転生モフモフ四兄妹のスローペットライフ 作:corin7121
満点の星空の下。月明りもなく天体観測するには持って来いなシチュエーション。だけどそんなロマンチックな事を言っている余裕はどこにもない。何故なら———
『これはこれは天狼様。てっきり人間に牙を抜かれていると思ったのですが』
『ここの人達には恩があるんでね。嫌な予感がすると思ったらやっぱりか――――
化け狐!』
そう。ロッゲンの正体は妖獣の一種である『化け狐』。魔獣と妖獣の違いなんて大差無いけど、基本人を襲う危険な獣って認識でいい。
いやーギリギリで気が付いて良かったよ。火の玉に釣られて廊下を後にしたスキを狙ってコイツは姫様を襲おうとしやがった。気配に気づいて急いで引き返して間一髪。姫様に手を掛ける直前になんとか戻ることに成功。姫さんから引き離すついでに我が家自慢の広大なお庭にご招待することが出来た。
さて、それでは裁判を始めましょうか?姫様を襲うということは駆除しても文句は言わさんぞ?判決は死刑、情状酌量の余地なし!
『クタバレ!!』
木槌の代わりに俺の手で一思いに踏み潰してやる!が、流石はキツネ素早いな。こっちの攻撃を難なく回避してやがる。だったらもう面倒くせー!氷魔法でも食らいやがれ!!
『甘いわ』
『え!?』
氷塊をぶつけてやろうとしたらロッゲンは炎魔法で相殺してきやがった。そういやこいつ、火の玉を操っていたんだからこれぐらいの芸当は朝飯前ってか。
『残念だったわね。こう見えて私は百年も生きた妖狐なの。このレベルの魔法で私に勝とうなんて百年早いのよ』
ふ~ん。御年百歳か。つまりババアってことか。
『クタバレ!!』
『危なっ!?』
急にキレだしたんだけど、え?何か悪いこと言っちゃいました?
『犬っころにはわからないだろうけどね、好き好んで長生きしているんじゃないんだよ』
訳ありってやつですか。呪いの類か?
『私はね、妖狐に生まれる前は普通の人間だったんだよ。ただちょっと不細工でね。それが元で長年虐められていたのさ』
・・・なんだかどこかで聞いたことのある生い立ちだね。
『そして私は死ぬ間際に神様にお願いしたのさ。生まれ変わったら誰もが振り返るような美人にしてくださいってね!』
おいおい神様、最期のお願いだったんだからちゃんと聞き届けてあげなよ。確かに誰もが振り返るぐらい綺麗な体をしていると思うけど、なんで人間じゃなくて狐にしたのよ。
『その内人間に化ける術も使えるようになるかもしれないけどね、だからといって
『ああ・・・うん。そう思います』
こればかりは同情せざるを得ないよ。神様もちょっとは手心ってもん与えてあげなよ。
だけどそれはそれ。これはこれ。
『だからと言ってウチの姫様に色眼鏡使うのは別の話だよね?』
悪いけど一番許せないのがコレなんよ。
『ふん。安心しなさい、坊や。あのお嬢ちゃんは私が
『は!飼い馴らす?お前如きに絆されるほど、ここの家の人達は甘くないぞ?』
長年仕えているから俺にはわかるのです。世の中にはね、例え伝説級の化け物でも逆らえない怪物が存在しているんだよ。
『神も恐れない天狼が随分と甘いじゃないか。人間如きに手懐けられるなんてプライドも抜け落ちたようだね』
メシに釣られたところは認めるけど、プライドまでは捨て去っちゃいないぞ!ああ、もう頭来た!!
『死んで後悔するんじゃないぞ、クソ狐!』
そこまで言うんだったらもう容赦しないぞ。俺の本気の氷魔法+身体能力でギッタンギッタンにして二度と反抗できないようにその身に教育してやるよ!!
『返り討ちにしてあげるわ、お・に・い・さ・ま』
我ながら安い挑発に乗っかったと思うけど、ここで一緒に生活していくからには上下関係ってもんは教えておかないとね。しっかりその身に刻んでやるわ!
それから数分間、庭園を舞台に一進一退の攻防が広げられたのだが、その終わりはあっけなく訪れた。それはお互いが真正面から突進した時の事。
ズドン!
と両者がぶつかる刹那、鼻先数センチのところに巨大な両刃の剣が地面に突き刺さったからだ。
・・・・・・・・・ヤバい。これがココにあるということは起こしちゃいけない怪物を叩き起こしてしまったということだ。一瞬にしてさっきまでの激闘の熱が引いていくのを感じる。本来狼って汗はかかないはずなのに今全身に冷や汗が噴き出しているような感覚すら覚えた。
「シュメー」
「キャン!」
怪物からの名指しに悲鳴のような声を上げてしまう。だって怖いんだもん!仕方ないじゃん!
「こんな夜中に運動会を開催する許可は出ていませんよ?」
あの、はい。その通りです。
『ちょっ、何者なんだい!?この
『いいから今は頭下げろ!命が惜しくないのか!?』
ロッゲンが狼狽えているけど今はとにかくこの場をやり過ごすことに全力を出せ!最悪、はく製にされても知らないぞ!?
「ふふっ。シュメーはイイ子ですね。新入りの貴方も・・・」
『!』
怪物がスッとロッゲンを見据える。たったそれだけの仕草でロッゲンはガタガタと震えていた。因みに自分もまだガクブル状態が継続中なんだけど。
「明日も早いのです。さ、お家に戻りましょうね?」
余りにもごつい剣を軽々と引き抜き悠々と屋敷に戻る怪物の前を歩かされる。気分は街中を引き回される囚人ですよ。
『何者なんだい、この家のメイド長は!?』
『メイド長じゃないよ。奥方様だよ』
『!?』
ロッゲンが勘違いするのも無理はない。普段からメイド服を着ているし、お屋敷に複数いる家政婦さんのまとめ役だからメイド長と思われがちだけど、正真正銘、御主人の奥さんなんだよ。
『御主人がまだ冒険家だった頃に知り合った元女戦士でね』
半年近く一緒に旅をしていたけど戦士って括りにしていいのかわからないお人なんだよね。だってさっきの剣の重量わかる?
『それを何であの細腕で振り回せるんだい!?』
『【スキル】なんだって』
生れながらに持つ特殊能力とでもいうのかね。事実、フェンリルに生まれたから氷魔法が使えたのもスキルの一つらしい。
で奥方様のスキルなんだけど、これがまあふざけた特殊能力でね。
【スキル:リフトアップ】
ただ
『それだけ?そんなはずはないでしょ?持ち上げるだけのスキルで————』
『ただし
『』
そう。恐ろしいことにこのスキル、持ち上げられるモノのなら何だって持ち上げることが出来てしまう。つまり、だ。ちょっと部屋の掃除中に俺が邪魔になったなら『シュメー、じっとしていなさい』と一言、左手一本で難なく持ち運んでしまうのだ。俺の体重、軽くトンは超えているにもかかわらずに。
『 』
あらー、ロッゲンめ開いた口が塞がらなくなっているよ。序に言っておくけど、
『もう冒険者稼業は引退しているけど、現役時はあの剣二刀流でファイヤードラゴンの群れとか狩っていたからね』
『 』
だからここであまり暴れすぎたり悪いことをするとあの人からどんな折檻を受けるか想像もしたくない。尊厳を根こそぎ踏みにじってきそうだもん。
『まあ今回はそこまで被害は出ていないから明日の朝食がちょっと少なくなる程度で許してくれると思うけど』
『もし・・・もしあの嬢ちゃんに手を出ししたりなんかしたら・・・・・・』
『はく製にでもされるんじゃない?』
命は無いと思った方がいいよ?だって夫婦揃って親バカだから。
『逃げるんだったら今の内だと思うけど』
『くふっ。逃げる?誰が逃げると?お兄様?』
おい、何を企んでやがるんだこの女狐は。
『力で征服できないのであれば搦め手を使うまで。本気を出した私に魅了されるのも時間の問題よ』
あーなるほど。そー来ますか。ふむふむ。
ムダだと思うけどねー。
翌日―――
「ロッゲーン!」
『ああ御無体な!御無体な!!』
『だーからムダだって言ったんだよ』
そこには庭の芝生の上でヘソ天をかまし、姫さんにお腹を撫で回されている見るも無残、哀れな妖狐が一匹いたのだった。
・・・・・・俺もヘソ天したら撫でてくれますか?