顔のいい女にちょっかいを掛けるため女装してデスゲームをします 作:空色
次に向かったのは、全面鏡張りの迷路だった。
「あたしこういうの得意だよ」
レイナが自信満々に進むが、鏡に映る無数の自分とその背後に紛れ込むマスコットの判別がつかずパニックに陥る。死角から鉈が振り下ろされた瞬間、黄金がメダルを消費しなんとかクリア。助けられたはずの少女の口から出たのは、感謝よりも損失への不安だった。消費した分を考えれば収支はゼロだ。
三番目に挑んだのは、ジェットコースターだった。時速100キロで疾走するコースターから振り落とされないようにしがみつくアトラクション。安全バーが規則的に外れるのだ。一時停止するタイミングで場所を変えることで対応したのは幻音だけであり、残りはメダルを消費して安全バーを固定することでクリア。1枚プラス。メリーゴーランドでは高速回転する馬の上から停止スイッチを探して乗り換えてボタンを押すことでクリア。4枚プラス。
これで19枚が揃った。
出口に再度向かうにはあまりにも難易度が高い光景がそこには広がっていた。出口付近にマスコットの大軍が待機していたのだ。数にしておよそ30体。
「ど、どうすればいいわけ!?逃げるだけでギリギリだったんだよ?待ち伏せなんてされたらどうしようもないじゃん………」
動揺して涙を浮かべるレイナ。その横ではチェルシが園内の案内板を眺めていた。
「この場所にあるアトラクションは残り3つですわ。全て回収してもプラス12枚。どうあがいてもあの数のマスコットを止めるには不足しておりますわね」
「何か見落としている可能性もあるけど、マスコットの数が異常だな」
ゲームは難易度調整がされている。もちろん、全滅はあり得るがクリア不可能なクソゲーは体験したことがない。だが、違和感がある。そもそも、転生特典を使えばあのマスコットの群れを正面から突破することは可能だ。幻音のみになってしまうが。
「………あの、おかしくないですか?」
黄金が周囲を観察してそう零す。
「あのマスコット、鉈を持っていません。それに退園のメッセージを流してないです」
黄金の言う通りあのマスコットたちは今までは鉈を振り回し、退園の警告を流していた。今はそれがない。
「みんなはここで様子見してて」
そう言って幻音は慎重にマスコットたちに近づいていく。ついでに指鉄砲を作り頭に向ける。転生特典を発動させるためだ。あれだけ騒がしかった園内は恐ろしく静かで、生唾の音すら聞き取れる錯覚を覚えた。
しかし、マスコットたちは動かなかった。
「………みんな来ていいよ」
結局出口には問題なくついた。18枚目のコインを入れ込むとガコンという重々しい音と共に高く聳え立つ鉄扉が震える。
「………これで戻れるんだよね!?」
レイナがその美しい顔を期待に歪ませ扉にすがりついた。 しかし、現実は甘くない。 扉の先に合ったのは入場ゲートだった。電子音は再度鼓膜を揺らす。
『開錠しました。ゲート通過者を選別してください』
門の横にあるモニターが点灯し、そこにはそれぞれの腕に巻かれたリストバンドの色が表示された。幻音は自分の白色がOK表示に囲われていることに気が付く。
思わず転生特典で問い掛ける。
これは何だ? トロッコ問題
何で白はOKなんだ? それが目的だから
俺がトロッコ問題を回答することがゲームの趣旨か? 正解
幻音は溜息を吐いた。なるほど、初心者の割合が多いのはベテランのプレイヤーがリーダーをするため。普段から気に入った子は助けて、時には見捨てて、ゲームの盛り上げに手を貸してきた彼に課せられた次の課題というわけだ。おそらく、賭けでもしているのではないだろうか。
「選別…?何それ、そんなの聞いてないって!」
レイナが叫び自分の右腕に巻かれた赤いバンドを引きちぎろうとする。だが、バンドは肌に食い込むように締め付けられ微塵も動かない。
『早く選べなのです』
全員の顔から血の気が引いた。気が付けば後ろにマスコットの一人が控えている。
『プレイヤーネーム幻音。解放する色を一つ指定してください。3分経過で無効となります』
モニターに黄色と赤色の二つのボタンが浮かび上がる。黄色は黄金のバンド、赤はレイナとチェルシがしているバンドだ。
黄色を選べば黄金は救える。赤色を選べば、レイナとチェルシを救える。
「ッ!」
チェルシはハイキックで幻音を狙った。その蹴りを最低限の動きで避け、カウンターで腹部に拳を叩き込んだ幻音は目を閉じた。
「グッ!ぅあ………キッツいですわね」
「頑丈だね、今回の参加じゃなければ手を貸したんだけどな」
「幻音さん。ワタクシを選びなさい。そうすれば命は助けてあげますわ」
不遜なことを言い放つ。その瞳には隠しきれない生存への渇望と絶望が浮かんでいた。わかっているのだ。今の体捌きで相手の力量が。
「できないのは君も知ってるだろ。今のカウンターで仕留めた方がよかった?」
幻音はアトラクション内で盗んだナイフをちらつかせる。
「ねえ、幻音ちゃんわかるよね?あたしたちは二人なの。あの子は一人。わかってよ?」
レイナの言葉が湿り気を帯びて木霊する。彼女もまた死にたくはなかった。モニターを確認すると残された時間は一分もない。
「………黄金。君のお姉さんはたぶんゲームをクリアできなかった。わかってるよね」
「え?」
いきなり振られた話題に黄金は目を見開いて固まる。
「後追い、やりに来たんだろ?」
黄金は、黄色のバンドを見つめそれから幻音を見上げた。金色の髪が夜風に揺れ、その瞳は諦観を宿す。
「そう、ですね。そうなのかもしれません。黄金、一人でいいなら………皆さんが助かるなら私を犠牲に」
黄金の言葉は最後まで続かなかった。
「復讐したくない?」
チェルシはその言葉を聞き、黄金に肉薄した。未来を知っているが如く、タイミングよく飛び出した幻音は彼女の軸足に足払いを仕掛ける。態勢を崩した彼女の蹴りは空を切った。
地面に転がった彼女を無視して、黄金の瞳を覗く。
「このゲームか、同じゲームに参加したプレイヤーか、もしかしたら今の僕みたいにプレイヤー同士の諍いでクリアできなかったなら仇のプレイヤーがいる。どう?君はどうしたい」
「レイナッ!黄金を殺しなさい!!!!!」
チェルシが悲鳴を上げる。幻音はゆっくりと右手を伸ばした。その指先は迷うことなく、黄色のボタンに触れた。
ピィッという電子音が静寂に響く。
「………あ」
黄金の顔が絶望に染まる。
レイナの顔が、恐怖で引き攣った。
チェルシは慟哭した。
「幻音!キャンセルしてください!間違えたんですわ!?そうでしょ?嘘よ、嫌よ、死にたくないっ!」
チェルシが狂ったように幻音に掴みかかろうとした。しかし、幻音はそれを冷たい視線で一蹴すると呆然と立ち尽くす黄金の腕を無言で強く掴んだ。
「行くよ」
幻音の声は恐ろしいほど平坦だった。
「あ、ああ………」
黄金は言葉にならない声を漏らし、引きずられるようにしてゲートの外側へと足を踏み入れる。
「待って!置いていかないで!幻音!黄金!」
「嫌あああああああああっ!!!!!」
背後でチェルシの絶叫が響く。マスコットたちの歓喜の叫びのような機械音と何かが引きずられる音が混ざり合いやがて――完全な静寂が訪れた。
門を抜けた先は遊園地の外、荒涼とした深夜の国道だった。そこには2台の黒い車が待ち構えており、ゲームの終わりを示していた。
幻音は掴んでいた黄金の手を、ゆっくりと離した。
黄金は地面にへたり込み、開いたままの口から短い呼吸を繰り返している。 彼女の目は今見てきた光景を拒絶するように虚空を彷徨っていた。自分が助かったことへの安堵よりも、目の前で二人が選別された事実が彼女の小さな心を傷つけた。
「………なんで」
黄金が震える声で、ようやく絞り出した。振り返らずに歩を進める少年は笑う。そして、闇に溶けそうな横顔で一言だけ残した。
「なんとなくかな」
黄金の姉とは? ゴーストハウスで脱落したプレイヤー
名前は 金子
幽鬼との関連性は? 幽鬼が助け、励まし、殺した
幽鬼と敵対するか?■■■
黄金の名前は? ミスズは偽名