顔のいい女にちょっかいを掛けるため女装してデスゲームをします   作:空色

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感想、評価ありがとうございます。


第5話

目を覚ますと遊園地にいた。

 

大量のアトラクションに愉快な音楽。観覧車やメリーゴーランド、コーヒーカップにジェットコースター。メダルと引き換えに鈍足歩行するマスコット達。

 

遠くに目を向けるとお化け屋敷やバンジージャンプ用のものと思わしき高台。

 

どの角度からどう見てもそこを遊園地と思うだろう。

 

しかし、異なる部分が一つ。アトラクションの全て運行していなかった。どれだけ目を凝らしても観覧車の回転は確認できず、メリーゴーランドは 1つも点灯していない。

 

それどころか遊園地内に走り回る子供の姿はなく、愉快な音楽だけが誰もいない遊園地を反響している。

 

それも当然だろう。ここは、デスゲームの舞台。プレイヤー、観覧者共々人格がひん曲がった狂人どもの遊び場であり、実に気色の悪く愉快で興味深いビジネスである。

 

周囲を見渡すと一人の少女が目についた。金髪を靡かせた小柄な少女である。セーラー服を着ているのは今回の衣装だからだ。自分も着ているのだから。腕のバンドも衣装で間違いないだろう。

 

「珍しいね。僕は眠りが浅いからいつも最初なんだけど」

 

幻音は少女に話しかける。黄金の瞳が彼を見た。

 

「いつも?」

 

「そう。いつも。大抵は。僕はこう見えてもベテランなんだ」

 

少年はデスゲームにかれこれ36回参加している。驚異的で狂気的な数字だと思うだろう。

 

「君は初めてでしょ?」

 

デスゲームの参加者は 十人十色であり、年齢も事情もそれぞれ違うが、用意されている報酬は同じである。ズバリ、賞金だ。これを求めて命をかける馬鹿の博覧会である。

 

目の前の少女も例に漏れないと感じて声をかけた。

 

幻音は転生特典を使用して、次回参加するゲームを決めているのだ。自分が死ぬ確率が極めて低いか?という問いかけにイエスがあった時のみ参加する。そして、大抵参加する前にある程度ゲームの内容と攻略法を調べる。

 

だから彼はゲームを盛り上げる動きを取れる。少女に話しかけたのもその一貫だ。

 

「名前を教えてよ。僕は幻音」

 

「ミスズです」

 

「あー、本名じゃなくていいよ?隠す方がいいからね」

 

「………黄金と呼んでください」

 

「じゃあ黄金ちゃん。雑談しようか。どうせしばらく暇だからな」

 

「そうなんですか?」

 

小首を傾げた少女は人形のように繊細に見える。

 

「寝坊するやつはいてもだいたいみんな揃ってからゲームは開始するんだ。見世物だから、役者が必要なんだろうね」

 

「見世物、ですか」

 

黄金からはこのゲームへの嫌悪が読み取れた。

 

「黄金は何でゲームに参加したんだ?」

 

「姉を、探しているんです?わたしより小さい金髪ツインテール。見たことありますか?」

 

「残念ながらない」

 

「そうですか。………親の負債を返すために姉は参加したんです」

 

人探し手でゲームに参加する子はかなり稀だ。おそらく、ゲームに参加した痕跡を追ってきたのだろうか。であれば黄金の姉はゲームをクリアできなかったと思うのだが、きっとそれは百も承知だと幻音は表情から推測した。気持ちの整理を付けに来たという方が正しいかもしれない。あるいは、後を追いに来ているのか。

 

「君のお姉さん、いい子だったんだね」

 

そう言うと黄金は微笑んで、長髪を揺らしながらこくりと頷いた。

 

 

 

 

数分待っていると4人の少女が集まった。軽く自己紹介をする。

 

「黄金です。初参加です。よろしくお願いします」

 

「レイナだよ!あたしも初参加なの。よろしくね」

 

最初に口を開いたのは、レイナだった。やや高身長でモデルのようなスタイルの良さがセーラー服からもわかる。少しギャルっぽい。

 

「阿佐。初参加。よろしく」

 

その視線の先、ベンチに座り込んでいたのは赤髪の少女阿佐だ。整った顔立ちは、彼女の纏う陰鬱な空気はミステリアスにも見えたが、不気味にも見える。

 

「チェルシですわ!ワタクシは5回目です。よしなに」

 

華やかに笑ったのはチェルシーだ。異国の血を感じさせる彫りの深い美女。彼女はまるでパーティーにでも来たかのように自身の長い髪を指先で弄んだ。

 

「………それで幻音ちゃん?あたしたちはどうすればいい感じ?」

 

「んー、とりあえずルールがわかりそうなものを探索しようか」

 

その時、園内のスピーカーがノイズを吐き出した。

 

『―ーーお客様にお知らせなのです』

 

甲高く、どこか壊れたレコードのような声が響き渡る。 広場の奥から、のそりと姿を現したのはこの遊園地のマスコットキャラクターだった。二頭身の愛らしい熊の着ぐるみ。しかし、その手には不釣り合いに巨大な錆びた鉈が握られていた。

 

「………演出ですか?」

 

黄金が眉をひそめる。

 

『本日の営業は終了しておりますです。不法侵入は、とってもいけません。お帰り下さい』

 

ノイズ交じりの宣言に幻音は溜息を吐いた。

 

「脱出ゲームだろうね」

 

「脱出ゲーム?普通に帰ればいいわけじゃないの?」

 

レイナが言いかけた時マスコットが爆発的な速さで動いた。レイナのすぐ横の街灯が鉈の一振りで叩き折られる。火花が散り彼女たちは悲鳴を上げて後退した。

 

幻音が短く言った。

 

「なるほど、初心者が何とかできる仕掛けじゃないな」

 

「………どういうことですか?」

 

黄金が幻音に聞き返す。驚くほど冷静に周囲を見ている黄金に、肝が据わっていると思わず称賛したくなる。

 

「たぶん、仕掛けがある。ゲームの難易度はピンキリだけど運営とプレイヤーのワンサイドゲームは面白くないから」

 

「まずは逃げませんこと?死にますわよ?」

 

五人は弾かれたように走り出した。背後からは、マスコットのドスドスという重量感のある足音が追いかけてくる。 彼女たちは必死に園内を駆け抜け、反対側にある巨大な鉄性の出口へと辿り着いた。

 

レイナが鉄扉のレバーを引く。しかし扉はびくともしない。 扉の横にはメダル不足と記載されている。

 

「モニターがある」

 

阿佐が冷静に指摘した。そこには残り18枚とデジタル表示されており、その下には硬貨を投入するための溝が並んでいる。

 

「メダルか」

 

自分のスカートのポケットを探った。そこには三枚のメダルが入っていた。

 

「僕は3枚ある。みんなは?」

 

確認すると全員が三枚ずつ持っていた。つまり、残り三枚が足りていない。

 

「遊園地ですからアトラクションになるとメダルが貰えるとかかしら」

 

チェルシが考え込んでいるとそれを幻音が手で制した。

 

「追いつかれる。一旦逃げようか」

 

振り返れば先ほどのマスコットが追い付きかけていた。というか増えている。5体ほどだ。

 

「やばいですわね。増えてますわ」

 

「冷静に言ってる場合?マジでどうすればいいわけ?幻音ちゃん!?」

 

「たぶんメダルを入れれば止まると思うよ。ご丁寧に募金箱みたいのをぶら下げてるし」

 

幻音は自分の持つ一枚のメダルを最も近くにいたマスコットの胸にある箱へ投げ入れた。カランという軽い音。 すると、凶器を振りかざしていたマスコットが石像のようにピタリと動きを止めた。

 

「問題はメダルをなるべく消費せずに増やせるかだけどね」

 

 

 

 

 

 

「………お化け屋敷とはチープです」

 

黄金は、震える小さな拳を握りしめ自分に言い聞かせるように言い放った。綺麗な金髪が園内の不気味なサーチライトに照らされて淡く光る。その足元は小刻みに震えていたが、裾から手を離さない少女が可愛かったので指摘せず幻音は先頭で歩く。

 

あの場のマスコットを止めて、メダルを5枚消費した五人が辿り着いたのは巨大な口を開けたピエロの顔が入り口になっている一般的なお化け屋敷である。受付にもマスコットがいたが、襲ってくることはなくアトラクションの説明をしてきた。

 

「裾はいいけど、腕は放してもらえるかな」

 

「な、な、な、なんのことですか」

 

黄金は幻音の腕にぎゅっとしがみついていた。小さな体から伝わってくる鼓動は早鐘のように速い。幻音はその温もりを振り払わずに堪能しているが、動きにくい。

 

「緊急時は動けないと守れないから。ね?聞き入れてくれない?お姫様」

 

黄金の頭を撫でながら小声でささやいた。

 

「………」

 

黄金はしぶしぶ裾を持った。

 

「……ねえ、あの置物動いてない?」

 

レイナが不安げに背後を振り返る。その瞬間、ドンという爆音と共に入り口の鉄が閉ざされた。室内は中央に長机が置かれた簡素な部屋だった。ただし、部屋自体がかなり広い。扉付近にテーブルがあり、そこには本日のメニューと書かれた紙がナイフで固定されている。

 

『食卓へようこそ、愛しき生贄たち』

 

天井のスピーカーから粘りつくような声が響く。同時に、壁のスリットから無数の手が伸び参加者たちの足首を掴もうと蠢き始めた。

 

「きゃあああっ!」

 

レイナが悲鳴を上げ、派手な身のこなしでそれを避ける。

 

「刺激的ですわね」

 

チェルシは武術でも習っていたのか、足技で手を吹き飛ばす。

 

「幻音、幻音、幻音!!!!!い、いますよね?私掴んでます?」

 

黄金は、もはや強がりも限界のようで幻音の腕に顔を埋めるようにして密着していた。彼女の細い指が幻音の服を強く握りしめ必死に恐怖と戦っている。

 

幻音はすぐ目の前にあったテーブルの上にナイフがあることに気が付く。それを掴み上げて伸びてきた手を斬りつけた。感触から人ではないと推測する。

 

ゆっくり部屋の奥に移動する。手は届かない位置だ。

 

「あら?」

「ん?」

 

チェルシと幻音が足を止めた。彼女達の視線の先、そこに豪華な装飾が施された一脚の椅子があった。人形がそこには座っている。人形の手の平にはメダルが輝きを以て視線を吸着している。

 

「あからさまですわ」

 

その言葉に同意した幻音。しかし、その少女は手を伸ばしていた。

 

「阿佐!やめろ」

 

幻音が叫ぶが阿佐の瞳は虚ろだった。極限状態の人間は判断が鈍る。慣れているか、想定していなければ初心者ほど陥りやすい。

 

メダルに触れた少女はカチリという冷たい金属音が鼓膜を揺らしたのを感じる。

 

「!?」

 

阿佐の表情が驚愕に染まった。足元から飛び出した鋼鉄の拘束具が近くの椅子に彼女の四肢を瞬時に固定したのだ。

 

『あは、あはははは!見つけた、見つけた、新しいお肉!』

 

天井から逆さまに吊るされたマスコットが阿佐の目の前に降りてきた。その手には、料理用の鋭利なナイフが握られている。

 

「待って、嫌、嫌よ!」

 

阿佐が狂ったように暴れるが、拘束はびくともしない。

 

「阿佐ちゃん!」

 

レイナが阿佐を助けようと駆け寄る。しかし、阿佐が座る椅子の下から無数の鋭い槍が飛び出し、周囲を囲む檻となった。マスコットが駆け寄ったレイナの喉元を目掛けて檻の隙間を縫うようにナイフを突き出した。レイナは硬直する。回避は間に合わない。

 

瞬間、幻音にしがみついていたはずの黄金が弾かれたように飛び出した。黄金は小さな体でレイナの腰にタックルし、彼女を突き飛ばした。直後、黄金のすぐ横を銀色の刃が空気を切り裂いて通り過ぎる。

 

「い、し、死んでない?」

 

黄金は肩で息をしながら、真っ青な顔で自分の生存を確認するため体を触っている。レイナは状況を処理しきれず呆然としていた。

 

二人は助かった。しかし、阿佐は別だ。

 

「あぎゃ、あ………っ、あああああああ!」

 

阿佐の悲鳴が、密閉された空間に木霊した。マスコットのナイフが、阿佐の頬をなぞりそのまま深い切り込みを入れる。鮮血ではなく白い綿が舞った。

 

「やめて、お願い、だれか……たす……」

 

阿佐の言葉は、喉を切り裂かれた音にかき消された。マスコットは悦悦とした手つきで、阿佐の体を調理し始める。彼女の身体が細かく切り刻まれ、やがて静寂が訪れた。

 

「……う、うう………」

 

レイナが口を抑えて蹲る。黄金は目を背け再び幻音にしがみついて震えた。

 

阿佐の遺体の足元にチャリンとメダルが落ちた。4枚。人数分のメダル。それが報酬だった。幻音が無機質な足取りで歩み寄り、それを拾い上げる。そして阿佐だったものから回収したメダルを足して、残りは4枚になる。

 

「報酬がしょっぱいな」

 

幻音の声には感情がなかった。

 

 

 

 

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