

 

 彼女もそのことがわかっていたからこそ、オレに呪いのことを言わなかったのだろう。

 

 ここでオレが死者を蘇らせるような奇跡みたいで、お伽話の世界でしか存在しないだろう魔法を扱えていたらよかったのだが、あいにくとオレはそんなものを持ち合わせていない。

 

 葬送のフリーレンの世界の魔法は魔力操作、魔力出力、術式への理解とか色々な要素が大事なのだが、何より大事なのはイメージだ。

 

 

 オレは死者の蘇生をイメージできない。

 

 何故なら死から蘇生したオレという存在が邪魔をしているからだ。

 

 オレは転生をした。それは確かなことだ。薄れてきてはいるが前世の記憶は持っている。

 

 では、なぜオレは読んでいた漫画の世界に転生することができたのか。

 

 それの原因がわからないからこそ、死とは何なのか、魂とは何なのかが余計に分からなくなり、死と魂の概念のイメージができないでいる。

 

 あやふやにイメージしていた死を経験し、魂に触れてしまって本当にあるんだと確立したからこその疑問と矛盾があやふやに抱けたイメージを阻害しているのだ。

 

「…クソッ」

 

 そんなセリフしか出てこない。

 

 思えば、この長い人生の中でこれほど長い時間を人間と一緒に過ごしたことはなかった。

 

 言うなればこの世界に来て初めて大切なものの死を経験したということだ。

 

 普通なら涙が出るのだろうか、自責の念に苛まれるのだろうか。

 

 なのにオレは────

 

「なぜ、涙すら出ないんだ」

 

 その日、本当にオレは人間じゃなくて魔族なんだと心から理解した。

 

 

 呆然と立ち尽くして数時間後、彼女の亡骸に『服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法』をかけて、保護魔法を施し、彼女が生涯をかけて書き記した魔導書と一緒につくった墓所へ置いてきた。

 

 墓所の周りには彼女と協力して作った結界魔法を張ったので、数千年は大丈夫だろう。

 

 もう少しこの場にいたいが、そうはいかない。

 

 オレの右手に持っている彼女の遺言書が正しければ、もうすぐでこの地に()()()がやってくる。

 

 彼女はオレが知らないうちにあの人と出会っていたらしい。

 

 あの人が来てくれるかは分からないけど、もし来てしまったら確実に戦闘になると彼女の遺言書には書かれていた。

 

 早く離れよう。

 

 …おっ、頭の中でアラームが鳴った。

 

 なんてちょうどいいタイミングなんだ。

 

 空を見れば見覚えのある天脈竜の姿が朧げながら見えた。

 

 オレは改良を施した飛行魔法で天脈竜へと向かう。

 

「家に帰ってもやることはいっぱいだ。オレは彼女から学ばなければならない。しばらくは呪いへの対抗策を考えよう」

 

 新たなる決意を胸に128年ぶりに我が家へと帰るのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 レノストが去って1時間後、エーヴィヒの墓所に人影が映る。

 

 腰まで伸ばした金髪に特徴的な尖った長い耳。

 

 そう、生ける魔導書と呼ばれるエルフのゼーリエである。

 

 普段はもっと覇気があるその背中はどこか弱々しく、寂しさみたいなものを感じ取れた。

 

「…逝ったか」

 

 彼女の脳裏によぎるのはエーヴィヒと初めて会った時のこと。

 

 それは偶然だった。たまたま近くを通り過ぎた時に強大な魔力を探知したのだ。

 

 最初は魔物かと近付いてみれば、変な石の腕輪を魔物につけて実験しているエーヴィヒの姿があったのだ。

 

「何をしている」

 

「うぇ、びっくりした。おかしいな、人払いの結界を張っていたのに……いや、君はエルフか!」

 

「あぁ、そうだ…そんなことよりそれはなんだ」

 

「何って、実験だけど?」

 

「なに?」

 

 エーヴィヒの発言を聞いて、流石のゼーリエも驚いてしまった。

 

 目の前で行われている所業はゼーリエでさえ不可能な魔物の完全なる使役術だったのだから。

 

 人類と起源や精神構造の全く違う別の知的生命体の心の操作を目の前の存在は可能としている。

 

 それはとても驚くべき偉業であり、それを人間が作り上げたとしたら、とてつもない才能である。

 

(側から見ても感じ取れる魔法の才能……)

 

 初めて会った自分と対等と感じる才能の輝き。

 

 だからこそ思わず、無意識に口が動いていた。

 

「お前、私の弟子となれ」

 

「やだ、友達にならなってあげるよ」

 

 即断かつ、さらに向こうから提案してくる始末。

 

 流石のゼーリエも急速に繰り広げられた展開に笑みを浮かべてしまう。

 

(なんとも珍しい人間だった)

 

 それがゼーリエとエーヴィヒの初めての会話であり、出会いであった。

 

「この結界……エーヴィヒが張ったものじゃないな。いるのか、お前と同等のやつが」

 

 レノストが張った結界に触れて、その術式構造を見抜く。エーヴィヒとは違う、別の者の癖が混じっているのを。

 

 そして驚く、エーヴィヒらしい癖のある術式の中に混じるどこか見覚えのある術式の癖を。

 

(あの時の角付きと同じ……やはり生きていたか)

 

 殺したと己の目で確認したというのに、第六感ともいうべき証明しようもない違和感が胸を燻っていたのだが、その痼りが取れてスッキリした気分だった。

 

 長年、答えの出なかった問題が解けたような顔をした彼女はすぐにその表情を変える。

 

 次にゼーリエは新しいおもちゃを手にしたような顔して、エーヴィヒの墓所を背にその場を去って行く。

 

 ゼーリエが去っていった後にはエーヴィヒの墓所の周りにさっきまでなかった辺り一面の花々が色を競い合っているように咲いており、どこか幻想的で美しい景色となっていた。

 

 それが不器用な彼女なりの弔いなのだとエーヴィヒがその場で実際に見ていていたら察してくれていたのだろう行動であった。

 

 

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