顔のいい女にちょっかいを掛けるため女装してデスゲームをします 作:空色
恋愛というのは時折、人を狂わせるものだと思う。なぜこんなことを思っているのかといえば、1人の少女に一目惚れしたのがきっかけだ。
顔立ちは整っているが、血の気の薄い肌と長い髪、痩せ型、どこか非現実的な存在感が相まって幽霊のような雰囲気を放っている少女だった。
しかし、どんな美少女より魅力的に映った。
結果、デスゲームに女装して参加しているのだから全くもって人生はよくわからないものだろう。
俺はいわゆる転生者という生き物だ。前世の記憶を持っていることといわゆる転生特典があること非常に中性的な容姿をしていること以外は、普通の人間である。
転生後しばらくは変装をして配信者をしていた。もちろん学校にも出ていたが、出席日数がやばくない程度に休み配信を続けた。顔の良さと転生特典で賭け事とかゲーム配信をすることでそれなりの話題性があったようだ。しかし、満たされない日々が続いていた。のめり込めるものがなかった。
ひょんなきっかけでとあるゲームとの出会いが俺を非日常に引っ張り込んだ。
いわゆるデスゲームというやつだ。このデスゲームで俺が生き残り続けることができたのは、間違いなく転生特典があったからだ。
5分間、無双状態になれるというのが簡単に言うと俺の転生特典であり、詳細に言うのであれば5分間自分が疑問に思ったことへの最適解が頭の中に提示されるのだ。
一つ具体例を挙げるとするならば、テスト問題の解法は全くわからないが答えだけが頭に浮かんでくるといったような能力であり、これは 殺し合いにも有用。どう動けば相手を殺せるのか が頭に浮かんでくるのだ。
ちなみに俺はなぜこの美女美少女しかいないゲームに、参加できているのかわからないが、きっと中性的な容姿とメイクによって俺が少女にしか見えないからだろう。もしくは運営側にコアな性癖を持った変態がいるに違いない。そして、俺がゲームに参加し続けられている理由は簡単だ。生き残っていることとゲームが盛り上がるように立ち回っているからである。
時には不利な勢力に力を貸し、時には人気が高いであろう 少女に力を貸し、時には劇的なタイミングで有利な勢力を裏切る。
そして自分の師匠の敵をドラマチックに殺すなど、様々なことを行ってきたわけだが、
栄光と破滅を走る少女を美しいと思ったのだ。1回参加するだけでも死にかねないデスゲームを99回クリアすると叫んだ無謀で美しい幽霊に魅せられた。
初回はスリルと賞金そして顔のいい女を見るためだったが、幽鬼という少女を見て癒されるために変わっていた。
幽霊のようなこの少女に信用され、劇的な状況で寝返りその顔を歪ませたくなったのだ。
幽鬼はさざ波の音で目を覚ます。 木造の部屋だった。大きさは、幽鬼が普段通っている、夜間学校の教室ひとつ分ぐらい。板張りの床、壁、天井で区切られた空間に、キッチンやトイレ、シャワールームなど一通りの設備と、冷蔵庫やタンス、机にソファに絨毯など、一通りの家具が揃っている。
その家具のひとつであるベッドの上に、幽鬼は眠らされていた。やはり木で作られているそれを見つめながら、こういう部屋のことをなんというのだったかな、と幽鬼は考えた。ログハウス、ペンション、ヴィラ、それともロッジとかコテージとかだろうか。
とりあえずここではコテージと呼ぶことにして、そのコテージが海の近くに建っているものであると、幽鬼は即座に見抜いた。潮騒の音が聞こえていたし、綺麗な青色が窓から差し込んでいたからだ。
ゲーム開始時、幽鬼の目覚めはいつも遅い。 エージェントにゲームの舞台へと送迎してもらう際、開催場所の特定を防ぐために睡眠薬で眠らされるのだが、その薬品の効きが異様なまでによすぎるのだ。もう四十四回もゲームを続けているのにもかかわらず、その体質には少しばかりの改善も見られなかった。一人暮らしを始めたばかりの大学生のように、今回もぐうぐうと幽鬼は眠りこけていた。だから即座に反応できなかった。
「ハァ~、たまらん。今日も推しの顔が最高だ」
そこには不可解があった。少女にも少年にも見える。人間にも精巧な作り物にも見える男の娘。
「………幻音がいることに疑問を持てない自分が怖い」
昔は少女の部屋に侵入する変態に苦言を呈していたのだが、最近は慣れた。もはや違和感がない。そこに存在するのを確かめるように幽鬼は幻音に左手を伸ばし髪を摩る。
「今何回目ですか?」
幻音はそれをゲームの回数だと判断し、答えた。
「57だ。幽鬼は?」
「44回目です」
幽鬼は目の前の男の娘に手を伸ばし頬を摩る。頬に触れている手からは彼の暖かな体温が伝わってくる。
「順調そうだな。水着も似合ってるし、最高だぜ」
「どうもです、何で幻音はパーカー何ですか?」
「さぁ?運営に聞いてくれ。流石に男に女物の水着はやばいからじゃないか」
「今更でしょ」
ノックの音が響く。扉を開けると見知った顔がいた。過去のゲームで出会ったプレイヤー、藍里だ。
「どうも」
いつかと同じような挨拶を幽鬼はした。
「また会いましたね、幻音さんも」
と藍里は答えた。
言葉に困り、幽鬼は藍里を観察した。 陶器のような肌が、惜しみなくさらされていた。水着姿だった。軽く下に引っ張ったら剥がせてしまえそうな、オフショルダーのもの。両足は素足でもサンダルでもなく、足先までしっかりと覆われた、海用のシューズだった。
「あの………それ、よく似合ってるね」
そう呟いた幽鬼に対し藍里は、自分の水着を触って、苦い顔をした。
「幽鬼さんこそ」
外に出るとビーチには複数のコテージが設置されていた。全部で9つ、横一列に、等間隔で並ぶ。
幽鬼が寝かされていたのは、向かって右端のコテージだった。そのふたつ隣──右から三番目のものを指差して、藍里は言う。
「あそこが、私のコテージです」
「それぞれに、一人ずつプレイヤーが配置されていると見ていいでしょう」
「プレイヤー数9名か………」
コテージと同じ数を、幽鬼は言った。 藍里は、さらにふたつ左隣のものを指差した。
「あれが、古詠さんっていうプレイヤーのコテージです。会ったことありますか?」
聞き覚えのない名前だったので、幽鬼は首を振った。
その視線の向かう先──左端のコテージから、二人のプレイヤーが出てきた。豆粒にしか見えないぐらい距離があったので、人相まではわからなかったが、その肌面積の割合から、二人とも水着姿であるということがわかった。 二人は、そのまた隣のコテージへと向かう。
「古詠さんは左から、私は右から起こしていく段取りなんです。私たちも急ぎましょう」
藍里の歩く速度が上がった。幽鬼も速度を上げた。歩いて数分で、右から二番目のコテージに着いた。藍里が扉をノックすると、おそらくはすでに起きていたのだろう、コテージの主はすぐに扉を開けてくれた。
小学生ぐらいのプレイヤーだった。年齢相応の、ワンピースタイプの水着を着ている。人形のような表情のない顔をしていて、今にもふわふわと浮かんでいきそうな、ぼうっとした雰囲気があった。
「ど………どうも」
その少女に、藍里は話しかける。
「はじめまして。藍里と言います」
少女は、ビームでも出てきそうな目力のある視線を、藍里に向けた。しばらくすると幽鬼に視線を移したので、そのタイミングで「幽鬼です」と名乗った。
「日澄」
少女はそれだけ言って、黙った。
日澄──プレイヤーネームだろう。どうやら、会話の得意なタイプではないらしい。絵に描いたような〈不思議ちゃん〉だった。この少女と会うのは初めてである幽鬼だったが、こういうタイプの少女とは、何度も会ったことがあった。あらゆる種類のはぐれ者が集まってくる業界なので、このようなプレイヤーは珍しくない。
プレイヤー全員で集合したいので一緒に来てほしい、と藍里は日澄に言った。
ふらふらとした足取りではあったが、ついてきてくれた。かくして4人となったパーティは、次のコテージを素通りした。そこは藍里のものだったからだ。
さらに次のコテージには、藍里に続き、またしても知っているプレイヤーの姿があった。
「うわっ………」
扉をくぐってきたそのプレイヤーに、藍里は、明らかに気圧されていた。
真熊だった。コテージの扉よりも大きな体を持つ、巨体のプレイヤー。これまでの三人と同じく彼女も水着だったので、ばきばきに鍛えられた肉体があらわになっていた。藍里のように声を出すことはしなかったが、幽鬼も、悔しいがその姿には気後れしてしまった。まともにやり合ったら三秒でミンチにされると思った。一方、幻音は顔を見てタイプかそうでないかを考えている。転生特典があれば殺せる自信があり余裕なのだ。
真熊と知り合いの幽鬼は藍里のことを含め、事情を説明した。ついでに藍里があのゲームの生き残りであると説明する。
そこまで会話したところで、前方を歩いていた藍里が、振り向いた。怒っているというほどではなく、睨んでいるというわけでもなかったが、〈やめてもらえますか〉というメッセージが多分にこもった視線を、幽鬼と真熊の二人に向けてきた。その要望に二人は従った。
「三十オーバーがまた4人ですか」
幽鬼は話題の舵を切る。
「いいや、5人だ」
真熊は視線を砂浜に移した。
「見てなかったか? さっき、向こうのチームに永世がいたよ」
ふわふわの髪を持つ、学者然とした娘。この前会ったときにはもう、すでに四十四回クリア──現在の幽鬼や真熊を上回る記録を達成していたプレイヤーだ。
さっきの四人組の中にいたらしい。
けっこう距離があったのと、あまり目立つ容姿をしていないのとで、幽鬼は見落としていた。
次のコテージにたどり着く前に幻音は声を上げた。
「ちょっとやりたいことあるから一旦抜ける、後で合流するからよろしく」
そう言って、彼はその場を去って行った。
彼の転生特典は 1日1度しか使えない。そのため、温存しておくのが良いように普通は考えるだろうが、このデスゲームにおいて、必ずしも最適化とは限らない。序盤の初見殺しで終わる可能性もあるからだ。故に幻音は、転生特典を基本的にゲーム序盤に好んで使用する。今回も同じだ。
人差し指と親指を立て指鉄砲を象り、銃口である指を自身の頭に突きつける。目を閉じて息を吐く。
とてつもない全能感が幻音を包む。同時に、幻音は思考する。
何が正解か?犯人を殺すまたは逃げ切るのが正解
疑問に対する答えが浮かんでくる。
自分はどうすべきか 様子を見るべき、腕の中の装置を外せ
このゲームのルールは何か 大半水着姿で孤島で3人殺害人狼クローズドサークル。一週間のゲームで、事前にひとりだけルール説明を受けていた犯人役は3人のプレイヤーの殺害、他の人はゲーム期間内の生存をクリア条件として設定され、難易度は犯人役次第。
敵は誰か 永世
武器は?永世は白士のように不死身?幽鬼に敵対的なものは?自分は狙われるか?
幻音はそこまで確認してため息を吐く。
「これは荒れそうだな」
これまでにしたのと同じように、藍里は、古詠のコテージにノックをした。 「勝手に入りな」 と返事があった。しわがれた声だった。かなり歳を食っていそうだったが、さっき見た四人の中に、そんなプレイヤーがいただろうか。
ほかの三人は、幽鬼にとって未知のプレイヤーだった。冷蔵庫にあったのだろうラムネを開け、飲んでいる娘が一人と、やたらにおどおどしている娘が一人。そしてもう一人は、やけに年増な感じのする女の人だった。
「座りなよ」
その年増な女性が言った。さっきのしわがれた声と同一だった。幽鬼、藍里、日澄、真熊の四人は、おのおの適当な場所に腰を下ろした。
「まずは、自己紹介から始めようじゃないか」
ここにいる八人中、三人とは過去のゲームで会ったことがある幽鬼だった。ほかのプレイヤーも、その様子からして、大なり小なりつながりがあるようだ。が、誰が誰を知っていて誰を知らないのかいちいち照合するのも面倒だし、このゲームの慣例でもあるので、一同は自己紹介を行なった。
幽鬼、藍里、真熊、日澄以外の人物を整理すると4人になる。
永世。ふわふわした綿菓子のような髪を持つ、学者然としたゲームの常連のプレイヤー。50回目のゲーム。
古詠。28歳だが年寄りのような雰囲気の古参のプレイヤー。白士とは知り合いで、彼女から幽鬼や永世のことを教えられていた。死の気配を察知することを得意としており、キャンドルウッズの招待を受けた際には直感で断っていた。20回目のゲーム。
海雲はおどおどした特徴のないプレイヤー。10回目のゲーム。
密羽はマイペースで協調性に欠けるプレイヤー。30回目のゲーム。
自己紹介と雑談が終わった辺りで、幻音が入ってきた。
「やあやあ、お嬢さん方お疲れ様。初めましてと久しぶりの割合は2:6かな?僕の名前は幻音、ゲーム回数は今回で57です。よろしく」
幻音の顔は完璧な美少女だ。少しボーイッシュではあるが基本初対面の人間は90%が見惚れるほどである。注目を集めた幻音に向けられた視線は様々だ。転生特典はまだ僅かに時間切れではないため、向けられた視線に内包された感情を正確に理解できる。
警戒、驚愕、好奇、憧れ、無関心。様々だが、飛びぬけて重い感情が二つ向けられている。永世と幽鬼である。
「………永世は久しぶりー」
幻音は話を振るが永世は何も言わずこちらを眺めているだけだった。ただ、向けられている感情はあまりにも複雑で処理しきれない。同時に転生特典が切れたため、答えがわからない。
少し前のワンファインデイというゲームで、助けに入らなかったのを怒っているのだろうか。幽鬼の顔に傷がつきそうなのを防ぐのを優先し、後回しにしてしまった。永世の顔はニッコリと笑っており余計に怖い。
「お前があの幻音か」
古詠が幻音に詮索好きそうな目を向けてくる。
「僕のことをご存じで?有名になったもんだなー」
「古参の奴ほどよーく知ってるさ。お前の変わりっぷりと特異性はね」
「………」
「噂は聞いてるよ?お前、前回のゲームを30分で終わらせたらしいね。あまりの無茶苦茶具合に運営との癒着まで疑われてたよ」
「ハハ、失敬な。運営側ならあんなことしませんよ。それに何度も殺されかけてますし」
前回のゲーム。5連続ゲーム内で幽鬼に会えていなかった。加えて、プライベートで会いに行く予定を別件で遅延させられ、色々と限界だった。
結果、幻音はゲームを即座に終わらせることを決めRTAを行った。具体的には、脱出ゲームにおいて必要とされる情報を転生特典で入手しクリアしたのである。余談だが、ゲーム内のすべての謎を解き長い時間をかけて手に入れるはずのパスワードを「これかな、勘だけど」の一言で突破し運営は頭を抱えた。
「そんなお前に質問だが、このゲームどう見る?」
「考えていることは同じだと思いますよ?脱出型でしょう。外界から遮断されてますから」
東西南北、三方向までこのビーチは林に囲まれている。可能性は低くない。
「取り合えず探索しませんか?」