ようこそ一之瀬帆波の幼馴染がいる教室へ   作:クリスマン

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ヤンデレ回です。後半から一之瀬のタガが外れておかしくなりはじめます。


一之瀬帆波の前進

学校生活二日目。しっかり目は覚めたけど気分はあまり芳しくない。でも仕方ないよね?これから三年間ずっと幼馴染に無視され続けると思えば気分だって落ちるよ……。

電源の入っていない携帯に反射した自分の顔はずいぶんと元気のないものだった。彼が見たら、失笑くらいは買えるかもね。ふふ。

 

昨日多めに作っておいた夕食の残りを朝食にして身支度を済ませ、部屋を出て登校する。

 

気分が落ちているので自然と顔も下を向いてしまう。だめだなぁ、こんな調子じゃ。本当なら、九郎くんと仲直りしたいよ。でも、そのためにどうすればいいのかがわからないんだ……。

 

登校したはいいけど、少し早かったのか教室内には誰もいなかった。確か昨日一番に来ていたっていう神崎くんもまだ来てない。思ったより暇な時間ができちゃったな…どうしようかなーと思っていると、廊下の方から話し声が聞こえてきた。

この声は……神崎くんと九郎くん?いやでも、もう一人知らない声がする。

 

私はすぐ席に座って、携帯を取り出してメールアプリを開いてぽちぽち操作する。メールのやり取りに夢中になっていて、君たちの話を盗み聞きなんてしてませんよと見せかけるために。

適当に画面をタップしながら聴覚に神経を集中させる……。

 

「──ほぼ予想通りだったな?」

 

九郎くんの声。でも予想通りって何の話だろう?

 

「ああ。完璧に的中していたのはまさかの大穴、綾小路だったな」

 

これは神崎くんだ。聞き覚えのない三人目の人は綾小路くんっていうのかな?もうクラスのみんなの名前は頭に入ってるから、別クラスの人なのかも。

 

「いや神崎?大穴ってそれは本人の前で言うことじゃなくないか」

 

「悪いな。正直悪原が勝つかと思っていたんだ。俺も自信がなかったわけじゃないが」

 

「確かに、そこは同感だ」

 

「俺に対する期待値が高すぎる。もっと俺を侮れよ」

 

「ふ、ふふ……もっと侮れなんて初めて聞いたぞ」

 

……楽しそうだなぁ。今は私がいるなんて知らないからいいけどさ、これが目の前でやってたら絶対当てつけだよね。何回も繰り返すようだったら神崎くんと綾小路くんて子と『話し合い』をしないと。

 

まあ今はいいか。それより話の内容が絶妙に気になっちゃう。三人はわかってるからいいけど、私からしたら内輪ネタみたいに感じちゃって疎外感があるよ。

 

「うるせー。とりあえず、来月まで漏らさねーように注意しとかねえとだろ。清隆は特に気をつけとけ。バレたらヤバいのは俺たちの方なんだ」

 

「待て悪原。綾小路はクラスに友達がいない。相手がいないんだから情報を漏らすも何もない」

 

「その言い方は流石にひどくないか神崎??」

 

「おまえ絶対昨日の友情の肉まん事件引きずってるだろ。俺のピザまんあげたんだからいいじゃねーかよ」

 

「主犯綾小路からピザまんを渡されるならともかく無関係のお前が渡してきても償いにはならない」

 

……どうしよう。めちゃくちゃ気になる。友情の肉まん事件って何?どういうことなの?昨日九郎くんたちの間に一体何が起きたの?

でも、『バレたらヤバい』っていう話も気になる。まさか何か悪巧みを?いやそんな。九郎くんに限ってそんなことは……まだ知り合って二日目だから印象でしかないけど、真面目そうな神崎くんもいるんだし……。綾小路くんは、ちょっとわからないけど。でも九郎くんが仲良くしてるんだから、悪い子じゃないはず。

 

「まあいいだろ。思ったよりポイントをゲットできたんだし。それに入学した翌日に真実を暴い──」

 

扉が開かれた瞬間、九郎くんの口が止まる。空気が……正確には、九郎くんが纏う空気が一気に冷えていくのがわかる。ごめんね九郎くん。私は何も聞いてないよ。だって携帯に釘付けだったからね。でも君のことだけはいつも考えてるんだよ、なんちゃって。

 

「……」

 

「……おはよう、一之瀬。早いな」

 

空気に耐えられなくなった神崎くんが、挨拶をする。ありがたいよ、これで今気づきましたよとアピールできる。九郎くんの不機嫌はたぶんどうにもならないけど。ああでもむしろ私の存在で感情が動くって考えたらこれはプラスなんじゃ?

 

「あ、おはよう神崎くん!ごめんね、気づかなかったよ」

 

「いやいい。昨日俺と悪原を除く全員と連絡先を交換したからメールの嵐に見舞われていたんじゃないか?」

 

「にゃははは、まあそうだね」

 

グッジョブ神崎くん。これはいくら九郎くんでも疑う余地はないよ。君との話し合いはまたの機会にしてあげよう。

 

「あんたが一之瀬ってやつか」

 

綾小路くんが話しかけてきたね。九郎くんか、神崎くんからか、そのどちらもからかはわからないけど話は聞いてるみたい。

……すっごいポーカーフェイスだね?

 

「そうだよ、名前は一之瀬帆波!君の名前も教えてほしいな」

 

「オレはDクラスの綾小路清隆だ。九郎と神崎にはよくしてもらってる」

 

「綾小路くん、か。覚えたよ、これからよろしくね!」

 

「ああ、よろしく」

 

そう、よろしくするよ。もう名前呼びしてることから、君も私の九郎くんにベタ惚れなんだよね。わかるよ。君とは鎬を削り合うことになりそうだからね。

……いや、何やってるの私。また嫉妬してる。綾小路くんだって男の子なのに。これは私の心に余裕がない証拠かぁ……。

それにしてもピクリとも表情筋が動いてないけど、これはどう思われているんだろう?

 

「というかオレ、ここに入ってもよかったのか?別クラスの生徒だが」

 

と、綾小路くんの今更な発言に神崎くんが「問題にはならないだろう」と答えた。

 

「上級生ならわからないが、同学年の生徒が別クラスの教室に入ることが問題になるとは考えにくい」

 

「……そうだな」

 

「?九郎、元気がないな。早起きが祟ったか?」

 

「うるせ」

 

さっきから黙り込んでると思ってたけど、やっぱり私の存在が悪いよね……これ。でもだからといって離れたくはない、なぁ。だって普段私の周りにはたくさん人がいて、こう、少人数で過ごすことは少ないし。せっかく九郎くんと再会できたんだし……。ごめんね。

なんて思ってると、

 

「帆波ちゃんおはよー!」

 

「おはよう一之瀬!お、神崎と悪原も早えなあ!」

 

「あれ、その人誰ー?」

 

ああ、来た。朝のラッシュのようにクラスメイトたちが雪崩れ込んできた。私は説明する間もなく一瞬で取り囲まれる。綾小路くんが目を丸くしているのが見えた。初めて見たらびっくりするよね、うん。わかるよ。私自身も予想以上の包囲速度でびっくりしたし。

昔から私の周りって人が集まるんだよ。どうか慣れてほしいな。

 

「よし神崎、清隆。屍になって俺に踏み越えられてくれ」

 

「悪原?」

 

「ちょっと待て。オレはこの押し寄せるBクラス生徒のビッグウェーブに耐えられない。屍になるのは神崎だけでいい」

 

「綾小路??」

 

「よし、船長命令だ。神崎を見捨て俺たちは生き残る」

 

「アイアイキャプテン」

 

「悪原???」

 

「神崎のぶんも……俺たちは幸せに、強く生きていくんだ」

 

「キャプテン……」

 

「おい待て。まさか本気で──」

 

何やら三人が揉めてるみたい。誰を犠牲にこのワイワイクラスから脱出するか決めてるみたいだけど……もう九郎くんと引き離されるのは嫌だな……。

でも大丈夫。こんなこともあろうかと、私は完璧な計画を発動する。善は急げ──すぐさま行動に移して、幸運を掴み取る。

 

「あー!そうだ!私ったら用事があるんだった!だから神崎くんの説明と綾小路くんの自己紹介タイムを始めようか!」

 

「は?ちょっと待て一之瀬。何一人だけ逃げようと」

 

私はその時神崎くんが何を言ってるかわからなかった。ちょっぴり強引に話をつけて作戦を決行した時、仕方のないことだとはいえ、九郎くんを連れてこの場から逃れるためにその手を握った瞬間伝わってきた幼馴染の感触で全身の血液が沸騰するように加熱し頭がパンクしそうになったからね。

 

「一之瀬ーーー!!!」

 

「もしかして、オレを生贄にしようとしてるんですか」

 

神崎くんの怒りの雄叫びも耳に入らない。綾小路くんの失礼な物言いも遠いところから微かに聞こえてくる程度。……生贄じゃないよ、君は犠牲になったんだ。幼馴染同士の……尊い絆の時間の犠牲にね。

九郎くんが手を振り払おうとするのは予想できるから、そう、離されちゃったら困るからね、ちょっとませてるかも、とは思いつつも指を絡めてガッチリ捕まえた。

私の手から腕を通って脳の芯に伝わる幼馴染の手の感触。高校生にまで成長した男の子の手のひらだけあって私の手よりずっと硬い肌触り。けど不快にはならない。ずっと握っていたい。なんだかスベスベしてるし気持ちいいし。

長年想ってきた幼馴染との恋人繋ぎが叶ったこの瞬間に、私は確信する。今手を繋いでいるこの現実は、この高校に入学しなければ絶対に叶わなかったであろう、神様が許してくれた尊い恋の奇跡だって。

 

「なあなあ、名前はなんて言うんだ?どこのクラス?あ、俺は柴田颯!中学ん時はサッカー部で、高校でもサッカー部に入るつもりなんだけどよ〜」

 

「私は白波千尋です!単刀直入に聞きますが、あなた達は帆波ちゃんとどういう関係なんですか!?」

 

「待て、オレは聖徳太子じゃない。一人ずつ話してくれないか」

 

「責任転嫁の代償は重いぞ一之瀬……!」

 

そうして私は無事に幼馴染を連れてガヤガヤと賑やかな教室を脱出することに成功するのだった。

 

 

 

******

 

 

 

(ああああああーーー!!!何やっちゃってるの私!?)

 

教室を抜け出して人気のない階段の前まで来たのはいいけど、私は今自分の行いを心底悔いていた。

幼馴染とおよそ四、五年ぶりに手を繋ぐことができたのは大変嬉しいことではあったんだけど、こうして一度冷静になれば先ほどまでの自分があまりにも恥ずかしすぎて、もう心の中はめちゃくちゃだ。まさに穴があったら入りたい。

てゆーか!なんなの手の感触って!?どうしちゃったの一之瀬帆波!?

これじゃ私……まるで変態みたいじゃん!!

 

いけない、今の私はきっと世界で一番ひどい顔してる。合わせる顔が無さすぎる。

 

「はぁぁあぁ……」

 

びく、と勝手に肩が跳ねた。おそるおそる振り向いて、幼馴染の姿を捉える。

 

「……」

 

心底から疲れ切ってるような顔。一秒でも早くこの状況から抜け出したい、と言わんばかりのオーラ。教室に入ってくるまでのごく普通の、ありふれた男子高校生みたいな雰囲気なんかかけらもない。

……汚いものを見るような目で、幼馴染は私を見つめていた。

 

「……えっと。」

 

こうなってしまったのはもう仕方がない。それに元々は二人きりになれるチャンスだと思ってあのような醜行に出たんだから。覚悟を決めて、正面から……向き合おう。

 

「……ひ、久しぶりだね、九郎くん」

 

「…………」

 

「い、今更なんなのって思うよね。あの、ほら。自己紹介の時は無視されちゃったからさ……」

 

「………で?」

 

「…っ」

 

たった一言。それだけで気圧される。おまえは絶対的に不利な立場なのだと、思い知らされる。話すことなど何もないと突き放される。

ただ……こうして二人きりで対面することで気づけたひとつの救い。それは、九郎くんは私に対して確実に嫌悪を感じている、ということ。

むしろ絶望ではないのか、と思うかもしれないけど。でもね、好きな人にどうでもいいものと思われて、その人にとって自分が道端の石と同じ存在になるのは嫌われるより辛いと思うんだ。もちろん嫌われているのも、辛いけど。泣きたくなるけど、まだなんとか耐えられる。

……そうだ、まだ負けてない。諦めてはダメ。諦めなければ、まだチャンスはある。

 

「…無理やり連れてきちゃって、ごめんね。こうでもしないと……話なんて聞いてくれないと思ったの。九郎くんが私のこと嫌いなのはわかるけど、どうしても二人で話したかった」

 

「………」

 

「終わったら…ポイントあげるからさ、ちょっとだけ付き合ってほしいな」

 

ここまでは全く無反応。けど話は聞いてくれてるみたい。大丈夫、まだ大丈夫…。

乾いた舌がくっつく不快感。背中に氷柱でも打ち込まれたような冷たさを感じながら、震える手足を押さえつけて、なるべく静かに呼吸を整えてもう一度口を開く。

 

「私たち、ずっと一緒だったよね」

 

「いつもさ……何やる時も、どこ行く時も、いっつも二人で」

 

「……普段みんなからも、先生からも周りよりできる子だって言われてきたけど、君と一緒にいる時だけは……できる子とか、そういうのじゃなくって…普通の女の子に、なれてる気がしてた」

 

「でも……あの日、私の大バカのせいで……九郎くんは、いなくなっちゃって」

 

自分で言っていて情けないことこの上ない。自分で自分を傷つける気持ちを、心理を理解する。この苦しみは……この心の痛みは、きっと私への罰。

──そう思い込まないと、今にも潰れてしまいそうだ。

 

「それから私…どうしてたと思う?涙を乗り越えて『良い子』のまま中学校を卒業したと思ってた?全然違うよ。……君がいなくなってから私はね、ほとんど引きこもってたんだ」

 

九郎くん。君はどう思ってるのかな。私をただのバカだと思うかな。それとも惨めな弱虫だと思うかな。もしくは、哀れな負け犬だと思ってくれるかな。でもね、君がどう思っていてもね、君がどんなに私を嫌っていても。

 

私の方がもっと、私を嫌ってる。

 

「今まで私は九郎くんに助けてもらってばかりだったって…やっと理解できたんだ」

 

「怖くても、悲しくても、我慢できずに泣いちゃった時もさ…君がいたから、耐えられたんだよ」

 

「その君がいなくなれば……私は、見ての通りだよ。自分勝手で意気地なしで、寂しがりの弱虫なんだ……」

 

「……それでも。君からはもう嫌われてるってわかってても、たぶん縁も戻せないってわかってても、それでも君のことが…忘れられなかったの」

 

九郎くんは、黙ったままだ。でももういい。このまま長年温めてきた想いを、決意と共に伝えるよ。

きっと今伝えたって無駄だろうけど……重要なのは、私の気持ちを知ってもらうこと。そして、私が君のために何をするのかを知ってほしい。君がどう思うかじゃなく。私の言ったことを、どうか覚えてほしいんだ。

 

「──私ね、九郎くんのことが好きなの。大好きなんだよ」

 

言った。言ってやった。思ってたよりずっと、すんなり言えた。あの日まで無自覚だったとはいっても、長年抱き続けてきた気持ちなのは間違いないのにね。

けれど、私の気持ちはたった一言だけじゃ全然発散できないんだよね。

 

「何回も助けてくれて、いつも優しくしてくれて、一緒に笑ってくれて……好きになっちゃうよ」

 

「……」

 

「君と過ごす時間は他のどんな時間より楽しくて、幸せそのものだったんだ。君のことを考えない日なんてなかったし、あの日からはほとんど常に考えてるようになっちゃったりしてさ…」

 

「今もなんだよ?それは。考え方は引きこもってた頃より前向きになったけどね、ふふっ」

 

「……一之瀬」

 

「…帆波って、呼んでくれないんだね」

 

残念には思うけど、今だけは特別に許してあげる。告白ではあっても、付き合ってほしいって申し込んでるんじゃないんだし。それに無視をやめてくれたんだもん。

しかめ面になった九郎くん。君は今何を思っているのかな。でも、九郎くんが今どう思ってて、伝えたいことがあってもそれを口にしようとしてはだめ。悪いけどまだ話は終わってないんだから。

 

「ねえ九郎くん。私が君のことを好きなのはわかってくれたと思うけど、どんなに君を愛しているかは、『好き』の一言だけじゃわからないよね」

 

「まだホームルームまで時間があるね。ここは人気もないし、ゆっくり教えてあげる」

 

すごく楽な気分だ。もう全て伝えてしまおう。どう思っていたのか。あの頃の本心と、今の本心を。私の全てを、曝け出してしまおう。

 

「九郎くん、私はいつから君のことが好きだったと思う?」

 

返事は期待しない。今は私のわがままタイムだ。

 

「恋を自覚したのはあの日だったけど、それよりもっと前……八、九歳ぐらいだったかな、その頃にはもう九郎くんは私の生活に欠かせない存在になっていたんだよ?」

 

そう、小学三、四年生ぐらいの時にはすでに私は『ただの幼馴染』に対して抱くものではないような気持ちを彼に抱いていた。

具体的に言うと、『九郎くん以外とだったらこんなには楽しくない』とか、『九郎くんがいないとひとりぼっちになったような気持ちになる』と言ったところだ。

 

「君のあらゆるところを見て、触れるたびに君の存在はどんどん大きくなっていったの」

 

「授業中、お風呂の時も、寝る時も、ご飯を食べてる時でもいつでもどんな時でも君がすぐ隣にいたらって想像してさ、夢の中にだって君が出てくるんだよ」

 

「君の足音が近づいてくるたびに胸が高鳴るの!君がそこにいるだけで安心できるの!」

 

「同じ空気を吸えるだけでも幸せだし、君の声と眼差しを浴びれば極楽気分!君に触れられれば、もうそれ以上の幸せなんてないんだよっ!」

 

まくし立てるように言い切る。流石にちょっと恥ずかしいけれど、後悔はない。むしろ、とても清々しい気分。ここまで晴れやかな気分は本当に久々。あの日の絶望が嘘のよう。

 

「………ごめんね、大きな声出しちゃって」

 

「けどさ、これで私の言ってることは嘘なんてない本当の愛だってわかってくれたよね?」

 

今の私は、たぶん今までの人生で一番綺麗な笑顔だ。常に暗雲が渦巻いていた心が、いつも私を覆っていた分厚い雲が打ち払われた。幼馴染の存在ひとつで。

九郎くん。どうして君はそんなに私を安心させられるのかな。どんな態度をとっていても、それで私が傷つくことはあっても、悲しくなることはあっても、君がもたらしてくれる安心感は消えないんだよ。

 

罪な人だね。おかげで私は、ご覧の通り。

もう君なしじゃ、生きていけないよ。

 

「……おまえ……ちょっとおかしいぞ」

 

「そうかもね。でもいいでしょ?付き合おって言ってるんじゃないんだよ?他の女の子と喋ったらその子を消すなんてことも言ってないよね?私はただ知ってほしいだけなの。でも、私に何かしてほしいことがあるなら遠慮しないで言ってね。なんでもしてあげるから!」

 

「………〜〜ハァァァ……」

 

九郎くんはこれまでで一番深いため息を吐いて、天井を見上げた。ああ、いけないなぁ。君の一挙一動が瞼の裏に焼けつくようだよ。どうして君は……そんなにうつくしいのかな。

 

「……なんでもするんだよな」

 

「うん!でも話しかけてくるなとか見てくるなとかは無理だよ」

 

「…………」

 

図星だったんだね。ひどいなぁ。なんでもしてくれるって聞いたらもっとハメを外したことを要求してもいいと思わない?私は思う。九郎くん限定で。

 

「なんでもすると言っておいて、ふざけてるのか?」

 

「ごめんね。でも私もまだ死にたくはないしさ?」

 

「……………………。」

 

いきなり九郎くんが背を向けた。どうしたんだろう……って、歩き始めちゃった。

私は当然後を追う。

 

「待ってよ、九郎くん。どこ行くの?」

 

「バカなのか?おまえには付き合いきれん」

 

「そんなひどい…私はいくらでも付き合えるよ?」

 

「うるさい。喋るな」

 

付き合いきれないって、まるで私がふざけてるみたいに言うね。授業を受けてる時より真剣なのに。そのことはわかってくれたと思ってたんだけど、まだ私の気持ちを理解してくれてないのかな?

 

その後も色々話しかけてはみたけど全て無視されちゃった。まるで私がそこにいないかのような完璧なスルーだった。泣いてもいいよね?

 

 

 

******

 

 

二人で出て行って二人で戻ってきた私と九郎くんへの追及を逃れて、私は思考を切り替える。

今は授業中だけれど、やってる内容はほとんどオリエンテーションだしちょっと出てくる問題も中学校のおさらいレベル。そういうことなのでほとんど聞き流しながら脳内で開かれた会議の議題は、当然あの時九郎くんたちが話していた『バレたらヤバイ』についてだ。これより気になるものは、九郎くん以外はない。

 

ええとなんだったっけ……そう、三人は何か、謎解きゲームみたいなことをしてたはず。でも友達同士で遊ぶようなただの謎解きじゃない。

…生徒を実力で測るって、星乃宮先生は言ってたな。昨日の九郎くんの質問には答えなかった。正確には『答えられない』と答えた。それは学校が生徒に何かを隠しているということだよね。

 

…つまり九郎くんたちは学校が隠している謎を解き明かしたのかな?そう考えるのが一番自然に感じる。それでたぶん先生に『答え合わせ』をした。そして九郎くんたちの推理は正解だった。それが他の生徒にバレたら不都合だから…──わざわざ隠してるってことは知られたら困るから、だと思うし…──、おそらく『口止め』をされた。あの時に、思ったよりポイントをゲットできた、って聞こえたから『口止め料』ももらったんだと思う。

 

そして肝心の『謎』は……やっぱりポイントのことかな。それ以外思い当たるものは思いつかない。

 

端末で確認するときに表示されるポイント残高の末尾には『ppt』ってついてたはず。『ポイント』のことなら『pt』か、最悪『p』でも済むはず。まさかただのミスだなんてことも考えにくすぎるし…何かが関係してるような気がする。

 

そういえば、昨日ケヤキモールを回ってる時に『無料商品』ってスペースがあったけど。これは大きなヒントになるんじゃないかな。

 

そんなことを考えているうちにお昼休みになった。お弁当を作ってる子は少数派みたいで、ほとんどは学食に行くみたい。お弁当を作ってないのは私もだし、お昼は学食で済ませばいいって思ってたけど…。

 

……うーん。私もお弁当作ろっかな?みんなとご飯食べるのは楽しいけど、九郎くんがいないぶん食事の味が落ちるし。それに将来九郎くんが働いて、会社に行く時にお昼ご飯として手料理を詰めたお弁当を渡せたら…え!すごく良くない?これ以上の未来なんてありえる?

幸いにも私の家は母子家庭だったから最低限の家事はできるし、料理も特にメジャーなものなら難なくできる。唐揚げとか揚げ物とかカレーとか肉じゃがとか。

 

とりあえず今日は学食で済ませるとして、明日からはお弁当作って行こうかな。九郎くんも昔からお昼は手作りお弁当だったから、おかずの分け合いっこなんてできちゃうかも。

 

謎解きは後回し。昨日の絶望なんてまるで夢だったみたいに晴れやかな気持ちで、全身に希望が満ち満ちているのがわかる。

 

九郎くん。今日のところは勘弁してあげる。でもね、私は諦めないよ。君に恋人ができたとしても、私以外と結婚したとしても、何があっても私は絶対に諦めないからね。

私はもう……君なしじゃ生きていけないんだから。

 

 




三件もの感想が届いてウキウキしていたところ、ふとUA数が気になり小説情報を見てみたところゾッとしました。
うわっ…私のくそ小説、見られすぎ…?
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