顔のいい女にちょっかいを掛けるため女装してデスゲームをします 作:空色
「白士に会ってきたらしいじゃん。どうだった」
「変わってなかったよ」
幻音は、1週間に1回ほど幽鬼に会いに来ていた。部屋にお邪魔し、くだらない話をしながら持ち込んだゲームをする。お菓子を持ち込んで毒にも薬にもならない話をしたりもする。この日も例外ではなく、幻音は幽鬼の部屋のベットを背凭れに座っている。
「そろそろ中間試験なのやばい………幽鬼の方も試験だろ?」
「そうだね。正直結構やばい」
幽鬼は夜間学校に通っているが、勉強が嫌いというわけではない。むしろ学校には行く気がある。ただし、ゲームの都合上、授業に出ない回数は多く置いて行かれがちだ。
「幻音って普通の学校に行ってるんだよね?」
幽鬼はベッドの上で無造作に横になり、スマホを開く。
「ああ、昼間の学校だな」
「素朴な疑問なんだけど出席日数とかなんとかなるの」
「そこは結構気を使ってる」
「そう。器用だね」
幽鬼の声には少しだけ自嘲の色が混じっていた。幻音は手を止め彼女を見た。
「そうでもない。結構綱渡りだし。幽鬼こそ大丈夫なのか?」
「………進級してーな」
幽鬼はベットの上で寝返りを打ち、顔をクッションに埋めた。命を懸けた殺し合いをしている少女の口から出た進級というあまりに等身大の単語に、幻音の口角がわずかに上がる。
「この間言ってたドラマ、面白かったよ」
幽鬼は話題の舵を切る。
「幽鬼はシットコム系のドラマ好きだよね」
幽鬼には趣味らしい趣味はない。好みはあっても執着がないのだ。それでも一日の中で自由時間に何をしているかといえば、ゲームの準備と適当な動画を見るか、ドラマを見るかである。それを知っておすすめを教えたのだ。
「幻音ってああいうの見るの?そんなイメージないけど」
「有名どころとか気になった物はね。コミュニケーションの小道具になるし」
「ああ………ナンパ用か」
呆れたような幽鬼に不服そうに問いかける。
「学校生活に使えるんだって。浅く広く他人と関われば、怪しまれることも内情を知られることもないし。学校生活には意外と苦労があるんだ。幽鬼はないのか?」
「………最近どうも学校で見られてて」
「可愛いからじゃない?」
幽鬼は一瞬、フリーズしたように動きを止め溜息を吐いた。指先で自分の髪を弄りながら視線を投げる。
「………
「誰の仕業か、わかってる?」
「それがまったく。こちらからも探ってはいるけど、なかなか尻尾をつかませてくれなくて…机とか鞄を漁られてるんからそろそろ動こうかなと」
「鞄や机を探られた…か。ゲームに関連するものを見られた可能性は?」
「ない。学校には絶対持ち込まない」
プレイヤーには守秘義務がある。一部業界の人間を除き自分の身分をばらすことはタブーとされているが、中にはそれを破る人間もいる。
「知り合いに承認欲求が爆発してゲームのことを友人に話した子がいるんだ」
「どうなったの?」
「友人の方は記憶を消されて、話したプレイヤーは引っ越した。いずれにせよ、運営が入ってくる。幽鬼の場合、バレたら学校には行けないだろうね」
「あー、結構ピンチだ?」
運営はリスクを見逃さない。ゲームの隠匿には本気なのだ。幽鬼としては学校は必要だと思っている。正確には最低限の学力や知識の会得を必要だと感じているのだ。
「…手伝ってくれない?」
幽鬼が遠慮がちにそう言った。幻音は脳汁が噴き出し歓喜の叫びを上げそうだった。予想よりも信用というものを得ていたらしい。少なくとも遠慮をしながらも、幻音に頼るという選択肢が出ているほどに。これで完全に信用された後裏切ったらどんな表情を見せるのだろうか。
「いいぜ。幽鬼の頼みだからね」
そこで会話を切り上げ時計を眺める。
「そろそろ帰るよ。この後予定があるんだ。頼みごとに関しては連絡して」
時間があれば、料理をしたりするが今日は時間がなかったのだ。
「うわ………!遅刻しそうだな」少女の方も夜間学校があるのでセーラー服に腕を通し、ローファーに足を入れて準備を進める。幽鬼を置いて、先に部屋を出る。
「ッ!」
真横に人がいた。
107号室の前を通ろうとしていたようだが、少年が部屋の扉を開けてしまったせいで道が塞がれているのだ。
暗い顔をした娘だった。緑色の髪、セミロング、小柄。この条件でヒットするのは幽鬼の近所さんである少女だ。名前は縁鳥だった。
顔を顰めた幻音。不気味だった。姿はよくいる少女、ミステリアスだがそれだけ。ただ、気配を感じなかった。
「すいません。どうぞ」
彼の挨拶に、緑鳥は目を白黒させていた。それこそ小鳥のような反応である。
少しして彼女はペコリと会釈を返す。前を通り過ぎて行った。
帰り道、先ほどの相談にどう対応しようか迷っていると一つの通知が飛んできた。それは黄金からの連絡。とあるゲームについて知っていることはないかと聞かれている。
「もしもし、やあ黄金ちゃん!」
『別にミスズ呼びでもいいのですが………こんばんわ、幻音』
鈴の音を転がしたような声色が零れて耳を穿つ。黄金は幻音に連絡を取り、あの後もゲームを続けている。最低限の教えを幻音から受け、今は8回目のプレイヤーである。
復讐をしたいのか否かは未だ保留であり、ただ真相を知るプレイヤーをゲームで追っているそうだ。
お互いの私生活には触れない関係性であり、今回も例にもれずゲームの件だ。
「君の声を聴けるなんていい夜だなぁ」
『その話付き合わないといけませんか?』
「冷たい。お化け屋敷で半泣きだった君はどこに行ったんだよ」
『ッ………忘れてください!』
「冗談だよ。本題を聞こうか」
『ハァ…直近のゲームについての噂なんですが………』
「波乱のゲームだったそうじゃん」
黄金のエージェントによれば、そのゲームには八十人のプレイヤーが参加していた。通常、ゲームの生還率は七割前後なので、五十人から六十人ほどが生還するものと考えるのが妥当だ。
しかし、実際には生還できたのはたった三人。偶然の結果とは考えられない、明らかな異常事態だった。
「原因は?」
「わかりません」という当たり前の回答を黄金はする。
『それが起こったという情報しか手元にはなく………ゲームの難易度設定に誤りがあったのか、プレイヤーがよほどの
「──キャンドルウッズのように、殺人趣味のプレイヤーがいたか」
幻音が先を言った。
『その可能性を考え、知り合いのプレイヤーに聞いて回りました』
実際に生き残った少女に接触することができた。怯え切っていて、話を聞くのに苦労したものの、ゲームの詳細を聞き出すことに成功したらしい。性格がいいので、終わったゲームの情報収集であれば協力的な子が多いのだろう。
『ゲーム名はガベージプリズン。監獄が舞台のゲームだったみたいです』
『ルールは簡単で運営の用意した看守の目をかいくぐって、監獄から脱出する。普通の脱出型ですね。数人しか生き残れないような難易度ではなさそうでした』
しかし、と黄金は逆接でつなぐ。
『両腕に刺青を入れたプレイヤー。それがゲーム終了直前に暴れ回り、大半のプレイヤーを死に追いやったそうです。本当であれば憂慮すべきです。デスゲームに関係なく殺人鬼がいるなんて』
黄金の言葉を聞いて幻音は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「あー、ね」
幻音は知っている。そもそも、防腐処理を受けた人間が刺青を入れるのが珍しい。そしてゲームが終わった後で自分を殺しに来た少女がいたのだ。腕に特徴的な柄があった気がする。
「黄金ちゃん。悪いことは言わないからそれ以上調べるのはやめな?僕が引き継ぐから」
幽鬼には悪いが優先事項ができてしまった。あの時、返り討ちにして殺したと判断したが仮に生きている場合放置できないタイプの危険人物だからだ。
「あれは一線を越えて戻れなくなった殺人鬼だから」
あの時の少女が今回の騒動の犯人だった場合、黄金はもちろん今の幽鬼では荷が重いと思った。デスゲームでは後先考えない馬鹿が瞬間的には強いのだ。