ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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チョロインぶりをもっと発揮させたいです。


綾小路清隆の友情体験/星乃宮知恵の期待

自己紹介を見事に失敗し、平田のイケメンフォローが逆にダメージになりながらも、でもオレには悪原九郎がいるから……と、全く別クラスのただ一人の友人を思い精神の立て直しに成功したオレは今日の予定を考えていた。

しかし入学式を終えてからひとつ疑問があるのだが、なぜ校長の話はあれほど長くて、しかも眠くなるのだろうか?校長の伝えたいことはわかるが、もう少し話を要約できそうな気がする。長く話せば話すだけ評価に繋がるのだろうか。

とにかく今日はもうこれで終わりなのであとは自由時間になる。すでにグループとなったクラスメイトたちは10万ポイントをどう使うか、どこへ行くかで大盛り上がりしながら続々と出て行った。羨ましくなんてないからな。オレだって友達がいるんだからな。連絡先ももうあるんだ。ひとりぼっちで放課後を過ごすなんてありえない。

 

だが、一抹の不安がよぎる。〝もし断られたらどうしよう〟

 

完璧に初対面だったオレに対して、「話しかけやすそうだったから」という軽さで絡んできた悪原が、自分のクラスで友達ができていないとは考えにくい。むしろすでにクラスの中心人物になっていると考えるのが普通。

ああ、そう考えると途端に自信がなくなってきた。メッセージを送ろうと画面をタップしていた手が止まる。

ふざけるな、ホワイトルーム。何が世界に通用する人材を育てるだ。何が人工的な天才を作るだ。まずコミュニケーション能力を育てるべきじゃないのか。そうじゃなきゃ少なくともこの国の選挙では成り上がれないぞ。全部暗殺と謀略で政敵を消す気か。政治に限定しなくても現代社会、コミュニケーション能力は必須だ。そうだその通りだ。実力さえあればいいなんて、発想が短絡的すぎるんだ。所詮は天才でもなんでもない凡人の計画ということだな。そうだ。そうだ。全てホワイトルームが悪い。オレがこうして頭を悩ませているのは、全てホワイトルームの責任だ。

 

いや……オレの生まれ持っての人間性なのかこれは。そう思うと余計に自信がなくなるな。

 

うんうんと頭を悩ませ、隣人の堀北に変な目で見られつつ先に帰られてしまい、Bクラスの教室に突入するべきかと思ったその瞬間、救世主がやってきた。

 

「よう、清隆!施設回ろうぜ!」

 

ばん、と俺の期待に応えるように現れたのは、悪原九郎。

 

だから言っただろ?堀北。俺だって友達がいるんだと……って、そういえばもう帰ってるんだったな。

 

とまあそんなことはどうでもいいな。それより、九郎の隣にいる男子生徒は何者だ?尋ねてみるか。

 

「もちろんいいぞ、九郎。だがその前に隣の奴は誰だ?」

 

今さりげなく下の名前で呼んでしまったが、すごく友情を感じたぞ。なんてぼんやり思っていると、九郎は快く答えてくれた。

 

「ああ、こいつは俺と同じBクラスの神崎隆二だ。そんでもってクラス内で唯一の友達」

 

「九郎から話は聞いてる。綾小路清隆だな。悪原の友人同士、ぜひよくしてほしい」

 

そう言って神崎は手を差し出してくれたので、オレも手を出し握手を交わした。今はまだ友人の友人だが、新たな出会いにオレは青春を感じていた。これで美少女なんていたらなあ……と思わないこともないが、欲張りはいけない。(一応)堀北という美少女の友達候補もいるのだから。

お互いの自己紹介もそこそこに教室を出て、まずはケヤキモールへ行こうということで話がまとまりそこへ向かう道中でオレ達は話に花を咲かせた。

 

「さっきBクラスで唯一の友達が神崎だと言ってたが、正直予想外だった。オレはもうクラスの人気者かと予想していた」

 

「あれは悪原が悪い。一之瀬の誘いを断らなければ今頃Bクラス御一行の中心人物の地位はかたかったというのに」

 

「うるせえな!?大体断ったのは神崎もじゃねえかよ」

 

「あの人気ぶりには少し腰が引ける。確かにルックスよし、性格よし、リーダー性もあるのは認めるが」

 

「一之瀬という生徒はそんなに人気なのか?」

 

「ああ、気持ち悪いぐれえだ。お前はあまり近づかない方がいい」

 

「なぜだ?」

 

「チョロそうだから」

 

「なぜだ……」

 

「確かに、一見ポーカーフェイスを極めているように見えるがこうして会話していると少し危ういところもあるように思う」

 

「神崎まで?オレの味方はどこだ」

 

弾む会話に心が浮き立つ。なんだかとても友達らしい会話じゃないか。新鮮で楽しい時間を過ごしながらオレ達はケヤキモールにたどり着いた。

 

「どうする?まずはケヤキモールと言ったが具体的にどの店を見るかは決まってないが」

 

「今日のとこはスーパーやコンビニにしねーか?」

 

「いいと思う。特にコンビニには興味がある」

 

「なんでコンビニに興味なんかあるんだ?」

 

「親がとても厳しくてな。コンビニに行ったことがない」

 

「へええ、今時そんな箱入り息子みたいなのがいるんだなぁ」

 

まずはスーパーに寄ることにした。ケヤキモール自体かなり大きいが、ここのスーパーはそれなりのスペースを取られており充実した品揃えが目を惹く。野菜や肉、魚はもちろん、惣菜、缶詰、冷凍食品、お菓子にアイス、中にはご当地グルメのレトルトなんかもあった。

世界から隔離されたホワイトルーム出身のオレには目に映るもの全てが新鮮そのものでまるで見飽きないが、九郎と神崎の二人も感心した様子を見せていることから、一般家庭で育ってきた二人から見てもここのスーパーの充実ぶりはなかなか見ないものだと予想できる。

 

「見ろよお前ら!シュールストレミングなんかあるぜ!」

 

「シュールストレミング?」

 

「世界で一番臭い食べ物として有名だ。その臭いのキツさはもはや兵器レベルらしい」

 

興奮した様子で妙な缶詰を持ってきた九郎を見て疑問を口にすると、神崎が答えてくれた。いや…兵器レベルってどういうことだ。そこまで臭いのか?逆に気になるな……「興味本位で開けるのはやめた方がいい。人によっては窒息した事例もある」わかった、やめておこう。

 

「厳密には臭すぎて息ができなくなったのではなく、吐瀉物が詰まって窒息しかけたりショック症状で舌が喉を塞いでしまい息ができなくなったといった形だな」

 

「よりひどくないか?」

 

「開封した場所には一ヶ月は人が住めなくなるなんて話もあるぜ。さらに多くの航空会社が爆発物扱いして機内への持ち込みを禁止してるらしいぜ」

 

「一度服に汁が飛びでもすればもうとれないらしいな」

 

「気圧の変化によって爆発することを恐れてか。どこまで危険なんだ……」

 

「これを利用したテロ事件も検索したら出てくるぜ。シュールストレミング自体はただの食べ物だけど、その激臭はバイオテロに匹敵するなんて言われたりするな」

 

「もはやなんでそんなもの売ってるんだ?作る方も作る方だが」

 

しばしシュールストレミング談義を楽しみ、夕飯の食材を見たいからと言った九郎についていき野菜売り場を見ていたところ、あるコーナーに目がいった。

 

「九郎、神崎。ちょっといいか」

 

「ん?」

 

件のコーナーへと案内する。そこには『無料商品』と書かれている。オレは目利きでもなんでもないが、そこに置いてある野菜は明らかに周りのものより質が劣っている。キャベツやレタスなら萎びていて、にんじんやきゅうりは小さかったりやたらひん曲がっていたりなどだ。中には一見何の問題もないように見えるものもあるが、たぶんそれらは消費期限が近いのだろう。

 

「無料だと?」

 

「おひとり様三つまでか。根こそぎ持ってくのはダメみてーだな」

 

「それはどこでもそうだろ……」

 

『無料』を見てすぐさま根こそぎ持っていくなどとふざけた発想を口にするという自己中まる出しの九郎にツッコミを入れつつ、オレ達は『無料』コーナーから目が離せないでいた。

 

「学校も浪費家生徒の餓死を防ぐためにこんなものを設置してるってとこか」

 

「ああ……だがやはり引っかかるな」

 

「引っかかる?」

 

神崎の言葉にオレが反応すると、神崎はオレたち二人を少し引き寄せて少し声のボリュームを落とし、ひとつの懸念を口にする。

 

「ずっと引っかかっていたんだ。来月、いくらポイントが振り込まれるのか」

 

「なんだ。その話か」

 

神崎自身は結構真剣な雰囲気なのに、九郎はどこかどうでもよさそうな態度で少し気が抜けた。

しかし……来月のポイントについてか。興味深い議題だ。ホワイトルームの教育プログラムで最高難易度を誇るベータカリキュラムを受けた第四期生唯一の生き残りのオレも、担任の茶柱の物言いが少し引っかかってはいた。何か裏を感じたのだ。

オレと九郎たちではクラスが違うから厳密には多少言い方が異なる説明を受けた可能性もあるが、確かに10万ポイントは入学祝いと同義であるというのはオレも聞いたしそう解釈した。そして、来月の頭にポイントが振り込まれるとも聞いたが、茶柱は来月も10万ポイントが振り込まれるなどとは一言も言っていない。

脳を回していると、九郎がかなりどうでもよさそうに口を開いた。

 

「まあ気になるっちゃなるけど、どうでもよくねえか?浪費さえしなけりゃいいんじゃねえ?」

 

「なぜ自分から質問したのに興味がなさそうなのか理解できん……」

 

「え、最初は九郎が言ったのか?それ」

 

呆れたようにこめかみを押さえる神崎に思わず聞くと、「……そうだ」と返事が返ってきた。

 

「元々は悪原が質問したんだ。俺はその質問の答えがずっと気になっている」

 

「答えか。はぐらかされたのか?それとも答えられないという答えを出されたのか?」

 

「後者だな。正確にはその後に『この学校は生徒を実力で評価する』と答えられた」

 

まあそうだろうなと思いつつ、『生徒を実力で評価する』この学校への疑念が募ってきた。それは神崎も、そしてどうでもよさそうではあるが九郎も同じに見える。ホワイトルームで培ってきた観察眼が、オレにそう伝えてくる。

 

「なあ、そろそろ夕飯の材料買っていいか?」

 

「「……はぁ」」

 

どこまで夕飯が大事なんだ。いや確かに食事をとるのは大切だが。

九郎は割と我が道をゆくタイプなのかもしれない。

とりあえず九郎の買い物は済んだ。オレと神崎はコンビニで済ませることに決めていたが、ずっと『来月のポイント』について考えを巡らせていてコンビニへの道のりは行きと比べて随分と静かなものだった。

ずっと考え続けているオレと神崎にとうとう呆れたのか、九郎は深いため息を吐いた。

 

「確かに、疑わしいがよ」

 

その言葉に地面と睨めっこしていたオレたちは顔を上げる。

 

「情報が足りねえ。かと言って今日はもうコンビニ行って帰ろうなんて雰囲気じゃねーし」

 

情報が足りない。全くもってその通りだ。そしてオレたちがすっかり謎解きに躍起になっているのもバレていた。いや、バレても仕方がないか?

九郎は振り向いて、人差し指を立てた。

 

「アテがひとつある。今日はコンビニとそこに行って、謎解きは寮でゆっくりやろうぜ」

 

そう言い九郎はレジ袋を持ったまま地図を見ながら歩き出した。九郎に先導される形で、オレたちも後をついていく。「アテ」とは一体なんだろうか?神崎と顔を見合わせてみるが、神崎も思い当たるものはないようだ。

ひたすら歩いて、ついに到着する。

 

そこは学食だった。

 

時間帯的に人は少ないが、むしろその人の少ない時間を狙ってか早めの夕飯を済ませていると思われる上級生が何人か見受けられた。

 

「学食か。だがここに何のヒントがあるんだ?」

 

「まあ待て。だが外れてねえことを祈るぜ〜」

 

そう言って九郎は看板の前に立つ。オレたちも釣られるようにそれを見る。九郎が見ていたのは、学食のメニューの看板だ。

 

「かなりバリエーションがあるな」

 

「ああ。それでいていずれも値段が手頃だ。……スペシャル定食は別だが」

 

そこに関しては同意だ。スペシャル定食だけ明らかに一段上の価格設定となっている。まあ、写真だけ見てもかなり豪華そうだしボリュームもあるように見えるし、妥当か?

しかし、九郎はなぜ学食のメニューなんか見に来たんだろうか。そう思って目線を追ってみる。

九郎が見ていたのは、スペシャル定食でもその他のメニューでもなんでもなく、一番地味な山菜定食だった。

 

「……これも、無料?」

 

『無料』。またしても、『無料』の商品だ。神崎がポツリと呟いて、オレも考え込む。山菜定食……その名の通りほぼ山菜オンリーで、見栄えとは無縁と言ってもいいほどとてつもなくシンプルなメニューだ。これを言うのは少し悪い気もするが、日の目を浴びるようなメニューにはとても見えない。

『無料』……そう、『無料』なんだからグレードが落ちるのは当たり前なのだが。何か、何かが引っかかる。

 

不意に九郎が動いた。オレたちは反射的についていこうとするが、「ちょっと待ってろ」と言われ看板の横で待っていることにした。

九郎はどうやら一足早く夕食を済ませているのであろう上級生に話しかけに行ったようだ。何かを喋っているが、この距離では流石に何を話しているかなど聞き取れない。身体能力は鍛えられるが聴力は鍛えてくれないのがホワイトルームだ。痒いところに手の届かない無能教育機関め。唾を吐きかけてやりたくなる。

一応動きぐらいなら見える距離だが、見ていて面白みのあるものでは……ん?九郎が携帯を取り出して、いや先輩もだ。両者ともが携帯を持ち何かをしている。連絡先の交換でもしているのだろうか。

しかし間も無く二人は携帯をしまい、先輩が何かを話して九郎はそれに相槌を打ち、時に何か質問しているように見える。

 

やり取りを見届けたオレたちの下に九郎は帰ってきた。その顔はまるで勝利を確信したかのようだ。……一体何があった?何を聞いたんだ?

 

「ビンゴだ」

 

九郎はドヤ顔でそう言った。そんなこと言われてもオレと神崎はちんぷんかんぷんだ。もっともそれを狙っていたのか、九郎は余裕たっぷりに、わざとらしく、無駄に大袈裟に振る舞う。

 

「何を聞いたのか教えてほしいんだが」

 

今オレが思っていたことと全く同じことを神崎が代弁するも、九郎はニヤリと笑っていやにもったいぶりながら、ようやく話しだした。

 

「あの先輩に聞いたんだよ。この『無料』の山菜定食、先輩とそのクラスの仲間たちは結構お世話になってるらしいぜ。」

 

「何?」

 

「一度や二度じゃねえんだ。慣れ親しんでんだよ……『無料』にな」

 

「もったいぶらないで早く答えを言ってほしいんだが」

 

オレが急かしてみるが、九郎は首を横に振る。

 

「言っただろ。これは謎解きだぜ」

 

謎解き。つまり九郎は、俺たちにこの謎を解いてみせろということか。あの思わせぶりな言葉をヒントに。答えを出してみろと。そう言っているのか。

 

「俺はもう答えは出たし、これ以外ねえって確信もしてる。明日には答え合わせするつもりだ。お前らもきっと解けると思ってる。聞いただろう?この学校は『実力で生徒を評価する』ことをよ」

 

無駄に格好つけた挑発ではあったが、なるほど、これはなかなか……燃えてくるものがあるな。神崎もきっと同じだ。今のオレと……似た雰囲気を感じる。

 

『来月振り込まれるポイント』。この答えを、今日中に導き出してみせる。

 

「ああ、そういやコンビニ行くんだった。暗くなる前に早く行こうぜ」

 

「おい」

 

雰囲気が台無しだ。

 

 

 

******

 

 

 

せっかく結構格好良くオレたちに挑戦状を叩きつけたというのに、コンビニに行こうという呑気なセリフでその全てを台無しにした九郎の頭を一発叩いて気を取り直し、オレたちはコンビニに到着した。

 

「ったく、コブになったらどうしてくれんだよ」

 

知るか。

 

とにかく入店し、中を色々見て回る。

 

「おぉ……」

 

スーパーとはまた違った品揃え。コンビニならではの商品。おにぎりや弁当、サンドイッチ。スイーツ。お菓子。コンビニとのコラボ商品。なんらかの作品のクジ。たくさん設置された雑誌。

オレは思わず感嘆のため息を漏らした。

 

「感動しすぎだろコンビニに」

 

九郎の余計なツッコミをスルーして、オレはカップ麺が並んでいる棚の前に立つ。

 

「これがカップ麺か……」

 

「疑っていたわけじゃないが、その反応を見るにコンビニに来るのは本当に初めてなんだな」

 

「ああ。スーパーとは違う商品が並んでいて面白い」

 

隣に神崎が来て、オレは素直な感想を口にする。

このカップ麺も様々な種類があって、ラーメンやうどんと種類は一言で語れても、バリエーションの方は一言では語れない。細麺だったり、太麺だったり、量に差があったり、出汁が違ったり。

企業それぞれが他社の製品と差をつけるため、さまざまな創意工夫を凝らしているのが伝わってくる。ホワイトルームで鍛えられてきた観察眼が、それを可能にする。能力を無駄遣いしている気がするが、そのことを考えてはいけない。

 

興味深かったカップ麺をいくつか選定してカゴに放り込み、別の売り場へ移動する。……おっと、九郎がなんだかイラついているようだ。

 

「どうしたんだ九郎」

 

「清隆か。見ろよこれ!」

 

そう言って九郎が指差したのは、スイーツコーナーだ。……何もない、スイーツコーナー。全部売り切れたということか。

 

「ムカつくぜ!マカロンを食いたい気分だったのに」

 

マカロンて。可愛いなお前。

肩を怒らせながらレトルト食品を見に行った九郎と入れ替わるように神崎がやってくる。

 

「……悪原、どうしたんだ?やけに怒っているようだが」

 

「マカロンがなくてブチキレてる」

 

本気で怒ってはないだろうが、あえて脚色した情報を伝えてみる。

 

「マカロン?……意外と可愛いものを欲しがるんだな……」

 

ああ、やはりお前もそう思うのか。

 

九郎の可愛いところを知ったオレたちが次に移動したのは、レジのすぐそばにあるスナック売り場だ。チキンや唐揚げ棒、フライドポテト、フランクフルト、アメリカンドッグ。さらに横には肉まんもある。値段は高めだが、どれも食欲をそそる。

 

「美味そうだな……」

 

「ああ……せっかくだし、俺は肉まんを買うか」

 

「肉まんか。オレは何にしようかな」

 

スナックからは少し離れて肉まんを吟味する。シンプル故か他のものより少し安くてサイズも一回り大きい肉まん。サイズは普通だが豚肉の美味しさと肉汁の凝縮度を強調している豚まん。肉の代わりにあんこが入っているというあんまん。肉まんなのにピザを食べているかのような味わいを楽しめるというピザまん。……なんてことだ、全てが徹底的に管理されたホワイトルームで育ったオレには、そのどれもが魅力的であり捨て難い一品だ。

 

どうしようか悩んでいると……ぬ、と九郎が現れた。

 

「何してんの?お前ら」

 

「肉まんを買おうかという話になったんだが、綾小路が決めかねていてな」

 

神崎の説明に、九郎は「ふーん」とどうでもよさそうに言って、次の瞬間耳を疑うセリフを吐いた。

 

「全部買えばいいじゃねーか」

 

「え?」

 

思わずマヌケな声を出してしまう。その発想はなかった。……いやだって、そんなに空腹ってわけではなかったし。カップ麺だって買うわけだしな?だから「カップ麺は保存がきくんだから後日食えばいいだろ」そ、それはその通りだが……オレの懐も考えてほしい。いくら今は10万ポイントあるとはいえ、例の『来月のポイント問題』は解決していないんだぞ。

浪費癖がついても困るし、なるべく節約したいところなんだ。わかってくれるよな?

 

「んなら、俺が奢ってやるよ」

 

──。

 

そうか……これが、……青春。

 

「綾小路?」

 

変なものを見る目で神崎がこちらを見てくるが、それも気にならない。だって、仕方ないだろ。金に困ってる友達に、「困ってねーだろ初日だぞ」懐豊かな友達が笑いながら奢ってやるよ、と言ってくれたんだ。恩を売りたいなどといった打算など全くない、純粋な友情からくる嘘偽りない真実の言葉を口にしてくれたんだ。

こんな綺麗なものは、本の中にしかないものだと思っていた……。

 

「ありがとう……九郎。オレたちはきっと親友だったんだ。そしてオレは、お前に出会うために生まれたんだな。」

 

「たかが肉まんに大袈裟すぎだろ。こいつどんな家庭で育ったんだ本当に」

 

「厳しいとは言っていたが、俺たちが想像するよりはるかに過酷な幼少期だったのかもな……」

 

「おいふざけるなよ九郎?肉まんだからこそいいんだ。貴様というやつは肉まんがなんたるかをわかってない」

 

「急にキャラ壊れるのはやめろ。それと今日初めてコンビニにきたやつの方こそ肉まんのことわかってないだろ」

 

「しかも貴様とは。さらにこのポーカーフェイスに青筋が浮いてるのが絶妙に面白いな」

 

……確かに感動のあまり少しテンションがおかしくなったのは認めるが、色々と失礼なこの二人にはいつか仕返しをしなければならないな。

とにかくオレたちは全種類のまんを買い、食べ比べをすることになった。

 

「……食べ比べ。これもまた定番の友情イベントだ。生きててよかった」

 

「清隆?おまえさっきからおかしいぞ」

 

「おかしいというのが可笑しいという意味なら、また殴られるぞ」

 

「うるせえな神崎!?おまえもさっきから結構言いやがるよな!?」

 

「お前たちとの間に遠慮はいらないかと思った」

 

「ああそうかい!初日にして信頼関係ができたみたいでよかったよ!」

 

「とりあえず冷える前に食おう。まず普通の肉まんからだ」

 

「は?ちょっと待て綾小路。それは本来俺が」

 

オレはその時神崎が何を言ってるかわからなかった。肉まんにかぶりついた瞬間、溢れ出し口内に流れ込む熱々の肉汁と具材、柔らかな生地を堪能するのに全神経を使っていたからだ。

 

「綾小路ーーー!!」

 

「ぎゃははははは!!清隆おまえ!!一口!一口がデカすぎだって!!」

 

神崎の怒りの雄叫びも耳に入らない。九郎の爆笑も遠いところから微かに聞こえる程度。

咀嚼するごとにさらに溢れる肉汁。具材の個性豊かな食感。柔らかくて弾力あるものもあれば硬く歯ごたえのあるものもある。そしてその具材を優しく包み込む生地の圧倒的もちもち感。それらの味わいをより奥深く、美味しく仕上げるのがこの食べ比べという友情に基づく尊い状況。

こんなに素晴らしい食べ物、素晴らしい味わい、麗しき友情。オレは確信する。今目の前にあるこの現実は、ホワイトルームでは絶対に出会えなかったであろう、かけがえのない奇跡なのだと。

 

「アッハッハッハッハッ!!やべー!!こいつ一口で半分ぐらい持ってったぞ!」

 

「綾小路……この借りは必ず返すと約束しよう」

 

「……ああ、美味かった。こんなに美味いものを食べたのは初めてだ」

 

これが友情。白いあの部屋では決して巡り会えない、奇跡の輝き。

それを入学初日で得たオレは、きっと限りなく大きな運に恵まれたのだろう。

悪原九郎。神崎隆二。オレたちは……親友だったんだな。

 

 

 

 

 

 

星乃宮知恵の期待

 

今年度の担当クラスには大変期待が持てる。Aクラスでの卒業も充分に射程圏内だと私は確信する。

 

Bクラスにはそこそこ優秀な子達が集まるけど、中でも一之瀬帆波ちゃんは特にいいね。可愛らしいルックス、優秀な成績に加えて抜群のコミュニケーション能力と、小中通してクラス委員長、生徒会会長としての活動を通して培ってきたリーダーシップでもうほとんどのクラスメイトから注目されてる。担当贔屓かもしれないけど、一之瀬帆波ちゃんの求心力は学年の中でもダントツだ。

 

さらにもう一人、神崎隆二くん。学力も身体能力も平均以上の優等生。もちろんそれだけじゃなくて、客観的に物事を判断できる能力がある。しかもあの様子だと帆波ちゃんの魅力にも流されないっぽいしね。帆波ちゃんがリーダーになるのは確定的だけど、隆二くんはきっと参謀格として理想的な働きを見せてくれるだろうね。

 

……そして、悪原九郎くん。最も見所ある生徒は間違いなくこの子だ。帆波ちゃんを超える学力。隆二くんより優れた身体能力。おまけに判断能力も高い。さらには質問タイムでの唯一の挙手者にして二度の連続質問。挙げ句の果てにはそのどちらもが五月に明かされるこの学校の真実に大きく迫るものとなっている。

能力的にはAクラスでも文句なくリーダーをやれるとんでもない子だ。……けれど、中学二年での『暴力事件』が気になる。事件後の転校、続けて転校してからの素行の悪化も。

さらに厄介なのは、帆波ちゃんと同中ってところ……ああいう子は絶対暴力とか容認しないし、相性はかなり悪いと見た方がいいか。

 

まったく、リーダーと主砲の仲が悪いなんて、とんだ災難だよ。

 

それさえなければ、間違いなくAクラスに上がるために必須の最大戦力なんだけど。あの質問も考えれば、おそらくは……遅くとも今週。早くて明日には『答え合わせ』にくると予想できるだけに……ね。

 

……でも、監視カメラの映像とか見る限り、帆波ちゃんは九郎くんのこと嫌ってはない……っぽいんだよねえ。帆波ちゃんの動きと九郎くんの位置に注目すればわかる。帆波ちゃんが頻りに九郎くんへ視線を向けていることがね。嫌ってるなら一回目に入れればおしまいのはず。

九郎くんが質問してる時に帆波ちゃんの顔が尊敬の念のそれに輝いてたのが私の目に入ったのも、『実は帆波ちゃん九郎くんのこと好きなのでは説』に拍車をかけてる。

 

けど私が出て行った直後の、たぶん自己紹介をしてる時……みたいな場面の映像を見ると、九郎くんは声をかける帆波ちゃんをガン無視してどこかに行こうとしてるのが見える。これにより、『九郎くん帆波ちゃんのこと嫌い説』が考えられる。

 

ふむ。つまり暴力事件を起こした側が暴力を嫌う人を嫌ってて、暴力を好まない人が暴力事件を起こした人へ好意を抱いてるって……うんん?どういうことなの。もっと詳しい過去がわかればいいんだけど。

 

とりあえずAクラスの座をかけてこれから激しい戦いが始まるけど、この二人の問題がなんとかならない限りは厳しそうだなぁ……。九郎くんが積極的に動いてくれるならわからないけど、クラス争いに興味がなかったりしたらたぶん……少しずつBクラスは堕ちていくと予想。

 

けどまあ、悪くはない、か。もし帆波ちゃんが九郎くんのことを本当に好きなら、是非とも応援させてほしいところだね。

頑張ってね帆波ちゃん。恋の力は無限大なんだからね!

 




一気に話を進めたい気持ちもありますし、今回のようなバカみたいなやり取りを書いていきたい気持ちもあります。
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