顔のいい女にちょっかいを掛けるため女装してデスゲームをします   作:空色

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評価、感想ありがとうございます。

原作未読の方がいるんですね。
次の章からは未読でもわかるように描写を増やします。


第3話

永世が殺された。犯人が8人の中にいるのか、そうではないのか予想がつかなかったが一つだけはっきりしていることがある。寝るのが危険だということだ。そう考えた結果、睡眠を取らないことに幽鬼は決めた。浅く眠る技術は心得ている幽鬼だったが、同じくその技術を持っているであろう永世が殺されたことを考えると、眠るのは危険な選択だった。

 

幻音に頼るという選択肢も、あったのだが、一度それをしてしまうと幻音が参加していなかったゲームにて、選択肢を一つ減ることになる。どうしようもないレベルで手札はなくなった時の彼に頼ることにしている。

 

目を開けたままコテージにて待機し、〈犯人役〉の襲撃に備える。それがいちばん安全だろうと判断した。幸い、何事もなく朝を迎えることができた。なにぶん眠らなかったので、昨日や一昨日のように、藍里のノックで起こしてもらうことはしなくてよかった。日が昇ってすぐ、幽鬼は古詠のコテージを訪れた。ひかえめな──起きていれば聞こえるが寝ていれば起こさないぐらいの、気を遣ったノックをした。

 

「起きてるよ」という声が返ってくる。

 

そこにはすでに幻音が座っていた。どうやら彼も寝ていないのかうつらうつらしている。

 

「………幽鬼寝なかったのか」

 

「ええ、まあ」

 

「あながち間違いではないけど、持たないよ」

 

おおむね、永世と同じ目に遭っていた。手足をもぎ取られ、胴体はテーブルの上。体の中身は周辺にばらまかれている。普通の人間はまず出くわす機会のない、しかし幽鬼にとっては数度目の対面となる遺体だった。このゲームで始めて知り合った程度の他人。しかし、死んでくれてせいせいという思いはなく、むしろ逆に情が湧いていた。少しでも知り合ったプレイヤーが凄惨な死に方をするのは、やはり嫌なものだ。幽鬼は、感情を表に出さないよう気をつけた。幽鬼だけでなく、現時点で生き残っているプレイヤーの六人全員、蜜羽のコテージに集合していた。いつまでも彼女が朝の集会に現れなかったので、昨日の永世と同じように、迎えにあがったのだ。

 

すると──その結果も昨日と同じだった。

 

「この件も含めて──」

 

そう言ったのは、古詠だった。

 

「今日も、ゆっくり話し合おうじゃないか」

 

古詠はコテージを出ようとした。昨日と同じく、自分のコテージに戻るつもりなのだろう。

 

「待ってください」

 

幽鬼はそれを呼び止めた。

 

「今日の集会は、ここでやりましょう」

 

「──なんだって?」

 

古詠は幽鬼を見て、その後、テーブルの上の蜜羽を見た。

 

「仏さんの前でかい?」

 

「はい。昨日みたいに、忽然と消えてしまうかもしれませんから」

 

幽鬼のその発言に、なんのことだと言いたげな顔をしたプレイヤーがいた。真熊だった。昨日はずっと単独行動をしていたのだろう彼女は、永世の雲隠れについて知らないようだった。

 

そう、少し目を離した隙に永世の遺体は消えたのだ。

 

「僕は会議はパス。部屋帰って寝る」

 

 

永世が殺された夜、幻音は来客を迎えていた。

 

最も、招かれざる客だった。

 

全身に包帯を巻いた、ミイラのような人物だ。その包帯が、永世のガウンを細くカットしたものであることを、幻音はすぐに見抜いた。夜分なれど、その姿をはっきり見ることができたのは、ミイラが左手に灯りを持っていたからだ。懐中電灯やランタンのような照明具ではなく、スマートフォン大の端末から発せられている、ついでの光だった。なんの機能を持った端末なのか、幻音は予想がついていた。部屋の中にまっすぐ歩いてくるミイラに対し、幻音は名前を呼んだ。

 

「永世」

 

「………貴方なら辿り着くでしょうね」

 

永世に驚きはなかった。そう、このゲームの犯人は永世なのである。昨晩の一件は永世の自作自演だ。

 

「死人は容疑者にはならない。だけど、殺しても死なない人間を僕は知ってるからね」

 

白士。幽鬼の師匠で、95回のゲームクリアを達成した最古参のプレイヤー。身体には運営の関与しない独自の改造を施しており、全身を破壊されても死なない。

 

その存在を知っている幻音は勘に頼らず、その可能性に行きついた。

 

「今回のゲームは白士の知り合いが多い。僕、永世、古詠、幽鬼。悪くない手だが邪道だね。そんなに幽鬼に対抗意識を燃やすんだ?」

 

「ッ!」

 

永世の表情は包帯で見えない。しかし、激情が漏れ出たのを感じた。

 

「何であの幽霊女に期待するのですか?」

 

「幽鬼は、白士曰く、怠け者で大うつけ。生まれつきのセンスだけでやってる、一瞬だけ活躍してすぐ消えるタイプの選手。ベテランからすれば、おおむねそんな評価だった。だけど、僕の評価は違う。もちろんセンスでごり押しているけど、幽鬼の強みは幽霊でありながら成長しているところさ。無色透明の幽霊から徐々に色づく彼女はいずれ最高のプレイヤーとなる。優れた量産品よりも性能がピーキーな一点ものの方が見ていて楽しいだろ?後は、まあ、幽霊の癖に僕に熱を与えてくれる(・・・・・・・・・・・・・・・)存在だからかな?」

 

本音5割、嘘5割の回答だが、愉しげに語る幻音の姿は容易に永世の嫉妬心を破裂させた。

 

「必ず、私こそが正しいと証明します」

 

そう言って、永世は獲物を狩りに行った。

 

 

 

 

永世は蜜羽の次は日澄を殺した。しかし、それ以降誰かを殺すことはなく何事もなく時は流れた。遂に一週間が過ぎた日、迎えの船が現れた。

 

しかし、途中で船が止まり代わりにゴムボートが近づいてくる。

 

そのゴムボートの主は、明らかに怪しい人物だった。

 

このゲームのエージェントにお決まりのスーツ姿ではなく 特殊部隊が身につけているような、ごわっとした服装だ。

 

顔をヘルメットで隠しているため、その素性は伺えないが性別はわかる。

 

「顔を見せな!」

 

警告は通じず、ゴムボートの主は進み続ける。そして、遠くから見ても一瞬で正体がわかる禍々しい何かを取り出した。

 

それは、銃だ。

 

ストックを肩に当てて、射撃の構えを取る。不審者を見て 幽鬼たちは、警戒態勢をとった。

 

幽鬼は、真横に飛んだ。コテージの角にいた藍里は、裏に隠れた。古詠はその場で身を低くした。海雲は、開いていた窓からコテージの中に飛び込んだ。銃声が数回響いた。  それっぽっちか、と着地しつつ幽鬼は思った。漫画とか映画なんかじゃあ、ああいうフォルムの銃はずががががと連射してくるものであり、当然そうしてくるものと予想──なかば期待していたのだが、現実にはそこまで派手なものでもないらしい。ここが現実世界だったおかげで怪我人はなく、幽鬼が体勢を立て直し、林を目標に全速力での逃亡を開始したときには、藍里と、古詠と、海雲の三人もすでに同じようにしていた。

 

「なんてやつだ!」

 

走りながら、幽鬼は言った。

 

「あいつ──船から銃を取ってきたのか!?」

 

あの人物の正体は考えるまでもなかった。永世だ。幽鬼たちを攻撃してくるのは、それ以外にはありえない。

 

そして、あの装備の出所は、さっきの救難艇以外にはありえない。あんなものが〈犯人役〉に支給されていたのなら、もっと早くに使っているはずだからだ。このタイミングで初使用した理由はただひとつ。それが、さっきまでこの島にはなかったから。運営の救難艇から──おそらくは〈犯人役〉を処刑するための武器を──盗んできたとしか考えられない。

 

後方で、またもや銃声が聞こえた。幽鬼は振り返らないではいられなかった。幸い、幽鬼自身にもほかの三人にも負傷はなく、砂浜の数箇所で煙がもうもうと上がっているのみだった。

 

「どうするんですか?」

 

「逃げるしかないだろう?」

 

「4人だけであんなのと勝負できるか!?たった今をもって協力体制は解散だ!誰が狙われても後腐れはなし!いいね?」

 

そう言って、各々が林の中に入っていった。

 

永世はゴムボートを降りた。

 

サブマシンガンを抱えて、砂浜を走る。ここで仕留められれば話は早かったが、ゲームに慣れた強者たち相手には不可能であることは、最初からわかっていた。

 

永世は林に踏み込んだ5人を追いかける。

 

連中が林に逃げたことはいいニュースでも悪いニュースでもあった。

 

遮蔽物が大量にあり銃というものが、微かに威力を抑えられる点ではマイナスだが無音で移動することは困難であるから、逃走経路をたやすく読み取れるという点ではプラスである。

 

どの獲物を狙うのか そんなものは決まっていた。

 

あの幽霊を殺してやる。

 

 

 

 

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