…で終わりのはずだったんですが、11月15日、日間ランキング9位にこの作品が上がってたことを知って6度見ぐらいしました…
重ね重ね本当にありがとうございます!評価して下さる皆様、感想を下さる皆様への感謝の気持ちでいっぱいです!
クラス内投票までは展開の構想もできているので、皆様を楽しませられるよう頑張ります!
「
金田悟は今、かつてないほどの危機感を覚えていた。
龍園に命じられ、Bクラスのベースキャンプに潜入したはいいものの。龍園の目的であるリーダーのカードキーを撮影するという任務を果たすことは、限りなく難しいミッションと言えた。
龍園はこの試験でAクラスと手を組んでいる。この試験専用のポイントを一部譲渡する代わりに毎月プライベートポイントを振り込んでもらうという契約を交わしたのだ。
ただしその代わりに、龍園はBかDのリーダーを探ってAクラスにそれを伝えなくてはならない。そして虚偽報告を防ぐために今試験でクラスを仕切ることとなった葛城康平は、カードキーの写真という確固たる証拠を携えての報告を求めた。
そのため金田と伊吹は龍園に逆らって制裁されたのちベースキャンプを追い出された、という名目のもとスパイとして潜入しているわけだ。
さて、なぜBクラスのリーダーカードキーの撮影が困難かと言うと答えはシンプル。
誰もスポットを獲得しようとしないのである。
つまり、カードキーが使用されない。
これでリーダーを探れというのは相当に無茶な話…というか、不可能だろう。それこそ龍園でも流石に無理なのではないか。
無人島試験五日目を目前にしてすでに諦めの境地に達した金田は、これはもうDクラスに潜入した伊吹がミッションコンプリートを果たしてくれることを願うしかないと思っていた。あくまで条件はBかDかなので、両方当てる必要がないというのは救いだった。
のだが。
「これは何なのかなァァ」
悪原九郎が見せつけるように手に持っているのは、龍園と連絡し合うためのトランシーバーと証拠撮影のためのカメラ。
時刻は深夜二時。突然叩き起こされた金田は悪原九郎に見下ろされる形でトランシーバーとカメラを見せつけられ、今に至る。
悪原九郎と綾小路清隆が非常に仲がいいという話は有名だ。もちろん金田も知っている。そしてクラス間闘争が始まってもそれは変わらず、いやむしろさらに絆を深めているように見える二人が、お互いのクラスのために協力し合わないなんて言い切れない。
要するに、この状況、非常にまずい。
「ああ、返事はしなくていい。全部わかってる。俺はおまえらと非常に平和的な
そんなセリフに反して悪原は笑いかけもせず、つららを彷彿とさせる目つきで金田を見据える。
「……要求は、何ですか?」
生唾を飲みこみ、なるべくゆっくりと、敵対の意思はないことを示し、金田は問いかける。
「それはおまえの知ることじゃねえな。とにかく龍園呼び出せ。さもなきゃおまえらAともども最下位に落とすぞ」
Aクラスともども、という言葉で金田は非常に嫌な予感を覚えた。おまけに龍園を呼べ、と言っていることから龍園がまだ島に残っていることはおそらくばれている。
一応自分がリタイアしなければ、伊吹がリタイアしても島に二人残るためハイリスクハイリターンな二択を迫れるとはいえ……
「おい、あと五秒で決めろ。決められなかったら…わかるよな?」
「なっ、待っ」
「ごー、よーん、」
突然のカウントダウン。時間的余裕も、心理的余裕もない中、金田が出した結論は。
「わっわかりました、龍園氏とコンタクトを取ります…」
Bクラスの悪魔に服従し、龍園に連絡することだった。
******
無人島試験五日目。突然ベースキャンプに轟いた悲鳴の主は、Dクラスにおけるカーストの中でも上位である軽井沢恵。
叩き起こされた男子たちはわけもわからないまま女子たちの糾弾をいきなり浴びることとなる。
訳を聞けばどうやら軽井沢の下着が行方不明になったらしい。そこで男子が盗んだのではと疑いがかかっているようなのだ。
さて、もちろん男子はそんなことなどしていない。しかし女子は男子がやったと思い込んでおり話し合いの余地は皆無。どれだけ訴えても『うるさい!罪を認めろこの変態ども!』で話が進まない。
無実だというのに明確な根拠もなく嘘をつくなと責められ続け完全に悪役扱い。そんな状態では、男子もイラつきだして当たり前である。一度火がつけばもう止まらない。次第にブスがうるさいだの下着泥棒のくせにキモイだの罵倒が飛び交うようになり、瞬く間にベースキャンプは戦場と化した。
四日目までの前向きな雰囲気はどこへやら。Dクラスに漂う空気はひどく重苦しかった。
綾小路は失望…するほどDクラスに期待してもいなかったが、にしてもこれはひどいと、いっそ笑い出しそうにさえなった。
「くだらないことをするわね…」
男女の罵倒合戦に参加していない数少ない人物であり、役割分担などの指示によってクラスのリーダーとしての格もいよいよ板につき始めてきた堀北は、こめかみを指先で押さえながらため息混じりにそう言った。
堀北なら自分の下着が盗られても平然と試験を続行しそうだな、と綾小路は思う。まあそれと同時に後々犯人を見つけて極刑に処しそうでもあるが。
「同感だな」
この試験中でさえ誰とも必要なとき以外には口を利かない綾小路だが、さすがに今ばかりは同意の声を上げる。
下着泥棒の犯人は間違いなくCクラスから追い出されて居候中の伊吹だろう。せっかくキャンプがうまくいっているのに、そこに水を差すように女子の下着を盗むなど、リスクばかりでリターンが完全にゼロな愚行に出る人間は天下のDクラスといえどもいるわけがないのに。………うん、いないはずだ。
まあ、綾小路に言わせれば、水泳の授業でのアレなどで女子からの信頼を自ら投げ捨てに行った男子も、その男子を犯人と決めつけて他の可能性を何ひとつ考えない女子も、どっちもどっちと言ったところだ。*1
不良品クラス呼ばわりされる所以が、今一度露わになったと言えよう。
そうこうしている間にもヒートアップしていく二つの勢力。最終的にこの醜い言い争いは、平田と櫛田が仲裁に入ったこともあり男女のテントを離れさせるという形で落ち着きそうだ。
リスク回避のためにも必要なこととはいえ、こんな奴らの
かくしてテント移動の対応には平田と綾小路があてがわれた。
「わざわざ手伝わせちゃってごめんね、綾小路くん…」
「別にいい」
申し訳なさそうに言う平田に綾小路はそっけなく返す一方、なぜ彼がDクラスに入れられてしまったのか心底疑問に思った。過去に犯罪でも犯したのか?
しかし平田が犯罪行為に及ぶイメージもつかない。考えるだけ時間の無駄ではあるが、少しばかりは興味を惹かれる問題だった。
「まさかこんなことが起きるなんて…」
「そうだな。一週間まともな集団生活も送れないとは、オレも予想外だった」
呟くように言った平田だが、綾小路の皮肉に苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……やっぱり、クラスのみんなが嫌いなのかい?」
「嫌い?五月の初めに言ったことを忘れたのか?オレはどうでもいいだけだ。今回オレがこうして働いているのも、オレ自身のためでしかない」
複雑そうな顔の平田を見向きも、気遣うこともせずに綾小路は淡々と、しかし若干の不快さが滲んだ調子で言葉を紡ぐ。この発言はクラスメイトの顰蹙を大いに買うことだろうが、しかし彼には間違いなく実力があった。
例の抜き打ちテストで、己はクラスどころか学年でもトップの学力を有しているのだという事実を見せつけた綾小路に、それでもぐちぐちと文句を連ねる生徒はいるものの、平田も櫛田もこれといったフォローはできなかった。せいぜい人の悪口は控えようというぐらいのものだ。
正直なところ綾小路への接し方には困るものがあった。高円寺のように唯我独尊を貫いているならまだそういう人間だと理解もできるが、綾小路は違う。自分のクラスの仲間を忌避し、敵であるBクラスを好いている。
彼に対する悪口に時折『綾小路はそのうち裏切る』というようなものがあるが、平田は本心からそれを否定することができなかった。仕方のないことなのかもしれないけれど、とは思いつつも、やっぱりそんな自分が情けなくて。
確かに綾小路は同じクラスの人間には冷たいかもしれないが、それでも同じクラスの仲間である以上、自ら孤立する道を突き進んでいく様を見て見ぬ振りなんてできなくて。
でもそんな思いを抱いていても、どのように行動しようとも綾小路には何ひとつ響かない。
自らの力不足に平田は下唇を噛む。
綾小路は自責の年に駆られる平田の様子を察知しつつ、己がBクラスに移籍する瞬間を思い描いて顔を綻ばせるのであった。
******
試験六日目。未だ男女の溝は深いが、もう綾小路はその辺りがどうにかなることを期待するのを諦めていた。そもそもこのクラスに何かを期待するのが間違っていたのだ。
ともかく、リーダー変更作戦のために綾小路は山内を唆し、彼を一時的な駒に変えて堀北に汚泥を被せた。彼女の体調が悪化すればするほどにリタイアはやりやすくなるはずだから。
単にリタイアするだけなら仮病でも可能なのはCクラスが証明しているが、リーダー変更は敵クラスに大きなカウンターを決められるというメリットがある。そこを考えれば、保険として『正当な理由』は用意しておくべきだ。
……まあ、彼女の綺麗な黒髪にまで丹念に泥をかけたあたりは流石にドン引きしたが。そこまでしろと命じた覚えはない。
そして山内は堀北の見事な背負い投げをくらい、地面に叩きつけられた。割と強く、しかも頭からいったが……山内だし、別にいいか。と、綾小路は心配無用だと判断する。むしろあそこから追撃に出なかった堀北は称賛されるべきだとすら思った。
なんだかんだで無事らしかった山内が戻ってきて、ひどく興奮した様子で綾小路に話しかける。
「こ、これで一之瀬の連絡先、くれるんだよな……!?なあ、綾小路…!!」
そう、綾小路は学年のマドンナと言っても過言ではない一之瀬帆波の連絡先を渡すという条件で山内を操ったのだが……渡すわけないだろ、と内心で吐き捨てる。
一之瀬は良い人だ。五月のあの日、疑って当然なのに、自分を信じてくれた。入学時に期待していた高校生らしい青春を送ることができているのはいち早く自分を見つけてくれた悪原のおかげだが、休み時間などでもBクラスで気楽に過ごせるのは間違いなく一之瀬のおかげだった。移籍する時、彼女にクラスのために働くよう命令されたとしても喜んで従おうと思うくらいには、綾小路は一之瀬に感謝していたし恩を感じていた。正直なところ山内を操るために一之瀬をダシに使ってもいいものか迷ったほどだ。
そんな善人でかつ恩人である一之瀬の連絡先を、不良品クラスの中でも最弱候補で虚言癖まで持っている上に性欲を隠そうともしない男子に渡すわけがない。
山内のスペック諸々の酷さという前提を脇に置いたとしても、そもそもがただの口約束である。証人は自分と山内のふたりしかいない。契約書なんてありゃしない。当然、そんなものに強制力など雀の涙ほどもない。そして綾小路清隆の精神に、山内に対する情は存在しないので守る義理もない。
目先のあからさまなまでの餌に釣られ、そして当初提示された報酬をそのまま得られると信じている山内。そんな彼の様は、彼との会話は、この学校に来てせっかく得られた感情を自ら殺しにかかるほどに、綾小路にとってひたすらに嫌なものだった。
ともかく山内の泥攻撃により堀北はシャワーを浴びざるを得なくなったが、仮設シャワーは順番待ち状態。仕方なく水辺で泥を落とすことにした。もちろんこの流れも綾小路によって誘導されたものだ。温水でなく冷水で体を洗えば冷えるのは必然。それによりさらに体調の悪化を促すことができる。
そして水浴びしている隙を突き、伊吹が動く。彼女がカメラを持っていることは、軽井沢下着盗難事件の昨夜に確認済みだ。綾小路はそれを盗むことも破壊することもしなかったので、彼女は無事にこっそりカードキーを撮影することに成功。再び移動を開始した伊吹を尾行する。
人気が無い、ある地点で立ち止まった伊吹は地面を掘り返してあるものを取り出す。トランシーバーだ。確信していたとはいえ、こうして明らかな証拠を目の当たりにすると安心感が違う。
…だが、通話を始めた伊吹の様子が間もなくおかしくなる。綾小路は気づかれないよう気配を極限まで殺し、存在が露見しないギリギリの位置まで接近し聴覚に全神経を集中させる。
「もしもし、私だけど。リーダーがわかったし撮影もできたから受け渡しを──はぁ?」
「ふざけてんの?本気で言ってる?」
「──チッ!あっそ!!」
「うるさい!わかってるわよそんなこと!」
いきなりキレた伊吹は今自分がいる場所の特徴を説明し終えるや否や乱暴に通話を切る。そして今度はカメラも一緒にトランシーバーを埋め直して、近くの木に尖った石で印をつける。
「ほんと、ふざけんな……いつか蹴り殺してやる…」
悪態を吐き、肩を怒らせながらDクラスのベースキャンプの方へ戻っていくのだった。
伊吹の姿が完全に見えなくなったのを確かめ、綾小路は動く。
(どうやら、九郎が手を回してくれたみたいだな)
伊吹が話していた相手はおそらく龍園。そして会話の内容はおそらく、悪原と手を組んだためもう当初与えた仕事はしなくていいというものだろう。せっかくのミッションコンプリートが一瞬で無駄になった伊吹も報われない。
ともあれあの様子なら計画のあらすじは聞いているはずなので、戻って行った伊吹は綾小路にこのことを話し、トランシーバーを使って変更後のリーダーを龍園に密告するよう指示してリタイアするのだろう。後々あのカメラは龍園が回収すると思われる。
(さて…オレもオレの仕事をしないとな)
******
「こんな時間に何の用かしら」
六日目の深夜。突然の雨天にもかかわらず綾小路に連れ出された堀北は怪訝そうな顔で訊ねた。
その質問にすぐには答えず、綾小路は堀北を観察する。体調はそれなりといった程度だ。まあ無理をしなければ試験終了まで充分耐えられるだろう、というレベル。
伊吹のカメラを破壊するなりしてカードキーを盗ませてそれを堀北に追わせるというような手段もなくはなかったが、今回は別の手を打つことにした。
綾小路はさっそく本題に入る。
「結論から話すが、お前がリーダーだとバレた」
「───??」
「そして色々な事情から、オレはAクラスを嵌めるために今からお前をリタイアさせてリーダー変更を行うつもりだ。わかったならついてきてくれ」
「一から十までわからないのだけれど」
堀北にとってはまさに情報の渋滞だろう。そもそも最初の『リーダーがバレた』からすでにクエスチョンマークが浮かんでいた。そこから二個、三個と増えていき、今では軽く宇宙が見えてきている。
「じゃあわからないままでもいいからついてきてくれ」
「説明する気はないのかしら」
「聞きたいのか?」
「当たり前でしょう」
「Aクラスを嵌めるという点だけでもわかってくれたら話が早かったんだが」
仕方ない、と綾小路は大まかな目的を説明した。この試験中、自分はBクラス──厳密には悪原九郎とだがそれは言わない──と協力関係にあり、Aクラスを罠にかけて試験結果をゼロポイントにし最下位に落としてやろうという計画のもと動いていること。
またこれにはCクラスも関わっており、今回は一位をCに譲り自分たちは二位で終わらせる予定であること。
AクラスはBクラスと比べても圧倒的なクラスポイントを有していることから、普通に勝つだけでは追いつくのは難しい。だから徹底的に妨害に回り、最悪の結果になるよう誘導しつつその間に自分たちは地道にクラスポイントを貯めて距離を詰めていく…という筋書きがあること。
色々端折りはしたが、それでも綾小路の行動の理由がわかったからか堀北は概ね理解したようだ。
「…なるほど、理解はしたわ。けれど私をリタイアさせると言ってもどうするつもり?リーダー変更は正当な理由がなければできないはずよ」
「お前は風邪気味だろ。体調不良は正当な理由だ」
指摘してやると、彼女は驚きに目を丸くした。気づかれているとは思っていなかったようだ。
「……そう、全てお見通しだったということね」
「そうでもない。オレは超能力者じゃないからな」
確かに綾小路はAクラスにダメージを与えるため影で動いた。しかしその行動理由に悪原がいることも、綾小路の真の目的がクラス移動にあることも、本当に重要な事実を堀北は知らない。
「…もし、リーダー変更がダメだったならどうするつもり?」
担任である茶柱がいる仮設テントまで移動している道中、堀北が呟くようにそんなことを問うてきた。確かにその可能性はある、と綾小路は考える。堀北の体調不良は事実だが、『頑張ればいけるだろ』なんて判断されてしまうとアウトだ。
しかし問題はない。そうなった場合でも、リーダー変更させられる手はある。
綾小路は答えた。
「その時はお前の肩を外す」
無感情に答えた綾小路に堀北はまたもクエスチョンマークを浮かべるも、今回はすぐに理解して眉を顰め、ため息を吐いた。
「一応訊いておくけど、あなたは今自分が何を言ったか、理解できているのかしら」
「何も変なことはないだろ。同じクラスの生徒だから暴力行為は問題にならない。Cクラスのことを忘れたのか?」
「だとしてもあなたね…………はぁ、まあいいわ。変更が通るよう祈っておきましょう」
呆れたように、諦めたように彼女は言った。
しかしそう言う綾小路自身も、できればこのまま変更できる方がありがたい。それはもちろん堀北の身を案じるが故ではない。確かに暴力行為は同じクラスならば問題になりにくいが、所詮暴力は暴力。そこを指摘して、茶柱が自分を危険な生徒として退学させようとするかもしれないというリスクが存在する。
最悪やるとしても茶柱の目が届かない場所でだな、と思う。
そうこうして仮設テントに辿り着き、声をかけると茶柱が出てきた。
「堀北が体調不良でリタイアします。それとリーダーを変更させてください」
「…………」
茶柱は堀北を見て、綾小路に視線を移す。その時、ごく一瞬だけ担任の体が硬直したことに堀北鈴音は気づかなかった。
「………リタイアには30ポイントのペナルティがつくが、構わないな?」
「問題ありません」
堀北が答える。綾小路は無感情、無表情で、自らの担任の目の奥を、ジッと見ていた。
「……変更を認める。次のリーダーを誰にするか教えてくれ」
「オレがやります」
「わかった」
テントの奥に行き、戻ってきた茶柱の手には新たなカードキーがあった。それには間違いなく『アヤノコウジ キヨタカ』の名が刻まれている。
こうしてリーダー変更作戦は成功。綾小路が新たなリーダーとなった。明日の正午、試験終了時にA、Bクラスのリーダーを指名しDクラスを二位に押し上げる。
(………そういえば、Bクラスのリーダーは誰なんだろうか)
どこか安心した様子で船に戻って行った堀北の背中から視線を外し、綾小路はぼんやりとそんなことを考えるも、この場で答えが出るはずもなくすぐにその思考を打ち切った。
******
無人島試験、七日目。ついに試験が終了する。腕時計は刻一刻と正午の時が近づいていること、結果発表の瞬間が迫っていることを無機質に示す。
そして、時が迫るにつれ全クラスの生徒が無人島生活での疲労を隠そうともせずゾロゾロと試験開始時と同じ場所に集うのだった。
まず、Dクラス。この期に及んでなお雰囲気は微妙だ。特に女子軍団の、男子たちへの軽蔑の目は相変わらずだ。『もう負け確定だ』…そんな空気に包まれて、他のクラスと比べると全くひどいものだ。まあそんな中でも佐倉は相変わらず目立たぬようコソコソとしているが。
そして新たなリーダーになった綾小路はやはり無関心そうにぼんやりと立っていた。
次、Bクラス。雰囲気の良さは間違いなくここが一番だと言える。誰もが試験をやりきった達成感で安堵の表情を見せていた。
…が、一之瀬と神崎はどうも微妙な表情だ。綾小路はBクラスを観察してまずそこに気づき、そしてすぐにその表情の理由を理解した。
悪原九郎がいないのだ。どうやらリーダーは悪原だったようだが、一体どうやって変更できたのか…
Aクラス。ここは特筆すべきことはなく、概ねBクラスとそんなに変わらない。ただ戸塚弥彦は『坂柳のやつ、ざまあみろ!』と大威張り。それもあってかいまだに葛城派閥と坂柳派閥の間にピリピリした空気がある。その辺の空気の悪さはDクラスとそんなに変わらないのかもしれない。
こうして三クラスが揃った──と思いきや、ごく一部の人間を除いて予想外の人物が、獰猛な笑みを浮かべながら堂々と登場する。
「龍園!??Cクラスは全員リタイアしたんじゃねえのか!?」
「なんで龍園が残ってんだ!?」
神崎や綾小路、葛城といった人物以外は龍園の登場に驚きを隠せていない。一之瀬も目を丸くしていた。
ジャージ姿の龍園はところどころ泥や土、砂に汚れ、髪の毛も普段ほどまとまりがなくボサボサだ。間違いなく、どこよりも過酷な、そして文字通り本物のサバイバル生活を送ってきたのは誰の目にも明らかだった。
「龍園、遅いぞ。もう少し遅れていれば失格になっていたところだ」
「ククク…ヒーローは遅れて登場するもんだろ?」
真嶋の苦言に龍園は自信たっぷりにニヤニヤ笑いながら答えた。
二日で全てのポイントを吐き出したというのに、あまりに堂々とした態度に、他クラスの生徒たちはどこか気圧される。そんな彼らを歯牙にも掛けず龍園はCクラスの集合場所へ立つ。
他のクラスは一人か二人人数が欠けているといえどほぼ全員ピシッと並んでいるというのに、龍園たったひとりだけでひとクラス分のスペースにドンと立っているその様は、あまりにも浮いていた。
とにかく、全クラスがここに揃った。それを確かめた真嶋はクリップボードを手に、拡声器のスイッチを入れて話し始めた。
「この一週間、我々教員はじっくりと君たちの、特別試験への取り組み方を見させてもらった。真正面から試験に挑んだものと、工夫を凝らし試験に挑んだものとさまざまだったが、総じて素晴らしい試験だったと思っている。ご苦労だった」
「ではこれより端的に、試験結果を発表する。この結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し、次回へと活かしてもらいたい」
その言葉に生徒らはサバイバルが終わったことを改めて認識し安堵すると同時に、気を引き締める。
そんな中、龍園だけが笑いを堪えきれておらず、くつくつと不気味に笑っていた。ちなみに船の上からは石崎たちを筆頭にCクラスの生徒たちがゾロゾロと顔を覗かせてきている。彼らも試験結果が気になるようだ。
時は来た。真嶋は静かに、しかしハッキリと声を上げる。
「最下位………Aクラス。0ポイント」
全クラスがざわついた。葛城や戸塚は何が起きたのか全くわかっていないようだし、橋本はどこか複雑そうながら笑っていて、神室はぶすっと仏頂面。クラスメイトたちもなぜこんなことになったのか理解がまるで及ばず、葛城に詰め寄るという発想さえなかった。
初っ端から予想外の結果に動揺が広がるが、真嶋はAクラス担任としてわずかばかり無念そうにしつつも、ざわめきが落ち着くのを待つことなく結果を発表していく。
「三位、Bクラス。117ポイント」
Bクラスからは悔しげな声が上がる。特に柴田は拳を震わせるなどわざとらしいくらいの反応を見せていたが、むしろその様子がクラスの空気を柔らかくしていたし、そうなるほどの精神的余裕もあった。
神崎は予想通りと言わんばかりに無反応だが、一之瀬はそれどころじゃないようでもある。ずっと何かを気にしているようだ。
担任である星之宮は特にこれといった反応はない。喜びも残念がりもしない。どこか納得したようでもある。
そんな中でも滞りなく発表は続く。
「二位、Dクラス。160ポイント」
その瞬間、Dクラスが沸き上がった。当初誰もが負け確を予想していただけに、この好結果は喜ばしいことだろう。クラスポイントがようやく三桁になるぶん喜びはひとしおだ。男女のギスギス感も吹っ飛んで、クラス一丸どんちゃん騒ぎ。
しかし担任の茶柱も星之宮同様、これといった反応は見せなかった。
そうして残すは一位の発表となったが、Cクラス…というより龍園ひとりに向けられる視線は消えない。それどころか増えている。
三クラスの結果が発表されても、Cクラスは出てこなかった。龍園の圧倒的な自信の理由を、すでにこの場にいる全員が理解していた。
つまり真相は──
「───…一位、Cクラス。176ポイント」
満を辞して告げられた結果に、我にかえって葛城に詰め寄っていたAクラスも、励まし合っていたBクラスも、二位の座を喜び大騒ぎだったDクラスも、すべてが黙り込む。
だがその静寂は、船の上にいる石崎によって破られた。
「────うっ」
「うおぉぉおおおおおお!!!!龍園さんすげぇぇえええっっっ!!!!」
「すごすぎるだろあの人!!?マジで一位になったぜ!!!」
「龍園さんなら俺たちをAクラスに導いてくれるに違いねえよ!!!やっぱりついてって正解だったぜ!!!!」
「
拳を突き上げて喜ぶ石崎に続き、小宮、近藤、アルベルトが龍園を讃える。金田も龍園を尊敬の眼差しで見ていたが、伊吹はイラついたように口を尖らせていた。
「クククククッ………ッハーハッハハハハッ!!!」
笑いを堪えるのも限界に達した龍園が、高らかに笑う。王の哄笑が場に轟く。
「残念だったな雑魚ども……ガンバって節約生活に勤しんだ結果は、遊び倒した俺たちの勝利だ。どんな気分か、教えてくれよ!!」
一年生たちの、初めての特別試験。その結末は、二日でポイントを使い切ったCクラスの圧倒的勝利という結果に終わった。
その場全員の驚愕に満ちた視線を一身に集めながら龍園は獰猛に笑いながら大手を振って悠々と、いち早く船へと歩き出す。
船から渡されているスロープを力強く踏み締め帰還してきた我らが王を、民と臣下らが怒号のような大歓声で迎える。
Cクラス担任の坂上は誇らしげな顔で満足そうに龍園を、ならびにクラスの生徒たちを見ていた。
******
「身投げした?」
「ああ、六日目の夜にな。足を滑らせたという言い訳が雨で通用しやすくなってよかったとまで言っていて、まったくあいつは…」
試験終了後、綾小路は神崎と話をしていた。内容はもちろん悪原のリタイアに関してだ。
どうやら悪原はちょっとした高所から身投げしてわざと怪我をしたらしい。とんだ無茶をする男である。
しかもおそらくこのリタイア方法は実行まで聞かされていなかったことが、神崎の憤った様子から窺える。そりゃあいくら必要なことだからって、友人が身投げするところなんて見て面白いわけはないだろう。
ちなみに一之瀬は船に戻るや否や一目散にどこかへ行ってしまった。行き先の想像は容易だが。
「おー、ご苦労さんおまえら」
噂をすれば影。身投げしたというのに呑気な調子で現れた悪原に、綾小路が反応する。
…一之瀬がいないのは予想外だったが、何も問題はない。
「九郎!飛び降りしたって聞いたが大丈夫なのか?」
「ちょっと足がグキッていっただけだ。大したことねえよ」
悪原は松葉杖をついている。左脚を少し浮かせているのを見ると、どこに深刻なダメージを負ったかは明白だ。
「ま、少なくとも船を降りるまでは
「そうか。ところで悪原」
神崎がややドスの効いた低い声で呼びかける。飛び降りの件について物申そうとしているのだろうが、悪原は嫌そうに顔を歪めた。
「言っとくがお説教はもうたくさんだぜ。先生にブツクサ言われながら手当を受ける気持ちを想像してみろよ。しかも全面的に俺が悪いせいで反論もできない」
「ほう、自分が悪いとわかっているのか。なら安心しろ、時間は取らせないからな」
「は?いや、説教はいらないって言っ」
「友人が突然『じゃあリタイアするから後はよろしく』と言った直後に身投げした時、それを見ていることしかできなかった俺の気持ちを想像してみろ」
「…………すいませんでした」
そんなやりとりを見ている綾小路も、正直今回は神崎の味方だ。確かに、自傷してのリタイアは必要なことだったのかもしれない。けれども理屈だけで人をねじ伏せることはできないのだと、綾小路はホワイトルームの外に出て学んだのだ。
「それでは話をしようか、悪原」
「40秒で終わらせな!……なんて」
「40秒追加だ」
「…………………………………………」
連行されていった親友を見送り、一人になった綾小路は椎名ひよりと本でも読んで時間を潰そうかと思い立つ。おそらく部屋で本を読んでいるだろう椎名を探すべく歩き出そうとしたその瞬間、何やら力いっぱい走るような音が聞こえた。しかもその音はどんどん接近してきており──
「いたっ!!綾小路くん!!!」
「一之瀬?どうしたん…………ぅゎ」
目の前の曲がり角から現れたのは一之瀬帆波だった。彼女を見て綾小路が、らしくない変な声を出した理由はシンプル。
「なんだそれ?そんなものどこにあったんだ」
「よかった、これで坂柳さんが助かるよ!!」
「待て、坂柳がどうしたって?まず説明を……うわ!」
背負っていたミイラを持ち替えて一之瀬は、綾小路に全力でそれを押し付ける。この強引なプレゼントを思わず受け止めてしまった綾小路の全身にミイラが張り付く。
「おい一之瀬っ、なんだこれ……、力強くないか!?」
枯れ枝の方がまだ丈夫そうに見えるほどに細く弱々しくカリカリの腕と脚が綾小路の背中と腰に回る。振り払おうとするが一向に離れる気配がない。
──ズギュン
何か、心臓の鼓動のような、しかし圧倒的に不気味な音が聞こえた。背筋が凍るような思いで綾小路は抵抗を強めるも、やはり離れてくれないし振り解けない。
──ズギュンッ、ズギュンッ!
このなんとも形容し難い不気味な音が聞こえるペースはだんだんと早くなっていく。
そして、音の度にミイラの肌に若々しい健康的な色が差していくのを、綾小路の目は確かに捉えた。
一体何が起きているのか、わけがわからない。
音が鳴る。ボサボサの髪の毛が艶と色を取り戻していく。
二度、音が鳴る。今にも砕け散りそうな手足に瑞々しさと柔らかさが戻っていく。
三度、音が鳴る。丸められた紙屑よりもシワの多い肌にまっすぐさとハリが戻っていく。
四度、音がなる。ミイラ──いや、少女から呼吸音が聞こえ始める。
五度、音が鳴る。少女が顔を上げた。
「………………………」
視線が思いきりぶつかってしまう。西洋人形のような美しさと可愛らしさを湛える少女は綾小路にニコリと微笑んだ。
しばらく視線がぶつかり続けたが、この状況は綾小路の『……とりあえず、降りてくれないか』というセリフで打破された。
「……………ふぅ」
綾小路を捕えていた腕と脚による拘束を解き、彼女は床に足をつける。少しよろめきそうになったところで一之瀬から杖を受け取り、カツン、と小気味いい音を鳴らす。
「──ああ、助かりました一之瀬さん。あなたがいなければ私は今頃命を落としていたことでしょう」
杖を床につき、可憐に振り向いた少女、坂柳有栖は一之瀬に恭しく頭を下げた。
「それはいいけど…本気で焦ったよ!すぐに坂柳さんのところに行ってよかった……」
「大変な迷惑をかけてしまいましたね。このお礼は必ず。………清隆くんも、突然のことで驚いたでしょう?申し訳ありません」
そう言って坂柳は綾小路にも向き直って恭しく頭を下げ、謝罪する。
「それと清隆くん」
「また、吸わせてくださいね」
綾小路清隆は、何も言えなかった。
「さて、一之瀬さん。試験結果を教えていただけると嬉しいです」
「もちろんだけど、ここで話すのもなんだし。あのエステサロンで話さない?」
「構いませんよ。では、行きましょうか」
立ち去っていく美少女ふたり。残されたのはひとりの男子。
「……なんだったんだ、あれは」
小さく身震いした綾小路の問いかけに答えてくれるものは、誰もいなかった。
感想や評価、お気に入り登録はもちろん読んでもらえるだけでもありがたいですが、アンケートの回答もすごく嬉しいです!
次回から船上試験に入りますが、あまり長引かせず終わらせたいと考えています!
試験後クラスポイント
Aクラス 1004
Bクラス 780
Cクラス 668
Dクラス 247