ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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悪原九郎の過去はありふれたものです。


一之瀬帆波の悔恨

一之瀬帆波の悔恨

 

先生が質問を受け付けている時に唯一手を挙げた男子生徒。

……私が教室に入った時には、すでに彼は自分の席にいた。一眼見た時、その存在を認識した時、まるで世界がまっさらになって立ち惚ける私と、席で本を読んでいる彼とで二人きりになったような錯覚を覚えた。

けれど私はすぐに目を逸らした。見覚えがあるとは思っていた。なんとなく正体を理解してもいた。ところがどんなに視線を外そうとしても、気づいたら体が彼の方へと向いている。彼を見れば見るほど、懐かしさと後悔が押し寄せてきた。

でも、話しかける勇気はなかった。本当に自分が考えている通りなのか、真相を確かめるのが怖かった。けど彼の名前を先生が口にした時、私は目の前の人物が現実に、自分の前にいるのだという事実を理解させられて軽く震えた。

 

……悪原、九郎くん。

 

保育園の頃からの、幼馴染。

 

 

 

******

 

 

 

自慢じゃないけど、私は小さい時から周りよりしっかりしていて、物覚えも早かった。だから、私だけできて周りの子はできない、みたいなことが何度もあった。

私は次第に、自分は『できる』子だから周りの子の力にならないと、というような使命感みたいなものに駆られるようになった。だってそうしたら、先生とか大人の人たちは褒めてくれるし、みんなも『できる』ようになって喜んでくれるし、それを見ると私も嬉しくなれたから。

 

けれどある日、転入してきた子がいた。それが九郎くんだった。

 

自己紹介を終えて、園を案内することになった。普通は先生たちが説明するんだけど、その時私だけ特別についてきてもいいことになった。周りより頭がよくて、園児みんなと友達になっていたことから、転入生の子ともすぐ仲良くなれるだろう、と思われたんだろうな。

 

それは間違いじゃなかったけど、九郎くんはその頃の私にとっての常識を覆す存在だった。

 

『周りよりできる子』。それが私に対する周囲の評価で、私自身の自己評価にもなっていた。だから周りの子達に手を貸していた。

でも九郎くんは私の助けを必要としなかった。ちょっと説明したり、触らせてあげるだけで使い方をあっという間に理解してすぐ覚えた。

 

九郎くんはあっさり馴染んだけれど、周りと決定的に異なるのは私の助けを必要としないところだった。

 

勉強の時間では誰よりも早く問題を解く。運動の時間では誰よりも優れた成績を残す。

一番足が早くて、力が強くて、頭がよかった。九郎くんは『周りよりできる子』ではなく、『一番できる子』になった。

 

当時の私はそれが無意識のうちに気に入らなかったのかもしれない。事あるごとに九郎くんに絡んでいっては、何か困ったことはないか頻りに聞いていた。……それで怒らせちゃったこともあったな……

 

「くろうくん、こまったことない?わたしが力になるよ!」

 

「ないよ。いちのせちゃんはあっちいってて」

 

「うそ!ほんとはあるんでしょ?」

 

「うそじゃないよ!いいかげんにしてよ!何回も何回もこないでよ!」

 

……こんな感じでさ。それで喧嘩になって、どっちも怒られた。私はしつこすぎることを、九郎くんは突き放すような言い方を、だったかな。

 

みんなと仲良しの私と違って、九郎くんは仲良くする人を選んでいる感じだった。私はあまり好かれてなかったんだろうね、自己紹介と案内を終えた後は私が一方的に話しかけるだけで九郎くんから接触してくることなんかなかったし。

 

でもその時の喧嘩が機になって、私と九郎くんの距離は近くなった。

話しかけても「あっち行け」と言われなくなった。一緒に遊ぼうと言えば付き合ってくれるようになった。

九郎くんの方から話しかけてくれるようになった。遊びに誘ってくれるようになった。時には私の知らないことを教えてくれた。

いつの間にか、たくさんいる友達の中で一番仲が良くて、真っ先に名前が出てきて、一緒にいて楽しい人が九郎くんになった。

 

子供同士が仲良しということで、必然的に親同士の交流も発生するようになった。私の家にはお父さんがいないけど、九郎くんの家も同じだった。シングルマザー同士仲良くなって、家族ぐるみの付き合いになった。

 

その頃にはすっかりお互いの存在がお互いにとっての『幼馴染』になっていた。

 

小学校に上がってからも一緒にいた。仲良しなのも変わらずだ。そしてやっぱり小学生の中でも九郎くんは優秀だった。周りから評価されるのは私も同じだったけど、勉強も運動も九郎くんに勝てたことがない。なんなら、時に九郎くんは上級生を言い負かしたりすることなんかあったし。

とはいえ、私はクラス委員長をやっていたのに対して九郎くんは特に何もしてなかったなんてこともあるけど。

 

授業でも、学校行事でもほとんどの時間を九郎くんと一緒に過ごした。ペアを組む時の相手は絶対に九郎くんに決めていて、一番に話しかけてペアになった。

一緒に登下校。一緒に寄り道。一緒に勉強。一緒にゲーム。時には一緒にお風呂に入ったり、寝たりした。お出かけする時だって必ず九郎くんを呼んで一緒に行った。

そこにいて当たり前。私の隣にいて当たり前。楽しみも、幸せも、辛いことも二人で分かち合って当然。九郎くんが隣にいることが、すっかり常識に等しいものになっていた。

 

小学校高学年になってから、私は異性に告白されるようになってきた。その悉くを断ってきたけど、中にはストーカー行為をしてきたり、逆上して暴力を振るおうとしてくる子もいた。

そんな時、いつだって一番に助けにきてくれるのが九郎くんだった。

 

九郎くんが喧嘩に強いのはその頃に初めて知った。

 

九郎くんはいつも正面から危険に立ち向かった。喧嘩に強いと言ったって、無敵なんかじゃない。怪我をすることもあった。それが心配で心配で、私のせいで怪我をすることが本当に申し訳なくて、罪悪感が募っていくのに。

 

「帆波、大丈夫か?……なら、よかった。」

 

ただそれだけの言葉で、心の暗いところが全て打ち払われる。照らされる。許しを得られて、嬉し涙さえ流れる。暴力で言いなりにしようとしてきた人たちとの喧嘩を九郎くんが制した後に私が泣きつくのが、お決まりになっていった。

 

中学生になっても、高校生になっても、大人になっても、お爺ちゃんお婆ちゃんになってもずっと一緒にいるのだろうと、私は呑気に、何の根拠もない、何一つ保証などされていない未来を思い描き、その度にだらしなく顔を緩ませて幸せになっていた。

 

その脆い幻想は、中学生の時に打ち砕かれた。私の、最大の過ち。

 

中学校に上がってから、私と九郎くんは距離ができた。正確には、九郎くんからいきなり距離をとられた。

一緒に勉強することも、遊びに行くことも、二人で帰ることも、休日一緒にお出かけすることも、どんどん減っていった。私の心も、どんどんすり減っていった。

 

「九郎くん!最近、私のこと避けてるよね?……私、何かやっちゃったのなら、謝るよ。だからさ……また一緒に……」

 

「いや……お互いもう大きいんだしよ。俺達ももうちょっと距離感ての考えようぜ……」

 

だんだんと開いていく距離に耐えられなくなり問い詰めた私へ返されたその言葉は、どんなに鋭利で残虐な凶器よりも、圧倒的に残酷なものだった。いつまでも同じ時間が流れていくのだと、いつまでも幼馴染と生きていくのだと信じていた私の心を、その一言がズタズタにした。

当たり前の平穏がぶち壊されたような気分だった。

 

それから、距離が開いていくスピードは加速していった。もう一緒に勉強なんてしない。遊んだりもしない。お出かけもしない。帰ることもない。お互いの家に行くとか、一緒に寝るなんていつの間にかもはや冗談でも許されないような禁止事項になった。

 

別に、私には九郎くんしかいないわけではない。周囲にはたくさんの友達がいる。みんな私のことを気遣ってくれる。なのにどうしようもなく寂しかった。

幼馴染が全然知らない人と楽しそうに話していたり、ボディタッチなんてした時には、得体の知れない寒さに襲われた。

 

話しかけても無視されるわけじゃない。ちゃんと答えてくれる。下の名前で呼んでくれる。勉強で少しつまづいたところのアドバイスを求めたらわかりやすく教えてくれる。体育の授業で少し怪我をした時は心配してくれる。

 

けど……何か、すごく寂しくって。

 

幼馴染と離れゆくにつれ、胸の奥が、ズキズキと痛んだ。

 

「寒いよ。苦しいよ。寂しいよ、九郎くん……」

 

そんなことを呟きながらベッドの中でうずくまって眠るのが新たな日常になっていった。

 

男女だからってなぜ距離をおかなければならないのか、全く理解できなかった。学校では何とか普段通りの体裁を取り繕っていられたけど、それによって発生するストレスというのはどうしようもなかった。

これまでの間、たまったストレスは九郎くんと一緒に何かをすることで知らぬうちに発散されていたのだ、と私は初めて気がついた。逆に、気づいてしまったことで尚辛くなってしまったが。

頭を掻くことが増えた。視線が揺れるようになった。無意識のうちに九郎くんをじっと見つめるようになった。

さらに時間が経って気がついた頃には、顔を合わせることも、もう話すこともなくなっていた。あんなに近くにいた幼馴染が、今は彼方にいるような気がした。

 

中学生になって告白される回数が格段に増えた。朝下駄箱に行くとラブレターがあったりするのも日常茶飯事。届くたびにそれらに目を通していたけれど、はっきり言って辛かった。興味がないからだ。気持ちを込めて、真剣に書いてくれたのだから、それを読みもせず捨てるのは……という罪悪感から逃れるためだけにそうしていた。

 

……そして、中学二年生の中盤。『暴力事件』が起きた。私の最大の過ちもその時のもの。続けてそれによる九郎くんの転校。さらにそれからのことは、もう思い出したくない。自業自得だと思っているが、それはそれ。中学生時代という言葉を見聞きするだけで気分が落ちてくる。

ただ今言えるのは、あの時もっと冷静でいて、自分の気持ちを自覚していて、さらには無理矢理にでも幼馴染を手繰り寄せて、嫌がられたとしても捕まえておけば少なくとも今よりはずっとマシだったのかもしれないなぁ、ということ。

 

この高度育成高等学校に進学したのは、心機一転して新しい自分に生まれ変わろうと思ったから。

九郎くんを失ったショックを受け止めきれず、私は引きこもりになっていた。同級生に合わせる顔なんてなかった。だから、知り合いの誰も進学を狙っていないというここに決めたのだ。

 

でも、クラス表を見て私は呼吸が詰まった。自分と同じBクラスの枠に刻まれた、悪原九郎の名前。

あの事件、あの決別の雨の日以来、失われていた幼馴染との繋がりが再び得られた事実に、私はその場で泣き出してしまいそうだった。

 

興奮で胸がいっぱいになりながら私はいざ幼馴染と対面した時の会話シュミレーションに没頭しつつBクラスの教室に足を踏み入れた。

結局、本人を前にするとどう話しかければいいのか、振る舞えばいいかもわからなくて、シュミレートしていた会話なんてまるっきり無駄になっちゃったけどね。

ただでさえ四組あるクラスの中で、同じクラスに配属されたというのに私の席は九郎くんの隣という信じられないような奇跡に恵まれ、私はどうにかなってしまいそうだったけれども何とか星乃宮先生の話を理解すべく集中した。

 

10万ポイントをポンと与えられて周りのみんなは盛り上がっていた。内心私も結構びっくりしていた。だって、先生の説明によれば実質入学祝いに国から10万円を渡されたようなものだもんね。先生も「入学できただけでも、それだけの価値と可能性がある」なんて嬉しいこと言ってくれてたし。

きっとみんなポイントをどう使うかもう考え始めているんだろう。私も同じ。校内にはケヤキモールというショッピングモールもあるらしい。10万もあれば、学生にはもったいないような豪遊ができそうだ。

 

その後先生が質問があるなら答える、と言ったけれど誰も手は上げなかった。まず自分の考えを整理するのに結構いっぱいいっぱいだったしさ。

 

でも、幼馴染は違った。九郎くんだけは、変わらない優秀ぶりを見せつけた。

 

先生の説明は決して長いものじゃなかったし、細かいものでもなかった。この先の学校生活で覚えていってほしいということなのかもしれないけど、それは裏を返せば開示している情報がとても少ないことを意味する。なのに、あの少ない情報で、『来月はいくら振り込まれるのか』『生徒を実力で評価するなら、学校側が定めている基準があるはず。それを下回ればどうなるのか』と、二つもの質問を投げかけた幼馴染。後者の質問に至ってはすでに二通りもの予測まで立てていた。一体頭の中はどうなっているのか、我が幼馴染ながら本当に不思議で、尊敬できる。

 

ホームルームが終わり、入学式まで時間があるので自己紹介をしてみないかと呼びかけてみた。ホームルーム前にはもうある程度のクラスメイトと仲良くはなれていたので、みんな賛成してくれた。

……九郎くんだけは、別だった。

 

さっさと立ち上がって、付き合ってられないと言わんばかりにどこかに行こうとする幼馴染。私はそれを呼び止めた。

 

「あ、ま、待って九郎くん!」

 

けど、ほとんど無意味だった。九郎くんは一瞬足を止めたけど、小さくため息をついてまた出て行こうとした。

呼び止め方が馴れ馴れしかったか。下の名前で呼んでほしくなかったのか。それともやっぱり……私たちの関係は、あの日に終わったのだと言いたいのか。

 

ただ確かなのは、九郎くんの私への好感度はマイナスに振り切ってるということだ。これは間違いない。

……それぐらいわかってるよ。

……わかってるけど、認めたくなかったんだよ。

……嫌われてるとわかってても、君への想いを忘れられなかったんだよ。

……どう声をかければいいのかわからないんだよ……。

 

状況的にはあの日と同じだ。自分が取り返しのつかないミスを犯し、後悔して、何とかよりを戻そうと悪あがきするけれど、全て無駄に終わって泣き寝入り。

どんどん自信がなくなる。恐怖が迫ってくる。悪夢で何度も現れて私を糾弾した幻像の幼馴染が、嘲笑いさえせず無表情で冷たく「無駄だ」と無慈悲に告げる。

 

追いかけたいのに足が動かない。今まさに扉に手をかけて出て行こうとしているのに何もできない。

 

泣いてしまうかもしれない……と情けなさのあまりに涙が出そうになっていたところで、ある一人の男子生徒も立ち上がって九郎くんを呼び止めた。その呼びかけに九郎くんは足を止めた。無関係なその子の言うことは、聞くことにしたようだ。

 

その男子生徒は神崎隆二と名乗って、勉強には自信があることや趣味を説明して手短に自己紹介を済ませた。みんな歓迎の意をもって拍手した。私も当然拍手した。

 

神崎くんのおかげで、九郎くんも自己紹介してくれた。趣味の紹介に入り、私はノスタルジーに浸る……。

 

映画鑑賞。昔はよくお互いの家族と一緒に観に行ったね。九郎くんはアクションものが好きで、私は恋愛や感動ものが好きだったな。恋愛ものを見る時は、九郎くんは大体途中で寝ちゃってさ。何度も私に起こされて、少ししたらまた寝ちゃって。そんなので感想なんて出てくるわけないから、拗ねた私のご機嫌取りに色々やってくれたよね。……今はホラーが好きなんだ。思い返せば、中学生になってから一緒に映画を観に行くことなんかなかったね。君の好みのジャンルが変わっていったことさえ、知らなかったよ、私……。

 

読書。そういえば、九郎くんはあまりゲームとかはしないタイプだったね。クラスの男子はみんな最新のゲームに夢中でいつもそのことで盛り上がってたけど、九郎くんはゲームよりスポーツをしたりする方が好きだったね。私もゲームはそんなにハマらなかったから、君と二人でボールを蹴ったりして遊んだね。運動に気が乗らない時は、君は図書室にいたのをよく覚えてる。推理小説や冒険譚みたいなものをよく読んでて、たまに図鑑をめくってたりしてて。時々一緒に同じ本を読んだね。でも九郎くんの読むスピードが早すぎて、私が追いつけないからいちいち君が手を止めなきゃいけなかったの、申し訳ないなって思ってた。……九郎くんとどうしても密着する形になるから、お互いの顔がすごい近くてさ。私だけ、緊張したりしてたんだよ。でも、静かな図書室で君と二人きりでいられたあの時間は本当に幸せだったな……。

 

喫茶店めぐり。これは知らなかった。成長して、新しい趣味ができたんだね。いつできたのかな。中学生の時には、もうできてたのかな。私が君のことを見てない間にさ……。でもそういえば、お出かけした時に九郎くんはよく喫茶店の前で止まったりすることが多かったね。確か、コーヒーの香りが好きだからって。……確かにコーヒーを飲めるのは大人っぽくて、二人でお母さんが飲んでるのをねだって一口もらって、思い切り顔を顰めちゃったりしたね。君はもう、コーヒーを克服できたのかな。私は、微糖が限界だったんだよ。ブラックは、私には苦すぎてさぁ……。……私も喫茶店の落ち着いた雰囲気は好きだよ。引きこもっていたとはいえ、時々出かけて喫茶店で時間を潰したりしてたよ。君さえよければ、おすすめのお店……紹介してくれないかな。それでさ……今度は二人一緒に、行ってくれたりしないかなぁ……。

 

聞けば聞くほど思い出が、幸せが詰まった記憶の泡がふわりと浮き上がってくる。その度に自分の愚かさに嫌気がさす。何度あの日を、あの日の私を呪ったことだろうか。

 

無断で出て行こうとしたことを謝罪したのもあって、クラスは歓迎ムードだった。九郎くんは照れくさそうに頬を掻いて、トイレに行くと言って教室を出て行った。神崎くんもそれに続いた。

ありがとう、神崎くん。君のおかげで、九郎くんもみんなの輪に入れると思うよ。

 

 

……けれども私の心中は決して明るくなどなかった。

私の呼びかけは無視したくせに、神崎くんのことは無視しなかったことが心に引っかかっていた。

そう、あろうことか私は、男の子の神崎くんに嫉妬したのだ。

 

本当……何やってんだろうね。私……。

 

けどそんな自己嫌悪も、用を足して戻ってきた二人を見ると吹っ飛んだ。

 

「──そうか、悪原は陸上部だったのか。その体格の良さだと、さぞエース格だったんじゃないか?」

 

「主力だったのは認めるけど、バカやらかして追放オチだぜ?元々はスカウトであんま乗り気じゃなかったし、結構すぐ転校したからあんまダメージはねえけど、後輩には悪かったなと思ってる」

 

「ふ、バカをやらかした、だと。一体何をやったんだ?嫉妬にでも晒されたのか?」

 

「ちげーーよ、ムカつくやつをボコっちまったんだよ」

 

「ムカつくやつか。そいつがどれだけの非道をやらかしたか、そっちの方が気になってくる」

 

「ボコられた側の方が悪いって前提なのか……まあ、すでに信頼されてるのは嬉しいけどよ」

 

「確かに友人になってほとんど間もないが、俺は人を見る目に自信がある。お前が本当にただムカついたからというだけで暴力を振るったとは思えない」

 

「ははは!見る目があるのはマジみてーだな。将来は鑑定団になるか?」

 

「冗談言うな、人と物とでは話は大違いだ」

 

……なんて、楽しそうに話してるんだろう。もう、お互いに気を許してるように見える。

 

……元々そこは、私の居場所だったのに。九郎くん、君は誰でもよかったの?隣にいるのが、私じゃなくても。誰でも何でもよかったの?

……君はそうかもしれないね。でも、私は違う。

私の隣はね、今も空いてるんだよ、九郎くん。周りにはいっぱい人がいるように見えるかもだけどさ、私から見ればみんなから見上げられてるような感じなんだよ。

『周りよりできる子』っていう椅子に座っててさ、私はその場所からできない子や困ってる子に手を差し伸べて、みんなと同じところに引き上げてるんだよ。

でも、私のいるところには誰も上がってこないんだ。上がろうとする子がたまにいるけど、大抵失敗して落ちていく。時々なぜか周りのみんなに止められることもあるんだよ。可笑しいよね。

……唯一、私の隣に立っててさ。時には甘えることもできたのが、九郎くん。君だったんだよ。

『一番できる子』の椅子は、今でもからっぽ。誰もいない。誰も、君の代わりになることはできなかった。

 

……なのにさぁ、どうして君はそうあっさり代わりの人を見つけちゃうのかな。私はひとりぼっちなのに、なんで君はすぐに対等な人を捕まえることができるのかな。出会ったばかりの人と、私が隣にいた頃みたいに楽しそうに……できるのかなぁ。

 

それとも……当てつけのつもりなの?

 

あの時のことが、そんなに嫌だった?こうして私と再会しても、透明な壁を立てた上で、わざわざ私の目の前で、私とは違う人を相方にして、あの時の幸せを再現して、私を苦しめるぐらい嫌だったの?

あの時、彼らに謝れって言ったから?謝るまで口聞かないなんて言ったから?だから私を無視するの?

 

 

──もう、つらいよ。

 

謝るよ。ポイントもあげるよ。なんでもするよ。頑張るよ。趣味も見た目も、君の好みに合わせるよ。君のためだけに、君の力になるために、どんなお願いも叶えるよ。

 

だから、だからどうか許してほしいな……。

 

 




書き上げて思ったのですが、ヤンデレタグか、曇らせタグをつけるべきでしょうか。
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