転生モフモフ四兄妹のスローペットライフ 作:corin7121
ただ小さかったというだけで。
だから、どうか神様。
自分の願いが叶うというのであれば。
一つだけ我儘を許されるというのであれば。
もし次に生まれ変われるとしたら。
その時は——————————
「OK~」
「くあーーーー・・・・」
なんだか懐かしい夢を見ていたような気がする。寝床にしているふかふかな高級クッションの上で大きなあくびをしてから、ふと窓の外を見やる。
遠くの山々の間から丁度朝日が昇ってくるタイミングだったようで眩しい光に思わず目を薄める。
「んぅ・・・」
すぐ傍から少女のくぐもった声が聞こえた。大人二人が寝ていてもまだ余裕がある程に大きなベッドを一人で占有している少女を見やる。ブロンド髪のまだあどけない少女であり、そしてこの屋敷の主人のたった一人の愛娘だ。
さて、ここで一つ思い出してもらいたい。俺が寝ていたのはクッションで、彼女はベッド。それもメチャクチャでっかいベッド。一緒に寝るなり別の部屋で寝泊まりするなりありそうだが、いや昔は一緒に寝たりもしたし別の部屋で寝ていたこともあったけど、今はそれもない。元冒険者だった御主人は一体何を考えているんだろうか。
そうです。どういう訳か人間として死んだはずの俺は魔獣として生まれ変わったんでございます。そしてこれまたどういう訳か冒険者だった御主人に拾われてちょっとデカい犬という認識で屋敷に住まわせてもらっているのでございます。いやでも拾われた当初はきっとここまで大きくなるとは思っていなかったと思う。チワワが十年経ったら軽自動車レベルの大きさにまで育っちまったんだから。そしてまだ恐ろしいことにこの体、まだまだ成長途中だったりする。
そんな魔獣を愛しの我が子と一緒に住まわせるとか、あの御主人頭のネジが何本か抜けているんだろう。「ウチの子は賢いから無闇に人を傷つけたりなんかしないよ」とか言っていたが、まあうん。中身は人間だからね。その辺の畜生とは賢さのレベルが段違いですから。
けれどまあ賢い犬の振りさえしていれば衣食住は当面安泰なわけですよ。前世がクソみたいな人生だったのだから今世は楽に生きていたいわけですよ。だったらペット扱いだろうが快く受け入れてやるよ。お前らは知らないだろう、プライドをドブに捨てて噛り付くロースト鹿の味を!骨まで美味くて感動したぞ?
ああー、鹿ローストの話をしていたらお腹がすいてきたわ。そろそろ朝ごはんのお時間が迫ってきております。御屋敷在住の一流シェフの方々が準備を始めたんだろう、部屋の外から小麦の焼ける香ばしい匂いが鼻腔を刺激しまくっている。姫様には悪いがそろそろお目覚めの時間です。鼻先で軽く頭を小突いて目を覚まさせてあげる。二度三度突っついたところで漸く眠り姫が目を覚ました。
「うみゅ~。シュメーおはよー・・・」
雪山で拾われたからという安直な理由から名付けられた我が名を呼んだ姫様はまだお布団の温もりが恋しいのか二度寝する気満々である。だけど温もりというならこっちも負けてはいないぞ?毎日貴女にブラッシングされたこの体。フワッフワのモッフモフぞ?そんな無機物よりも抱き着くなら断然コッチでしょう。布団に嫉妬するなと聞こえてきそうだが断言してやる。姫の一番は誰にも譲らんぞ!?
それから数十分後。なんとか寝坊助姫を起こすことに成功し朝食にありつけた俺は屋敷の玄関で執事さんにハーネスを付けてもらっていた。これから外出なわけだけど、こう見えて俺ってばカテゴリーとしては魔獣に分類される危険生物なわけですよ。本来ならば駆除の対象なんです。安心安全に外出するには色々と制約が必要なのよ。その一環がこのハーネス。これ付けているだけで多少の制御は可能になるらしい。らしいというのは今まで制御されるようなことを一切やったことが無いからだけど聞いた話じゃ魔術的な強制力が働くとかなんとか。
「お待たせー」
「シュメーの準備は整ってございます。いってらっしゃいませ御嬢様」
「「「いってらっしゃいませ」」」
執事さんが頭を下げるとお付きのメイドさん達も恭しく頭を下げた。さあ、それでは姫様を背中に乗せてひとっ走りといきますか。玄関も正門の扉も全開にしてもらい潜り抜けるように這い出していざ出発!年々窮屈を覚えた出入口を突破して姫様と街までお散歩です。森を抜け丘を越え人の脚だと半日はかかる行程も俺の俊足をもってすれば一時間もかからない。伊達に自動車並みの体格しているんじゃないんだよ。まあ姫様を乗っけているから大分抑えて走っているんだけどね。
そうこうしているうちに街に到着。流石に街の中で走り抜けると一般市民に危害を加えてしまうからこっからは歩きます。で、何の用で街まで来たのかっていうと一つは姫様が通っている学校がここだから。最近は何かと物騒だけど、俺が一緒に通学すれば悪漢も容易に手出しは出来ないって寸法。で、もう一つの用事があるけどそれは後。今は姫様を安全に学校まで送り届ける使命があるのです。
のっしのっしと街中を歩いていると時折姫様の御学友とばったり出会うことがある。そういう時は大概姫様がハーネスを引いて俺に合図をする。一緒に乗せていけと。子供が一人二人増えたところで大して変わりはしないが、この世界の子供たちって物怖じをしないのかバケモンな俺に普通に接してくるのは心底驚嘆する。だって俺魔狼よ?姫様のペットだから食われる心配はないとか思っているのかね。ちなみにだが、姫様の御学友の幅は結構広い。一流貴族の長女もいれば農家の子倅と階級の垣根を越えて仲良くやっているようだ。うん。本当に羨ましいよ。虐められていた前世の俺からすると。
「行ってきます」
「バウ(はーい、いってらっしゃーい)」
ちょっと鬱気味になりながらも無事に学校まで送り届けることには成功。友達と校舎に駆けていくのを見守ってからはもう一つの用事を済ませることにしましょう。というわけでやって来たのは街の中でもひと際大きなレンガ造りの建物。その名も『フェンリル商会』。冒険者を引退した御主人が始めた商売のお手伝いがその用事。
「おう、シュメー!よく来たな!」
あごの下を撫でてもらいながら御主人に挨拶をする。冒険者を何年も前に引退した身ではありながらもいまだに筋骨隆々で冒険業を再開したとしても不思議じゃないぐらいアグレッシブな人だ。引退してからは冒険中に知り合った人たちの伝手から商売を始めて今の財を築くまでとなる。で、どういう商売を始めたのかって言うと大雑把に言えば運送業。世界中を旅していたこともあって各地の名産名品を売買、さらには流通ルートも確保したりと意外とやり手だった御主人。気づけば北方大陸ではトップ3、世界レベルで見ても10位圏内の大企業にまで発展させた。だからあんな豪華なお屋敷でのんびり暮らせてもらえているんですけどね。
で、本日のお仕事はというと配達のお手伝い。自慢の俊足を活かしてアッチコッチにお届けに向かうんだけど、今日は一体どちらまで?
「それじゃあこの
首に下げた何でも入るマジックバッグに大量のボトルを突っ込まれる。たくさん入るけど重さは変わらないから結構キツい。数箱分のポーションの運搬とかどこに卸しに行かされるのか。
「ジョン。道案内を頼むよ」
「任せてください!」
お!今日はジョン君がサポートしてくれるのか。御主人曰く期待の新人さんらしいから俺もそれなりに頑張らせてもらうぞ。
「行先はええーと・・・鉱山だね」
鉱山?確かに街の北をずっと行けば魔石を採掘している鉱山があったはずだけど落盤事故でも遭ったのか?
「どうやら坑道を
あっちゃー。それは御愁傷様。あいつら主食が岩石なだけあって硬いんだよ。その上縄張り意識が強いから下手に侵入しちゃうと集団で襲われるから基本関わらないようにスルーが一番なんだろうけれど住処にお邪魔しちゃったならどうしようもない。
「これだけの量のポーションが必要となると相当な被害が出ているのでは?」
「うん。下手すると暫くは休鉱かもね」
従業員も何人かやられているみたいだし、これは特急案件なのでは?最高速でブッ飛ばせばお昼ごろには到着できるよ。ジョン君が鉱山まで持ちこたえられればの話だけど。
というわけで着きました。鉱山手前にある宿場町。とりあえずここの診療所までポーションを運べばミッションクリアなわけだけど、結構被害が出ているみたいでケガ人が沢山運び込まれてくる。なんとかポーションの数は足りそうだけど根本的なところをどうにかしないと。冒険者ギルドに討伐依頼とか連絡は云っているとは思うんだけどな。
「はい、確かに。あ、サインはこちらにお願いします」
ジョン君もポーションの取引もつつがなく終わったみたいだけど、この惨状どーしたもんか。岩竜子一匹程度なら勝てなくもないけど、基本集団であいつらは襲ってくる。ついでに皮膚が岩のように硬いから自慢の爪も牙も通りにくい。やるなら頭を銜えて振り回して強引に脊椎にダメージを与えるぐらいしか対処できない。ちなみに肉は硬いし鉄臭いから食えたもんじゃない。というより鉱物由来の毒が含まれている可能性が高いから基本食べちゃダメなやつ。
後はそうだな。魔法による攻撃ぐらいか。乱発はできないしなにより自分が習得している魔法はクセが強いから使いどころが難しいし。もう少し融通が利いてもいいのにとは思うけどね。
「――――はい。はい。はい、わかりました」
どうやら街にいる御主人と連絡も終わったみたいだし、ここは冒険者ギルド所属の専門家さんに丸投げして帰還するとしましょうか。
「ボスからの連絡で退治できそうならちょっと様子を見てきますが」
はい?え、行くの?鉱山に?
「お願いします。まだ避難できていない従業員もいるみたいなんです」
それだったら急いだほうがよさそうだけどジョン君って戦闘経験あったっけ?もしかして俺がいるから何とかなるんじゃねって思われていたりしない?戦えなくもないけど相性は悪いの御主人知っているでしょ?冒険者時代に別のところで岩竜子と戦った時めっちゃ苦戦したじゃん。爪も牙も通らなかったから魔法でアシストするぐらいしか俺役に立ちませんでしたがそれでもやらなきゃいけないんですか?
「よし、それじゃあ行こうかシュメー!」
マジかー。