オレは悪くない、世界が悪い。
どこかの捻くれたアニメキャラの主人公が発言したものだ。
愛猫の小町を見て、その発言を思い出した。
だからこそ、今の惨状はオレが悪いわけではない。
目の前に広がるのは魔道書で散らかった部屋。
オレが魔導書を読んではほったらかして、小町がまたさらに散らかす。
その悪循環がこの惨状を生み出したのだ。
もはや木製の床が見えず、足場がない。
家の中で飛行魔法を使うことになるとはオレが家を作った時には想像すらしていなかったことだ。
……ん? 小町がお前が悪いぞ、みたいな目でオレを見ている。
いやいや、小町も散らかしてるからね。
あれ? 小町が枕にしている魔導書はいつの間にかなくなったと思っていた、『タンスの角に小指をぶつけなくなる魔法』が記されている魔導書じゃないか。
そんなところにあったのか。
……おい、やめろ。小町、やめろ。
その魔導書に記されている魔法はオレが編み出した最高傑作の一つだぞ!
燃やそうとするな!
魔導書を燃やすことを部屋のお掃除とは言わないんだぞ!
やめろーーー!
……ふぅ、危なかった。
間一髪で小町を眠らせることができてよかった。
また、小町に魔導書を燃やされそうになるのはたまったもんじゃないから、そろそろ図書館みたいなのをつくって、本を管理する存在を作らなければ。
このままじゃ、知らんうちに汗水垂らして集めた魔導書やエーヴィヒが残した魔導書、オレ自身が書いた魔導書のどれかが知らないうちになくなっていたみたいなことになりそうだ。
そして慌てて探す未来の自分の姿が容易に想像できる。
オレは今年で2000歳の大魔族。エーヴィヒと一緒にいた時間を除けば、その殆どの時間をボッチで過ごし、その殆どの時間を魔法の研究と戦士の鍛錬に注ぎ込んだ。
自分で言ってて悲しくなってくるが気にしないとして、なのになぜ、オレは掃除ができないのか。
オレはもはや、一人暮らしのプロと言っても過言じゃない。
なのに、前世の数十倍もの年月を生きているというのに掃除ができないのは前世の頃から変わらない。
この長い年月ですらオレの欠点を直すには至らなかったか。
無念だ……まぁ、改善する気もないのに直るわけないか。
時間と未来の自分に期待しすぎたようだ。
もういっそのこと、なんか部屋が綺麗になる魔法でもつくるべきか。
でもなぁ、この世界の魔法はイメージが大切だから、オレは部屋が綺麗になっていく状況を想像できないんだよな。
…やめやめ、作れもしない魔法を考えるのはよそう。
それより元々の話題である本を置く場所と管理する存在について考えなければ。
どうするべきか。
実際のところ、天脈竜の背中は広いので図書館を置く場所はあって、その建造物を造るのも苦じゃない。
問題はそこを管理する存在がいないということ。
『ゴーレムをつくる魔法』で作ってもいいのだが、あれはただの土塊や石塊できた不恰好なゴーレムしかつくれないから、やはり今回も自分で新たな魔法を作るしかないのか。
まぁ、今回新しく作ろうとしている魔法は今やっている研究に関係しているし、『
……あ、小町起きたのか。はいはい、餌の時間ね。
ちょっと待ってね、今書いているページが終わったらあげるから。
おい、待て! ごめん、今すぐやるから魔導書を燃やそうとするんじゃない!
……はぁ、焦った。
全く誰に似たのか我儘なやつだ。
◇◆◇◆◇◆
遥か古来より伝説として語られている御伽噺がある。
曰く、それは魔法を学ぶ者にとって目指したい場所であり、夢のような場所でもあると。
曰く、天空に存在する空を飛ぶ図書館は神話の時代から現代まで存在していた魔法の数々が記された魔導書が一生をかけても読みきれないほどあると。
それを見たものは存在せず、正確な場所も把握されておらず、ただの眉唾物の幻の図書館であると現代の魔法使いは思っている。
だが、それでも一部の魔法使いはあると信じて追い求めている者がいるのも確かだ。
なぜ夢と割り切れないかというと、どんな魔法も最初はいつだって御伽噺であり、魔法使いは御伽噺を現実にしてきた者達だからだ。
もう一つの諦めきれない理由として、伝説として語れる御伽話の最後にはこんなことが語り継がれていたからである。
【その魔導図書館を見つけし者、この世の真理に辿り着き。魔の神と天より使わした存在に出会えるだろう】────と。